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74.ナジの話(1)

 私たちはワイクとオーヤとともに五人で女から教えられた家にナジを訪ねた。


 粗末な木造の平屋の表にはまとめて縛られた長い縄が幾束もぶら下がっている。


 表でそれを直していたナジは腰がまがり頭髪は白いものが耳の周りに残っただけの老人だったが、イシュリンに気づき、ひと目で神官だと理解して驚きのあまり口が開きっぱなしになった。


 あわてて家に入ると作りかけの縄と材料を全部表に運び出す。


 私たちが家の前に来ると、何度もお辞儀をし、


「どうぞお入りください」


 と勧めた。


 イシュリンが問う。


「あなたがナジですか?」


「そうです。本当に神官さまが来られるとは」


 感激した面持ちのまま、さらに縄などを端に寄せ入り口を広げた。


 私たちが敷居をまたぐと、そこは土間になっていた。幅がおよそ三メートルで奥行きは二メートルほどだ。


 一番あとに入った大男のオーヤは天井の低い和風の家の戸口をくぐるのに頭をぶつけぬよう気を使っていた。


「ようこそおいでくださいました。奥にまだ汚い部屋がありますので、どうぞ」


 案内したナジは粗末な靴を脱ぎ捨てかまちの板の間に上がり、入り口に背を向け奥の木の引き戸を開けた。


 たたみのすりきれた六畳間があり、小さな箪笥もひとつ置かれ、ナジはそこで寝起きして食事なども取っているようだった。

 六人が入るには窮屈に思えたが、ともあれ入って座らせてもらう。


 砂壁には満月を背にして飛ぶ四羽の鶴の絵がついた掛け軸がかかっている。


 全員が座ったのを見てナジは箪笥の一番上についた小さな戸を開け、欠けたりヒビの入った湯呑や茶碗をいくつか取り出す。

 膝をつき、そばに置いた大きなやかんから水を注いで私たちの前のたたみに順番に並べた。


 数が足りなかったので、私は隣に来たオーヤをつつく。


「なに?」


 耳に手を当て小声で教えた。


「私たち、さっきの店で、お味噌汁を飲んだ」


「えっ、ずるい」


 オーヤは遠慮なく水を飲んだ。


 イシュリンも飲み干して湯呑みを置く。

 礼を言ってから本題に入った。


「あなたは私を待っていたと聞きました。何を求めているのか、ご存知なのですか?」


「“見えない神殿”のありかを探しているのではないですか?」


「そうです」


「私はアルマが来ても絶対に教えない。レジスタンスに教えたいと待っていました」


「“見えない神殿”は、この海にあるのですか?」


 ナジはうなづく。


「私は、ある、と祖父から聞きました。そして、漁をしながら七十年、探してきました」


 飛翔が身を乗り出す。


「見つかりましたか? どこにあるんですか?」


 ナジは首を振る。


「この海はとても広い。私はこの町の前からはるか対岸までを幅百キロにわたって探しました。でも見つからなかった」


 イシュリンは確認する。


「見つかっていないのですか?」


「はい。そこで考えたのです。私は祖父から深い水の中にあると教えられた。深い水、は、もしかしたら、この海ではなく、湖のこと。マンゲールの湖のことではないかと」


 オーヤがうなる。


「マンゲールの湖か、なるほど」


 ワイクも同調した。


「ありうるな」


 イシュリンがたずねる。


「アキはこの海に頻繁に来たのですか?」


 その途端、ナジの目に涙がこみ上げ、頬を伝ってたたみを濡らした。


「神官さま、どうかアキさまを助けてやってください」


 にじって後退すると、イシュリンに向かって両手をつき、禿げた頭を深く下げた。




<続く>

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★外伝↓。飛翔と憂理がネイチュに来る前の話。
飛翔の目線。
『 後悔という名のあやまち』


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