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69.アキは指輪を失くして戻る

  ーーーーー


 星明りは上部が丸い窓の輪郭を逆さにして影を部屋の床に作る。


 中央に置かれたベッドでは男と女の荒い息遣いが絡み合う。


 女が男の背中に爪を立てた。


「皇帝は魔力でも毒でも武器でも、神のチカラでも倒せない、不死の存在。でも、ある方法で体を傷つけられると肉体が弱まり、脳と心臓と肝臓を破壊されたら死ぬと言っていた」


「ある方法とは?」


「そこまでは知らない」


「そもそも側近の貴族たちが強い盾を幾重にも張り巡らせており、普段は帝都の宮殿に入れない」 


「満月の夜は、そのちからが弱くなる」


「満月……? ネイチュに月はない」


「月はある。私には見える。魔力がない代わりに。昨日の夜がそうだった。その次の満月はいつになるか……。次に会ったときに教える」






 水平線で空が白むとアキはベッドを出てシャツを着た。


 女が目を覚まし体を起こす。


「もう行っちゃうの?」


「名残惜しいが仕方がない」


 アキは満足げに微笑みを浮かべ部屋をあとにする。


 すぐに宮殿を離れ、そこからは望めぬ岬の影の浜辺へ転移する。


 いろんな怒りを抱え、海に入り腰までつかった。


 ノコギリのように体を削ろうとする波にあらがい、引き倒そうとするちからに踏ん張り、優しく輝く水面をひたすら睨んだ。


 ーーーーー


 日が昇りシャビエルへ戻ったアキは下半身がずぶ濡れだった。


 ラセンとサジンを従え、ロビーで待っていた私は驚いて駆け寄った。


「どうしたの? どこでこんなことになったの?」


「遠い海へ行っていた。遠くの町ならイシュリンの張った結界は及ばないと考え、二千キロを超える離れた場所にある反抗的な町を屈服させようとしたが徒労に終った。移動と攻撃のため予想以上に魔力を消費し途中の海を越えられず、体が水面に浸かるようになった。戻りきれないとわかったため、浜辺で夜を過ごし回復するのを待った」


 すらすらと言葉を出された。


 私は胸を痛め寄りそいかけたが、アキは遠ざけようと左手でさえぎる。


 その指にあるはずの輝きがないことに気づいた。


「アキ、指輪は?」


「……どこかで失くした」


「失くした? 失くなるものなの? はずしたの?」


 ため息をつかれた。


 私の干渉をうるさく思っているとわかり、口をつぐんだ。


「……フロアで体を清めて清潔な服に着替えてください」


 側にいたラセンがアキをいざない、エレベーターへ先導して扉をあける。

 アキが乗り込むと扉を閉じ上昇させた。


 私はサジンとその場に残されたが、サジンはエレベーターから私に視線を移し、


「とても疲れたのでしょう」


 と、慰めた。


 私はアキが指輪さえ失くすほど魔力を使い、疲労したのに責めてしまった。


 アキは、あれから何度も皇帝に呼び出されている。

 新しい帝都の建設が進んでいないことで厳しい叱責を受けているのだ。


 ストレスがたまり、昨夜は宮殿から離れ、ひとりになりたかったのかもしれない。


 私はイシュリンの結界のせいで魔力が活かせなくとも、少しでもアキのちからになりたかった。

 八階のキッチンへ行き簡単なスープを作る。


 それを花柄に縁取られた白くて薄いスープ皿に注ぎ、同じ模様の平たい皿に載せ、銀のトレーに移す。銀のスプーンも添える。


 アキが暮らすフロアへ、トレーを持って上がった。


 


 <続く>

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★外伝↓。飛翔と憂理がネイチュに来る前の話。
飛翔の目線。
『 後悔という名のあやまち』


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