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67.カタルタの宮殿はショウの特等席

 ネイチュは世界のほとんどが百メートルもの高さのある木々に作られた深い森に覆われている。


 少ない平野以外にも、砂漠、荒野、山地、湿地などがあり、海もあった。


 とはいえ、元の世界のように、陸を取り囲んで世界全体を抱くものではなく、広大で深淵ながら湖のように陸の一部を占めているにすぎない。


 それでも、深い青色が白い波を持ち上げては浜辺へ打ち寄せる。


 月の見えない世界だというのに。




 風光明媚な岬の高台には、白く塗られたレンガの家が段違いになり数十軒ひしめいていた。

 プールつきの豪華な邸宅も多い。


 共通しているのは皆、一番大きな窓を海ではなく、ある場所に向けていることだ。


 最も高い頂きには皇帝が滞在するカタルタの宮殿があった。

 岬にそって弧を描き、海を威嚇している。


 白い石造りで中央の部分のみが二階建てになっている。長さはおよそ五百メートル。


 宮殿はすべての部屋が海に面していたが、宮殿の正面に当たる一階部分には壁がない。


 その代わり、海に向かって石の桟橋が立つ者をを見せつけるように伸び、先端についた階段を十九段下りると、舞台のように人が並ぶ横に長いスペースがあった。

 さらに、その中央から、四十二段の一気に下る長い階段があった。


 降りると、海との境に場違いな石の巨大な広場がある。


 幅が百メートル、奥行きは七十五メートル。

 実際にそれを使用する場合は、高さ百メートルの盾が築かれ、天井も張られる。


 箱にして使う場所だ。


 石の床には巨大なアルマの紋章が色の異なった石で描かれている。


 宮殿の二階も邸宅の窓も、この石の劇場をメインに鑑賞する作りになっている。




 その上空に転移してきたアキは、足元の広場と紋章から目をそらし、浮遊して宮殿の玄関である左翼に回った。


 仮面がいくつもついたデザインの錆びた鉄格子の門の前で着地し、魔力で門を手前に引いて、両脇に植えられたヤシの道を進む。

 海風にさらされ本来の赤色がはげた木の大きな扉を開いた。


 皇帝が滞在する時期ではなかったため、宮殿内に人気はない。


 他の邸宅も同じで、海だけが波音で息をしているように感じた。


 二階の中央で張り出した部屋を目指し、砂が積もり先の見えない曲がった回廊を行く。

 途中で、その先の暗がりへ進むために、かつて見送った階段を上った。


 部屋へ近づくと扉のない大きな入り口には透ける布がかけられカーテンになっている。風を受けて揺らいでいた。


 一旦足を止め、動悸を鎮める。視線を足元に落とし呼吸を落ちつけた。

 顔を上げ、手でカーテンを分ける。


 初めてその中に入った。




 部屋は思ったよりも小さかった。

 幅、約八メートル、奥行きは五メトール程だ。


 正面は外観どおり、海に向かって半円形にせり出している。


 壁は分厚く、上部がアーチになった三カ所の大きな窓をさえぎるものはなく、手が伸ばせば海がつかめる気がした。


 手前にある石の広場はさらに近く、劇場を楽しむための特等席なのだとあらためて思い知った。


 その窓のカーブに上部を沿わせ、特別な形をしたキングサイズのベッドが置かれている。


 若い女がひとり、背を向け、寝そべっている。


 赤い花柄のレース生地のキャミソールとショートパンツを身につけ、大胆に肌を露出させている。

 緩い巻きくせのついた鳶色の柔らかい髪が、風に乱され肩で揺れていた。





<続く>

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★外伝↓。飛翔と憂理がネイチュに来る前の話。
飛翔の目線。
『 後悔という名のあやまち』


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