60.真夜中のはかりごと
行く当てがなかった飛翔は、ドルグルたちと行動を共にした。
他の者たちと同じように肉体労働をしたが、頼まれた場合は少しの魔力を使い、高い枝の先にある野ブドウを潰さぬよう全部落としたり、崖にいるカモシカを倒して下ろしたり、かぶれる樹液を直接筒に入れたりした。
日が暮れるとテントを張る。
仲間を含め七人が寝るには十分な大きさだった。
獣が寄らぬよう、周囲にいくつか焚き火をおき、交代でその番をした。
飛翔は今夜はその当番ではなかった。
だが、焚き火の前で椅子代わりの石にかけ、狩猟の罠に使う枝をナイフで削った。
ドルグルが来て隣でかがんだ。
飛翔にリンゴを取り出して見せ、自分もかじった。
飛翔は手を止める。
道具をおいて、それを受け取った。
ドルグルがひとつ息をつき、飛翔を気づかう。
「ここにはいろんなやつがいる。過去は聞かない約束になっているんだ」
なぐさめる。
「好きなだけいていい。ふらりと消えてもいい。自由だ」
「……おれは逃げてきたんだ」
飛翔は隠していた理由を口にだす。
炎がゆらめいて影をまどわせる。
「認めたくないことがあった」
「無理しなくていい。そんなこと、誰にだってある」
飛翔の肩を叩いてドルグルは腰を上げた。
飛翔はリンゴをかじった。
火の番でない者は、夜の早い時間に床についた。
冷えたので毛皮にくるまって寝た。
飛翔も寝床に入った。
眠れずにいたが、動かずにいれば夢に入れる気がして目を閉じていた。
夜が深まると、カチカチと小さな鉄片の膨らみを親指で押す音がテントの外から聞こえた。
隣で寝ていたドルグルがむくりと体を起こした。
背を向けている飛翔を確認する。
音をたてずに立ち上がり、テントの外へ出た。
火の番をする仲間たちと声をひそめて話しはじめた。
気になった飛翔は魔力で耳を研ぎ澄ませた。
「言われたとおりに金を渡して女と子供を雇った。この先のテントに隔離してある」
「ドルグル、終わったらどうするんだ?」
「埋めちまうのさ。あの女と一緒に」
寝た姿勢のまま、飛翔はテントの隙間に目を動かした。
ドルグルは手を使わずに腰の鞘からナイフを抜く。
そのまま、離れた木に投げ、幹に突き刺した。
飛翔は警戒心の塊になった。
<続く>