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【やったね☆番外編】クリスマス・イン・アルマ

憂理がラセンから魔力の使い方を教わるだけで、全然キュンとしないです。すみません……。

 

 宮殿の一階のホールに立ったところで、そろそろクリスマスの季節だな、と気づいて私は吹き抜けの高い空間を見上げた。


 ぶら下がるシャンデリアをちょっとの間、取り外し、ここに大きなツリーを飾ったら素敵だろうな、と考えて、にんまりする。


 その時、扉のバタンと閉まる音がして、皇太子のアキとその妃である私が入る仰々しい玄関とは別の、こじんまりとした入り口からラセンが戻ってきた。


 私を見て、ギクッとした様子で足早に壁際を進む。


「ラセン、あのさあ」

「お断りします」

「まだ何も言ってない」


 ラセンは足を止めると体の横で手をにぎり、顔を私からそむけた。


「……先日の“かぼちゃ祭り”のあと、アキさまから側近としての自覚が足りないと一時間半も叱られました。長年お仕えしていますが、あんなに叱られたのは初めてです」


「そうなんだ。伸びしろがあるってことだよね」

「伸びしろ」


 ラセンは真面目に受け止めそうになり、我にかえる。


「では、失礼しま」


「ここに天井に届くぐらい大きなモミの木を飾りたいんだけど、どう考えても入り口から入らないの、どうしたらいい?」


「……そうですね、入り口から入らない大きさなら、分割して搬入すれば」


 ハッと気づいてあとずさり去ろうとするのに、


「これ絶対に魔力の練習になるから。ラセン、教えて」


 動機を別のものにすげ替えると、観念する。


「……。今度は変な衣装を私が身につけることはない、と、約束してくださるのであれば」

「するする。わかんないけど」

「わからない……」


 ともあれ、高い天井からぶら下がるシャンデリアをラセンに取ってもらう。


 一緒に森へ行って高さ6メートルのモミの木を探し、自分の魔力で引き抜く。


 そのまま持ち上げ、宮殿のおもてまで運んでから、枝と幹を分断するのにラセン先生の教えをあおいだ。


「では、はじめましょう。魔力は強ければ強いほうがよく、それを的はずれにならない程度に扱えたらいいと考えるのは間違いです。魔力のコントロールとは、どこまで繊細なことができるかです」

「ふんふん」


「例えば、先程おろしたシャンデリアはアキさまがご自分で作られたものです」

「えっ、本当? すごい!」


 さまざまなパーツの正確にカットされたガラスが何百とあり、ひとつひとつに手作りの温かみがあったため、専門のガラス職人たちが作ったものだと思っていた。


「アキってすごいんだね」


「はい。アキさまは特別な方です。というわけで、この木の枝と幹を分断しましょう。ガラスをカットするよりも簡単です。果物にたとえますね。細い枝はイチゴをつまむように、太い枝はリンゴを持つように、幹はスイカをつかむイメージで」


「スイカをつかむ……。つかめないんだけど」


「イメージで実際にそれをするわけではありません」


「手刀で切るイメージじゃだめなの?」


「その考え方だと、いつまでたっても繊細な魔力を使えるようにはなりません。繊細な魔力を扱えることで初めて正確な魔力が扱えるようになるのです」


「なるほど」


 私は感心して、先生の言うとおりにやってみる。


 先生はとても細かな、というか思ったよりも厳しく、幹を分割するとき、2メートルのイメージで切ったものはメジャーで、90度の角度で割ったものは分度器で測られた。


 ぴったりでなければ許されない。


 なぜなら、離れた場所のターゲットを狙う場合に誤差があってはならないからだ。


 ドキドキして判定を待ったところで、


「よくできました」

 と、先生に安堵された。


 ただ、私は魔力で複数のものを大ざっぱではなく運ぶのが苦手で、というか面倒で、今日はやってもらって中へ運び込んだ。


 用意した土台となる大きな鉢のうえで、分解した木材を幹から組み立てる。

 枝の位置が違ったりして、計画して準備することの大切さを知った。


 先生はそのことを教えるためにあえて口を出さなかったようだ。


 一生懸命、思い出し、木を森で切ったときのように再現する。

 倒れぬよう、根元を鉢の真ん中で土に深く刺した。


 いよいよ飾りつけに入る。

 先生に伝える。


「せっかく魔力があるんだから、色ガラスを薄い球にして木に浮かせてつけたい。そして中に明かりを灯す」


「すごくいい練習だと思います」


 私は色ガラスのおはじきを取り出して口に入れると、唇をとがらせ、シャボン玉を吹く要領でガラスの球を吹き出した。


 大小の大きさのものを空に浮かべると窓から射す陽光にキラキラと輝き、とても美しく満足した。


 先生も三回拍手してくれた。


「それを作れるのはなかなかいいですが、同じ大きさで作りましょう」

「同じ大きさ?」

「直径10.7センチで」

「なにそれ、細かっ!」

「これを1万倍の大きさで作るとなると」


 私は想像してイシュリンの偉大さを思い知った。

 イシュリンはおそらくミリ単位でドームを作っている。


 それでも頑張ってこしらえ、正確に測られ合格する。


「では、中に明かりを灯しましょう。気持ちを込めるのが重要です。優しい灯火なら優しい気持ちで。強い光なら強い気持ちで」


 私は強い気持ちでやると、球が割れてしまい、優しい気持ちでいると、球を落としてしまう。


「なにこれ、難しい!」

「アキさまはこのホールの壁際にある小花模様のガラスを作って明かりを灯し」

「今アキの話はしないで! 気が散る!」


 なんとか明かりを灯すことに成功し、木の周囲に色とりどりの球を300個も散りばめ、浮かべる。

 虹色に輝く豪華なツリーが出来あがった。


 その後、先生とともに8階のキッチンへ移り、ふたりでパティシエの帽子をかぶってエプロンをつけた。


 同じ要領で、クリスマスの白い円形のケーキも全て魔力で作る。


 直径40センチ、厚みが12センチのスポンジ部分を焼き、外側に白いクリームを塗る。

 その上部に、いちごで一周、円を描く。

 さらに、幅15センチ、長さ5センチの白いチョコの平たい板を作り、“Merry Christmas”とチョコペンで書く。

 ケーキの中心にホイップクリームを3回絞り、それを背にして、チョコの板を斜めに置いた。


「これで完成」

 と、額をぬぐって、先生に伝える。


「見たことのない食べ物ですが、美しいので合格です」

 と、認められた。


 ヘトヘトになったので、帽子とエプロンを取り、先生……ラセンに礼を言って自分のフロアへ引き上げた。


 後からホールにアキが来て、私がガラスの球の灯りで飾った虹色のモミの木を見上げていると、そこにいたサジンが駆けより、


「さすがは憂理さまですね。この木は抜いてすぐ表でいったん分解し、素早く運び込んで再度組み立てたと聞きました。正確な魔力が使われたことで生命力を保っており、まるではじめからここに生えていたかのようです。さらに、色とりどりのガラスの球をすべて同じ大きさで何100個も作り、浮かべて明りを灯すとは、魔法学校の教授でも難しいことです。繊細かつ正確な素晴らしい魔力です」

 と、絶賛したらしい。


 私が本当に素晴らしいと褒めてもらいたいのは別のものだ。


 またアキの執務室を夜中のうちに女官たちに手伝わせ、赤・緑・白・金銀の色でコーディネートした。テーブルの真ん中、一番目立つ場所にあのケーキを置く。


 翌朝、アキが食事を終えて執務室に向かってきた。私は先に中へ入り、細く扉をあけて外をうかがった。

 きっと驚いて褒めてくれるだろう。


 アキは扉の外で立つ変な生き物に気づき、いったん足を止め、ゆっくり近づいた。


「……メリークリスマス」

「なんだ、その呪文は」

「“クリスマスだ、やったね☆今夜はパーリィナイッ”、という意味だと憂理さまが」

「ラセン、私のフロアへ来い」


 アキは、私が作ったトナカイの着ぐるみを着て鼻を赤く塗ったラセンを褒めてくれなかったので、とても残念だった。




 <おわり>


次回・「バレンタイン編」。

アキへ贈るチョコを探しにふたりはマーケットへ……! 今度はキュンとします♡

 

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★外伝↓。飛翔と憂理がネイチュに来る前の話。
飛翔の目線。
『 後悔という名のあやまち』


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