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50.スプリングから脱出する

 しばらく経つと、飛翔(ひしょう)は私を“守ること”から、“見守ること”にシフトチェンジして、目視(もくし)できる場所での労働に戻った。


 畑は遠かったため、近くで家の建設や道の修繕に加わったり、荷車を押したり引いたり、困りごとを聞いてはそれを融通したりしていた。


 積極的に人と関わりを持とうとするところが飛翔らしかった。


 私も家のそばでする簡単な仕事を任されるようになった。


 切った野菜をムシロに並べて干したり、大豆をざるに入れて回しながら傷んだものを取り除いたり、おすそ分けに使う紙袋を作ったりした。


 その日は近くの井戸でたらいに水をため洗濯板を使い、手ぬぐいやタオルを洗っていた。


「お疲れ様」


 と、同じく裏方をしている初老の小柄な男が汚れた食器を持ってきてそばでしゃがんだ。


 私が破壊した町の出身と聞いていたので距離を置こうとした。


「憂理さま」


 と、言葉が私のスカートの裾をつかんだ。


「私はアキさまの配下の者です」


 男はささやいてアキがその役目の者に渡しているバッジを見せた。


 私は飛翔がうずまきになった道の二段下で誰かと話しているのを確認する。

 男に顔をよせた。


「アキに伝えて。このドームも破壊する。イシュリンは殺害する」


 神殿をぬすみ見た。


「ただ、魔力が通じないイシュリンを殺害する方法がわからない」


「アキさまから憂理さまへの伝言を預かっています。イシュリンを殺さなくていい、しばらくここで過ごすように、というものです」


「本気で言ってるの?」


 思わず声が大きくなり、離れた場所で積んだ箱からトマトを出していた女たちがこちらを見た。


 ヒヤリとして飛翔に目をやったが地面に図を描き、そばの数人に何かを説明している。


「……私は手伝ってもらわなくても自分でできる」


 女たちに聞こえるよう言いつくろい、また声をひそめた。


「なぜ? アキの真意が知りたい」


「では、薄暮の目立ちにくい時間にドームの外へ案内します。そこでアキさまと会ってください」


 どきりとする。


 アキがこのドームの外へ来る。


 胸が高鳴った。


 はたして、日が落ちる頃、飛翔と家へ戻り縁側でお茶を入れたところに見かけない顔が来た。

 仲間たちが揉めているのをどちらの側でもない飛翔に仲裁してほしいと訴えた。


 飛翔は、私がうなずいたので、立って遠いそちらへ向かった。


 それを見届け、マグカップをトレーの外へそっと置く。


 そして、家から逃げた。


 男はドームの(きわ)にある約束の場所で待っており、自分がドームの膜をくぐるときに足を止め、私をのがした。


「こちらです」


 案内され薄闇でシルエットになった森の中を歩く。


 しばらくすると導いていたはずの男がいなくなった。


 私は足を止めた。


「……アキ、来ているの?」


「アキは来ていない」


 聞き覚えのある声とともに手が後ろから私の口をふさぐ。


 抵抗する間もなく首の後ろをうたれ、意識が遠のいた。





<続く>

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★外伝↓。飛翔と憂理がネイチュに来る前の話。
飛翔の目線。
『 後悔という名のあやまち』


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