49.ラセンがにぎった杏のおにぎり
その日から、シルクのドレスは遠ざけ、素朴なシャツとスカートを身につけ、レジスタンスと変わらない格好になった。
ここでの生活に心を開いていったふりをした。
だが、家からは出してもらえなかった。
飛翔は一日中私の側を離れなかった。
私を守っているのだと分かった。
いわゆる邪悪な念から――。
ワイクが飛翔を呼びに来て少しの間、代わりに私を“守った”。
私の目の光が油断のならないものだと見抜かれていた。
唇が繕う。
「手錠をかけてまで迎えてくれたのに、ごめんなさい」
アキから、ワイクの世界がモノクロームになったことを聞いていた。
「心を入れ替えてくれることを願っている」
ワイクは飛翔やイシュリンに見せるのとは違う硬い表情を崩さなかった。
だが、数日後の朝食で、私は飛翔から竹皮の包みを受けとり、開くと現れたおにぎりに涙を流した。
飛翔は元の世界が懐かしくて泣いているのだと思い、
「何度でも食べられるよ」
と、慰めてきた。
私は本当の理由を言わない。
シャビエルの宮殿ではアキの意向で食事を四人そろって取るようにしていた。
ある日の朝食の席で、私はまたわがままを言い、
「パンケーキとかマカロニとか小麦の食事ばかり。たまにはご飯が食べたい」
と、カラトリーを皿に並べた。
ただ文句を言いたかっただけで本気ではなかったが、アキはラセンに手配を命じた。
ラセンは取り寄せると文献を見て研究し、数日後の朝食で三角形の大きなおにぎりがひとりにふたつ出てきた。
私は驚き、サジンは米を食べない地方の出身だったので子供のように目を輝かした。
手でつかんでかじると中には甘い干し杏が入っていた。
初めての味に咀嚼が止まる。
「種の大きい果実の干したものを入れるとあったので」
普段、感情を表に出すことのないラセンが困っていた。
「憂理のいた世界の味とは違うかもしれないが、ネイチュではこういう味なんだと思えばいい」
アキは気にせず食べた。
「そうね。ありがとう、ラセン。これ、すごく美味しい」
私は作った彼に礼を言い、
「アキ、ありがとう」
と、手配したアキにも感謝した。
「またこれを朝食にしよう」
アキはもうひとつ手にとった――。
「……帰りたい」
私は涙を止められず、好きだった梅干しのおにぎりを食べかけのまま竹皮へ戻した。
<続く>