31.食堂で聞き込みをする
薄暗い店内は広く、丸いテーブルが十五卓もあったが、客は数えるほどしかいなかった。
テーブルの数と比べると廃れていることがよくわかった。
少ない客をちらりと見る。
かたわらにチップに積んで黙ってカードを出し合っている三人の男。胸元を大きく開き汚れたドレスを着て半分居眠りしている女。盗品らしき時計をいくつか並べ比べている片眼鏡の老人。これまた怪しい魔法陣のマークが入った手袋を取ったりはめたりしている老女……。
とはいえ、悪目立ちした私に目を向ける者はいなかった。
「酒と紅茶と干し肉と、トマトとピーナッツしかないよ」
と、古びて黒くなった木製のカウンター向こうで、小柄の太った店主が怒ったように告げる。
「……紅茶で」
と、注文し、先客からできるだけ距離を置き、席に腰かけた。
やがて、店主が紅茶を持ってきて、卓上に置いた銅貨を奪うようにして取っていった。
私は、これを飲んでも魔力があれば病気にならずにいられるのか、店のすみを走るネズミを見ながら試す勇気がなく、ぬるいカップを持ち上げただけでソーサーに戻した。
それでも、ここに来た目的を思い出し、自分を奮い立たせ、カウンターへ向かった。
「あの……」
「酒と紅茶と干し肉と」
「いえ、そうじゃなくて、人を捜していて」
なんとなく店の中の雰囲気が変わり、私の言葉に誰もが耳をそばだてた。
「なに、だれ?」
相変わらずぶっきらぼうに答えられる。
しかも本当は聞かれたくなかったが大声を出された。
カウンターを指で叩かれ、ポケットから銀貨を出して載せた。
「だれを探してるんだって?」
強い口調で聞かれたので嫌気が差したが、この町ではよその店に行ったところでどこも同じのような気がした。
それでも、左と右を振り返ってから声を潜めた。
「皇太子アキさまに縁がある人を捜しているんです」
「皇太子?」
また大声を出される。
表の男たちまでのけぞり、こちらを見てきた。
「皇太子がなんだって?」
ふたたびカウンターを指で強く叩くので、また銀貨を置いた。
このまま情報を得られず、ただコインだけが取られていく気がした。
その時、
「皇太子に縁がある者なら知っているよ」
と、魔法陣のマークが入った手袋をして老女が私に声をかけてきた。
〈続く〉