14.アキは母を奪われた怒りでイシュリンを攻撃する
イシュリンは数十メートルの後退を強いられたが、神官ならではの半球の結界で、アキの攻撃をしのいだ。
背後で森は巨人のハサミに切り裂かれ、むき出しになった地面は捲れあがっていた。
その先にはドームがあった。
「小賢しい」
少し顎を上げたアキのはるか後方で、側近のサジンが口を覆う。
作った盾が効かず、巻き添えをくらって鼓膜が破れ、鼻と口から大量に出血していた。
「転移していろ」
と、アキからサインを出されて、その場から離れた。
アキは頭上にした手を降ろし、再びイシュリンに向けた。
「お前を殺す」
手のひらを開く。
イシュリンは、ふたたび半球の結界を作る。
放たれた光の塊が雷をともない、ガン!と魂ごと壊そうとする音は滅亡を垣間みせた。
背後では裂かれた森が大地ごとはずんで彼方まで地層をむき出しにする。
ドームに静かな変化が起こった。
アキはそれを認め、左手一本でイシュリンを押さえつけて右手で眼下の町を撫でる。
町など初めからなかったかのように土がならされ面になった。
飲まれた人々の強い怨嗟を神官であるイシュリンは受け止めて救う。
アキはまた別の町へ手を伸ばす。
撫でたが、イシュリンがそちらにも結界を張ったため弾かれた。
イシュリンが叫ぶ。
「アキ皇子、無力な人々を苦しめてはいけません!」
「お前の言葉には虫唾が走る……! 自分は無実だとでも思っているのか!」
反駁するアキの瞳が憤怒に燃える。
「お前は……。私から母親を奪った!」
また手首を合わせるとイシュリンに向けて開く。
憎しみとともに最大級の衝撃をくらわせた。
三度、ガン!と轟いた。
「私はあなたから母親を奪ってはいない……!」
否定しつつもイシュリンは激しく動揺した。
アキはまた腕を上げる。
「イシュリン、消耗するだけだ! 攻撃できないのか!?」
負傷したワイクを抱えた飛翔が背後で声を張り上げる。
イシュリンも防御、結界、そして神官として人々の怨嗟の浄化を抱え、限界を迎えつつあった。
アキもフルパワーでの攻撃は何度も続かないはずだった。
とはいえ、先に尽きるとは限らない。
イシュリンは神の加護を強く念じ、額に気を集中させる。
念を額からアキに向かって矢のように放った。
輝きがアキの盾を突き抜けて額を貫き、十数メートル、後退させた。
肉体的な傷にはならないが、魔力に相当なダメージを与えた。
空中で、アキは右膝をつくと、立てた膝を左手でつかみ体を支えた。
盾を作って身を守ることが精一杯になり、イシュリンを攻撃できずに右の拳を握った。
それでも、不敵な笑みを浮かべた。
光の矢を強く放ったことでイシュリンも気力がひどく弱くなる。
そのとき背後で、ドン!と大きな音がした。
イシュリンと飛翔が振り返ると、ドームは巨大な炎になっていた。
〈続く〉