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ブランコ  作者: スギヨシ ハチ
3/7

3

青白い光は、やがて二人の人物を描き出した。


あれは、彼女と僕。

まだ高校生のふたり。


学校の帰り道。

彼女は泣きながらカバンを振り回して怒っている。

僕はそれを困ったように見ながら、それでも何か文句を言っている。


まだ、付き合いだして2か月くらいのときだ。


忘れもしない。

僕らがはじめて、ケンカをした日。


確か、クラスの女子が髪を染めたことを話題に出してしまったんだっけ。

目の前の彼女が、髪を切ったことにも気づかずに。


でも、このときの僕は、なんで彼女がそんなに怒るのか分からなくて、ものすごく困ってたんだ。


そして、あの交差点で、いい加減うんざりした僕が言うんだ。

「別に髪なんてどうでもいいだろ。」って。



それで、ほら。

あと3秒、2、1。


キツイ平手打ちの音が夕暮れの空にこだまする。




今なら分かるのにな。

彼女が自分をちゃんと見てほしかった気持ち。


きっと彼女も、今なら分かるだろうな。

僕が彼女といっしょにいるとき、舞い上がってしまって、まともに彼女を見られなかったことに。




青白い光が、僕の思考を止める。


【コノジカンニ モドリマスカ?】




確かに、このときに戻れば、彼女をなぐさめることもできるだろう。

今ならもっと大事にしてあげられる。


……それから先も、ちゃんと守ってあげられる。

事故になんて遭わないように。



映像の中。

高校時代の僕を交差点に残して、彼女は走って帰っていく。

カラスが一声、僕をバカにするように鳴いてったっけな。


あのときと同じように、過去を映す鏡の前で、僕はひとり立ち尽くしていた。



けんかの後、月が夜空を飾る頃、僕は彼女に電話した。

あの頃はまだ携帯電話なんて持ってなくて、彼女の母さんに「宿題のことで連絡がある」ってウソ言ったんだっけな。


近所の公園で、僕らはお互い謝った。

照れたように顔を見合わせて、僕らは笑って。

それから、少しだけブランコに乗ったんだ。


夜風が、少し短くなった彼女の髪をゆらして通り過ぎていく。

僕はブランコをこぎながら、ひんやりした空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


初めてのケンカ。

子供っぽい言い争いの果てに、僕らは初めて仲直りをした。



青白い光が、再び僕の目の前に浮かぶ。


【コノジカンニ モドリマスカ?】



今なら、あのときよりもっとうまく、彼女をなぐさめられるかもしれないけど。

もっと大事にしてあげられるかもしれないけど。


あの日の僕らは、それぞれに悩んで、ちゃんと仲直りできた。



ブランコに揺られる僕らの笑顔を見つめたまま、僕は言った。


「いいえ、戻りません」


目の前の光と映像が、ふっと消えた。




僕は、もっと奥へと歩き出した。

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