宿屋の少女
更新がかなり遅れて申し訳ございません。
俺は気持ちの良い朝を迎えていた。
ノンナさんの紹介で泊まったこの宿屋は確かに誰かにおすすめしたくなる良い宿屋だった。寝心地の良いベットに涙が出るほどおいしい料理。
……うん、実際にご飯を食べていると涙がポロポロと流れ出してしまって宿屋の人や周りで食事していた人達は驚いていたし、「おいしくてなんか涙が。」と素直に俺が言うとみんなおかずを持って来て食べなとテーブル一杯になるまで続き申し訳ないと思いつつも全部おいしくいただきました。
100年間も森の中でそれなりの食事をしてきたつもりだったのだけどまさか涙が溢れ出るとは思いもよらなかったし久しぶりのベットで、入った瞬間に爆睡してしまった。ので割と早くに目を覚ましてしまった。
「とりあえず、今日の予定を軽く決めるか。」
まず、朝食を食べてその後ギルドに行く。ノンナさんの話では無事?話が終わっているらしいのでその後の事を聞いた後、街を見て回り色々無い物を買い物する事にしよう。それと情報収集もしっかりやっとかないとな。
日本にいた時とかなり文化、文明の違いがあるし何より魔法とか魔物が存在するファンタジー世界だ。森にいた時はそこまで気にする事じゃなかったけど街中で生活していくには必要不可欠な事だからなぁ。なんて考えていると、ぐぅ~とお腹からご飯を催促する音が鳴り出したので部屋を出て朝食が出来ていないか聞きに行くことにした。
二階の自分が泊まっていた部屋を出て一階の受付兼食堂に降りると少し肉付きの良い赤髪の女性が食堂のテーブルを拭き掃除していた。
「あらあら、クロちゃんおはよう。」
「アナリアさん、おはようございます。」
30代前後のこの女性はこの宿屋の女将アナリアさんだ。
「で、どうしたんだいこんな朝早くに。」
「その~朝食って何時頃できますか?」
「あれま、昨日あんなに食べたのにもうお腹が減ったのかい。」
「うぅ、すみません。」
「なにも、あやまることじゃあないよ。育ち盛りだものね仕方ないさぁ。」
「おかあさん、水汲みおわったよ。」
話をしていると俺より少し身長の低いアナリアさんと同じ髪色の女の子が駆けて来た。
「あら、リノンちょうどいいわ、お母さんは朝食の支度をしてくるからテーブル拭くのを変わってくれる?」
「うん!」
「リノンありがとね、じゃあクロちゃんすぐに用意してくるから適当に座って待っててくれるかい。」
「えぇ、分かりました。」
「…くろちゃん?」
アナリアさんが俺に話しかけたことで、リノンと呼ばれた女の子は俺の存在に気付いたようで俺の方を振りむきまるで猫の様にジィーと真っ直ぐ俺を見つめ。
「…かわいい。」
「へぇ?…むぎゅ」
唐突にリノンは俺に向かって突進してきた。躱すのは簡単に出来たのだがケガをさせても悪いと思いあえて受け止めたのだがそのままリノンは軽くジャンプして被さる様に抱き付いて来た。
「ねえねえ、あなたはどこかのお姫様?おなまえはくろちゃん?わたし、リノンよろしくね!ウチにお泊りなの?ひとりなの?お洋服かわいいね!」
「え?いや、あの」
「こら!リノン、クロちゃんはお客様なんだから。」
ゼロ距離でマシンガンの如く質問され、俺が困っているとアナリアさんが助けてくれる。と思ったのだが。
「優しく抱きしめてあげなさい!それとお話しするならもっとゆくりとね。」
「ちょっ!?」
「うん、わかった!くろちゃんこっちでお話しよ。」
「よし、じゃあ私は支度してくるから娘のリノンをよろしくね。」
よし、じゃないと叫びたかったが笑顔で腕をグイグイ引っ張るリノンがいる手前、そんな訳にもいかず。テーブルまで引っ張られ腕に絡みつくように抱きつかれたまま、質問攻めと必要以上のスキンシップが続き疲弊しきった所にアナリアさんが朝食を持って現れ、これでやっと解放されると思ったがアナリアさんはリノンと反対の俺の隣に座ると
「あらあら、髪がぼさぼさじゃないか。今梳いてあげようね。」
いつの間にか準備していたブラシを持って優しくなでるように髪を梳いていくアナリアさん。
「だ、大丈夫ですからアナリアさん、リノンちゃんもご飯食べるから放して。」
「「ダメ」」
「女の子なんだもの身だしなみはしっかりと!それと髪は女の顔よ綺麗に整えなきゃだめだよ!」
「だいじょうぶ!わたしがご飯をくろちゃんに食べさせてあげるから問題ないよ!」
「アッ、ハイ。」
2人の迫力に抵抗しても無駄と分かり、ただこの親子のなすがままそれを受け入れた。
◇◇~◇◇~◇◇~◇◇
「……ハァ。」
あの後、他の泊まりのお客様が下りて来た為やっとの思いで二人から解放された瞬間、用事があるのでっと伝え脱兎の如く宿屋を出て大通りまで来たのだった。
まだお店がまだらにしか開いていない大通りを一人歩く。人通りが少なく閑散としているがもう数時間としない内に昨日みたいに人であふれるのだろう。
そんな道を抜け目的の冒険者ギルドに着き中に入ると、朝だからだろうか昨日来た時よりも冒険者ギルドの中は人が多く賑わいをみせている。
「すみません、ノンナさんはいらしゃいますか?昨日約束していたクロなのですが。」
「あっはい、ノンナさんですね。少々お待ちください。」
受付にいた女性に声を掛けるとすぐに奥に行くとノンナさんを連れて来てもらえた。
「クロちゃんおはよう。ごめんね、朝早くに来てもらって。」
「おはようございますノンナさん、いえいえこちらこそ早すぎましたか?」
「そんな事は無いわよ。御覧の通り冒険者は朝早くからクエストを選び、依頼をこなすためにすぐさま出かけるからギルドはそれよりも早くに準備をしとかなきゃダメですからね。」
「そうなんですか。」
「そうなのよ。それで査定額の方は無事に決まりました。でもここで言うのは少し不味いから奥で話したいのだけどまだウチのギルドマスターが中で寝ていてね。」
「えっ、それいいんですか?」
「中々話が纏まらなくてね。朝方近くまで話し合っていたらしいのよ。それで少し仮眠するからって寝てしまってね。」
「はぁ、なんかご迷惑をおかけしたみたいで申し訳ないです。」
「別にクロちゃんが悪い訳じゃないから、どうせお酒でも飲みながら盛り上がっただけでしょう。ただそれでもギルドの顔なので少し寝てもらって後は休みなく働いてもらわなきゃね!」
「そ、それは、あのお手柔らかに。」
先ほどからにこやかな表情を浮かべていたのに話が進むにつれ目だけが笑っていなくなっていくノンナさんの様子に少し恐怖を覚える。
たしか、転生前の会社の事務管理にこういう人いたな。この手の人は決して怒らしてはいけない、倍いやん十倍にしてひどい目に遭うのを何度も観て来たしな…
心の中でのノンナさんに対して礼儀正しくいようと思うのであった。
「でね、少し時間があるでしょ。クロちゃん昨日の最後に話したことどうかな?」
「昨日…」
元のにこやかな表情に戻ったノンナさんの問いに昨日の事を思い出そうとする。
昨日、宿の場所を聞いてそれから…
「えっと、たしか冒険者にならないか。でしたっけ?」
「それです。クロちゃんみたいに強くてかわいい子は大歓迎ですから!」
かわいいは関係あるのか?
「さらに冒険者になれば色々と便利な特典があるのよ!」
「特典ですか?」
「そう、具体的な内容は冒険者その仕事内容からよく町を出入りするし他の町に行くことなんてざらなので私達のギルドで発行しているカードを所持していると大体の町では入税料は掛かりません。またこの街では無いけど王都とか、かなり大きな町だと滞在期間の延長料金とかもタダになります。」
「なるほど。確かにそれは助かりますね。」
「ね。あと、冒険者には級位が存在していて初めは誰もがF級から始まるのだけれど段々と級を上げていけば冒険者ギルドと中の良い宿やお店の商品が安くなったりと良い事尽くしですよ。」
ノンナさんの話を聞く限り確かに冒険者になる事は良い様に聞こえるけど。
「ねえノンナさん、それだけじゃないですよね。」
「……といいますと。」
「昨日のガンダルさんが言っていた売買取引規約とか他にも何かありますよね。」
「はぁ~すごいわね。見た目は小さくて可愛らしいお人形みたいな女の子なのにしっかりしているのね。…うん、合格ですね!」
「はい?何がですか?」
ノンナさんの唐突の合格発言に困惑していると先ほどとは違ってまじめな表情でノンナさんは話し出した。
「ご説明いたしますね。まずクロさんには悪かったのですが少しこちらでテストさせて貰いました。」
「テスト?」
突然ノンナさんの口調が改まったので戸惑いを覚えながらも話を聞く。
「えぇ、最初ノーマットさんからのお話でクロさんはどうやら一般常識が少し抜けている所があると伺っていましたので少しクロさんの性格をテストさせて貰いました。クロさんは見た目は幼い少女ですがアレを一撃で倒せるほどの力をお持ちですので、もし邪まな考えを持つの者がクロさんに悪質な契約か嘘の情報で取り入った場合を考えての事です。」
たしかに、俺の見た目は小学生低学年くらいのだし、この世界にもまだまだ疎い所はあるから心配するのは当たり前か。
「ですが、どうやらこちらの考えすぎだったようです。クロさんは契約に裏がないか確かめましたし先程からの会話も礼儀正しく対応されている所から育ちの良さがうかがえます。」
「それは…ハハ、どうもです。」別に生まれ云々じゃなく、これはただ長年の社畜生活で身に染み付いた癖な物なんだけどな。とそんなことは言えないのでただごまかすように笑い続けた。
最近の急な温度上昇についていけなくて体調を崩してしまいました。
皆さんも体には気おつけて下さいね。