リームリットと冒険者ギルド
「おーいクロさんこっちです。」
俺より先に入っていたノーマットさんが大きく手をふりながらこちらを呼んでいた。
小走りで近づき「すみません、遅くなりました。」と謝ると、別に問題ありませと笑顔をで答えるノーマットさん。
「では、クロさん、ノーマットさん悪いんですが冒険者ギルドまで来て貰えますか。」
俺とノーマットさんは頷くとフェイが「行くぞ!」と一人スタスタと歩き始め、ルッツがそれを追うように行く。
「私、何か彼に嫌われることしたかな。」
「ハハハ、彼もまだまだ若いという事ですよクロさん。」
再び馬車の御者台に乗せてもらい疑問を呟くとノーマットさんは笑顔を浮かべながら答え馬車をゆっくりと進ませる。
西洋風の建物が建ち並ぶ大通りを抜け町のたぶん外れ近くまで来ると一際大きな建物の前で馬車は止まった。
「さあ、着きましたよここが冒険者ギルドのリームリット支部です。」
その建物の見た目は大きな二階建の酒場みたいな外見をした建物だった。
馬車を降りるとノーマットさんが先に入っていておいて下さい、私は馬車を止めてきますので。と言われたので言われた通り先に建物に入ることにした。
建物まで近づきスイングドアを押し潜り抜けると中にいる人達から一斉に視線を浴びせかけられ「けっ、ガキか。」「おッ可愛いな。」等々口々にした後、視線をもとに戻していく。
中はバーみたいな雰囲気な場所と受付窓口の二種類あり受付近くには大きなボードがありそこには様々紙が張り出されている。そんな風にキョロキョロと辺りを見ていたら受付近くから「こちらですクロさん。」と呼ぶ声が聞こえそちらを見れば先に着いていたルッツとフェイの2人が受付のそばに立っていた。
「フェイ君、ルッツ君先ほどのお話はギルマスに伝えました。もうすぐ来ると、あら、そちらの方は?」
「あぁ、ノンナさんちょうどよかった先ほど話した中でこの人がアレを倒して俺らを助けてくれたクロさんです。クロさんこちらはここの受付のチーフリーダーのノンナさん。」
ルッツの紹介で奥から来た女性のノンナさんに軽く頭を下げ挨拶する。
「え?ルッツ君何を言っているのかな。お話では出てきたのはグリーンオーガですよね。」
「はいそうです。」
「あのねルッツ君、オーガ種の中ではランクの低いグリーンオーガだけどC級の冒険者チームでやっと倒せるかで単独でしかもE級の君たちを庇いながら倒すなんてA級の上位冒険者でもギリギリできるかできないかなのにその子が倒したなんて……まさか、ルッツ君、フェイ君、嘘の報告じゃあないですよね。」
「違いますよ!」
「んなぁ、メンドい事するかよ。」
「ですけどね…うんん~。」
「おい、どうした。」
ノンナさんが俺とルッツ達を見比べながら、困ったみたいに小さく唸っていると奥からもう一人大柄な男が現れた。
◇◇~◇◇~◇◇~◇◇
「こりゃすげぇ顔面がブッ潰れてヤがる!」
グリーンオーガの死体を見るなり愉快そうに声を上げている色黒の大男。頭に大きな傷があるスキンヘッドで色黒の肌に革製の赤いジャケットをパツパツにして筋肉が強調されている厳つい男はここのギルドマスターのガンダルさんだ。その隣でノンナさん驚いた表情で俺とグリーンオーガを見比べている。
「にして一撃で即死したンだろうな。木片とか少し傷はあるが全部抵抗した後がない、初撃でポックリだな。しかもそれをヤったのがこの嬢ちゃんだとは。」
「えぇ、私も初めて見たときは驚きましたよ。」
ガンダルさんとノーマットさんは楽しそうに会話している中、フェイ、ルッツ、ノンナさんの無言のままそれを見つめていた。
「ンで、嬢ちゃんたしかクロだっけ、ウチの若い2人の命を助けてもらったぁな。ギルドマスターとして礼を言わしてくれ、感謝するありがとう。」
巨体を小さく丸め頭を下げるガンダルさん。いつの間にか冷静さを取り戻したノンナさんもガンダルさんの隣で一緒に頭を下げていた。暫くして頭を上げたガンダルさんはヤクザみたいに怖い顔をニッと歪め笑みを浮かべると
「クロは今手持ちがねぇんだろ。」
「え?なんで。」
「ン、フェイの奴が金も無くて町に入るのに苦労したッて言ってたからなぁ。」
おい、フェイ!
「そこで相談なンだがギルドにコイツ、グリーンオーガを売らないか!全額は無理だが金貨10枚位な前金としてスグに出せ……」
「ちょっと待って下さい。」
「オイオイ、なんだよノーマットの旦那、こりゃ冒険者同士の話だ。ギルドの売買取引規約で定められている事で商売ギルドの旦那にゃ関係ないだろ。」
「ふふふ、残念ですがクロさんはまだ冒険者では無いのですよ。」
「はぁ!?マジかぁ!」
「ですから、ギルドの規約に引っ掛りません。それに、既に一部ではありますが私が買い取らせてもらう予定ですので。」
「クぅ~なぁオい、クロ今からでも遅くない冒険者登録しないかぁ!」
「ガンダルさん、それはずるいですよ。」
白熱の議論の結果、俺がグリーンオーガ全体を両者に売ることが決まり、先に約束していたノーマットさんがどの部位を買い取るか決め、残りをギルドが買い取る形に決まった。がどこの部位を残して貰うか相談もとい商談すべく二人はギルドの奥へと消え、フェイ、ルッツの2人はグリーンオーガを解体する為、解体場に運ぶ手伝いを他のギルド職員と一緒になって行ってしまった。残った俺とノンナさんは買い取り書類と前金の支払いのためギルドに戻ってきた。
「では、こちらにサインを。」
「はぁ、…いいですかね。」
「何がですか?」
「いや、まだ査定額も決まっていないのにこんなに貰って。」
金貨一枚の価値はよく判っていないが大金に違いない。なのにノーマットさんが説明していてくれていたがグリーンオーガがそこまで価値が高いのかは怪しい処だ。
そんな俺の疑問に答えるためかノンナさん顔を俺の耳元まで運ぶと囁くように。
「グリーンオーガは相場金貨7~80枚前後で取引されているのよ。」
「!?」
俺が驚いているとノンナさんはサッと顔を戻し「しかも、かなり状態が良いからもっと高くなるかもね!」笑顔で俺に伝えてきた。
「さて、クロちゃん。」
(ちゃん!?)「………はい。」
「いま手持ちがないらしいのでこれだけだと困るから両替しとく?手数料として銅貨一枚掛かっちゃんだけどね。」
「えぇ、お願いします。」
「はい、承りました。取り合ず二枚ほど換えておくね。」
ちょっとした後にノンナさんが小ぶりな袋を持ってきた。
「両替と前金を一緒にしときましたので確認をお願いします。」
「はい。」
ジャラっと重い音がする袋を受け取り中を確認すると様々な大きさ、形の硬貨が詰まっていた。それ少し眺めた後袋を受け取る。
「後ね、査定の方はもう少し時間が掛かるみたいまた後で査定を聞きに来てくれるかな?」
「構いませんけどいつ頃伺えば良いですかね。」
「う~ん、たぶん明日の朝までには決着がつくと思うだけどね。」
「決着?……あぁ分かりました。」
恐らくはガンダルさんとノーマットさんの事だろう。
「ごめんなさいね、そういう事なので明日また来てくれますか?」
「いえいえ、では明日また来ます。……そうだ、ノンナさん私、この街に来たのが初めてでご飯が美味しい宿屋とか知りませんか?」
「えーと、それなら……」
それから俺は再び大通りにやって来た。店がちらほら閉まっている所もあるけど、先ほどより人通りが多く屋台が増え、店のあちこちから美味しそうな匂い漂ってくる。
100年ほども昔になるのに今でも現代地球の事を思い出す時がたまにある。あの時の俺もこんな風に一人高層ビルが建ち並ぶ街中を歩いていた。いや、ただ無心に会社から会社、会社から家に彷徨い続けていただけなのかもしれない。
でも、何故だろうか今は楽しい気持ち心に溢れている気がする。身体が、人が、建物が、街が、世界が、違うからかなのかはまだ解らない。
楽しく辺りを眺め、考えていたらいつの間にかノンナさんのおすすめの宿屋の前まで来ていた。
「今まだ答えが出なくても……取り合ずはおいしいご飯とベットが先かな。」
俺は小さく呟くと宿のドアを開け中に入っていた。