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後編 ホンモノノニセモノ

君は君のホンモノで、君は僕の弟。

 

 サラはベルデがホルドに向かって泣き叫んでいるとの報告を受けて屋上へ向かう。そこへ続く扉が少し開いていたので除いてみると、月明かりに照らされた美しい2匹の竜が寄り添うように並んで夜空を見上げていた。その絡み合う尻尾が互いを想っていることを示している。


 (結ばれたのか…本当の意味で…)


 振り返ってみればベルデがホルドを想っているような感じはあったかもしれない。しかしあのホルドがあんなに優しい顔をするとは。ベルデが何を言ったのかは知らないが、それがホルドを大きく変えたことに変わりは無いだろう。


 「2匹とも幸せになっておくれ…」


 私は気づかれぬようそっと踵を返したのだった。



  ─  ─  ─  ─  ─  ─



 「ねぇ…本当はどうなの…?私のこと…」


 「僕は…僕…は…本当は…君と…ベルデと一緒に生きたい…もう独りになりたくない…」

 

 「ならずっと側にいるわ。最初はお母さんに言われたからだったけど、今はあなたが好きよ。」


 「うん…」


 「あなたが贋作(ニセモノ)だろうが本物だろうが、生きていてくれればそれで良いの。」


 「うん…」


 「抱き締めていい?」


 とベルデが言えば意外にもホルドの方から抱き締めた。そしてそっと額同士をつけ、しばらくして離れると寄り添って並んで空を見る。ベルデが遠慮がちに尻尾を絡めようとすればホルドも応え


 「ベルデ。」


 「ん?」


 「ありがとう。」


 「うん。」


 その後首を振ったのは涙を堪えるためだろうか。


 帰り、2匹で並んで廊下を歩いているときにベルデがホルドの尻尾に自分の尻尾を絡ませてホルドにすり寄っているのに対し、ホルドが恥ずかしげに応えているのを見たすれ違った人達は思わず笑みをこぼしたという。ホルドの使っていた部屋よりベルデの部屋の方が広いので2匹ともそこで過ごすことにした。


 

  ─  ─  ─  ─  ─  ─  


 

 サラ「レオ、あの子達は番になるようだ。…私に言われたからじゃなくて、両想いでね。」


 レオ「そうだろうな。」


 「知っていたのかい?」


 「屋上で寄り添い、廊下を尻尾を絡ませながら歩いていたと衛兵や召し使いが騒いでおったぞ。…ベルデはともかく、ホルドも良い方向に変わったな。」


 「あぁ。随分と幸せそうな、優しい顔をしていた。どうやらベルデが一喝いれたみたいだけどね。あの仲の良さじゃあ孫がみれるのもそう遠くないかも知れないねぇ。」


 「フッ…そうかもしれんな。ところでサラ、体はもう平気か?」


 「あぁ。迷惑かけたね。」


 母も子も考えることは同じ。サラもあの薬を飲んでいたのだ。ベルデとは違い、レオの立ち会いのもと3時間苦しみ続けた。


 「我はまだあれが正しかったか分からぬ。見ているだけで辛かった。」


 「有意義な3時間だったよ…ただの自己満足かもしれないが、やって良かったと思う。あの子のためにすべきことが何なのか、何となくわかった気がするよ。」




 そしてベルデとホルドが正式に番と認められて数日、サラはホルドについて何かしてやれるこもはないかと模索した結果、少し遠くに神龍が住んでいるという情報を得た。


 サラ「なぁホルド、お前の生まれについてなんだが、ここから少し離れた山に神龍が住んでいるらしい。そこに行ってみたら何か分かるんじゃないか?」


 「神龍…」


 「私も行っていい?」


 「あぁ。いいとも。」


 そうしてホルドは久しぶりに宮殿を離れてその山があるという東へ。


 ホルド「あ…」


 ベルデ「どうしたの?」


 「感じる…」


 その言葉通り、ホルドの勘の方向に行くとそれらしい洞穴があった。ある程度法力を使えるベルデもそこまで近づけば何かただならぬものを感じる。恐る恐るその大きな洞穴に近づくと中から


 「誰だ?」


 と言う野太い声。


 「ちょっと、ホルド!?」


 その声を聞いたとたんホルドは広い洞穴の中に飛び込み、慌ててベルデも後を追う。中には2匹の純白の鱗を纏った龍がいて…ベルデ以外の3匹は絶句した。


 ホルド「父さん…?…母さん…?」


 神龍♀「そんな…バカな…」


 神龍♂「わ、訳が分からん…」


 ベルデ「どういうこと!?あなたに両親はいないはずじゃなかったの!?」


 ホルド「いない…けど…知ってる…そう…夢…」


 神龍♂「お前は一体何なんだ?何故息子の若い姿をしている?」


 「僕…は…そうか…そういうことか…あの龍の両親なんだ…でもなんで夢に…?」


 神龍♀「説明…してもらっても良い?」


 動揺していたのでベルデがホルドの誕生について説明する。


 神龍♂「成る程…だからあの子は生き残ったのか…。」


 ホルド「生き残った?生きていたんですか?」


 神龍♀「川に捨てられて、その後今の番の竜に助けられたそうよ。普通なら死んでいるはずなのに見つけた時には生きていた。その理由がわかったわ。あなたが生きていたからね。」


 ホルド「どういう…?」


 神龍♀「あなたがつくられたとき、あの子の肉と片目と爪を源とした。そのときあの子の魂の欠片があなたに宿ったのでしょう。欠片とて魂。魂は命と常に繋がっていますから、どちらかが生きていれば、肉体が修復不可能にならない限りもう片方も生き延びる、という現象が起きたのだと思います。あなたが夢で私達を知っていたのもそのせいかと。」


 「僕に…あの龍の魂…」


 神龍♂「簡単に言えば息子が分裂したということだな。造られたとてお前も血を分けた間柄というのは変わらない。よく帰ってきた。」


 神龍♀「そうね、名前はあるの?」


 「ホルド…」


 「ホルド…月、か。良い名前ね。あなたは?とても綺麗ね。」


 「ベルデです。」


 「ベルデ、成る程その容姿からつけたのね。ホルドを連れてきてくれてありがとう。あなたはホルドと知り合い?」


 「番です。」


 神龍♂「番?そうか。魂があるから心もあるのだな。それは良かった。」 


 ホルド「あ…くる…」


 ホルド以外「?」


 羽音がしてその方向をみれば隻眼の白龍が降り立ったところだった。


 神龍♀「カイ?何故…まさか…!駄目です!ホルド君をカイに触れさせては駄目!」


 警告虚しく2匹は磁石のように駆け寄る。神龍が通力で妨害しようとしたが、2匹の通力によってできなかった。そしてホルドが一回り大きいカイに抱きつくようにするとカイもそれを受け止め、目を瞑る。数秒後、ホルドが崩れ落ちた。


 ベルデ「ホルド!?どうしたの!?」


 神龍♀「あぁなんてこと…」


 神龍♂「所詮は欠片…主には逆らえぬか…」


 カイ「ずっと…何かが足りなかった…やっぱりこの子だったんだ…まさかそっちから来るなんて…」


 ベルデ「何?どういうこと?」


 神龍♀「まず、同じ魂が2ヵ所にあるということは自然ではありません。無理矢理引き離されたとすれば当然元に戻ろうとします。ホルド君に宿ったのはカイの魂の欠片…故に本体に引き寄せられたのです…。つまり今のそれはホルド君ではありません。魂の無い抜け殻になってしまいました…」


 ベルデ「え…?じゃあホルドは…?」


 神龍♂「カイと同化して消えた…恐らくな。」


 「そ、そんな……ホルドを返して…」


 カイ「残念だけど無理だ。そもそも魂を裂くなんて禁忌中の禁忌だし、我らにそんな力はない。出来たとしても前のこの子には戻らないだろうね。…触れなければ良かったんだろうけど、気がついたら体が動いていた。自然の理と言うやつだ。」


 「でも生きてるよ…」


 カイ「あぁ。肉体に命はあるからね。でも──」


 カイが気を練る。閉じられた方の瞼にも光が宿った。


 「何をする気?」


 「目覚めたら魂を求めて暴走するかも知れない。そうなるとかなりの犠牲者が出るだろう。僕も狙われるだろうしね。だから今のうちに…」


 「嫌!そんなことさせない!」


 神龍♀「カイ、やめなさい。まだ方法が無い訳じゃないわ。」


 ベルデ「本当…?」


 「記憶は体にも刻まれているはず、それを源に通力で擬似的な意識を植え付けることはできるわ。そうすればその記憶通りに動くはずよ。」


 カイ「でもそれは傀儡(くぐつ)(術による操り人形)と同じ原理だろ?この場合は記憶はあるだろうけど感情があるかどうか分からないし、そもそも肉体的には本物だけど精神的には本物じゃない。感情を傀儡にいれるなんて聞いたこと無いし、組み込めても本物を再現しただけに過ぎない。かえってこの(ベルデ)を苦しませるんじゃないか?」


 「でも…殺すなんて…」


 「君の気持ちも分かる。番なんだろ?その相手を殺されるなんて真っ平だろう。僕にも番はいるから分かる。でも、こんな目覚めることのない抜け殻をずっと番として置いておけるのかい?厳密に言えば元々僕だから死んだ訳ではないしね。」 


 「でもやっと一緒に生きてくれるって言ってくれたのに…」


 神龍♂「訳がありそうだな。話してくれるか。」


 元々里の捨て駒として私の両親を殺しに来たこと。母親の手違いで4ヶ月も例の薬で苦しめられたこと。解放するも自分は贋作(ニセモノ)で価値はないといっていたこと。その彼が私の番となるまでの経緯など事細かに話した。


 「だから…生きてるなら…生きてて欲しい…。お母さんが強い法力使えるから…結界を張ってもらうから…殺さないで…」


 「…植え付けますか?」


 「お願いします…。」


 カイの母親がホルドにそっと覆い被さり、体を輝かせて意識の核を植え付けようとした。やはり大きな力を使うのか顔をしかめている。


 カイ父親「どうした?」


 カイ母親「抵抗されています…」


 「抵抗…?カイ、心眼で視てくれるか?」


 そう言われるとカイは再び眼球が無い方の瞼を青く光らせる。


 カイ「嘘だろ…?母さん、駄目だ────」


___________________________

 

___________________________


 「ク…ウ……?」


 ベルデ「気がついたわ!」


 カイ「一応気を付けてベルデ。」


 「ボク…ハ…?」


 「あなたはホルドよ。」


 「ホル…ド…?」


 「そうホルド。私の名前は分かる?」


 「ナマエ…?ナマエ…ナマエ…」


 カイ父「本当にこんなことが起きるとはな…」


 カイとホルドが会って5日。ベルデは1度宮殿にしばらくここに残ることを伝えて神龍達と生活していた。後から来たカイの番である黒竜のメアとも仲良くなり、居心地が悪い訳ではないが不安を隠すことはできなかった。


 カイ「暴走する心配は無さそうだね。」


 焦点の合わない目でナマエナマエと呟くホルドをみて少し安心したように言う。神龍達にとっても未知の現象。何が起きてもおかしくないのだ。


 「ナマエ……ベルデ?」 


 危うく聞き逃すところだった。


 「ホルド!?そうよ!ベルデよ!」


 「ベルデ…ウ…ベルデ?あれ?どうして…」


 「覚えてるのね!?覚えてるのね!?ホルドォ…フグッ…ウゥ…」


 泣きながら抱きついてきたベルデを、造られた魂の無い竜とは思えないほど穏やかで優しい表情で受け止め、カイ達のほうを見る。


 「でも…どうして…?」


 カイ「どこまで覚えてる?」


 「カイに抱きついたところまで」


 カイ「うん。そこで君の中にあった僕の魂は僕に還った。それから5日経って君は目覚めたんだ。」


 「それって…僕はただの記憶があるだけってこと?」


 カイ母「そう思えるなら違います。私たちの仮説はおおかた間違っていなかったようですね。」


 カイ父「それに魂の、心の無い者が泣きつく番に対してそんなに優しい顔をすることは無かろう。」


 ホルド「でもなんで…僕の魂は無くなったんじゃ…?」


 カイ母「ここからは推測になりますが…あなたにカイの魂の欠片が宿ったこと自体奇跡のようなものなのですが、それでは不十分だったのでしょう。恐らくあなたが成長するにつれ魂の欠片も成長したのです。それも独自に。核はカイの魂なので、カイと触れたことでその欠片はカイに還りましたがどういう訳かその周りにあった、成長したものは消えずに残ったのです。」


 カイ「僕は盗られた目の代わりに心眼を使えるんだ。それで気や命の流れ、魂も見ることができるんだけど、ホルドの気は僕とほとんど同じ。でも魂は全くの別物だ。」


 「じゃあ僕は…」


 「普通と生まれ方は違うし、僕とそっくりだけど、君は贋作じゃない。ホルドはホルドの本物なんだ。姿が似てて魂が違うなら兄弟みたいなもんさ。」


 「そう…なんだ…」


 カイ母「そういえばホルドには名乗っていませんでしたね。私はヴァイス、夫はアルブスです。でも最初のように親と呼んでくれて良いですよ?カイから生まれたのであればあなたにも私達の血が流れている。カイの言う通り2匹目の息子に等しいのですから。」


 そしてヴァイスは意図せず創られた哀れな竜をそっと抱き締めると


 「お帰りなさい、ホルド。」


 「うぅ…お母さん…」


 「辛かったでしょう。ゆっくりお休み。」


 アルブス「お前にとっては魂の一部を引っこ抜かれたようなものだからな。話はまた明日にしよう。」


 翌日、カイの番、メアとも会い話はホルドの里へ。


 カイ「僕はあの後川に捨てられて意識も無くなったから君の里の場所が分からないんだ。あ、いや、復讐じゃなくて、…まぁ絶対にとは言えないけど…その里にある術を消し去りたいんだ。また君の二の舞が起きないようにね。それに君のように魂が宿ったのはまさに奇跡。次同じことをすれば今度こそ心の無い傀儡になるかもしれない。それは防がないと。」


 そしてメアとベルデは置いて4匹の神龍達はホルドの案内でその里へと向かった。メアは留守番、ベルデは1度宮殿に戻って報告してからメアと留守番になる。


 メア「ベルデはホルド君のどこに惹かれたの?」


 ベルデ「優しいところかな。それに…なんかね、出会ってすぐの時はちょっと暗くて、すごく傷ついてて、でも時々笑ってくれるのがすごく嬉しかった。だからもっと笑っているところをみたいなーって。」


 「そう…あなたは見かけ以上の美しさを持っているのね…」


 「メアさんは?何故カイさんと?」


 「私、黒龍でしょ?本当なら神龍と対立するような種族なんだけど、なんと言うか…今思えば一目惚れね。彼が傷だらけで川に流されているのをみたら助けなきゃって思ったの。彼も私を嫌うことなく委ねてくれた。優しいところはカイもホルド君も同じね。」


 「帰って…来ますよね…?」


 「神龍が4匹もいるのよ。すぐに来るわ。」



 一行は1日かけてホルドの里の近くへ。翌日突入を控えた夜、ホルドは他の3匹に囲まれるようにして眠りにつく。ずっと求めていた両親の温もり。その夢は兄も加えてようやく実現したのだ。アルブスとヴァイスが自らの子と言ってくれたこともそうだが、カイが弟と言ってくれたことも嬉しかった。


 翌日、ついにそのときが来た。


 ホルド「ここの結界を通り抜ければ里に気づかれます。」

 

 アルブス「ならば逃げられぬよう外側に我々の結界を張っておこう。長老の居場所は分かるか?」


 「いいえ。でも強い力を持っているので感知できると思います。」


 カイ「手分けして探そう。強いのが何匹かいる。」


 そして結界を抜けて単独行動に。侵入に気づいた里の竜達が襲って来るも、大抵は触れる前に倒された。


 力を感じる辺りに見覚えの無い洞穴があったのでそこへ向かう。中をみれば赤竜がいた。


 赤竜「あら戻ったの?他の龍が襲撃に……あ、あなたは!」


 「君は…リンか。」


 かつての遊び仲間だ。同じ里にいたが20年くらい会ってない。僕の生まれなどを理解できるようになると友は徐々に離れていったのだ。リンの側には気を練っているホルドをみて怯えている2匹の仔竜が彼女に隠れるようにしてこちらを見ていた。


 「貴様ァ!」


 後ろから鮮やかな黄色の雄竜が襲いかかってくる。振り下ろされた爪を冷静に避けると空気が揺れた。中々の法力を持っているようで、感知したのはこの竜の気らしい。避けられても焦ることなく至近距離で火を吹いてくるが通力障壁で防ぎ、それをそのままぶつけると洞穴のなかに吹っ飛んでリンの目の前に倒れる。起き上がる間もなく黒い帯が黄竜を地面に縛り付けた。リンに向き直ると無表情で


 「子供ができたか。リン。」


 と言えば涙目で


 「拒絶したこと…許して欲しいとは思わない…でもせめて子供は…子供の命だけは…お願い…!」

 

 「僕が君の子供以外を殺したとして、その幼い子供はどうやって生きるんだい?」


 「それは…」


 「ここから出ないで。そうすれば危害は加えられないだろう。それと、僕の名前はホルドだ。そしてもう独りじゃない。他のみんなと一緒に遊んでくれた君に恨みはないし、君が僕を造った訳じゃないからね。」


 黄竜に目を向け


 「良いだろう?」


 と強めに言えば


 「わかった。」

 

 と言ったので去り際に術を解いた。


 そしてついに長老を見つける。ホルドを造ったタダリとチョウの弟子もいる。


 長老「生きていたとはな。この魂も心もない化け物めが。」


 ホルドが答える前に心眼を輝かせたカイが到着した。


 「久しぶりだね、長老殿()。」


 「き、貴様は…バカな…生きていただと?」


 「残念だったね。とどめを刺さなかったのがお前の失敗だ。それと、僕の弟を侮辱しないでもらえるかな?」


 「お、弟?そいつは──」


 「弟だ。優しくて優秀な弟だ。最近はとても綺麗な緑竜と番になったよ。」


 「緑竜?まさかベルデ…」


 ホルド「何故ベルデを!?」


 カイ「僕の予想は正しかったみたいだね。ベルデから話は聞いている。ベルデやその前の子供に呪いをかけたのもお前達だろう?あの国の王達の跡継ぎを無くして、王達が死んだ後国が混乱しているところを攻める作戦だろ?でもそれだと時間がかかるから最初は僕を傀儡にしようとして、出来なかったからホルドを生み出した。違うか?」


 長老「…そうだ。まさかあの優秀な2匹が命を捨てることになるとは思わなかったが、それに見合う物が出来たと思っていたのだがな…どうやら無駄になったようだ。」


 ヴァイス「私達やあの国の者達、そしてベルデには希望となりましたけどね。」


 長老「なっ…神龍が4匹…おのれ化け物めぇ!…グガッ!?」


 カイが気弾を吐き直撃する。


 カイ「さっきの話聞いてなかった?それにホルドにはホルドだけの魂がある。他の竜と何も変わらない。」


 アルブス「我々は復讐に来たのではなくお前達の禁術を消し去りに来た。降伏するなら今のうちだが?」


 長老「戯け!殺るぞ!」


 相手の数は11。神龍家族4匹には少なすぎた。


 まずヴァイスが足で地面を叩くと巨大な木の根が彼らを囲み、その木の根からはホルドの黒帯が竜達に襲いかかり拘束する。何匹か逃れたところにカイが直接攻撃をしかけ、拘束された者達はアルブスに特殊な気弾をまともに食らわされ気絶した。カイも殺すことなく、心眼で相手の気の流れを見ながら何をしようとしているのかを完全に読んで全員倒す。唯一長老の法力に少し手間取ったが、隙をみたホルドが弱めの気弾を足下に放って体勢を崩しているところをカイが気絶させ、闘いは2分程で幕を閉じるのだった。


 その後ヴァイスとアルブスが強力な封印術を使って彼らの法力を封じ、禁忌の術に関する記載がある石碑を破壊した。それ以外は特に何もしなかったが、息子を殺し、娘をも殺そうとした者達を王と女王が黙ってはいないだろう。一先ず役目を終えて家族と別れ、ベルデと一緒に宮殿に戻るとサラとレオが待っていた。


 「おぉ!2匹とも無事だったか!」


 ベルデが両親と抱き合った後、ホルドも抱かれた。


 ホルド「家族が…見つかったよ。僕は…本物になったよ…」


 肉体と精神の年齢がイマイチ一致してないのは過去に愛情を受けなかったからだろう。


 「家族ならベルデがいたじゃないか。」


 そうサラが言えば少し照れながらベルデにすり寄った。


 レオ「さて、すぐにおまえの里に行って長老とやらを捕まえてやらないとな。法力が使えぬというならさほど苦労はしないだろう。」

 

 「法力を封じられてない連中が結界を張ってるかもしれないから僕もいく。」


 「トンボ返りで悪いが頼む。」


 ベルデ「また私留守番?」


 サラ「さすがに連れてはいけないよ。帰ってきたらホルドに構ってもらいな。」


 明らかに不服そうな顔をするも反論はしない。


 その後一行はあるものを持って里へ向かう。結界を通り抜けて長を見つけると全員を集めさせた。法力を封じられた彼らは反抗できず言う通りにする。その後長老やベルデ達への呪いに関係する者を前へ出させホルドが拘束した。


 長老「何をする気だ…」


 サラ「心配しなくても殺しやしないよ。明日には解放してやる。」


 殺されないと聞いて少し安堵の空気が流れる。


 「まずはベルデの分だ。」


 その合図と共にレオが捕らえられた連中にあるもの…痛覚過敏薬をまずは1時間分飲ませた。しばらくして物凄い音量の叫び声が響き渡る。効果が切れると皆ダランとして口も聞かなかった。


 「これで終わりと思ってないだろうね?私は息子をコイツらに呪いで殺されたんだ。当然、息子の分も飲んでもらうよ?」


 そう言うとダランとしていた竜達が止めてくれ許してと懇願し始めるが当然聞き入れることなく


 「おいおい。本当なら国に連れていって死ぬまで毎日飲ませたいところをホルドが止めてって言うから今日だけにしてやったんだ。寧ろ感謝して欲しいところなんだけどねぇ。息子の命を奪っておいて許してはないだろ。」


 レオ「それにホルドはこの薬を4ヶ月間飲まされていたのだ。そのホルドの前で許しを乞うとは情けない。」


 長老「それで言いなりになったと言うわけか…グッ!」


 ホルドが拘束を強める。


 ホルド「違う。サラさん達はあなた達が決してくれることはなかった、僕の欲しかったものをくれた。ベルデのことだって、愛してるんだ。今僕は自分の意思で動いてる。化け物を敵に回して残念だったね。」


 その後、ホルドの時よりも多い量の薬を飲ませて症状が現れてから拘束を解いた後、次同じようなことをしたら今度こそ終身極刑にしてやると言い残して長居は無用と苦しむのを尻目に帰路についた。




 宮殿に戻るとベルデが出迎え、ホルドに思いっきり抱きついた。その後顔を赤らめて


 「どうだった?」


 サラ「わたしゃまだ物足りないがね…まぁやり過ぎて逆恨みでも買っちゃ困るし、どんなにやってもバンは帰ってこない。それを考えればあのくらいでちょうど良いだろう。」


 レオ「さぁ、ホルドも疲れたろう?しばらくゆっくり休むがいい。もう少ししたらしばらくの間森で暮らしてもらうことにしよう。」


 そしてベルデとホルドは部屋へ戻る。眠りにつく前にベルデが甘えてきたので、ホルドはそれに応えながら思慮に更けった。


 (僕が普通の竜に産まれていればこんなに苦しむことはなかった。)


 そっとベルデの肩を甘噛みしながら


 (僕が里の傀儡としてサラさん達を殺しに行ったせいで僕はあんな苦痛を味わった。)


 抱き合い、深い口づけを交わす。


 (でもベルデと出逢うこともなかった。)


 離れて額をつけながら


 (運命って不思議だな。)


 「ベルデ…」


 「ん?」


 「生きてて良かったって、今ならそう思えるよ。」


 「うん…」


 彼女は僕をどん底から救ってくれた。これからはもっと僕がしっかりしないと。


 「ベルデ…」

 

 「ホルド…」


 ──愛してる──


 言葉にしなくても、テレパシーを使わなくても合わせた目がそう言っていた。


 いかにも幸せそうな顔で寄り添って眠る2匹。しかし、もうしばらく先に更なる幸せが訪れることを彼らは知るよしもない。




          『造られた竜』完結

ここまでお読みいただきありがとうございました。


 以下名前の由来です。



[[rb:hold > ホルド]]:ハンガリー語で「月(moon)」

[[rb:verde> ベルデ]]:スペイン語で「緑」

[[rb:Weiß > ヴァイス]]:ドイツ語で「白」

[[rb:albus> アルブス]]:ラテン語で「白」


 後は適当です。

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