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7 NPCの少女を助けろ

「……ッ! ……ッ!」


 口が塞がれた金髪少女――ミアは恐怖で整った顔を歪ませながら必死に抵抗を試みたが、複数の大男に叶うわけもなくそのまま肩に担げられた。


「待ちなさい!」


 姉さんはあっさりと不可視の球体インビジビリティ・スフィアを解いて飛び出した。


「はぁ……」


 正直面倒事は御免だし大男の実力もよく知らないからできれば隠れたままミアを助けたいが、姉さんがもう飛び出したからあれこれ考えるのも無駄か。

 俺は仕方なく姉さんの後についた。


「だ、誰だ!」


 人がいるとは思わなかったのだろう、リーダー格の大男が誰何してきた。


「――ッ!」


 突如に現れた姉さんを、ミアは希望の綱が見つかったような表情で見ていた。


「ミアちゃんを離しなさい! 大事なチュートリアルNPCなのよ、何考えてんの!」

「そこなのかよ……」

「可愛いだけじゃなく少しポンコツで、垢抜けた美貌と村娘設定のギャップが多くのプレイヤーに愛され、たくさんの二次創作を生み出した人気投票上位常連のミアちゃんなんですよ! 彼女を攫うなんて見過ごせないわ!」

「まあ最後だけは同意だけど」

「何言ってんだこいつら……」


 リーダー格の大男が何かやばいものを見ているような目つきで俺たちを見据える。その気持ちは分かる。

 その横の子分が嘲笑を漏らした。


「訳わかんねぇこと言いやがって、キ○○○じゃねぇ?」


 おっと放送コードに引っかかるような発言来た!

 やはりここは現実なんだなと改めて思った。


「なあ頭、あの女」

「ああすげぇ上玉だ。しかも冒険者と来たらいつどこで消えても誰も気にはしねぇ。おい」


 リーダー格が顎を動かすと、子分の一人が姉さんと腕を掴んできた。


「へへへ、俺たちについて来いよ姉ちゃん、なに痛くはしねぇぞ、俺たちがたっぷりと楽しんでから――」

「ちょっと、何触ってるのよ!」


 姉さんが男の手を振り解くと、


「え?」

「あ?」


 ドス。


 二階ほどの高さまで飛んだ――いや飛ばされた男は、そのまま落下して鈍い墜落音を立てた。

 あれ、手と足が変な方向に曲がってるぞ、やばくない?


「ぎゃあああああああ゛あ゛あ゛あ゛!」


 折れた骨が腕からはみだし、耳を塞ぎたくなるような汚い悲鳴を上げる男。

 それを聞いて、「あ、まだ生きてるんだ……」と思わずほっとした。


「チッ! お前ら、やれ!」


 リーダー格に命じられ、三人の子分がそれぞれナイフ、鉈みたいな刃物を取り出して、姉さんに向かって構えた。


「へへへ……なんの小細工を使ったか知らねぇが、ただの手品師(マジシャン)が三人に勝てるわけないだろう!」

「ちょ、あんた達やめなさいよ!」

「うるせい! おとなしく捕まってろ!」


 地に転ぶ男の惨状に動揺してるのか、姉さんはろくに抵抗せず男たちに捕まった。


「姉さんに触れるな!」


 一拍子遅れて駆け付けた俺は男に体当たりした。


「なんだこの小僧が、う、うおお!?」


 不意を突いたのか、筋骨隆々に見える大男は俺の体当たり食らって数歩よろめいた。


「この野郎!」

「ぐっ!」


 しかしそれはかえって奴を怒らせたようで、俺に向かってナイフを突き出して来る。

 戦闘経験がなくただの素人である俺が避けられるはずもなく、咄嗟に上げた腕にナイフがブスっと刺しこんだ。

 鋭い痛みが走ったが、俺は歯を食いしばってその場に踏み止まった。


「イツキに何をするの!」


 瞬間。

 姉さんに掴まっていた男たちは周りに放射状に倒れて、俺を刺した男は姉さんに数メートルも突き飛ばされて派手に壁にぶつかった。

 ぐちゃっ、となんか嫌な音がしたけど、たぶん生きていると思う、ていうかお願い生きて。


「イツキ大丈夫!? やだ血出てるじゃない!」

「だ、大丈夫だ、そんな深く刺さらなかったみたい。それより姉さん、あいつが逃げたぞ!」


 俺たちが子分とドタバタしている間に、リーダー格がこっそりとミアを担いで逃げ出した。

 まずい、ここで逃したら何のために出てきたんだ!


「でもイツキの怪我が!」

「俺なら大丈夫だ! ほら行くよ!」


 俺は腕を庇って走り出した。

 しかしここはもともと入り組んだ迷路のような小路で、俺たちの出だしが遅かったのもあって、ミアを担いでる男は数歩もしないうちに横道に逃げ込んで、これ以上追うのは不可能――


「お姉ちゃんに任せて! 生者探索ディテクト・リーヴィング! ――見つかった、あっちね!」

「ちょ、早い!」


 恐らく何らかの魔法で奴を見つけたのだろう、姉さんは数ある岐路の一つに迷いもなく飛び込んだ。

 そのスピードは凄まじく、側で見ていた俺ですら辛うじて姉さんが引き起こした旋風を感じるくらいでその姿を捉えることはできなかった。


「ほら捕まった! 大人しくミアちゃんを離しなさい!」

「何なんだよお前は!」

「大人しくするつもりはないわね? なら、えっと、こうだ!」

「おわああああああああ!」


 俺が駆けついた時、姉さんは既にミアを確保して、リーダー格の男を遠く投げた。

 流石に学習したか、今度はあまり高く飛ばせずただ遠くに投げ飛ばした感じだった。これならあまり酷い怪我にならないだろう。


 だが、それがまずかった。


「うわ! いきなり人が!」

「どうしたどうした喧嘩か!」

「衛兵! 衛兵!」


 男が投げ飛ばされた方向から人々の騒めきと慌ただしい足音が聞こえてきた。

 しまった、あっちは大通りだったのか!


「ちょ、ちょっとイツキ、これはまずいじゃないかしら?」

「姉さん、はやくタナトスさんを――」


 しかし俺の言葉よりも早く。


「おい! そこで何をしている!」


 鎧を纏う兵士が目敏く俺たちを見つけた。

 いや目敏くも何もない、人間一人が路地から派手に吹き飛ばされたらそりゃ何があったか気になるのが当然なのだろう。

 ただそこに数人の衛兵がいたのが運の尽きだ。


「君たち、どういうわけか知らないが付いてきて貰うぞ」


 城壁の外にいた兵士よりも大分穏やかな声色だったが、衛兵が俺たちに近づいてくる。

 野次馬もどんどん集まってきて、声が段々大きくなっている。


「なにあれ、冒険者? なんか手品師みたい服着ているよ?」

「おい女の子を抱えてるぞ」

「人攫い? やだ物騒わね」

「あれ、あの子……」


 人々が囁き交している中、俺は素早く状況を把握しとうとした。

 姉さんと俺は既に目撃されている、今タナトスを呼び出しても意味がないし、骸骨の外見が騒ぎを起こすに違いない。

 ミアに俺たちの潔白を証明して貰おうか?

 しかしミアはリーダー格の男に気絶させたようで、目を閉じてぐったりと姉さんの腕に倒れこんでいる。

 このまま衛兵についていくか?

 この時代の司法は期待できないし、何より姉さんの正体が見破られたらまずい。そしてもしそこに強い人が居たら逃げることすら叶わなくなる。

 そう考えて、俺を意を決して口を開いた。


「まず知っておいて欲しい、俺たちはこの娘がそこの男に攫われそうなところに偶然通りかかったから手を出したに過ぎない」

「分かった。しかしたとえそうだとしても君たちには説明する義務がある、一緒に来て貰うか?」


 温厚そうな目つきをしている衛兵が警戒しながら一歩近づいた。


「ああ、じゃこの娘のことを頼んでいいか? 怪我はないけど気絶しているみたい」

「勿論だ、この娘にも事情を聴かねばならないしな。こっちの詰め所で休ませよう」


 俺は姉さんからミアを受け取って、衛兵に渡した。

 こんな時なんだが、ミアって結構着痩せするタイプだな……。


「ありがとう、じゃしっかり頼むよ――姉さん、逃げるぞ!」

「がってん!」


 俺の腕を引いて、姉さんは少しだけ本気で――本当の本気なら恐らく俺の腕が耐えられないから――路地の奥へと走り出した。


「ちっ、待て!」


 衛兵たちもすぐ追ってくるが、姉さんの速度に追いつけない。

 予想通り、ここの衛兵は姉さんよりだいぶ弱いらしい。


 俺たちはすんなりと衛兵をまいて、タナトスさんを呼び出して不可視の球体インビジビリティ・スフィアで来る時と同じように飛び立った。


「はぁ、災難だったな」

「ミアちゃん大丈夫かな?」

「どう見ても被害者だし、あの衛兵に任せていいだろう。悪い人じゃなさそうだしね」


 龍の翼を生やした姉さんに抱えられて、俺は走り回って俺たちを探している衛兵たちを俯瞰する。

 不可視になっている俺たちに気づくことなく、彼らはやがて諦めたのか、リーダー格の男とミアを連れて帰った。

 そんな《始まりの城》の人々を置き去りにして、俺たちは遠く飛んで行った。




ブクマ、評価有難う御座います!


今話でようやくお姉ちゃんの強さの片鱗を見せることが出来ましたが、まだまだこれからです!

どうぞお楽しみください!

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