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キチガイ、起きる


「おにいちゃん! おにいちゃん!」

「んんー……?」


意識が徐々に目覚め始める。

閉じられていた視界が、振動によって見開かれていく。


「おにーちゃん! 起きて! 早くしないと、キチガイ学園に遅刻しちゃうよ!」

「……き、キチガイ?」


薄らぼんやりとした視界の先には、なぜ、どうして、二次元のように顔の整った幼い容姿の可愛い子がいた。

茶髪で、ツーサイドアップで、目がくりりと大きく、幼稚園児くらいの子供が、俺に覆い被さり、布団を揺り動かしていた。


「……ていうか、だ、だれ?」

「もー、おにいちゃんったら! 妹のこと、忘れないでよね!」


怒ったように頬を膨らまし上目がちに睨まれる。

両頬が、桜の花びらのように染まっている。

これが俺の妹か? と思うほどの別人ぷり。

いや、そもそも、俺に妹なんていただろうか?

……待てよ。


ガバ!


「ひゃうっ!」


俺は思いきり起き上がるとまたがってる妹の青いワンピースをガバっとめくり上げた。

露わになるオアシス。

……違うか。

俺はそれをゆっくりと戻した。

と同時に見え行く自称妹の真っ赤な顔。

先ほどとは比べものにならない殺気の孕んだ刺すようなにらみ。


「ご、ごむぇん!」


俺はハッと我に返り、自分のしてしまった過ちを悔いた。


「も、も、もー! おにいちゃんのバカバカバカー!」


真っ赤な顔をさらに赤く染め、俺の胸をポカポカとたたき込んでくる。

痛くはないが、相当いやだったのか、自称妹の目には涙が溜まっていた。

……ていうか、だれ?


「ご、ごめん」


俺は他人行儀に言って、情などないかのように、冷静沈着にベッドから降りた。

ベッドの上では涙を拭う自称妹。

俺はそれを横目に、まったく見覚えのない部屋を見回しながら、廊下に出て階下へと下りていった。


「あらフニャフニャフニャ、遅いじゃない。なに、寝坊でもしたのー?」

「フニャフニャ?」


リビングには朝食の芳しい香りが漂い、テーブルで新聞を読んでいた見目麗しい茶髪長髪の薄化粧美人さんがいた。新聞から顔を出し、俺に向かってそう言って来た。

また聞き慣れない単語が出てきて、俺は咄嗟に聞き返していた。


「なに自分の名前を言い返してんのよ」

「自分の名前?」


俺が言うと、景色が一瞬真っ青になり、空間が凍結されたように時間が止まった。そして頭の中に突然、自分の名前が浮かび上がった。

俺の名前……そうだ、俺の名前は鎌田ガクだ。

と、俺の名前を認識した瞬間、真っ青だった空間は何事もなかったように元に戻り、時が流れ出した。


「な、なんだ今の……?」


ゾクっと背筋が寒くなる。俺は悪霊かなにかに取り憑かれているのだろうか?

と、キッチンからこれまた美人に輪をかけたような綺麗な女性が、エプロン姿で現れた。

すらっとした流麗な足がエプロンの端から覗く。


「ガクちゃん、おはよう! あら? カノちゃんは一緒じゃないの?」

「カノちゃん?」


カノちゃんって、もしかして俺を起こしに来た自称妹のことだろうか?

やべ、泣かせたまま置いてきちまった。

というか、この人たちは誰なのだろうか?

見たところ、母親と姉、という感じだが……。


「ちょっと様子を見てくるわね」

「母さん、アタシが連れてくるから大丈夫よ」

「そう? じゃあお願いね、アノ」


言って、アノという新聞を読んでいた女性は、新聞紙を椅子の脇に置くと、カノという妹を呼びに行ってしまった。


「あの……すいません」

「ん?」


俺は朝の支度をしている母さんと呼ばれた女性に問いかけていた。


「ここ……どこですか?」

「え?」


俺が聞くと、母さんと呼ばれた女性はみるみる血相を変えていく。

そして目に涙を溜め、一目散にたゆんたゆんと胸を揺らして駆け寄ってきた。


「ガクちゃん、どうしちゃったの? 熱でもあるの?」


手を両手で握られ、心配そうに尋ねられる。


「え? いやー、なさそうです」


空いていた手で額を触るが、特に熱くはない。

間近で見ると、そのインパクトに俺の存在が霞み消え入りそうになる。

いや、消えた。


「そう、良かったわ……。ごめんなさい、あなたたちに苦労を抱えさせてしまって。この時期に転校なんて、不安になるのも当たり前よね……」


涙ぐみながら言われ、唐突に強く抱き寄せられる。


「あだだだだだだだだだだだ!」


く、ぐるじい……! というか、ちょっと痛い!

胸の弾力がハンパじゃなかった。


「かあさーん。連れてきたわよー……って、なにしてんのよっ」


その声に慌てて顔を離すと、先ほどのアノと、涙を拭いながら連れられて歩いてくるカノの姿があった。


「ごめんなさいね、あなたたちにも苦労をかけさせてしまって……」

「ちょ、かあさん! もうその話はいいから!」


涙ぐみながら二人を抱きしめる母親と、嫌がる姉、そして甘える妹。

その光景を見て、俺、場違いじゃね? と思う鎌田ガク16歳であった。




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