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異世界転生してもワーカホリックが治らない  作者: 伯耆富士
やってきました異世界へ
9/43

進軍開始。やっぱり俺たちはチートキャラ。

マリーさんを眷属にしてから数日後、やっと公爵軍が動いた。公爵様は本気で伯爵をつぶす気でいるらしく、可能な限りの戦力を用意したみたいだ。魔物の軍勢を従えているという話だし、慎重にもなるだろう。しかし、そのおかげでシスティのお母さんが売られたとわかってから結構立ってしまった。仕方ないことだが、システィはここ数日はなにもする気が起きずに宿で大人しくしていた。仕方ないだろう。心配でしかたないはずだ。

一方、俺はというと…それなりに忙しくいていた。宿の奥さんにミンチ機をプレゼントしてハンバーグの作り方を教え、工房のおやっさんの仕事を手伝ったり、孤児院で手伝いをしたりしていた。いやもう認めるけどね、何かしてないと落ち着かないんですよ。バイトをいくつも掛け持ちしていた生活が長すぎてた弊害ですよ。この歳にして完全にワーカホリックですかね。いやきっとそのうちのんびりした生活にも慣れるさ。

こっちでは無理に働く必要もないし、ハンバーガー屋の話も少しずつ進めている。宿屋の奥さんに相談したらとても乗り気だった。銀行はあるらしい。しかしそこまで大きな規模でないらしく、地方ごとにしかないらしく、世界中どこでも金がおろせるという状況ではないらしい。俺がどれだけ広く旅するかはわからないが、その辺の問題解消はしなくてはならないだろう。

なんて呑気に今後の展開について考えてる場合じゃないだろうと思われるかもしれないが、これにはわけがある。


「おっそいなぁ…」


公爵軍の進軍速度がとにかく遅いのだ。進軍を開始したと聞いてから準備を始めたので半日ほど差があったはずなのだな、俺とシスティはあっさり追いついた。瞬動は使ってない。今は俺とシスティなら見えるくらいの距離の丘の上から軍勢を眺めている。


「数千人規模の軍勢ですからね…」


公爵軍は思っていた以上の規模だった。魔物の軍勢というのはそれほどまでに脅威だということなのだろう。まだ1匹しか見たことないからなんとも言えないのだが。


「しかしなぁ…これだけ遅いとあと2日はかかるぞ?」


伯爵領はあらかじめマップで確認してある。リリルカの町からそう離れてはいない。のだが、進軍速度が遅すぎて倍近い時間がかかりそうだ。


「でもまぁ、やっぱり正解ですよねこの人数は」


システィが俺のマップを横から見ながらため息まじりにそう言った。というのも、マップに魔物を表示して見たのだが、マップが埋め尽くされるほど魔物がいるのだ。一体どこにこれだけいるのかと思ったが、どうやらかなり広い地下空間に集められているようだ。町と同規模の地下空間って広すぎだろう。なぜそんなものがあるのか謎だ。もしかしてこのために作ったのだろうか。だとしたら用意周到なことだ。


「どう思う?公爵軍はこの魔物の群れ相手に勝てるかな?」

「公爵軍ともなればかなりの手練れが何人かはいるはずですから、負けることはないでしょうが…かなりの犠牲は出るでしょうね」


システィに言われたので遠見スキルで公爵軍を見てステータスを確認すると、確かに強い人がいる。なんと将軍は筋力が100もある。うん、100もだ。ここ数日で確認した中では群を抜いている。俺とシスティはこの際考えないように話すんでよろしく。

他にも魔族で魔力が100の人や、猫耳族で素早さが100の人もいる。猫耳族ってなってるけどあれはチーターの獣人かな。猫だけど大雑把な気もする。

今気づいたけど高いステータスの人はみんな100ちょうどで止まってるな。それ以上成長するには何か壁のようなものを超えないといけないのかな。たぶん称号なんかが関わってくるのだと思う。

これも最近気づいたことだが、俺は称号はスキルをまとめたもよだと思っていたが、それだけではなかった。役職や地位、成し遂げたことなどでも称号が手に入るらしい。実際将軍も『リリルカの将軍』という称号を持っている。俺が持っている称号はあくまでスキル関係のものなんだろう。スキルは持っているが称号は全部持ってはいないってことだ。まぁ確かに俺が将軍みたいな称号を持ってるのは明らかにおかしいからな。

ちなみにそういった称号にも恩恵がある。まだそれだけかは知らないが、俺が確認できた恩恵はステータスの上限解放や特定のステータスが伸びやすいといった恩恵だ。

俺の場合はたぶん種族的にステータス上限がほぼない状況で、システィの場合は職業が称号の効果を果たしているのだと思う。

しかし公爵軍の将軍の称号を得ても上限が100なのか…考えるのはよそう。


「確かに将軍たちが負けることはなさそうだな。魔物はそこまで強いのはいないみたいだし」


一方マップでも魔物の強い個体を確認してみたが、どれも最高で50程度までしかいない。

この近くにはそれくらいの魔物しかいないのか、それともそれくらいの魔物しか操れないのかは知らないが、これなら将軍クラスの人たちの敵ではなさそう。ただ問題があるとすれば、そのレベルの魔物の数が100を越えることかな…


「システィの言う通り、被害は甚大なものになりそうだな…」


兵士の中にはパワーアップ前のシスティより弱い兵士も大勢いる。というかそれが大半だ。システィが強い方というのは本当だったみたい。これだと普通の魔物相手ならどうにかなるが、強い魔物の相手は5人がかりでも厳しいかもしれない。

戦闘訓練は積んでいるだろうから、ステータス以上に戦えはするはずだが、確実に怪我人…いや、死人は出るな。彼らもそれは覚悟してのことだろうが…なんだかなぁ。


「やっぱり生きる死ぬって話は慣れてないなぁ…」


目に見えてる人が死ぬかもしれない状況なんて考えたこともなかった。地球の中でもかなり平和な日本で暮らしていたのだから当たり前なんだけど。


「システィは平気?」

「平気、ではありませんね…私も母と2人で自分たちのことだけで精一杯な生活をしていたので、他人の死というものには慣れていません。でも、あの兵士たちが死ぬと言われても、納得はできてしまいます」


やっぱり生まれた世界の違いだね。俺よりは生き死にのかかった戦いというものには慣れてるみたい。


「…なぁシスティ。俺やシスティはこの魔物たち相手にしても特に問題ないよな?」

「そうですね。下手したら怪我すらしない可能性まであります」

「だよな……ごめんシスティ、やっぱり俺は見過ごせそうにないわ」

「いえ、私も同じです。無駄に死人を出すくらいなら、自分たちがやった方がはるかにいいでしょう」


具体的なことは何も言っていないが、システィは俺の考えてることをちゃんと理解してくれたみたい。ようは俺たちで全部は無理でもなるべく魔物の数を減らしに行こうという提案だったのだが、システィも賛成してくれたってことでいいんだよな。


「待ってるのもそろそろ飽きたし…行きますか」

「はい、お伴します」


その場から俺たちは伯爵領に向けて走り始めた。

こちらに来てからの初のまともな戦闘になりそうだ。地下にいるなら目撃者もでないだろう。

誰かに見つかる前に、いっちょやりますか。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「うはぁ…実際見るとすげぇな…」

「私もこれだけの数の魔物は初めて見ました…」


たぶん常人には信じられないスピードで伯爵領に着いた俺たちは、マップで見つけていた地下への入り口からすでに地下空間に侵入していた。入ってちょっと進んだらいるわいるわ。ゴブリンやらオークやら猪っぽい魔物やら熊みたいな魔物やら狼みたいな魔物やらあげたらキリのないくらい多種多様な魔物がこれでもかというくらい地下空間に存在している。


「覚悟はいいかシスティ。正直ステータス差があるとしても俺はめちゃくちゃ怖いんだが」

「私もですよ…大丈夫なんだろうと思っていても怖いものは怖いです」

「だよなぁ…でもまぁやるっきゃないか。俺が魔法で数を減らすから、それを合図に突撃な」

「了解しました…」


やや緊張気味に槍を構えるシスティ。俺はあまり派手な魔法を食らうと地下空間が崩れかねないので爆発系や土に影響を与えそうな水系の魔法ではなく、当たると周りにも電波するという雷系の中級魔法のエレキショックの起動準備にとりかかる。数が多いので少し多めに10個ほど自分の周りに電気の球を生み出す。

普通は魔法って一度に一個らしいのだが、並列詠唱というスキルを持っていれば自分のMPが許す限り魔法を同時に発動できるものだ。ちなみに俺はエレキショックなら消費MPは50なので200個まで…いや猪を倒してレベルアップしたから202個まで同時に放てる。

なんでもいいが、最初はコストがいいなとか思ってたが、この世界の魔法はコストが結構悪いな。確かパワーアップ前のシスティのMPは400程度だ。つまりはエレキショックを8発しか撃てない計算だ。もともと魔法は得意じゃないと言っていたけど、今のシスティでさえ40発が限界だと考えると、そんなに乱発できるものじゃないのは間違っていないと思う。

魔法ばかりで戦闘する奴ってのはいないのかね。もしくは俺ほどではないにしろ自動回復能力ってのがそこまで貴重な能力でもないってことかな。

というか、俺レベル1しか上がってないのにMP100は上がりすぎな。引くわ。


「って今考えることじゃないか。いくぞ、システィ」

「はい!」


システィの気合の入った声を合図に俺は電気の球を発射する。

魔物の群れの先頭の集団に当たった瞬間、バリッという音が一瞬鳴り響き、俺とシスティは固まってしまった。


「……終わった、か?」

「えっと、そのようで…」


この地下空間の最初の場所は一片が100メートルほどの正方形の形をした部屋だったのだが…そこにいる魔物全てにエレキショックは感電したらしく、今現在立っている魔物は1匹もいなかった。


「エレキショック強いな!」

「いえ、ご主人様が規格外なだけかと…」


ですよね。そういや初歩の初歩の魔法で全回復させたり岩を消滅させたりできるんだから、中級魔法使ったらこうなるか…あ、いや違うぞ。ヨロヨロと奥の方にいる魔物が起き上がってきた。


「全部は死んでなかったか。ダメージは入ったみたいだけど」

「私の仕事がなくなったかと思いました…残りはお任せください!」


システィが目の前から消えたかと思うほどのスピードで残りの敵に向かってかけて行く。自由自在に魔槍を操り次々と魔物をほふっていく。中にはさっき確認した強めの魔物もあるのだが、どれもシスティの攻撃を避けることもできずにいる。

約2分ほどで残っていた魔物は全てシスティの槍の餌食となった。


「システィも俺のことなんも言えないくらいにはやばいな」

「ええ、自分でも驚いております…」


2人とも無傷どころか息も切らさずに大量の魔物を倒してしまった。これで全てではないけどさ。


「なんか…思ったより楽な仕事だなぁ」

「今ので完全に恐怖心はなくなりましたね」


確かに、全く怖くないわ。ここにいる魔物は俺とシスティなら片手間で全滅できそう。


「…どうしようか」

「…兵士が死なないレベルの魔物くらいは残しておきます?」

「そうだな…そうしないと数千人を動かしたことが全くの無駄に終わる可能性がでるからな…」


その後、俺とシスティは能力値の高い魔物を中心に減らしすぎない程度に魔物を倒して行った。2人ともレベルアップしてると思うがステータスボードは見なかった。これ以上強くなってどうするんだって感じだから…


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「あ、ご主人様、公爵軍到着しましたよ」

「お、やっときたか」


俺とシスティは伯爵領近くで野営中である。今は手に入れた食べられるという魔物の肉を焼いてみている。ちょっと食べたがなかなかに美味い。これからはこれが主食かな。大量にあるし、アイテムボックスに入れておけば腐らないからね。

ちなみに魔物の数は三分の一くらいにしておいた。これくらいなら公爵軍も苦労はしないだろう。


「伯爵の方は動きがあるか?」

「ええ、さすがに動きましたね。軍は完全武装してます。数は公爵軍ほど多くはないですが…きっと魔物を使えるという慢心でしょう。あの数なら公爵軍と当たればひとたまりもないかと」

「よし、じゃあこれ食べたらシスティのお母さん助けだしますか」


2人して余裕をぶっこいて普通に食事を始める。システィのお母さんの居場所はすでに判明している。城の最上階の部屋だ。奴隷とは思えない扱いだ。これなら酷いことにもなってないだろうと一安心している。


「これは…いいですね、レッドウルフの肉」

「俺は猪の肉が好きだなぁ」


本当にのんびり食事してたら、すでに戦闘が開始されていた。って町中でやんのかよ。一般市民に被害が出るだろ…大丈夫なんだろうか?


「戦争ってのは関係ない人が傷つくものなんだな…胸糞悪い」

「そうですね…ないに越したことはないですね」


今度からこういうことがあるなら始まる前に潰しておくか…主に俺の精神安定のために。


「じゃあ俺たちも動きますか」

「ええ…そろそろ慣れましたが、あそこまで屋根伝いに登っていける私たちってなんなんでしょうね」

「言うな。俺もおかしいと思う」


城はそこそこな高さを誇っているのだが、俺たちは余裕でジャンプして最上階の窓までいける。なので中から登って行かずに窓から侵入してとっとと助け出してしまおうと思う。

ひょいひょい登って目的の窓まで到達する。中を覗くと1人の女性が椅子に座っていた。

おお、本当に羽と角がある。なるほど、確かにシスティとは違うな。顔はそっくりだけど。ていうか若いな…システィの姉だと言われても信じてしまう。


「母さん…!」

「え…?システィーナ!?」


俺がそんな感想を抱いていると、システィは久しぶりに見た母親に感極まり、泣きながら窓から侵入していく。その瞬間、何かの魔法が発動した感覚があったが、特になにも起こったようにはみえない。なんだったんだろうか。


「あなた、生きていたのね…!」

「母さんこそよくぞご無事で…!」


抱き合いながら2人は互いの無事を確かめ合う。うんうん、いい光景だねぇ…


「というか、どうやって窓から…?それと、そちらの方は?」

「こちらは、私が今仕えてる方です。色々と話さないといけないことがあるのですが、とりあえずここから逃げましょう。話はそれからです…」


システィがそう言い終わるか終わらないかの瞬間に、部屋の扉がバンッと開け放たれた。そこにはガタイのいい男と、なんかひょろっとしたおっさんが立っていた。


「侵入者の反応があったからまさかと思い来てみたが…本当にネズミが入り込んでいたとは!」


反応?ああ、さっきの魔法が発動した感覚は侵入者を感知するものだったのか…しまったな、まさか窓にまでそんなものを仕掛けていたとは。もうちょっとちゃんと確認しとけばよかった。


「公爵の手のものだな?ようやく手に入れた龍人族ドラゴニュートの女なんだ!そう簡単に渡してなるものか!やれ!」

「まかせてくだせぇ伯爵様。こんな小娘一捻りにしてやりますよ」


あ、こいつ伯爵本人だったのか。うーん、まだ自分の能力を使いこなせないなぁ。即座に相手が誰か判断できるようにしとこうかな。

伯爵に命令された男は、かなりの巨体で冗談でなくシスティの2倍はある。小巨人族らしい。なんだ小巨人族って。中途半端なやつだな。


「小娘、なかなか可愛いじゃねぇか。俺が可愛がってやるよ」


下品な笑みを浮かべながらシスティに手を伸ばす中途半端野郎。俺が余裕ぶっこいてるからわかると思うが、今危険なのはどちらかと言えば中途半端野郎の方である。


「汚い手で…」

「おう?」

「私の体に触れるな!」

「ほぎぃ…?!」


システィの正拳突きを腹に受け、悲鳴なのかなんなのかわからない奇声をあげながら壁まで吹っ飛ばされ壁にめり込み、そのまま動かなくなった。死んではないみたい。頑丈なやつだな。


「な、な…!?」

「し、システィーナ…?」

「まったく、私の体に触れていい男性は今やご主人様だけです」

「やめてシスティお母さんの前だよ?」


そう思ってくれるのは嬉しいんだけどなんか違う気がするだそのセリフ。お母さんも伯爵も驚きすぎて聞こえてないみたいだけど。


「とりあえず、ここから逃げよう。システィのお母さんも、訳がわからないと思いますけどついて来てもらえます?」

「え、ええ…わかりました」


ここにいると話が進みそうにない。とにかく一度外に…


その時、耳に気味の悪い声が聞こえて来た。


「いけませんねぇ…その龍人族の女性は計画に必要なんですよねぇ…」

「え?」


いつのまにか、部屋の中央に声と同じで気味の悪い格好をした男が浮いていた。今までマップにも写ってなかった。


「が、ガラティナ様…!?」


伯爵はその姿を見た瞬間顔が真っ青になっていた。


「伯爵、あなたへのお仕置きは後ですねぇ。まずは、ネズミの始末が先ですねぇ。私に手間を取らせないで欲しいですねぇ…」


そう言ってその男は俺に向かって黒いレーザーのような攻撃を放って来た……

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