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異世界転生してもワーカホリックが治らない  作者: 伯耆富士
やってきました異世界へ
8/43

俺は悪くねぇ!スキルが勝手にやったんだ…

「では、ハクト様は神の子ではあるけど別に偉い方ではない、とおっしゃるのですね?」

「ええ、別に世界の管理とか人々に恩恵とか与えたりしてないですし…」

「眷属様はどうやって眷属になられたんですか?」

「いや、私にもわからなくて…助けていただいたらいつのまにか、みたいな…」


教会の一室で俺とシスティはマリーさんをはじめとするシスターたちにしつもんぜめされていた。うん、結局逃げられなかったんだよね。

システィが工房に飛び込んできたあと、どこに逃げようかとマップを開いてみて驚いた。町のいたるところにシスターさんたちがいた。それこそ本当に逃げ道がないくらい。どうやら俺たちの目撃情報を手に入れて、全力で探していたらしい。暇すぎないかな。他にやることあるでしょう。ケンミミハナが一緒にいたため町の外に逃げるわけにもいかず、諦めて自分たちから出向くことにした。

色々と質問されるが、本当にただのすごい人ってだけの俺とシスティは大変困っていた。神の国はどんなところかとか聞かれても知らないし。助けて神様。


「本当になにも知らないのですか?」

「ご期待に添えず申し訳ないのですが、なにぶん神様歴が短いもので…」

「私もご主人様に出会ったのはつい最近でして…」


そうだよなー、現人神とはいえ神様がいるってなったらきっと何か大きなことを成そうとしているとな思っちゃうよなー。本当に申し訳無いのだけど、俺とシスティはただただ気ままに旅をするつもりしかない…


「神様にもいろいろあるのですね…」


なるほど、みたいになんかシスターの人たちは納得している。がっかりしている様子がないのでちょっとホッとしている。本当にただ俺たちの話が聞きたかっただけみたい。


「でもでも、神様っていうくらいだからなにかすごいことはできるんですよね!」

「え、いやそれも…」

「ええ、ご主人様は大抵のことはできます」


ない、と答えようとしたらシスティがなんかとんでもないこと言い出した。ちょいとシスティさん?何言ってるんですかね?


「そもそもご主人様のスキル保有欄は1万を越えています。全てのスキルを所持しているのです」

「え、すごい…」


ザワザワっとシスターさんたちに震撼が走った。そういやスキル全部持ってるんだから大体のことはできるってのも嘘じゃないのかな…いかんせん自分で何ができるか全く把握できてないのでよくわからん。


「で、では、最上位の神聖魔法も扱えるのですか…?」


どうなの全知全能先生?

答えはYESらしい。この世にある魔法なら固有魔法と呼ばれるもの以外は使えると返事があった。固有魔法とは個人で新しく生み出した魔法らしい。それも学べば使えるようになるらしいがさすがに知らないものは使えない。そうか、やっぱり俺にもできないものは存在するんだな、と、逆になんとなく安心した。


「使えるみたいですね」

「ほ、本当ですか!?マリー、聞いた?あなたの呪いも解けるかもしれないわ!」

「え!?呪いですか?」


なんてことだ。マリーさんが呪いにかかっているですと?

全知全能先生、遠慮はいらない。俺の持てる全ての力を使って解呪してみせようではないか!


「そう、なんです。実は、昔、奴隷商人に捕まってしまいまして…普段は隠しているのですが、この奴隷の証を刻まれてしまいまして…」


そう言ってマリーさんが首筋を見せてくれた。そこには以前システィに刻まれていた奴隷の証の首輪バージョンともいうものがあった。剣の紋章はちょうど頚動脈の位置にある。


「誰かに買われる前にその奴隷商人が捕まってしまったので、この紋章が使われることはなかったのですが、刻まれているだけでいつか誰かに悪用されるのではないかと怖くて…」


マリーさん…そんな恐怖を感じていながら日々過ごしていたんですか…子供たちの前ではそんな感じは見受けられなかった。とても強い人なのだな。


「ハクト様を探していたのも、これを解いてもらえるんじゃないかって、みんなで探してたんです」


ああ、それであんなに全力で探していたのか。みんなマリーさんのために必死だったんだな。


「これが昔魔王が生み出した呪いだってことは知っています。解呪に成功した例もないってことも!でも現人神であられるハクト様ならもしかしたらって…最上級の神聖魔法ならもしかしたらって!お願いします!呪いを解除するためならどんな苦しみも耐えてみせますから!」

「はぁ…え、解呪って苦しいの?システィ?」

「いえ、別段苦しかった覚えはありません。びっくりはしましたけど」

「ああ、よかった…いきなりそんな苦痛を味合わせたのかと思ったよ…」

「え、あの…?」


シスターさんたちがなんの話を?みたいな顔をしている。なんかこれとってもすごい呪いみたいだけど…


「実はシスティに刻まれてた奴隷の証を解呪してるんですよね」

「…え、ええ!?本当にできるものなのですか?!」


まぁ前にやったし当然できる…と思ったら先生からまさかの否定の言葉が入った。

解呪はできないが、上書きすることは可能、ということらしい。俺のスキルの聖印せいいんを使って、紋章の構造をいじって上位の印に変えるのだ。しかしどうやらこの違法な奴隷の証は本当に昔魔王が生み出したものらしく、それより上位の印として聖印でどうにかなるものが眷属の証しかないのだとか。まじかよ。

というか、なんで魔王の生み出した呪いがそんなに簡単に使われてるんですかねぇ、と思ったら、先生いわくそれがこの呪いの最も恐ろしいところなのだとか。恐ろしい効果や解除できないという性質なのに、呪いなどを扱えるものなら割と簡単に行えてしまうらしい。むしろ魔王クラスしか使えない呪いであった方がまだよかったとされている。確かに、誰でも使えるというのは恐ろしい。これを作った魔王はなかなかに悪として有能だったのだな。

おっと、そんなことより、マリーさんに説明しなくては…


「あー、すみません、解呪できる、というわけではないみたいです」

「え?そう、なんですか…?」


やばいマリーさんが絶望に満ちた顔をしている。早く続きを話さねば。


「だ、大丈夫です!解呪できないのですがなんとかすることはできます!でも、それにはどうしても避けられないことがありまして…」

「…ああ!もしかしてこれですか?」


システィはすぐに理解できたらしく、自分の眷属の印を指差している。知力のステータスっていまいちどこで使うのかわからないんだけど、こんな感じで理解力とかにも関係してくるのかな?


「眷属様の証、ですか?」

「そうなんです。証を上書きすることでその効果はなくなるのですが…代わりに眷属になっちゃいます」

「なっちゃいますって…む、むしろ眷属にしていただけるんですか!?」


え?なに?眷属にしていただけるって…


「いや、いいんですか?俺なんかの眷属になって?」

「と、とても喜ばしいことです!神に仕える者にとって、神の眷属になることほど喜ばしいことはありません!」


そんなにありがたいものなのこれ…?別に刻むのも簡単だし頼まれたらしてあげても…いやダメだ。そんな簡単に刻んじゃいけないものだったこれ。

システィは俺の眷属になったことでステータスが跳ね上がった。俺が無差別に眷属を増やしていけば色々なパワーバランスが崩れてしまう…


「ま、まぁ考え方は人それぞれでいいんですが…ちょっと副作用的なものがありまして…」

「副作用、ですか?」


これはここで説明していいものだろうか。あまり多くの人に知られたくないのだが…ここにいるシスターさんたちを信頼してないわけではないが、情報というものは知る人が増えるだけ広がる可能性というものはあがる。神の眷属になればステータスが跳ね上がるという話が広がれば、めんどくさいことになるだろう。

かと言って、ここでマリーさんの呪いをどうにかしないという選択肢はない。なんとかマリーさんにだけ説明できれば…そんなスキルないですか先生。

ありますよ!とばかりに提示されたスキルは念話スキルだった。特定の相手の脳内に直接語りかけるものらしい。便利なものがあるじゃないですか。


(システィ、マリーさん、これは念話というもので、2人にしか聞こえてない声です。ですので声は出さずに聞いてください。システィもいいね?)


俺がさっそくシスティとマリーさんの2人に念話スキルを使い話しかける。2人とも一瞬驚いた顔をしていたが、なんとか声は出さずにいてくれた。


(返事は頭の中で思ってくれたら通じるみたいですので。それでですね、副作用というものなんですが…システィ、マリーさんにだけステータスボードが見えるようにしてあげて)

(かしこまりました)


システィがこそっと自分のステータスボードをマリーさんにだけ見えるように動かす。見せる意思のある人にのみ見えるってのは便利だね。


「……ええ?!」


あ、驚きが我慢できなくて声出しちゃったよ。


「ま、マリー?突然どうしたの?さっきからハクト様も黙ってしまっていますし、すでに何かされているのですか?」

「ご、ごめんなさい、なんでもないのよ?」

「私もまだ何もしてませんよ?ただ、少し考えなくてはならないことがありまして」


そうじゃん俺も黙ってたら怪しいよ。これはさっさと済まさなければ。


(今のを見ていただければ副作用というのはわかってもらえたと思います。ここからは2人とも話を合わせて)


さて、詐術スキル先輩出番ですよ!なんとか誤魔化してください!


「副作用というものはですね、俺の側から離れられなくなるというものです」


……ん?


「私は現人神とはいえ、一応神。1つの場所にあまり長く止まることはできないのです」


なんでだよ。なんで神様が1つの場所にいちゃいけないんですかね?みんななんか納得してるしそういうものなのか?ていうか、なんか雲行きが怪しいような…


「つまり、マリーさんにこの町をいつか出てもらう必要があるのです…私がこの町にずっとはいられないので、眷属となった者も共にこの町を離れなければならないのです…」

「そうだったのですね…マリー、悩む必要はないわ」

「え?え?」


マリーさんが困惑している。そりゃそうだよね!ステータスが跳ね上がるって話を誤魔化すためになんで町を出て行くって話になってんだって話だよね!


「そうよマリー、私たちも寂しいけれど、あなたのためなら仕方ないわ」

「むしろ羨ましいわ!神様に直接仕えることが出来るのだから!」

「すみません、眷属はそう簡単に増やせるものではありませんので他の方は…彼女は、彼女を救う方法がそれしかないので。みなさんの大切な仲間を連れ去るような真似は心苦しいのですが…」

「大丈夫です、ハクト様。私たちも簡単に眷属になれるとは思っておりません。でも、どうかマリーだけはお願いします。この子はとても優しく、心の綺麗な子です。ですので、どうかよろしくお願いします…」


眷属にするのは本当はとっても簡単なんだけどね!ごめんねなんか流れるように嘘ついちゃって!ていうか、あれ、この流れって?


「マリー、ここをまとめるシスターの代表として命令します。これからはハクト様にお仕えして、この町から出て行きなさい」

「…はい、わかりました」


老齢のシスターが、マリーさんに厳しいことを言っているように聞こえるが、その目には涙が浮かんでいた。きっとマリーさんがいなくなることは寂しいことなのだろう。それなのに、マリーさんがここを離れることをためらっていると思い、わざとあんな言い方をしたんだろう。優しい人だ。ここを離れる必要なんてないのに…ってそうだよ!なんでそんなことしなきゃならないんだ?どうなってる詐術スキル先輩…あ。

そこで俺は気がついた。ナンパスキルがなぜかオンになっている…え、これ俺が好みの女性を自分の近くに置くために嘘並べてるってことになるんじゃね…?俺最低かよ!?

ていうかなんでオンになってるんですかね…また先生の仕業っすかね…これからは俺の意思に関係なくオンになることがないように自分のスキルに封印スキルでもかけておこう…


「若輩者ですが、これからよろしくお願いします!」


マリーさんはすっかり俺について来るつもりになっている。いやあなた、俺が本当のこと言ってないってわかってるはずですよね?雰囲気に飲まれてますよ…俺も今さら嘘ですとはいえず、ポーカーフェイススキルを使い笑顔でよろしくと答えたのだった。

ちなみに、システィはものすごい目で俺を見下していた。やめて、そんな汚物を見る目で俺を見ないで…やってしまったことは中々に最低なことだけど…俺の意思だけど俺の意思じゃないんですぅ!


その後、証の上書きはあっさり終わった。それなりに大変なことだという嘘は有効にしたいので特に疲れていないが疲れたふりはしておいた。

また後日迎えに来るのでそれまでに準備するように伝えて、俺とシスティは教会を去った。

さて、詐術スキル先輩、これから行うシスティへの言い訳はちゃんと働いてくださいね…

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