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異世界転生してもワーカホリックが治らない  作者: 伯耆富士
やってきました異世界へ
4/43

旅を始めよう!その前に、ちょっと一仕事

なんだかどっと疲れたので、部屋でゆっくりすることにした。アイテムボックスには水や食料も入っていたので、それらを消費しながら2人で話をしていた。


「システィはさ、これからなんかやりたいことある?」


俺はとりあえずの行動目標を立てるために話を振った。ちなみにシスティは俺が勝手につけたあだ名だが、あっさり受け入れてくれた。


「どこへでもご主人様についていきます!」

「いや、それはわかったからさ…ほら、俺ってさ、この世界に今日来たわけよ。だからなにがあるかもそんなに知らないんだ。だからとりあえずシスティのやりたいことをしようかなってさ」

「そういうことでしたか…しかし、すみません、私もあまりこの世界に詳しくないのです…」


システィが言うには、彼女は産まれた時から当然だが角も羽も生えておらず、そのことで迫害を受けたそうだ。味方は母親だけ。父親は角も羽もないシスティを自分の子供と認めなかったそうだ。それからは龍人属の街を出て、母親とひっそり暮らしていたそうだ。その後、母親は病にかかり、十分な薬も買える金がなかったが、なんとかシスティが用心棒などをして稼いでいたそうだが、ある日システィが止まっていた宿に帰ると、そこの主人に母親が亡くなったと告げられたそうだ。部屋に行くと、母親は呼びかけても返事しなかったそうな。絶望にくれその夜は一晩中泣いていたそうだ。その時、宿の主人に悪いと思い、外で泣いていたのがアダになった。突然何者かに襲われ、気がついた時には違法な奴隷の印をつけられて、馬車で運ばれていたそうだ。母親も死に、どうでもよくなっていたため、誰かの奴隷としてでも生きていけるならそれでもいいか、と人生を捨てていたシスティであったが、それすら叶わなかった。角なし羽なしのシスティは、龍人属の奴隷が欲しいと思っていたどこかのクソ貴族のお眼鏡に叶わず、俺が威圧だけで倒したあいつらに殺されそうになり、本能的に逃げ出したそうだ。捕まった時には、どうして逃げたのだろう、どうせ死ぬのならどこでも同じだと思っていたそうだが…


「そこでご主人様に救われたのです!」

「なるほどなー…いやなんか重い話をさせてすまなかったな」

「いえ、ご主人様には知っておいて欲しかったので…それに、本当に感謝をしているのです。母はいつも私に言っていましたから。いつか、立派な人にお仕えできる戦士になるのよ、と。もともと母の家系は騎士の一族だったらしく、母自身も王に仕える騎士だったそうです…まぁ私がまだ本当に幼い頃に私を連れ出して逃げてくれたので、私は知らないんですけどね」


ははは、と少し悲しそうに笑うシスティ。無理もない。これもさっき聞いたことだが、彼女はまだ16になったばかりなのだ。それにしては、壮絶な人生を送っていると。むしろ今現在無理にでも笑えてるだけ、強い心をもっていると思う。

しかし…ふむ、なんかすごくひっかかる話だ。


「どうされました、ご主人様?やはり、聞いていて楽しい話ではなかったですから、ご気分を害されましたか…?」


俺が思案顔になっていると、自分が悪いことをしたのかと心配してくるシスティ。


「いや、そんなことはないよ。そんなことはないんだが…ちょっと気になることがあってね…」

「はぁ、気になること、ですか?」


なんだ?なにがひっかかるんだ?もともと頭の良い方ではなかった俺だが、今は神様が与えてくれたチートな知力にスキルがある。そんな俺の直感スキルとでもいうものがめちゃめちゃ反応してる。絶対におかしい、と。

まだ使い慣れていないこの体。ちょっと落ち着いて考えてみようと、一度深呼吸をしてみる。すると、本当に疑問になっていることが明らかになり、それに対応する答えもどんどん湧いて出てきた。これは、まさか…?


「システィ、これからやりたいことがあるんだが、付き合ってくれるか?」

「あ、はい。なにをされるのでしょう?」

「うんそれはね…システィと、システィのお母さんの敵討ち、さ」


驚きに満ちたシスティとは対照的ににやりと俺は笑った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「とりあえず、ちゃんとした飯でも食べますか」


敵討ちは明日からにして今日は色々あったから飯を食べて休むことにした。


「はい…あの、こんな事を聞くのは失礼かもしれませんが、お金の方は大丈夫なんでしょうか?今日こちらに来られたわけですよね?」

「ん?ああ、そういやさっきは急いでて気にしてなかったけど、神様はいくらもたしてくれたんだろう?」


アイテムボックスに確かまだ入ってたし、どのくらい入ってるか確かめて…み…る…?


「うぇぇぇえ!?」

「ど、どうされましたかご主人様!?」


思わず声を上げてしまった。いやだって…これはさ…。


「…システィ、確認するが、1番低いお金が銅貨で、銅貨10枚で大銅貨、大銅貨10枚で銀貨、銀貨10枚で大銀貨、大銀貨10枚で金貨、金貨100枚で白金貨、だったよな…?」

「はい、そうですね。金貨なんて早々見かけないですけどね。白金貨なんか見たこともないです」

「…それぞれさ、100万枚あるんだ…」

「……は?」

「アイテムボックスの中にそれぞれ100万枚ずつ入ってるんだよ…!?」

「…はぁぁぁぁ?!」


うん、わかるよ、叫んじゃうよね。俺も叫んだし。


「え、え?な、なに言ってるんですか?白金貨なんて1枚でもあれば数年は遊んで暮らせるじゃないですか!?」

「だよねー…うん、これはやりすぎだよなぁ…」


これは本気で俺はなにもせずに物見雄山で旅しまくっても使いきれないだけの額があるな…どれだけ豪遊してもなくなる気がしない…


「…システィ、仕事、一応しような…なんかこれに頼りきってたらなにもできなくなりそうだ…」

「…そうですね…そんなことは起きないでしょうけど、万が一のためにとっておきましょう…」

「…まぁ、銀貨くらいならつかってもいいか…いいよね?」

「…いいんじゃないでしょうか?」


誘惑に負けないために仕事をしようと言った俺たちだったが、早速誘惑に負けて、この日は宿で最も高い銀貨3枚の夕飯を食べることにした。したのだが…


「おお…久しぶりにこんなまともな食事を食べました。ご主人様と神様に感謝です…」

「お、おう…」


システィは満足して食べているのだが、俺はというと…


「…薄い…」


まっっっったく満足していなかった。なんだこの料理は!いや料理なんて言ったら料理を冒涜している!野菜を塩で茹でればいいやみたいな感じが許せない!肉には塩胡椒を振って焼けばいいやという感じが許せない!この肉はなかなかいい肉であることは認める!野菜も質の良いものを使用していることは認める!しかしその素材を殺していることが許せない!なにを考えているんだ!?もしかしたら塩と胡椒くらいしか調味料がないのかもしれないが、だとしても許せない。いや、バイトとはいえ料理人をしていた身としては、これは許してはならない!


「あ、あの、ご主人様…?ど、どうかされましたか?」


並々ならない俺の怒りを察して、システィが恐る恐る尋ねてくる。おっと、ちょっと怒りすぎていたみたいだ。


「なぁシスティ。この料理は一般的なものなのか?」

「え?そうですね…まぁ田舎の町なんてこんなものじゃないですか?さすがにもっと大きな都市になればもっと良いものを食べてると思いますけど…安宿のご飯ですからね。十分良い方だとおもいますよ?」

「そうか…田舎の町だからこんなものなんだな…それを聞いて安心した…」


この世界すべてがこれを食べてるわけじゃないと聞いて心底ほっとした。だがしかし!俺はこの状況を看過することはできない!


「ご主人!ちょっといいか!」

「お、おう?なんだ、どうした?」


俺は宿の主人に詰め寄ると、目の前にバンッと金貨を叩きつけた。


「これで厨房と食材、自由に使わせてもらえないだろうか?」

「な、き、金貨だって?!そ、そんなにいらねぇよ!あんたらはうちの1番高い飯頼んでくれてんだ。そんくらいなら金なんか払わずに好きにしてくれていいよ。ああ、いや、食材代だけはもらえるとありがたいかな?」

「そうか、わかった。なら後で請求してくれ。使わせてもらうぞ」


俺は腕まくりしながら厨房へと入っていく…周りの他の客もなんだなんだとこちらを見ている。さぁ、始めようか。これがこの世界の普通だというなら…俺が食文化の革命起こしてやるよ…!


俺は今目の前の光景に唖然としていた。そこに並んでいるのは美味しそうな料理の数々。確かに俺が作ろうと思っていたものだ。ものなのだが…料理過程が全く思い出せない。料理を作ろうと思ったとき、全知全能先生が料理スキルと効率化スキルいうものがあると提示してきたのでそれを使って料理を行なったのだが…スキルの力で勝手に体が動き、ほとんどなにも考えずに料理が完成していた。俺が気がついた時には料理の数々が並んでいた。なんだか釈然としない。俺は料理を作っている時の感覚も好きなので、なんだか損した気分になってしまった。どうやら効率化スキルのおかげらしいが…今度から効率化スキルなしで料理しようと思ったのだった。


「まぁとりあえず食べてもらうか…そして俺も食べる!」


俺はできた料理を次々とシスティの待つテーブルへと運んでいった。システィは驚きに満ちた目でそれをみている。


「こ、これすべてご主人様が料理されたのですか?」

「ああ、そうだ。元の世界と調味料が少し違うから完璧なものは作れなかったがな。さぁ、遠慮なく食べてみてくれ」


恐る恐るといった感じで、システィが肉を口に運ぶ。パクッと口に入れモグモグとしばらく咀嚼したのち、突然涙を流し始めた。え?涙?


「おい…しい…美味しいです、ご主人様…!」

「お、おう、そうか?」

「はい、こんなに美味しい料理は食べたことがありません!いえ、これが料理なのですね!私たちが先ほどまで食べていたものはただ肉を食べられる形にしただけのものだったのですね…ご主人様の先ほどの怒りも納得できます…」

「あ、ああ、ありがとう…?」


あの、システィさん?感動してくれるのは嬉しいんだけど、宿の主人が怖い顔でこっち睨んでるからさ?落ちつこう?

しかし、その視線に気がついたシスティはどこまでも強気だった。


「なんですか、あなたのアレが料理だと言い張るんですか?いいえ、違います。私も今わかりましたが、あれは料理ではありません。これこそ!ご主人様の作ってくださったこれこそが!料理というものです!」


あ、いや、君が今食べてるのただちょっと工夫して塩胡椒で味付けしたお肉だよ?ちょっと一工夫しただけでそこまで言わなくても…


「ほう…なら少し俺にも分けてくれよ。俺の料理とそんなに違うか確かめさせてくれよ」


ほらー主人が額に青筋浮かべてるじゃーん。めっちゃキレてるじゃーん…まぁ最初に否定したのは俺だけどさ?なんかシスティ見てたら冷めちゃったよ、うん。

キレそうになりながら宿の主人が俺の焼いた肉を食べる。しばらく咀嚼した後…突然土下座してきた。


「申し訳ありませんでしたー!」

「えぇぇえ!?」

「俺は…俺は宿の主人失格だ…俺は今まで客になんてもの食わせてたんだ…あんなの、金払ってまで買う価値なんかねぇ…ともすりゃあ俺は原材料そのまま食ったほうがマシなもの作っちまってたんじゃねぇのか…?」

「い、いや、そこまでじゃないと思うよ…?」

「許してくれ!あんなものに銀貨3枚も払わしちまった俺を許してくれ!」

「あ、いや、うん、ほら、原材料はいいもの使ってたし、それくらいの価値はあると思うよ?」

「いや価値なんてねぇよ…恥ずかしい、俺は恥ずかしいよ俺は…堂々とあんなものを客に食わしてたなんてよぉ…」

「あの、うん、落ち着いて?」


その後騒ぎを聞きつけた他の客も俺の作った料理を食べて、涙を流して感謝してきた。もはや怖い。なにこれ、俺なんか効率化スキルで記憶のないうちになんかやばいもの入れちゃったの?今度からは軽々しく料理しないようにしよう…神様のチート能力はこんなところでも思わぬ力を発揮したのだった。

ちなみに俺が食べても普通に美味しいだったから、たぶんマジで神のなんかが入っちゃってたんじゃないかとおもう。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


翌朝、俺とシスティは宿を出発して、システィが暮らしていた町に向かうことにした。目的は当然、システィとシスティのお母さんの敵討ちへの第一歩のためである。

ちなみに宿の主人からは今朝も俺を見て謝り続けてきたので、逃げるように出発した。


「も、申し訳ありませんご主人様、昨夜はなぜかとても感動してしまい、取り乱してしまいました…」

「いや、いいよ。俺もあんなに喜んでくれたら嬉しいからさ」


システィは朝には元に戻っていた。眷属なだけあって耐性みたいなものがあるのかな?いや本当に神の力が関係してたかはわからないんだけどさ。

ちなみに、昨日はシスティと同じ部屋で、同じベットで寝たのだがびっくりするくらい何もなかった。主人と同じ布団で寝るなどとんでもないと言っていたシスティだったが、俺としても女の子を床に寝かせるのはとてもじゃないが見過ごせないので、無理やり寝かせたのだ…が、そんな状況に耐えられなかったのはむしろ俺の方であった。システィは諦めて早々に寝てしまったのだが、可愛い女の子が隣にいるという状況に俺は全く眠気が襲ってこなかった。もちろん、手を出すなんて不埒なことは考えていなかった。のだが、とにかく落ち着かなかった。結局のところ、俺は一睡もしていない。それでも今も全く問題なく過ごせているので、もしかしたら俺の体は眠らなくても大丈夫なようにできているのかもしれない。

そんな感じで異世界初日からドタバタとしていたが、今日はのんびりと目的地に向かうつもりだ。歩いて2日くらいかかるみたいだしね。瞬動を使いまくればすぐに着きそうだが、そんなに急ぐ旅でもないし、せっかくなので異世界の風景を楽しみながら行くことにした。急いではいないが、しっかりと敵討ちはするつもりだ。異世界に来て初めての仲間のためだからね。


「ご主人様、ここから先は魔物も少数ですが出没します。十分お気をつけ…なくても大丈夫なんでしたね…」

「あ、魔物いるんだ。まぁたぶん大丈夫だろうけど、一応気を付けようか。システィにも怪我はさせられないしね」


たぶん昨日のシスティとのステータスの差を見る限り、俺が怪我することはまずないだろう。しかし、いかんせん戦闘なんかしたことがない。何が起こるかはわからないのだ。


「そういえば、システィは槍を使うんだっけ?用心棒してたってことはそこそこ戦えるの?」

「ええ、槍スキルも所有しておりますし、この辺りの魔物であればご主人様の手を煩わせることもないかとおもいます…槍があれば、ですが…」


あ、そういえば旅に出たのになんの準備もしてなかった…食料は神様の与えてくれたものがあるので2日くらいは大丈夫だが、武器や防具がない…あ、あった。


「安心してくれ、神様がいくつか武器も防具も用意してくれてるみたいだ。その中の槍をあげるよ」

「おお、さすがは神様です…そしてそんな大切なものを私にくださるとは、ご主人様の器の大きさもすばらしい…」

「いや、そこまで言われるような事かな…?」


俺としてはいつの間にか持ってるもので済まそうというのだから、どちらかといえばケチな気がするのだが。

さて、システィ用の槍はどれがいいかなっと…お、これなんか赤くてシスティっぽい。もうどうせなら赤で統一しちゃえ。


「はい、システィ。この槍でいいかな?」

「はい、ご主人様にいただけるならどんなものでもぉぉぉお?!」

「え。なに?俺またなんかやらかした…?」

「ご、ご主人様!?こ、これは魔槍ですよ?!」

「魔槍?」


あ、本当だ。この槍の名前は魔槍サラマンダーというらしい。魔槍ってなんだろう?と思うと、全知全能先生が今日も絶好調に教えてくれる。

魔槍とは、その材料が魔物の素材で作られている槍なんだそうだ。どうやら普通の金属で作るものよりも硬く、それでいて壊れにくいらしい。それに何より、魔力を槍に流すことにより、特殊な効果を発揮できるのだとか。例えばこのサラマンダーは、その名の通り、魔力を流すと火を噴くらしい。いいね、実にファンタジー!


「すげーなー異世界。じゃあ、はいこれ」

「ええ!?本当に下さるんですか!?」

「武器なんて使わないともったいないでしょう?」

「そ、それはそうなんですが…」


それでも受け取ろうとしないシスティ。しょうがないので、ここで衝撃の事実を伝えてやろう。


「実はな…魔剣やら魔槍なら意味わからんくらい持ってるんだよね。だから一本くらいシスティにあげても平気だよ」


今アイテムボックスを見たところ、なんか知らんが魔剣やら魔槍やら魔弓やらがごろごろ入ってる。神様に子供がいたらすっごい甘やかされてるんだろうなと思ったが、よく考えなくても俺が神の子だった。絶賛甘やかされてますわ。


「な、何本もって…お金もそうですけどご主人様1人で国が6つは作れますよ」

「そんなものに興味はないからねぇ…俺は気ままに自分のやりたいことをやって生きてくつもりさ」


貴族の称号にはちょっとは憧れはあるものの、領地の管理とかめんどくさそうだからいらない。

と、そこに早速魔物が現れた。イノシシっぽい見た目だが、牙が長い。おお、これが魔物か…そういえば初魔物遭遇だ。ちょっとテンション上がってきた!


「ご主人様、お下がりくだ…さる必要はないでしょうがここは私におまかせください!」

「えー…初魔物遭遇だから俺がやりたいんだけど。というか確かめたいこともあるしね」

「確かめたいこと、ですか?」


俺はイノシシっぽい魔物に近づき、その鼻先にデコピンを放つ。すると、2メートルくらいある巨体が吹っ飛んで動かなくなった。


「……えー…」


倒せるかな?と思ってやってみたけど、本当に倒せるとは…


「さ、流石ですご主人様…」


ほら、システィも口ではああ言ってるけどむっちゃ引いてるじゃん。俺が覚えなきゃいけないことは手加減だな…これじゃそのうちすぐ噂が広がりめんどくさいことになりそうだ。

そんなことより、俺は当初の目的の確認をするためにステータスボードを開いてみる。


「おう…本当に成長した…」


俺のステータスはレベルが2になり、筋力と防御力が千を突破していた。深く見たくなかったのでそれだけ確認してすぐ閉じた。


「システィ…やっぱりステータス伸びたわ…」

「レベル、1でしたからね…」


ただでさえ意味のわからない数値なのにこれ以上伸びてどうするのか。神様、もしかして本気で俺をこの世界の神にするつもりですか?


「システィ、ここから先の魔物は頼むわ…」

「り、了解しました」


そうだ、とりあえずマップで魔物の索敵をしとこう。システィが危なくなるのは避けたいしね。

と、そこで気がついたことがある。周辺にはそれなりの数の魔物がいたのだが…なんか、離れていってる?


「システィ、なんか魔物が離れて行ってるんだけど…」

「それは、マップですね。旅をするなら便利ですね。それで、この赤いのが魔物、なんですか?確かに、離れて行ってる…というよりは何か他のものに向かってる感じですね」


確かに。魔物を示す赤い点がどこかに集まって行ってるように見える。なんだろうこれ?


「まぁ、魔物など遭遇しないに越したことはないですから、好都合ですね」

「そうだな。無駄にレベル上がらなくてありがたい」


その後も索敵を続けながら歩いたが、魔物が出てくることはなかった。なんなんだろうね?


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


本当に何もなく、その日は夜を迎えて、適当なところでキャンプをすることにした。初野営である。旅の醍醐味だね!


「ご主人様、嬉しそうですね?」


うきうきしてたのが顔に出てたのか、システィが可笑しそうに訪ねてきた。


「俺の世界じゃさ、こんな野営なんてする機会全くと言っていいほどないんだ。せいぜい小説、ものがたりのなかだけだったからさ。ちょっとワクワクしてるんだ」

「こちらの世界では野営は危険なのであまり好まれることではありませんが…ご主人様には関係ないですね」

「まぁたぶん大丈夫なんだろうけど…それでも自ら襲われようとは思わないよね。噛まれたり斬られたりなんか自ら進んでいくやついないだろ?」

「ごもっともです」


2人でなごやかーに過ごした。まわりの魔物は未だどこかへ行ったまま帰ってこない。若干キナ臭い感じがするが、直接被害を被るまでは放っておこうと思う。

そういえば、システィに聞きたいことがあったんだった。


「白髪に赤目ってさ、なんか特別なものなのか?」


初めてあった時に神がどうとか行ってた気がするんだが。


「白髪に赤目はこの世界を作ったとされる神様が白髪に赤目だったと伝えられているんです。なので、白髪に赤目は縁起が良いと言われてるんです。白兎なんてとっても神聖なものだと言われてるんですよ?」


なるほど、だから神様はこの見た目で俺をこの世界に転生させたわけか。名前も因幡の白兎まんまだからぴったりだな…俺のために作ったわけじゃないですよね?ここまでの甘やかされっぷりからありえないことじゃないと思えてしまう。


「ご主人様は、本当に神様ではないんですか?」

「違うよ…たぶん…1度神様にされそうになって断ったんだ」

「いやそれもう半分以上神様なんじゃないですかね…」


うん、なんか俺もそう思う。種族見ても人間ではないからね。俺は神様なんかやる気はないけど。


「まぁそんなことはいいよ。今日はもう休もう。夜の見張りは俺がするからさ」

「い、いえ!見張りなら私がやります!ご主人様にやらせるわけには参りません!」

「いーよいーよ。俺なんか寝なくても大丈夫っぽいし。というか、夜の見張り番ってやって見たかったんだよね!」

「寝なくても大丈夫って…いやもういちいち驚いてたらきりがなさそうなのでやめますね。それでは、お言葉に甘えさせていただきます」


そう言うとすぐに寝息をたて始めた。どうやら結構疲れていたらしい。あー、そういえば俺は全く疲れないからずっと歩いてたけど、システィには無理させてかな?

明日からは休み休み行こうと心に刻みつつ、俺は未だに確認が終わってない自分のスキルと称号の確認をはじめた。もちろん、マップを開いてちゃんと索敵しながらね。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「この町が、システィとお母さんが泊まってた町?」

「はい…ここですね」


前の町から2日くらいかけて、システィが奴隷商人たちに捕まった町にたどり着いた。心なしかシスティが暗くなってる。しまったな…そりゃお母さんが亡くなって、自分が捕まった町になんか来たくもないか。


「ごめん…ちょっと考えなしに行動しちゃったね」

「え?あ、いえ大丈夫です!今から敵討ちをするのでしょう?やってやりましょうよ!」


ちょっと無理してる感じもするが、本人が明るく振舞おうとしてるんだ。突っ込むこともないだろう。


「じゃ、とりあえずシスティが泊まっていた宿に行こうと思うんだけど…いいかな?」

「はい、ご案内します。そういえば、あの宿の主人は大丈夫だったのでしょうか?」

「ああ、うん、たぶん元気にしてるよ…俺の予想通りならね」

「はぁ…?」


システィはよくわかってないみたいだが、俺はほぼ確信している。さて、敵討ちの始まりだ。


5分ほど歩いくとすぐに目的の宿に着く。宿の前では掃き掃除をしているおじさんがいる。あれが宿の主人かな?いやまぁ実のところマップで町の人たちは全員チェックしてるからわかってるんだけどね。気になることもあったから確認したのだが、そっち方は引っかからなかった。ていうか普通にこれ便利すぎだろ。どこで誰が何してるかまだわかる。プライベートもくそもあったもんじゃないな。


「あ、ご主人!お久しぶりです!無事だったのですね!」


システィが宿の主人に気がついて笑顔でかけていく。すると、主人はやけに驚いた顔をしていた。ふむ、やっぱりか。


「お、おお、龍人族のお嬢さんか。と、突然いなくなっちまったから心配したんだよ?」

「すみません、ちょっと色々ありまして…今はこちらの方に仕えております!」


嬉しそうに語るシスティ。どうやらそこそこよくしてもらってたみたいだが…悪いけど、それもここまでになってしまうな。


「どうもご主人。ちょっとお尋ねしたいことがあるのですが…」

「うん?なんだい?悪いが今は部屋が埋まっていてね…」

「いえ、こんな宿泊まる気なんて微塵もありませんから」

「え…」


主人が何を言ってるのかという顔した瞬間、ガッとその胸ぐらを掴んだ。


「ご、ご主人様!?な、なにをしているのですか?!」

「悪いねシスティ、俺の想像だけだったから話してなかったんだけど…さっきの顔で確信したんだ。めんどくさいのは嫌いだから直で聞くぞ。お前、奴隷商人とグルだな?」

「なっ…!?」


男の顔が驚愕に満ちる。システィもえっ…と小さく声を漏らしている。


「な、なんのことだ?し、知らねぇよそんなの…」

「ふむ、ならばなぜ、システィを誘拐した奴隷商人が、システィを龍人族だと知っていた?」

「え…?あ、そういえば…」


システィは自分でも言っていたことだが、初見では蜥蜴人属と思う人がほぼ全員らしい。俺のようなスキルを持っていたらわかるのだろうが、奴隷商人なんかをやってる奴らがそんなスキル持ってるとも思えない。それならば、誰かが教えたに違いない。その時、最も怪しいのが宿の人間だ。

システィが働きに出ていた時に誰かが知ったのかもしれないが、たぶんシスティは自分の種族を龍人属だとわざわざ言ってはいないだろうし可能性は限りなくゼロに近い。

捕まえる時に龍人属だと思って突発的に捕まえたとも考えにくい。システィは夜に野外で泣いていたところを襲われている。この世界では街灯なんてものはないし、夜は月明かりくらいしかない。そんな中で羽と角のないシスティを龍人族だと判断したとも思えない。


「というわけで、お前が奴隷商人に教えたんだろう?」

「う、ぐ…」

「素直に吐いた方が身のためだぞ?」


威圧スキルを最小限に発動させて問い詰める。最小限でも効果はあったらしく、男は観念して話し始めた。

どうやら最近奴隷商人が女性の龍人族を捜していたらしい。それも結構な額の報奨金を出してだ。そのことを知った主人は、宿の経営が厳しくなっていたため、自分の宿に泊まっているシスティを売ったのだという。


「金が…金が必要だったんだよ…」

「それでもなぁ…奴隷商人は違法だって知ってんだろ?いやもう違法とか関係なしでそんなことはしていいとでも思ってんのかよ?」

「わかってるよ…人間として最低なことをしたってことは…」

「…母は?まさか、母はあなたが殺したのですか?!」


システィが怒りに満ちた目で宿の主人をにつめよる。そうなのだ。話の流れからいくと、たぶんシスティのお母さんもこの男が…


「こ、殺してねぇよ!それは本当だ!」


おや?否定するのか?此の期に及んで嘘をつくとは考えにくいのだが…


「なら、本当にタイミングよく亡くなったって言うのか?」

「ち、違うんだよ…あんたのお母さんは死んじゃいねぇんだ…」

「母さんが…死んで、ない…?」

「なんだと?どういうことだ?」

「実はよ…奴隷商人どもに頼まれたんだ…」


男の話によると、システィのお母さんには一時的に仮死状態になる薬を、飲んでいた病気の薬とすり替えて飲ませたらしい。それはシスティに隙を作らせるためと、仮死状態のシスティのお母さんも連れていくためだったらしい。


「なら…なら母は…!」

「ああ、奴隷商人どもが連れて行ったよ…」

「どこの誰に売るか聞いていないか?」

「あいつらは口にしなかったが…確実に領主のところだろうよ」

「領主?つまりは貴族ってことか?」

「そりゃ領主なんて貴族しかなれねぇだろ」


そうだと思うが、もともと貴族なんてないところで育ってきてるから知識ではわかっててもやっぱりよくわからないものだ。


「あの領主の龍人族好きは有名だからな…何人も龍人族の女性に求婚して玉砕してるって話だ。我慢できなくなって、ついに奴隷売買なんてものに手を出したんだろ…もともとあまり良い評判は聞かなかったからな…」

「つまりなんだ、金持ちの道楽のためにシスティたちがこんな目にあってるってのか?」

「そうなんだろうよ…謝って許されることじゃねぇのはわかってるが本当に申し訳ないことをした。すまねぇ!」


ガバッと土下座する宿の主人。一応、本気で反省してるみたいだが…俺としては許せないな。別に何かしようともおもわないが、関わろうともおもわない。


「正直に話してくれて助かったよ。システィ、もう行こう」

「……母さんが…」

「システィ?」

「あ、は、はい!すみません…」

「いや、謝らなくてもいいよ」


優しく微笑んで、頭を撫でてやる。少し恥ずかしそうだったが、素直に撫でられてくれた。


「それじゃ、行こうか」

「あの…どちらに向かうのですか?」

「もちろん、お母さんを取り戻しに行くに決まってるだろ?」


宿の主人とシスティがは?みたいな顔をしている。


「な、何言ってんだあんた!?相手は貴族だぞ?!それも、領主になるような身分の高い貴族だ!」

「それがどうした?」

「それがどうしたって…ご主人様、本気、ですか?」

「当たり前だろ?相手が誰だって関係ないね。俺は自分のことしか考えてないようなクソ野郎が大嫌いなんだよ」


さて神様、今からちょっくらこのチートな能力をフルに活用するけど、いいよね?

そう問いかけると、なんとなく、やっちゃいなさい!とノリノリな声が聞こえた気がした。

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