神の子ってやっぱり神なのかな…
少女を回復させて、近くの町へ移動しようと思ったのだが、そこで問題があった。少女は思ったより背が高く、マントだけだと、その、なんというか、非常にエロい。しかも龍人族であるため普通の人間にはない尻尾がついている。少女が尻尾を上げることはないだろうが、万が一尻尾を上げるとお尻が丸見えになってしまうだろう。女性慣れしていない俺のにはちょっと刺激が強い。
なのでどうにかならないかと思っていると、またしても全知全能先生が仕事をしてくれた。もう全知全能先生なしでは生きていけないかもしれない。
解決方法は、アイテムボックス、というものであった。魔法の系統のスキルの一種で、なんか見えない空間にアイテムを入れておけるみたい。しかも神様のサービスで色々入っていた。傷薬とか毒消しとか魔法薬とか。その中には衣類の類も入っていた。なぜか龍人族なんかの人以外の衣類も入っていた。下着も。中にはとっても際どいものまで…神様?俺に何をさせたいの?しかも全部なんとなく俺好みなのが非常に恥ずかしい。
「とりあえず、これを着てもらえるかな?」
下着まで渡したら警戒させるかもしれなかったが、あるのに渡さないというのもどうかと思ったので、なんでもないことかのように平然と渡す。本当は顔が真っ赤になって声も震えているところだったが、謎スキルポーカーフェイスというものの力を借りて無表情を貫いた。
「え、これ、どこから…?」
「えっと、アイテムボックスってスキルなんだけど…」
教えていいようなスキルなのかわからなかったが、とりあえず告げてみる。
「なんと…空間庫の使い手だったのですね」
お、どうやら大丈夫だったようだ。驚いてるから珍しいスキルではあるようだが、持ってる人は持ってるみたいだから大丈夫だろう。
「しかし、なぜこのような服をお持ちで…?」
う、やっぱり突っ込まれるよなぁ…と思っていたら、またしても俺に任せとけと言わんばかりに全知全能先生が反応した。詐術スキルというなんかあんまり良いことに使えなさそうなスキルが発動し、頭にポンポンと言い訳が浮かんでくる。
「このスキルを利用して商人をしているんだ。代金はいいから、とりあえず受け取ってよ」
「商人だったのですか?てっきり3人をあっさりと倒してしまったので名のある戦士の方なのかと…」
「旅をしてると危険なことも多いからね。護身のために少々武芸をかじっているだけだよ」
なるほど、と少女は納得してくれたみたいだ。詐術スキルすげー。ポーカーフェイスと合わさって全く疑われなかった。思ったより便利だこれ。
「しかし…あの、こちらの衣類は…」
「どうしたの?デザインが気に入らなかったかな?一応龍人族の服を選んだのだけど」
「な…!?わ、私が龍人族だとわかるのですか!?」
「え、うん、わかるけど…?」
なんだろう、なぜ驚いているのだ?確かに最初は全知全能先生の鑑定スキルで種族を判断したが、実際に見ればわかるものだと思うのだが…尻尾もあるし、首筋とか腕や足には鱗もついてるし。実はついでに名前もわかってるのだが、普通の鑑定スキルでどこまでわかるものかがわからないので、自ら名乗るまでは呼ばないでおこうと思う。
「は、初めてです…羽なし角なしの私を一目で龍人族だとおっしゃってくださった方は…!」
なんだかやたら感動されてしまった。なんだ、羽なし角なしって?教えて全知全能先生!なんて思ったら本当に答えが頭に浮かんできた。本当になんでもありかよ先生…
先生によると、龍人族とは、本来角と羽も生えているものらしい。そういえば、この子には角もなければ羽もない…どうやら時々角なしや羽なしの龍人族が生まれるらしいが、両方ないというのは非常に稀で、見た目だと蜥蜴人族と見分けがつかなくなるらしい。そのため、一族からは嫌われたりするんだってさ。大変だね…じゃなくて、しまった見た目では判断できないのか。やべぇどうしよう…詐術スキル先輩ヘルプ!
「ああ、わかる人にはわかるものだよ」
詐術スキル先輩!?適当すぎませんかね!?
「お見それしました…!」
あ、大丈夫だったみたい。なんかこの子の中の俺の評価はとっても高いみたいで、全然疑われなかったよ。疑ってすみません、先輩。
「あ、あの、それでなのですが、私は羽がついておりませんので、服は蜥蜴人族のものがあればありがたいのですが…い、いえ、贅沢を言ってしまって申し訳ありません!」
「ああ、いや大丈夫だよ、今出すから待ってね」
なるほど、どうやって着るのかは知らないが、龍人族の服には羽用の穴が空いているみたいだ。確かに羽がなければそこからただ単に背中が見えるだけのエロい格好だ…それはそれでちょっと見てみたいとおもったことは内緒で。さっさと服を出してあげよう。
「はい、これでいいかな?」
「あ、ありがとうございます。すみません、与えていただいている立場なのに不満を申してしまって…」
「いやいや、構わないよ。それじゃ、俺はあの木の陰にいるから、終わったら呼んでね」
女性の着替えを見ているわけにもいかないので移動する。その間に近くの町までの道をマップで確認する。ここから20キロ先か…随分人気のないところまで連れ出したみたいだなあいつら。いや、あの子が逃げてたのかな?たぶんそうだろう。そうじゃなきゃちょっと遠すぎるからね。しかし20キロを俺なら2秒あればたどり着けてしまうと気づいてなんか嫌になった。早くこのチート性能の体に慣れなくては色々やらかしてしまいそうだ。
「あの、着替え終わりました」
「ん?ああ、了解」
少女に声をかけられたので木の陰から出て行くと、そこには赤を基調にした異国風の服を着た少女が立っていた。異国風というかたぶんこれがこの世界の普通の格好なんだろうが。華美な装飾はないが、要所要所に女の子らしい刺繍がしてある。ちゃんと尻尾が出せるように後ろには穴が開いている。その隙間から中が見えないのか…?と心配になったが、どうやら紐で縛って隙間をなくすことができるようになっているみたいだ。安心した。残念とか思ってないから。
「うん、鱗が赤だったから赤い服にして見たんだけど、よく似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます…」
ちょっと恥ずかしそうだ。うん、かわいいね。今更だけどこの子、めちゃめちゃ美人、というか可愛いな。こっちの世界ではこの子レベルの子がごろごろいるとでも言うのか…?なんて考えてたら、ふと彼女の手首についている紋章のようなものに気がついた。なんだか知らないがすごく不愉快なものな気がする。
そんな俺の視線に気がついたのか、少女が申し訳なさそうにしている。
「す、すみません、お見苦しいものを見せてしまいまして…すぐ、隠します」
そういって、先ほどまで身につけていたもはや衣服とは呼べない布を巻き付けようとした。それがなんなのかは、全知全能先生が教えてくれた。教えてくれた。あれは、『奴隷の証』、らしい。
「いや、少し見せてくれないか?」
「あ…」
そう言って少々強引に少女の手を取る。手首にはイバラのような印が巻きついており、手首の内側には剣の紋様がある。一見するとお洒落なように見えるが、とんでもない。この剣の紋様の先はちょうど彼女の動脈に突き刺さるような位置にある。これはつまり、奴隷が主人に逆らえば…胸糞悪い話である。しかし、もっと驚くべきことがあった。全知全能先生によれば、この奴隷の証は、違法なものであるそうだ。
この世界には奴隷制度があることはある。しかし、奴隷に落とされるのは悪事を働いたものだけである。そういった奴らが奴隷として働かされ、刑期を終えれば奴隷から解放されるのだ。その際、奴隷の証は刻まれるのだが、本来であればイバラの紋様のだけであり、剣の紋様がつけられることはないそうだ。当然ながら奴隷を管理しているのは国家であり、奴隷商人などという職業は本当ならば存在しない…が、彼女のように、不当に奴隷にされるものが時々いるみたいだ。しかも、このように逆らえば命の危険にさらされるような証をつけられて。
「ちっ…胸糞悪い事しやがるやつらがいるものだ…」
「す、すみません、お見苦しいものを」
「君は謝る必要はない」
この子はおそらく、角なし羽なしとして一族を追われたところを奴隷商人に捕まったのだろう…そして、龍人族だと聞いていたが、見た目は蜥蜴人族であるため、この子を買い付けたさっきの奴隷商人たちが激怒して暴力を働いていた、ってところか。胸糞悪いにもほどがある。
どうにかできないものかと、その印に触れてみる。すると…
「え?」
「あ、あら?」
黒いイバラの紋様が、なぜだか白い植物の蔦のような紋様に変わってきている。そして、手首の剣の位置までくると、今度はその剣の紋様がいわゆる天使の羽のような紋様に変わった。ふと気がつけば、全知全能先生が反応して、聖印とかいうスキルが発動している。なんとなく先生がグッとサムズアップしてる気がするが…これはもしかしなくても…やっちゃった、よね?
「こ、こここここの印、は!?か、かか神の印…!?」
「あーうん、へー、神の印っていうんだ…」
「し、失礼しました!やはりあなた様は神の御使であらせられたのですね!」
そのまま土下座の姿勢に移行する少女。神ではないけど、神の御使ってのは、あながち間違いでもないかもなー…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あの後、なんだか本当に神を崇めるように平伏して顔を上げない彼女をなんとか説得して、町の宿までやってきた。とりあえず、落ち着いて話をしたかったからだ。彼女の腕はさっきとは違う理由で隠してもらっている。なんか逆にめちゃめちゃ騒がれそうだからね…
ちなみに、移動はもうなんかめんどくさくてさっさと移動したかったので、彼女ごと瞬動で移動した。そんなことしたからさらにそこで平伏されそうになったが。なんとか止めた。
「すみません、とりあえず一泊したいのですが、2部屋用意できますか?」
「悪いね、今は1部屋しか空いてないんだよ。大きい部屋だから2人なら泊まれるよ。どうする?」
「そうですか…いえならその部屋をお願いします」
「はいよ、なら1人銀貨1枚だ。飯代は別だよ」
そこでふとやばいと思った。俺金持ってるのか?少女は当然もっていないし…町に入るのに特にお金がかからなかったからここにくるまで忘れていた。
だが、そこはさすが神様。ちゃんとアイテムボックスの中にお金が入っていた。ポケットに手を入れて、そこに銀貨を2枚取り出す。アイテムボックスはどうやら貴重なようなので、なるべく隠した方がいいのかなと思っての行動だ。
「はい確かに。二階の1番奥の右側の部屋だよ。これ鍵ね」
「はい、ありがとうございます」
そう言って足早に部屋に向かう。ちなみに少女は町に着いてから一言も喋らない。ガチガチに緊張している。俺を神の御使だと信じきっているみたいだ。これは…全部正直に話すか…詐術スキル先輩を使えば、全て話す必要はないかもしれないが、これからもこんなことが起こるかもしれない。それならば、ここで話してしまって、彼女に協力を仰ごうと思う。了承してくれるかはわからないけどね。
部屋に入りしっかりと鍵をかける。鍵だけではなんか不安だったのでもう自重なしで封印スキルをかけておく。全知全能先生大活躍。
「さてと…何から話そうか…って、あのねぇ…」
ドアから振り返ると、またもや少女が土下座していた。だからやめろって言ってるのに…。
「それやめてくれって…システィーナ・レオンハルトさん」
「いえ、神の御使様の前ですので…え、なぜ、自分の名前を…?」
「あー…まぁわかっちゃうんだよねぇ…とりあえず全部話すから座って聞いてくれるかな?」
そして、俺は10分くらいかけて、自分が何者であるかについて話した。うん、俺もよくわかってないから10分くらいで終わっちゃうんだよね。
「異世界の転生者、だったのですね。しかし、種族が神の子とは…」
「そうなんだよねぇ。人のスキルボードって見えるんだっけ?」
「はい、その人に見せる意思があれば」
「そっか、じゃあ見てもらった方が早いかな」
スキルボードを起動してシスティーナの方に向ける。この辺りはなんだかハイテクだなぁ。
「本当に種族が神の子、ですね…って、な、なんですかこのステータス!?称号もこんなに…」
「ああ、うん、なんかスキルは全部持ってるっぽいんだよね。最初は称号とかにまとまってなくてスキル欄が1万以上びっしりで何がなんだかわからなかったよ」
「す、スキル欄が1万以上…?」
「まぁギュッとしたら称号とスキル100個に圧縮できたけどね」
「とんでもないです…スキル保有欄は現在確認されている最高数でも85ですよ?」
「まぁチートな能力もらったし、15くらい多くてもいいんじゃないか?」
「その、ちーと?というのはどういうものかわかりませんが…多いのは15ではないですよ?考えて見てください。もともとは1万以上だったのでしょう?これで全てのスキルを保有しているそうなので、増えることはないのでしょうが…スキル保有欄が1万以上あるということですよ?85と1万ですよ?とんでもない差ですよ!?」
「…おお、そういえばそうか」
そうだった。伝説の勇者はスキルを50個持っている、ではなく持てるスキルの数が50個で限界なのだ。それに比べて俺は1万以上スキルが持てるのだ…いや、え、なに?ちょっとおかしすぎない俺?
「俺やべーな…」
「なんでちょっと人事なんですか…」
だってこの体になってからまだ1日も経ってないからなー。
「そんなことより、このステータスですよ!?オール999って何事ですか!?HPとMPも1万って…」
「あー…やっぱりその値もおかしい、のか?」
「おかしいですよ…これは見てもらった方が早いですね。見てください、これが私のステータスです」
そういってシスティーナは彼女のステータスをみせてくれる。どれどれ、どれだけ俺がおかしいのやら…
名前:システィーナ・レオンハルト Lv.16
種族:龍人属
職業:神の子の眷属
能力値:HP900/900
MP400/400
筋力30
魔法力15
防御力32
魔防力20
知力40
素早さ33
運25
取得スキル:槍スキル、龍人の加護
………うん。……うん?
「システィーナ、弱くない?」
「違いますよ!このレベルでこれだけのステータスならむしろ高い方です!」
「え、だってさ、え?」
我がことながらちょっと状況についていけない。え?なに?これでそこそこ高いステータス?なの?え?
「………俺化け物じゃねぇかよ?!」
「そうですよ!あ、いえすみません化け物とは思ってないです」
「いやいいよそこ取り繕わなくて…俺だったらどんだけ恩義があろうと言うから。化け物じゃねえかって」
「それなら、失礼して…化け物のなかでも最上位の化け物ですよこんなの?!」
言っていいって言ったの俺だけど、実際言われると傷つくもんだなー。いやまぁしょうがないけどね…
「ていうかさ…俺、レベル1なんだけど…まだ上がるってこと?」
「定かではありませんが…おそらく…」
「……魔物退治とか、あんまりホイホイしない方が良さそうだね、俺」
「正直、その値まで行くと、増えても減っても変わらないんじゃないでしょうか…」
「あーそっか。もはや気にするのも馬鹿らしいって感じか…」
うん、もはや増えるスキルもないわけだし、数値は気にしても仕方ないし、人に見られるとやばいし、スキルボードは封印しよう…
その後、2人とも落ち着くのにしばらく時間がかかった。落ち着きを取り戻したあと、俺はもう1つ気になってることを尋ねた。
「あーそれでさ、システィーナの職業なんだけど…これってやっぱりそれ?」
「でしょう…昨日までははっきりと奴隷と書いてありましたので…」
なんだ、神の子の眷属って。つまりは俺の眷属ってことか…俺、加護とか与える立場なの?もう神じゃん。やっぱ神じゃん俺。
「その、すまんな、なんか勝手に眷属にしちゃって…」
「いえ、そこはとても感謝してあります!いくらお礼を言っても足りないくらいです!まさかあの魔王の生み出したとされる邪法を破れるなんて思っても見ませんでした!」
おっと、この世界には魔王なんてものがいるのか。さすがは剣と魔法の世界。きっと勇者もいるのだろう。
「いやでもさ、まさか職業に分類されるとは思っても見なかったからさ…やりたいことだってあっただろう?」
「そんなことはございませんご主人様!」
「あ、え、なに?ご主人様?」
「はい!私も使えるべき主人がやっとできました!というか、もうご主人様以外の人にはお仕えできません!職業的に!」
「あーうん、そっか、そうなるよね…ごめんね…」
そりゃ、雇った人の職業が神の子の眷属なんて見たら俺なら拒否するね。もう俺についてくるしかないよね、この子…
「い、いえ、だから決して嫌なわけではないのです。私は神の子だからご主人様に仕えたいわけではありません」
「はぇ?そうなの?」
「はい、私はご主人様の優しさに一目惚れいたしました。正直に申しますと、奴隷と主人であったとしても契約していただきたいと思っておりました…」
「え、なんでさ?こんな怪しいやつ」
「ご主人様は初対面でありながら私を助けてくださいました。さらに、違法な奴隷の証を見て、本当に怒ってくださいました。そんな優しさに私はこの人になら奴隷としてでもお仕えできると思ったのです!」
えー…そんな高評価されても困るんだけど…
「それに…私には行くあてがございません。こんな言い方は優しいご主人様には脅迫に聞こえてしまうかとおもいますが、ご主人様に拒否されると途方にくれてしまうのですよ…なので、おねがいします!なんでもやりますから、お仕えさせてください!」
「…わかった。一緒に行こう、システィーナ」
「はい、ありがとございます!」
「でもさ…ご主人様はやめてくれないか?」
「いえ、そこは譲れません。というか、この呼び方が1番しっくりくるんです」
うん、それはなんとなく俺も思った。システィーナにそう呼ばれるのはしっくりくる。眷属ってそういうものなのかな…
「まぁいいか…とりあえずこれからよろしく頼むよ」
「はい、お任せください!」
「あ、でも先に言っておくぞ?」
「なんでしょうか?」
「俺は…勇者になるつもりも英雄になるつもりもないぞ?」
「はい」
「とくに偉大なことを成し遂げようとも思ってないぞ?」
「はい」
「ただただ気ままに旅をするつもりでいるのだが…そんな俺に仕えていいのか?」
「問題ありません!私はご主人様にお仕えできるならたとえ気楽な旅であろうと地獄の果てであろうとついて行きます!」
「そっか。なら改めて…システィーナ、俺と一緒に世界を楽しく旅しよう。お気楽な旅だが、途中で飽きたりするなよ?」
そう言って手を差し出す。その手を、システィーナはしっかりと、そして恭しく握ってくれた。
「どこまでも、お供させていただきます!」
こうして、俺は旅のお供を手に入れた。本当になにをするでもなくブラブラと世界を旅するつもりなのにね。ま、1人で旅するよりは2人で旅する方が楽しいからいっか。