神の子って神様ではないよね?
「ん…んん…?」
目を覚ますと、俺は木陰にいた。知らない場所だ。転生した…ってことでいいんだよな?なにか転生したってことがわかるものがないかとあたりを見回すと…すぐに見つかった。
「おお…!あれが世界樹か!」
遠くの方に、とてつもなく大きな木が見えた。昨日…昨日なのか?あれからどれくらいたったかわからないが、とりあえず神様に聞いた世界樹があの木なのだろう。ここからどのくらい離れているのかわからないが、先端が雲の上にあることだけはわかる。つまりは富士山とかそれ並みの山くらいの大きさがあるのだろう。とんでもない大きさだ。
「本当に…異世界なんだ…!」
テンション上がってきた!夢にまで見た異世界!剣と魔法の世界!
「あ、そういえばこの世界ではステータスってのが存在するんだっけか…確認しとこう」
意識すると、目の前にホログラムのようにゲームのメニュー画面のようなものが現れる。これが自分のステータス画面らしく、この世界の住人なら誰でも持っている能力でステータスボードと言うんだとか。実にファンタジー。というかゲームっぽい。
そこに書かれている能力を確認する。確か神様が可能な限り強くしたって言ってたが…どれほどチートなのか。
名前:ハクト・イナバ Lv.1
種族:神の子
職業:旅人
能力値:HP10000/10000
MP10000/10000
筋力999
魔法力999
防御力999
魔防力999
知力999
素早さ999
運999
取得スキル:ALL
「…なんだこれ?え?カンスト?」
ステータスを見て驚いた。見た感じまさかのカンスト!?しかも取得スキルALLって…マジで?
「ん?あ、いやそういうことか!」
よくよく見たらレベルが1であった。つまり、レベル1の初期ステータス値での限界の値であり、レベル1で取得できるスキルは全部あるよ、ということなのではないだろうか。
いわゆる『個体値』が高い、ってことだろう。きっとレベル1では破格の強さなのだろうが、レベル50の相手なんかは無理って感じかな?
「というか…種族、人じゃねぇのか」
どうやら可能な限りのチート能力を与えられたために種族は人ではなく神の子になってしまっている。これ、ステータスを他人に見られたら大変なことになるんじゃ…?ちょっと気をつけよう。
「えっと後は…スキルALLって具体的には何があるのかな?」
何気ない気分で全表示を選択すると…
「な…?!え、ちょ、ちょっと…!?」
ステータスボードが文字で埋め尽くされた。一体何個あるんだこれ…レベル1でもスキルの種類が豊富すぎるということなのだろうか?
「…いや違うな…これ、本当に全部のスキルあるのでは…?」
とんでもない数のスキルを見ていると、中には剣術の極みとか、絶対防御とかゲームなどの知識で言えばレベル1では手に入らなそうなスキルの名前がちらほらある。ていうか、毒耐性と毒無効化みたいに完全に下位上位のスキルも見られる。神様…これ、いいや全部入れちゃえ!みたいなノリで入れたでしょ…
「まぁいいや、とりあえず時間もあるし、魔物の出ないあたりに召喚するって言ってたからここでスキルの確認してから街でも目指そうかな」
しかしこの量のスキルを全部確認できるのだろうか…
そしてスキルを確認すること30分くらいたったとき。そろそろ飽きてきたと思っていたら、良さげなスキルを見つけた。
スキル統一、というもので、効果は完全に同種のスキルや下位のスキルをまとめて1つにできるスキルらしい。つまりは先ほどの毒耐性は毒無効化があるのでなくなったり、瞬動というスキルと瞬歩というスキルは説明を見る限りほぼ同じ効果なので一緒になるというもののようだ。名前が違うのは取得方法に違いがあるらしいのだが、もともと全部持ってるので詳しいことはわからない。
なんのためにこんなスキルが?と思ったらなんのスキルかわからないがとにかくどれかのスキルが発動したらしく、さらに詳しい解説が出てきた。
どうやら種族や個人個人で持てるスキルの量が異なるらしい。一般的には人は保有枠が50もあれば伝説の勇者級とかいてある。軽く1万以上のスキルを保有してる俺は間違いなく人間ではないのだろう…これが種族神の子の理由なのかもしれない。
それにしたって保有枠50で伝説の勇者ってのはいささか言い過ぎなのではないだろうか。さすがに1万(推定)と50では差がありすぎる。
と、思ったが、スキル統一を使ってみて納得した。一瞬でギュッとまとめられたスキルの数は、なんと100まで縮まったのだ。どれだけ無駄なスペースを使っていたのやら…
それにしたって減りすぎな気もしたが、これも他の理由で納得した。ステータスボードに称号の欄が追加されており、剣を極めし者、魔法を極めし者なんかが追加されていた。
どうやら称号の効果が、今まであったスキルを使えるという証明らしく、称号さえあればスキルの欄から消してもそのスキルは使えるらしい。
伝説の勇者とやらもきっとこの称号なんか使っていたのだろう。最初っからそうしていただけませんかね…俺がスキル統一に気がつかなかったらどうするつもりだったのやら。案外神様はめんどくさがりなのかもしれない。
続いて、スキルの実践である。全部使うことはできないが、気になるものや面白そうなものからいくつか選んで使ってみることにした。今は『全知全能』という称号に統一されたようだが、そういう鑑定スキルのようなもの(とにかくありすぎたのでどれかは把握してない)のおかげで何ができるかはだいたいわかるのだが、やっぱり知識であるのと使って実感するのは違うと思うのだ。
とにかく、使って見るのは称号『武芸を極めし者』に今は統一されているさっきもちらっと紹介した瞬動というものだ。なぜかと言えば…当然!こういうスキルに憧れていたからだ!やっぱり敵の目前に瞬間的に移動して無双するのとか憧れるよね!
「というわけで…いっきまーす!」
誰もいないのだがテンション上がりすぎて謎の宣言をしてから瞬動を全力で発動してみた。すると、一瞬視界が少しブレた。すると、先ほどとは違う場所に移動していた。すげぇ!本当に瞬間移動できた!でも慣れないせいかちょっと変な気分だ。
「これどれくらい移動してんのかな?」
とりあえず全力で行ってみたが、現在いる場所が人気のない森のような場所なのでいまいちよくわからない。そこで他のスキルも使ってみた。マップとマーキング、というスマホアプリのようなスキルだ。
マップはその名の通り地図を表示するもので、神様パワーのおかげでどうやらこの世界すべて網羅してるみたいだ。そして、マーキングをつかってそのマップに印をつけることができる。
ちなみにこの2つのスキルは称号『世界を踏破せし者』に統一されている。本当に最初から称号いっぱいでよかったんじゃないだろうか?
「えっと、現在の位置をマーキングして…よし、もう一回瞬動!」
また視界がブレたと思ったら違う場所に移動していた。やっぱりちょっと気持ち悪い。使える事と使いこなせるという事はやっぱり違うんだね。
「さてと、どれくらい移動したのか…あれ?マーキングの印がない?」
マップを開いてみたが、先ほどの印がない。失敗してたのかな?あるいは…まさか、と思い現在の自分を中心に2キロくらいの範囲の縮尺で表示しているのだが、それをもうちょっと広めで表示してみた。すると…
「げ、あったよ…」
ここからおよそ10キロ離れたところに先ほどの印があった。いや、10キロって…さすがに人間離れしすぎでは…?
その後、最小の力で瞬動を使ってみたところすぐそばに瞬動を行えた。何回かつかって、だいたいどれくらい移動できるか把握しないとちょっと使えない…と思ったら、またしても『全知全能』の何らかのスキルのおかげだろうか。どれくらいの力で行えばいいのか何となくわかった。これは便利だ。
そして今度から色々試すにしても全力で行うのはやめておこうと心に刻んでおいた。神の子の力は伊達じゃないみたいだ。色々気をつけよう。
次に使ってみるのは危機感知系のスキルだ。たぶんちょっとやそっとじゃ死なない体にしてもらってるだろうが、自ら危険なところに飛び込む気はないからね。こらは称号『究極のビビリ』という不名誉な称号に統一されているものを全部使ってみた。
すると、周辺10キロに危険な魔物は無しなど有益な情報が出たりしたが、それ以外にも落ちてきそうな木の実なんかまで表示されて、同時に使っていたマップに大量のマークがついて大変なことになっていた。
木の実ってさ…ちょっと調べてみたけど落ちてきたら当たってもダメージが1しか入らないようなものまで入っている。
つまりはどんな人間でも防御力が1あればノーダメージで怪我はしないようなものだろう?究極のビビリの称号は伊達じゃないな…とりあえず、これでは本当に危険なものが判断しにくいので、全知全能の力を借りて欲しい情報が得られるものだけ発動にする。全知全能マジで便利。
そこで、ふと気がつくと、魔物はいないのだがマップにいくつかのマークがついているのを見つけた。どうやら人がいるみたいだ。
まぁ魔物のいないただの森だし、人くらいいるか…と思ったのだが、神様の話を思い出した。俺が送られたのは人がまだ開拓もしておらず、目ぼしい食料も手に入らないため放置してある大陸の端っこの地域だったはず。
この世界、イナバニアはまだまだ発展途上の世界のようで、そういった場所がいくつか存在するらしい。そんな場所になんで人がいるのだろうか?というか、よくみたら危険レベルはそんなに高くないが危機感知スキルにも反応があるみたいだ。
何人かいるうちの1人だけ反応していない…ということは、だ。つまりはその反応していない1人が危ない、ということなのか?どうにかしてもう少し状況がわからないかとあれこれ考えていると、またしても全知全能先生のおかげで集団の情報がさらに細かく表示された。4人のうち3人が奴隷商人(違法)と書いてあり、もう1人は…おお、さすが剣と魔法の世界。もう1人は龍人族の少女のようだ。話には聞いていたけど本当にいるんだな!
「っと、そんな場合じゃないか。まぁ見かけたのに無視するってのもあれだし、もうちょっと近づいて様子を見てみるか…」
そこまで言って気がついた。マップにうつった4人はHPも表示されているのだが…龍人族の少女のHPは残りわずかとなっていた。それに気がついた瞬間、考えるよりも早く体が動いていた。瞬動を用いて、一気にその場まで移動した。
その先で見たものは、思ってたより胸糞悪い光景であった。3人の男は、木の棒で龍人族の少女を容赦なく殴っていた。少女の依頼はボロボロになっており、ギリギリ大事なところが隠せる程度しか残っていなかった。
「何が龍人族だ!いい商品見つけたと思ったのに蜥蜴人族じゃねぇかよ!期待させやがって…!」
「こっちがどれだけ金出してお前を手に入れたと思ってやがる!」
男たちはそんなことを口にしながら少女に暴行を繰り返している。もうほぼ瀕死の少女は抵抗することはおろか、喋る気力も残っていないようだった。
見た瞬間、激しい怒りがこみ上げてきた。昔から正義感が強いとよく言われるくらい、こういうのを見過ごせないのだ。
弱者に対する暴行。
俺が最も腹がたつ行動だ。幸い日本ではほとんど見かけなかったが、時々野良猫なんかをいじめてるヤンキーたちなんかに対してもムカついていた。当時はそれに口を出して返り討ちにあったりしたこともよくあった。もともと武芸になんかかじったこともなかったからね。しかし今は違う。ちょうどいい、腕試しといこうか。
「おいお前ら、何やってんだ?」
「ああ?誰だてめぇ?」
「ちっ、こんなところに人がいやがったか…」
「関係ねぇよ。見られたからにはあいつもやっちまえばいいんだ。幸い弱そうな兄ちゃんだしな?」
俺が声をかけると、下衆な笑みを浮かべたままこちらを振り向いた。まぁ確かに俺は強そうな見た目はしていないが、舐めらてるのもなんだか腹がたつので、威圧スキルを使ってみた。
「あんまり舐めてると、痛い目見るぞ?」
「あひっ…!?」
「あ…が…?!」
「うひぃぃ…!!」
バタバタバタ
「…え?あれ?」
すると、なんということでしょう。スキルを加減なしに使ったら、3人とも泡を吹いて倒れてしまいましました…え、まじか?やべぇただの威圧スキルなのに…説明にも敵を威圧するとしか書いてないのに…死んでないよね?
確認すると3人のステータスは昏倒となっていたため、気絶しているだけのようだ。よかった、殺してはないみたいだ。
「っと、そんなことより、大丈夫ですか?」
「ひっ…!」
殴られていた龍人族の少女に駆け寄ると怯えられてしまった。どうやら威圧スキルの対象にはしていなかったのだが、少しは効果が出てしまったみたいだ。なので、努めて優しく語りかける。
「大丈夫ですよ、危害は加えません。とりあえず、これを着てください」
身につけていたマントを少女に差し出す。今更だが、俺の今の格好は俺が想像するような異世界の旅人みたいな質素な格好に、マントを羽織っているような格好だ。さすが神様わかってるぅ!
なんて馬鹿なことを考えていると、少女がおずおずとマントを受け取って身につける。よし、これでとりあえずはオーケーだ。実のところ余裕をかましていたが女性経験が少ないもので半裸の女性なんてどのように扱っていいのかわからなかったんだよね!
「とりあえず、回復するね」
全知全能先生の力を使い、簡単な回復魔法をかけてやる。上級魔法になると詠唱は必須になるらしいが、簡単な初級魔法なら無詠唱で行えるんだってさ。そのうち魔法の研究もやってみたいね!今からワクワクが止まらないよ!
「え…?嘘、全回復、した…?」
なんてことを考えていると、彼女のHPは一瞬で全回復した。ふむ、回復魔法は随分とコストがいいみたいだ。初級の初級クラスの魔法なのだがMPは10しか消費しなかった。俺のMPは10000あるので、千回は使えるわけだ…いや、それ以上のようだ。神様のチートやべぇ。どうやら俺のMPとHPは毎秒10回復するらしい。HP10回復ってのは少々心許ないが、MP毎秒10回復なら今の回復魔法はほぼ無限に使えるわけだな。
「じ、上級魔法を、無詠唱で…?」
「え?いやさすがにそんなのはできないよ(たぶん)。今のは1番簡単な魔法なんだけど…」
「ええ!?で、でも全回復、しましたよ…?」
「うん、したね…あ」
もしかしてこれは…やってしまったのだろうか?ちょうど先ほど瞬動や危機感知で学んだことを思い出した。俺…というか神の子のチートレベルを。
この少女がどのくらい回復したのか具体的な数字ではわからないが、ほぼ瀕死の状態から全回復したのだ。そりゃさすがに初歩の初歩である魔法では無理…なんだろうな、きっと。
まだ魔法の実験は行えていないのでわからないが、少女の驚きから見る限りそうなんだろう。
「神様…なんですか?」
「は!?いやいや違うよ!?」
神の子らしいけどさすがに神様…ではないよね?なんか最初この世界の神にしてやるとか言われたけどさ…
「す、すみません、そうですよね…白髪に赤い目なので、てっきり神様なのかと…」
「うん、神様じゃないよ…なんですと?」
「え?白髪に赤い目、ですよね?」
すぐさま今の自分の顔を確認する術を全知全能先生に尋ねる。するとミラーといつ魔法があったためすぐにそれを発動させる。そこにうつっていたの…
「おお…マジか…」
見た目の雰囲気は以前の通りであったが…髪は白く、目が赤くなっていた。当然前は黒髪に黒い目の純日本人でしたよ。
神様、こうするならこうすると先に言っておいてくださいよ…これじゃほんとに白兎みたいだ。