神の嫉妬ってとんでもなさそう。実際とんでもないことになりそうだった
「おお、あの方が現人神様…神の子か」
「白髪に赤目…まさか伝説の創造神様なのか…?」
「それは分からぬが…なんとも神々しいお姿じゃ」
偽勇者騒動の翌日。勇者を歓迎する祭は本当に神の子に捧げる祭、ハクト祭と名前を変えて開催されていた。
現在俺は豪華な神輿のようなものに乗せられて街を一周させられているところだ。はっきり言ってめちゃめちゃ恥ずかしい。
仲間たちは俺を裏切り(?)、神輿には乗らずに神輿の後を馬に乗ってついてきている。マリーは馬には乗ったことがなかったらしくララと一緒だ。システィは幼い頃に乗ったことがあったらしい。さすがは元騎士の娘さんですね。乗らなかったら無理やり一緒に神輿に乗せてやろうと思ってたのに…
ていうかさ、ちらほら神々しいお姿だとか聞こえてくるけど、俺この街普通に歩いてましたよ?別に今は諦めて神気を解放してるとかないから何も変わってないんですがね?
しかし、今たぶん1番大変なのは宿屋夫婦だと思う。俺が神の子って公爵様から紹介があった時、何人かが俺が屋台にいたことを覚えていたらしく、ハンバーガーは神のもたらした有難い食べ物であるとかいう話が広がっちゃったからね。今頃悲鳴をあげてるんじゃないだろうか。あの2人なら嬉しい悲鳴になってくれてることを願うよ。
「現人神様ー!こっち向いてー!」
色々諦めている俺は苦笑いのまま声の聞こえた方に手を振ったりしている。それだけで観衆はわー!と大騒ぎだ。地球でのオリンピックの凱旋パレードを思い出した。まさか自分が手を振る側になるとは思わなかったけどね…
「うんうん、私のハクトちゃんが人気で私も嬉しいのよ」
「…え?神様?」
いつのまにか俺の真横に神様がいた。相変わらずふよふよ浮いている。ていうか、
「いいんですか?本当の神様がこんなに人の多い、しかも注目されてる所に出てきて?」
「今はハクトちゃんたちににしか見えてないから大丈夫よー」
見ると、確かに周りの人達は特に変わらないが、馬上のシスティたち驚いて目を見開いている。
さすがは神様、なんでもありか。
「これくらいならハクトちゃんにもできるわよ?」
出来なくていいです。なるべく人として生きていきたいんで。
「それより神様、なんかこっちに来てからやたらと変なことに巻き込まれるんですけど、なにか知りません?」
「そうそう、そのことで謝りに来たのよねー」
え、謝りに?
「あれ神様の仕業なんですか?」
「私のせいじゃないわよ。私だって可愛いハクトちゃんにあんなことして怒ってるんだから」
ぷんぷんという効果音が似合いそうな感じに怒る神様。随分可愛らしい怒り方なもんで本当に怒ってるかわからないが、なんか俺でもぶるってしまいそうなオーラが漂って来てるので怒ってるんだろう。どうやったらこんな可愛らしく人を殺せるほどの怒気を発することができるのだろうか…
「あれね、この世界に先にいた現人神の子がハクトちゃんに嫉妬してやってるみたいなの」
「え?現人神の嫉妬?」
「そうなの。私がハクトちゃん可愛いがってたら嫉妬しちゃって。別にあいつは私の子供じゃないのにねー」
いや、神様が可愛がってくれてるから嫉妬してって…回り回って神様のせいじゃないですか?ていうかなにそれ?!俺なんもしてなくね!?
「やめさせてくださいよそんなの!」
「そうしたいのはやまやまなんだけど、あいつがどこにいるかもわからないのよねー。あいつはこの世界で暮らしてるからある意味私よりこの世界について詳しいし、うまく隠れてるのよ」
「そんなぁ…神様ほどのかたなら…ていうか、そういえば神様って何神様なんですか?」
そういえばそれを聞こうと思ってたんだ。この世界にはありとあらゆる神様が存在するらしいが、俺をこの世界に連れて来てくれたこのホワホワした神様はいったい何神様なんだろうか、と。
「ん?創造神だけど?」
「あぁ、創造神様でしたか……創造神?!」
ふぁっ!?え!?創造神!?それなりに地位が高そうな神様だとは思ってたけど、まさかの創造神様!?ぶっちぎりのトップじゃないですか!!
「あれ、でも創造神様って白髪に赤目じゃなかったですっけ?」
神様…創造神様の見た目は綺麗なブロンドの髪に、透き通るような青い色をした目であり、白髪赤目とは全く違う。
「あーそれね。私他の世界も管理してるから、世界ごとに見た目変えてわかりやすくしてるだけよ。ほら、こんな感じで」
そう言うと、創造神様の見た目がいつのまにか白髪赤目になっていた。俺と同じだ。
ていうか、さらっと言ったけど他の世界も管理してるって何?この神様すごくない?
「金髪に青目は地球仕様ねー。ハクトちゃんの前に出るときはそっちにしてたから。そうね、こっちの世界に来たから今度からこっちにしときましょうか」
「地球仕様…もしかして、地球も管理してたんですか?」
「地球の方はお手伝いよー。私の専門は剣と魔法の世界だからね。地球では…まぁ娯楽神の1人ってところかしら?」
なるほど、剣と魔法の世界の神様なら、俺のような異世界物ラノベなんかにはまってる人からすれば確かに神様だ。
「ハクトちゃんとお揃いの方が私も嬉しいし、うん、今度からこっちねー」
えへへーと笑いながら俺の頭を撫でてくる創造神様。なんか本当の母親みたいだ。割と早く母親を亡くしてるので慣れてなくてなんか恥ずかしい。母さん亡くしてなくてもこの年だと恥ずかしいか。
「や、やめてくださいよ、またその現人神に恨まれます…ってそうでした。すみません話そらしてしまって。創造神様でもどうにもできないって、どうすればいいんですか?」
「んー大丈夫じゃない?ハクトちゃん今のところ全部計画を途中で潰しちゃってるし」
「え?そうなんですか?」
「そうよー。ララちゃんの時は、龍人族の子を生贄にして昔ちょっと乱暴して国を壊滅させかけた暴れん坊の龍を復活させようとしてたけど、その計画を任されてた眷属の子をハクトちゃんが消滅させちゃったしー、偽の勇者に渡した魔剣を使って軍団を作ってハクトちゃんにぶつけるつもりだったみたいだけど、その最初の街でハクトちゃんが魔剣を壊しちゃったし?」
えぇ…なにそれ…めちゃめちゃ恐ろしいことになりかけてますやん…
流石に国を滅ぼすほどの龍の相手をするのは嫌だし、ステータス300オーバーの軍団ってのも勘弁して欲しい…
「まぁどっちも成功したところでハクトちゃんの敵じゃないと思うけどねー。その暴れん坊の龍だって国を滅ぼす前にその時代の勇者にやられちゃったわけだけど、その勇者だって今のララちゃんよりは弱かったはずだし、軍団作ったところでマリーちゃんがやったみたいに魔法で洗脳は解除できるからねー」
あ、そうなんだ。いやでもできれば相手したくなかった。知らずのうちに計画を潰せてよかった…
「ていうか、あのガラティナってやつは眷属だったんですね…もうちょっとステータスちゃんと見とけばよかったです。創造神様が大丈夫って言うなら大丈夫なのかなぁ」
「大丈夫よー。どうしようもなくなったら私が助けてあげるし。ていうか、その創造神様ってなんか他人行儀で嫌なのよ」
「え、でも、それじゃなんて呼べば?」
「んー確かに私名前ないからなぁ…お母さん、とか?」
「……え?」
「うん、いい考えだわ!ハクトちゃんは私の子なわけだし、お母さんね!」
「お、お母さん、で、決定ですか…?」
「うん、決定。ほら、お母さんって呼んでみて?」
まじか…地球にいた頃だって呼び慣れてないのに…無性に恥ずかしいんだが…
「……か、母さん?」
「んー!お母さんじゃなくて母さんだけど確かにハクトちゃんくらいの年頃の子ならその方があってるわね!母さんですよー」
ぎゅーっと俺の頭を抱きしめる創造神様…母さん。恥ずかしいけど、俺は神の子なわけだし、間違ってはないからしかたないか…抱きしめられるのも柔らかいし、落ち着くし、安心できるし、柔らかいし(2回目)。
「おい、さっきから現人神様はなにをやられてるんだ?」
「わからんが、きっと俺たちのような一般人にはわからない方が普通なんだろ」
「さすが神様ねぇ」
そんな声が聞こえてきて、神輿の上で大勢の人に注目されているのを思い出し、母さんの姿は見えてないにしても抱きしめられてるのを見られてるような気分になり、さらに恥ずかしくなったわ。