魔剣デクスカリバーの真の姿。真の姿ってかっこいいよね。
「レミリア嬢よ!勇者と婚姻を結ぶことに異議はあるまいて?」
「え、いや、しかし…」
勇者の大声が部屋中に響き渡る。何言ってんだこのデブは、みたいな表情をしている人は数名いたが、口に出す人はいなかった。
「ゆ、勇者様、突然いかがなされたのですか?」
なんとか声を絞り出したのは公爵様だった。公爵様は晩餐会に出席している他の貴族の相手をしていたのだが、突然のことに驚いてとっさに自分の娘と勇者の間に慌てて体を滑りこました。
「公爵よ、悪い話ではあるまい?いずれはレミリア嬢もどこぞの家に嫁に出すつもりなのだろう?ならば、私がもらってやろうと言っているのだ。勇者の嫁だぞ?素晴らしいだろう」
「た、確かにその通りなのですが…」
レミリア様も貴族なのだからいずれは名のある貴族に嫁入りすることになるかもしれない。というかたぶんするだろう。貴族を知らない俺でもわかる。貴族ってそういうものだろう?そしてその相手が世界でも貴重な勇者ともなれば、家によってメリットしかない。相手がお前のような偽勇者じゃなかったらな!
今の発言で気がついたことは、こいつはおそらく自分が本当に勇者だと信じているということだ。つまり、騙されていると気がついていない。本当に聖剣に選ばれたと思っているのだ。
騙されていない方ががまだ良かったんじゃないかな…余計にタチが悪いわ。
「どうだ?勇者である私の妻となれば将来は約束されたようなものだろう?それとも、断ると言うのか?」
「う……」
一方で公爵様は悩んでいるようだ。公爵様もあいつが本当に勇者だと思っているはずだが、すぐにはいとは言えないようだ。たぶんポンコツなこいつの具体的な話も知っているのだろう。勇者じゃなければすぐ断っていただろう。
「レミリア嬢も私のことを悪くは思っていないようだし、問題なかろう!」
リチャードは晩餐会が始まってからほぼずっとレミリア様に話しかけていた。セクハラのようなことも言っていた。しかし、公爵様のレミリア様への教育がなっていたため、相手の気分を害さないように当たり障りのない会話でレミリア様は終始笑顔でリチャードの相手をしていた。だが、どうやらそのことが裏目に出たらしい。リチャードはそれを自分に対して好意があると解釈したらしいです。馬鹿なんですかね。馬鹿なんでしょうね。
「そんな、私はまだ12になったばかりなのですよ…」
何より俺が気持ち悪いと思っているのが、その年齢差だ。リチャードは30歳。レミリア様は大人びているがまだ12歳である。この世界では15歳で成人らしいので完全な子供というわけでもないし、このくらいの歳の離れた夫婦というのも貴族では珍しくないのかもしれない。
しかし、しかしだ。日本人である俺からしたら鳥肌ものだ。なんだこのロリコン野郎はって気分だ。日本でも歳の差カップルなんてのは聞かないわけではなかったが、あれは40代と20代のカップルだったりするのだ。決して三十路が小学生や中学生と付き合うということではない。
「歳の差など関係ない、そこに愛があるのだから」
だから、そこに愛がないのが問題なのですよ。
お付きのセバスンさんは青ざめてるよ。今にも気を失いそうだよ。大変だね、お付きの仕事ってのも。
「どうした公爵?あなたはただ私の提案をはいと快く受け入れるだけで良いのだぞ?何も心配することはない」
「……もらおうか」
お?公爵様がなにか呟いたぞ。俺には聞こえたけど、かなり小さな声だったからリチャードには聞こえなかったみたいだな。
「うん?なんと言ったのかな公爵よ?」
「……いいかげんにしともらおうかと言ったのだこのポンコツ勇者が!!」
おう、公爵様、言うねー。今この場にいる全員の言葉を代弁してくれたね。
「な、なんだと?」
「貴様のしていることを私が知らないとでも思っているのか?まだ滞在1日目だというのに20人の侍女が貴様にセクハラされたと陳情してきた。街では10人の女性が無理やりお茶に誘われたと聞いた。そして今度は私の娘を嫁にもらってやるだと?ふざけてるのか?なにが嬉しくて貴様の様な奴に可愛い娘をやらねばならんのだ!?」
えぇ…なにしてんのこのポンコツ勇者(偽)…
現在晩餐会は夜に行われているのだが、朝からずいぶん活動的だったみたいですね…
「勇者に触れてもらえるなど、逆に感謝するべきことだろう?」
そしてこのデブはさらになにを言ってるんですかね?例え本物の勇者だとしても信じられない言動だ。
「聖剣デクスカリバーとやらはよほど人を見る目がないらしいな。私は数人勇者にあったことがあるが、この様な屑は1人もいなかったぞ」
そして言うねー公爵様も。自分の娘に手を出されそうで相当頭に来てたのかな。割と親バカなのかも。
その時、リチャードはさらに信じられない行動に出たら。
「貴様、先程から聞いていればポンコツだの屑だの…勇者に対してあまりにも無礼だ!」
突然腰のデクスカリバーを抜きはなち、公爵に斬りかかったのだ。その速度はリチャードのヘボステータスでは信じられないほど速く、公爵様は全く反応できていない。レミリア様や侯爵様の周りにいた数名の護衛たちも反応ができていない。
しかし、その剣が侯爵に届くことはなかった。パシッと、2本の指で止められていた。指を使った白刃どりだ。
「な、に…?」
リチャードは驚きすぎてお世辞にもかっこいいとは言えない顔がさらに歪んでしまっていた。そりゃびっくりするわな。なにせ、リチャードの剣を2本の指で止めたのは…レミリア様なんだから。
「よくぞ言いました公爵様!いやースカッとしましたよ。公爵様がその気なら、ここからはお任せください」
ゆらーっとレミリア様の姿が歪み、その正体が現れる。
「は、ハクト様…?!」
その通り。今までレミリア様の姿をしていたのは、俺ことハクト・イナバなのでした。
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ーレミリア視点ー
ゆらーっと私の姿が歪み、ハクト様の姿になる。いや、正確にはハクト様の姿に戻るだ。それと同時に、私の姿もハクト様の姿から元の私の姿に戻った。
これはハクト様の案だった。実は、ハクト様はあの勇者様が私に近づくのを妨害したため、勇者の方からあの護衛は私に無礼を働いたとして護衛をやめさせる様に言って来たのだ。お父様も勇者の言うことに逆らえず、ハクト様が私の護衛に着くことが出来なくなっていたのだ。
そのことをハクト様に相談したところ、ハクト様の眷属様であるララティーナ様のスキルにより、私とハクト様が入れ替わったのだ。スキルをかけられている私でさえ混乱しそうなほど完璧な偽装だった。
それからはハクト様には念話で私の言葉を伝えて、その通りに言ってもらっていたのだが、動きも口調もなにもかも完全に私で、途中であそこにいるのが私なら私は誰?なんてちょっと自我を喪失しかけるほど、ハクト様の演技は完璧だった。
やはり現人神様であらせられるハクト様はすごい方なのだと改めて実感した。
そして今も、ハクト様はお父様の命を救ってくれた。まさかは斬りかかるとは思わなかった。何かしら危害を加えてくるかもしれないと思ってはいたが、そこまでするとは…驚きすぎて声も出なかった。
「さーて勇者様?公爵様に斬りかかるなんてとんでもないことやっちゃったね?」
ハクト様がどこか嬉しそうに勇者様…いえ、リチャード様…それも何か嫌ですわね…もういいですわ、あのデブのおじさんに話しかけている。邪悪な、とまでは言いませんが、いたずらを思いついた時の様なお兄様のような、悪そうな笑顔をされてます。
「き、貴様は誰だ!?そ、それよりも、レミリア嬢はどこへ行ったのだ?!」
鼻息荒くあたりを見回してらっしゃるデブのおじさん。豚さんみたいですわ。実際に豚さんを見たことはありませんけれど。
しかし、システィーナ様とララティーナ様が私の前に立って私を隠して下さっているため、私の姿を見つけることが出来ずにずっとキョロキョロしてますわ。
「おいおい、自分の剣を止められた相手を無視しておくのは危険なんじゃないか?」
そういうと、ハクト様は空いている手の方でデブのおじさんの膨よかなお腹に掌底を叩き込みました。
ただの掌底、素手による本当にただの掌底でした。
しかし、威力は絶大でした。デブのおじさんが身にまとっている立派な鎧は砕け、デブのおじさんは壁まで吹き飛ばされました。
私を含め、事の成り行きを見守っている人たちは皆さん驚かれていました。なぜか眷属様であられるマリー様も驚いていられるのは不思議でしたが。他のお二方は驚かれていないのに。
「かふっ…!?」
「やべ、やりすぎたか…?」
あと、なんとなくハクト様自身も驚いているようでした。
「き、貴様、勇者に手を出したな?」
壁まで吹き飛ばされたデブのおじさんはダメージを受けているものの普通に立ち上がりましたわ。あれをくらって無事なのは、仮にも勇者と呼ばれるだけはあるという事でしょうか?
「許さんぞ貴様…!公爵もだ!私に逆らったことを後悔させてくれる!」
そう言って、剣を頭上に掲げるデブのおじさん。
「嗤え!デクスカリバー!」
そこで、私の中に何か黒いものが入り込んでくるのを感じ、私の意識は途絶えました。
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「嗤え!デクスカリバー!」
リチャードが剣を掲げ、そう言うと、剣から黒いオーラのようなものが出てきた。なんだ?なにをした?
何をしたかを確かめるよりも先に、俺はその場から咄嗟に逃げ出した。俺の危機感知スキルが反応したからだ。
今まで自分の立っていたところを見ると、周りの兵士たちが俺のいたところに剣や槍を突き出していた。ダメージを食らったかは分からないが、危なかった。
「ご主人様!」
仲間たちがみんな俺のところに集まる。よかった、みんなも無事か。
「大変よ〜。なんだかみんな目から光が消えちゃったみたいなの〜」
ララがいつもの口調でそんなことを告げてくる。おっとりした感じなのでなんか危機感にかけるわ。
「レミリア様も連れてこようと思ったのですが…遅かったみたいです。突然私たち以外のみなさんからあの嫌な感じが…悪意が感じられるようになって」
見ると、俺たち4人以外の人間が全員生気を抜かれたようにたたずんでいる。何これ怖い。俺ホラー苦手なんだよ。
「む?貴様らなぜ支配されない?!」
俺たちよりも驚いているように、リチャードが叫ぶ。つまり、これはリチャードの、というよりあの剣のせいか。
「あの剣にこんな力があったとは…鑑定では分からなかったのに」
鑑定も万能ではないということか。これからは気をつけよう。
「お前、何したんだ!」
「なに、聖句を唱えて聖剣の真の姿を解放しただけだ。周りの人間の完全支配し、力を与えるという能力なのだが…まぁよい、この人数でかかれば貴様らなぞ敵ではない」
完全支配って…そんな能力が聖なる剣の能力であってたまるか!聖句とか言ってたけど、それ聖剣じゃねぇから言うなら魔句だな。どうでもいいけど。
「お前らかかれ!」
リチャードの号令とともに、武器を持った兵士が襲いかかってくる。
「そのようなものたちなど私1人で…くっ!?」
システィが魔槍を持って兵士を倒しにかかったが、そこで驚くべき光景を目にした。兵士の1人が、システィの槍を剣で受け止めたのだ。
「なんだと…?」
システィのステータスは俺ほどではないがめちゃくちゃ高い。その辺の兵士などデコピンで倒せるほどだ。それにもかかわらず、槍を止められた。
まさかと思い、兵士のステータスを確認する。うぉ、まじかよ!?
「気をつけろシスティ!操られてる人全員…ステータスが全部プラス300されてるぞ!」
「300!?」
これは…もしかしてピンチ?