勇者(偽)
前回の話をちょっと手直ししました。
なんか読み返して変だなって自分で感じたところを。
まぁ、そんなの今更かもしれないけどな!
気づいたことあれば、なんでも自由にいってください。
ところ変わって公爵邸の謁見の間。いや、謁見の間ってのは王様とかに会うときに使う部屋のことなのかな?まぁなんていうかとりあえずそんな感じのところ。貴族の屋敷の部屋の詳しい名称なんか知らん。
なんでそんなところにいるのかな俺は。いや、ちゃんとした理由があるんだけど。
ぽっちゃり勇者のナンパをお付きの騎士、セバスンさんがなんとか止めて、とりあえず公爵邸へということになった時、レミリア様が突然、
「それでは、行きますわよハクト」
「…ん?」
俺に対してそんなことを言ってきた。
一瞬わけがわからなかったが、レミリア様の絶望したような助けを求める目を見て察した。あの勇者から守って欲しいのだろう。いざとなったら神の子であることを明かせば、確かになんとかなるかもしれないしな。
まぁまだ勇者が本当に気持ち悪いデブのおっさんと決まったわけでもない。自分の好みの女性を見かけて興奮してしまっただけかも知らないからな。しかし、何かあってからは遅いので俺はレミリア様の要望に応えることにした。
「かしこまりました、お嬢様」
「……ありがとうございます」
小声でお礼を言ってくるレミリア様。ホッとした顔をしている。どうやらあまり男性に言い寄られることに慣れていないようだな。まぁ三女であっても公爵令嬢に言い寄るやからはそうそういないだろう。
そんなわけで俺は現在レミリア様の後ろに控えるお付きの騎士ということになっている…騎士にしちゃとてつもなく普通の格好をしてるけど、それはいいのかね。
仲間たちは屋台の片付けをそのまましてもらっている。さすがに全員でついて行くことはできなかった。
ちなみに、公爵邸に着いた時に公爵様が勇者より俺に反応して挨拶をしてこようとしたので、念話で状況を伝えておいた。何かやらかすまでは神の子であることは隠しておきたい。広めたくないから。
「ようこそ我が街へ、勇者様」
「お出迎え、感謝する」
今は勇者も落ち着いている。所作も下品なところはなく、公爵様への礼も慣れた感じだ。
そういえば、家名もあるみたいだったし、もしかして勇者も貴族なのかな?でも、俺がハクト・イナバと名乗っても貴族と言われたことはないので平民でも家名がある人はあるのかもしれない。
こんな時はステータスボードを見せてもらうか。あまり人のプライバシーを見るのは気がひけるが、レミリア様の護衛ということで許してもらおう。
名前:リチャード・ロビンソン Lv.10
種族:人族
職業:勇者(偽)
能力値:HP500/500
MP300/300
筋力20
魔法力5
防御力33
魔防力10
知力30
素早さ5
運40
取得スキル:剣スキル、槍スキル、宮廷作法スキル、算術スキル
状態:魔剣憑依
「…ほぁ?」
え、弱過ぎじゃね?何これ?眷属化する前のシスティだって軽くあしらえそうなステータスだ。思わず声出しちゃったよ。
「どうしたのです、ハクト?」
「あ、いえ、そのですね…」
変な声出しちゃったからレミリア様に変な顔されちゃったよ。
ていうか、ステータス以上に気になることがある。職業と状態だ。
勇者(偽)になってるし、魔剣憑依となってる。どういうことだ?
そういえば、レミリア様には限定的にだが人のステータスボードが見えるスキルがあったはず。
「あの勇者のステータスボードなのですが、見えますか?」
「ステータスボードですか?ちょっと待ってください、私このスキル自分ではまだ使いこなせないので…あ、見えましたわ…あら、職業が?」
どうやらレミリア様にも見えたらしい。状態までは見えなかったようだが。というか、よく聞けば勇者(?)となっているらしい。スキルを使いこなせてないと同じスキルでも結構差が出るものなんだね。
えっと、魔剣憑依ってなんだ?そういえば、聖剣デクスカリバーとか言ってた。俺の知識では聖剣と言えばエクスカリバーなのだが…まさか。
勇者の腰に装備してある剣を鑑定してみる。
魔剣デクスカリバー
装備者のステータスを底上げする。その代わり、憑依状態となる。魔剣の製作者がある程度行動を操ることが可能になる。
特殊効果:鑑定偽装
「あっちゃあ…これはこれは…」
なかなかにめんどくさいことになりそうな予感がいたしますぞ。あれか、異世界転生者ってのは面倒ごとに巻き込まれる運命なのか?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その日は簡単な挨拶で済まされ、勇者、いや、リチャードは今公爵邸で与えられた部屋にいる。
部屋に案内される前にしっかりレミリア様にアピールをしかけてきたが、さりげなく邪魔させていただいた。軽く睨まれたが、気がつかないふりをしておいた。
俺も部屋に戻り、帰ってきた仲間と今後について話し合うことにした。
「魔剣憑依状態…確かに、めんどくさい事になりそうですね」
「あれが勇者様って言われても納得できなかったけど、そういうことだったのね〜」
システィとララは武芸者として脅威を感じなかったためもともとおかしいと感じていた。強くない勇者は聖剣に選ばれる勇者にはいないわけではないらしいが、それにしたって確かに弱すぎではある。
「さっき聞いてきたんだが、あの勇者は最近聖剣に選ばれた新参者の勇者らしい。もともとはただの貴族の次男坊で、どちらかと言えば無能な類の男だったとか」
ロビンソン家はそんなに力のある貴族ではないらしいが、当主と次期当主であるリチャードの兄は優秀であることが有名で、リチャード自身は特にこれといった業績もなく、どちらかと言えば様々なミスを犯すことで逆に有名なんだとか。悪事を働いてないだけマシだとか言われてたらしい。
「私のスキルは、その魔剣に反応したのでしょうか?」
「たぶんそうなんだろうな。俺のスキルは反応しなかったけどな」
そういえば以前危機感知系のスキルをフルに活動させると落ちてくる木の実にまで反応したから、自分の脅威になるものにだけ反応するようにしたが…そのせいだったのだろうか。あるいは、現時点ではあの魔剣はなにもしていないので反応しなかったか。
マリーのスキルはものの本質を感じ取るものだということか。悪意を持っている人や、悪意を持って作られたものに反応するってことかな。そこが俺のスキルとの違いか。
例えば、めちゃめちゃ強い戦闘大好き人間が俺の近くにいたとしよう。その場合俺のスキルはたぶん反応する。その人間が俺の脅威になるためだ。しかしその場合おそらくマリーのスキルは反応しない。その人間が悪意を持っているわけではないからだ。ただ単純に強者との戦いを好み俺に挑んだから場合、その行動は悪ではなく武芸者としてのそれのためだ。
逆に別段強くなくても俺の暗殺なんかを狙ってくるやつがいるとする。その場合俺のスキルは反応しない。俺にとって脅威にならないからだ。スキルを全力で使った場合反応するかもしれないが、今の状態だとその人間が直接俺に行動を仕掛けてくるまでは反応しないだろう。そしてこの場合だとマリーのスキルが反応する。まだ行動をしていなくてもその根底にあるものは悪だ。マリーのスキルはその悪を感じ取れる。
そんな感じなんじゃないかな。まだはっきりとは分からないが、大きくは間違ってはいないだろう。
「それで、公爵様にはお伝えしたのですか?」
「いや、伝えてない。無駄に騒ぎを大きくしたくなかったからな」
レミリア様が勇者(?)のことは伝えてるかもしれないが、新参者の勇者だからということで片付けられそうだ。
「今のところレミリア様に惚れてる以外で目立った行動はしてないし、このまま何もなく済むならむやみに首を突っ込むつもりはないよ」
偽の聖剣を作ったやつとの戦いとかスゲーめんどくさそうだし、何もないならスルーさせてもらいたい。俺の知らないところで問題を起こしたら、その時は違う勇者さま、ファイト!
「まぁそうよね〜。ここの人たちに害がないのであれば、見ず知らずの人たちのためにハクト様が頑張る必要はないものね〜」
「そもそもあの程度の小物にわざわざご主人様が手を下す必要もありません」
「そう、ですね」
仲間も概ねその方向で同意してくれた。マリーだけ言いたいことがありそうだったが。マリーは優しいからね。もとシスターだし。
「一応、明日の勇者を迎える晩餐会には俺たちも参加する事になったから。何かあったら動けるように心構えだけはしておいてね」
はい、と仲間たちが返事をして、この日の話し合いはお開きとなった。本当、ここで問題を起こさないでくださいよ、魔剣の製作者さん。
ま、俺の願いは聞き届けられないわけなんですけど。
いや、どうだろう。魔剣の製作者は確かに何もしてないっぽいからそこの願いは叶えられたのかな。
しかしながら、それとは関係なく勇者が面倒ごとを起こしてくれたよ。それは、晩餐会が始まって少し経ってからの事だった。
「レミリア嬢よ、勇者リチャード・ロビンソンと婚姻を結ぶ名誉を与えよう!」
突然何を言いだすんですかねこのぽっちゃり三十路は。