神の力はチートどころじゃなかったよ
「危なっ!?」
ぺしっ
「「「……は?」」」
黒いレーザーのようなものを俺はとっさに素手で弾いていた。弾いてから思ったのだが素手で弾けるってことは当たっても問題なかったのだろうか。怖いから試さないけど。
「いきなり何するんだよ!怖いだろ!」
「…なんなんですかねぇ?私の魔法を弾くなんて、聖遺物かなにかですかねぇ?」
聖遺物?
神様が持たせてくれてるかもしれないがそんなものは使ってない。無詠唱で発動したところを見る限り上級魔法ではないだろうし、ただ単に俺のべらぼうに高い魔防力のおかげだろう。
しかし、攻撃は弾けたが、マップにうつってなかったのに突然現れたり、問答無用でいきなり攻撃してきたり、こいつは危ないやつに変わりはない。
「システィ!お母さん抱えて!逃げるぞ!」
「え、あ、はい!」
システィとともに入ってきた窓から飛び降りる。システィのお母さんは悲鳴っぽい声をあげていたが今は我慢してほしい。
「逃がすわけないですよねぇ?」
窓から屋根の上に飛び移ったのに、いつのまにかさっきのガラティナと呼ばれた男が目の前にいた。転移魔法か!いいな便利そうだ後で練習しよう!
なんて呑気なことを考えていたら、また黒いレーザーのような魔法を放ってきた。今度は二本、俺とシスティ両方に向けてだ。
「効かないっての!」
「はぁっ!」
それを俺は素手で、システィはお母さんを抱えてない方の手に持った魔槍でそれを防いだ。
「そっちのウサギだけでなくトカゲまで私の魔法を防ぐとはねぇ…」
驚いた顔をしているガラティナだが、声に焦りはない。まだ余裕を残しているようだ。ならば…全力で逃げるのみ!戦っても勝てるかもしれないけどあいつ顔が怖いから断る!
「システィ、全速力!」
「はっ!」
「なに…!?」
2人して助走なしで一気にトップスピードで走りだす。普通の人が見たら消えたように見えるかも。ちなみに屋根の上は若干不安定なので瞬動は使っていない。便利でかっこいい技だと思って最初に練習したが、案外使い勝手が悪いかもしれない。
それでも車並みのスピードで俺とシスティは走れる。にもかかわらず、ガラティナは空中に浮かんだままそれに並走してきた。速いな!
「引っ込んでろ!」
「おっと、危ないですねぇ」
走りながらガラティナに向かって炎の弾を放つが、何発撃っても当たらない。威力はあってもコントロールとかの練習はしてないからね!高速で動き回るものにはなかなか当てられない。
なので、今度は100個ほど同時に炎の弾を発動させる。俺のMP量の多さに物を言わせた物量作戦だ。下手な鉄砲数打ちゃ当たるってね!
しかし、それでもガラティナには当たらなかった。転移魔法で少し離れた所に移動したみたいだ。
当たらなかったことは少々悔しいが、時間稼ぎにはなった。
「システィ!そのまま走り続けろ!あの丘で合流だ!」
「ご主人様は!?」
「俺は時間を稼ぐ!心配するな!わかってると思うがほぼほぼ俺が死ぬことはない!とにかくお母さんを安全なところへ!」
「かしこまりました!くれぐれもお気をつけください!主に公爵軍を巻き込まないことを!」
システィが俺の心配ではなく周りへの被害の心配をして走り去っていった。心配するなとは言ったが、なんかさみしい。
「というわけでガラティナとかいうおっさん!ちょっと付き合ってもらうぜ」
もう少し速い魔法をと思い、風系の初級魔法のエアショットをとにかく放ちまくる。自動回復は追いついてないが、初級魔法なだけあり消費MPは低いので10分以上は放ち続けられると思う。
「ずいぶん膨大なMPですねぇ…さすがの私もびっくりですねぇ」
それでも余裕で避け続けるガラティナ。転移魔法でMPを消費しているはずだが、さっきチラと見て覚えている。この男、MPが5000もある。こいつは間違いなくシスティに匹敵する化け物だ…まぁそれでも俺の半分以下ですけどね!余裕がなくてみてないが、魔力もそれなりに高いはずだ。俺とシスティには効かなかったけど。
ていうか、未だに攻撃が当たらない。時間稼ぎはできているが、なんだかめんどくさくなって来た。ここは1発でかいのお見舞いするべきか?いいや、やっちゃえ。
俺はエアショットで相手を牽制しながら、詠唱を始める。
「我が望むは力…」
「な、に…?」
俺はエアショットを放ちながらも上級魔法の詠唱に魔力をこめ始める。
「我が望むは破壊…」
「その詠唱は…!?馬鹿な!これだけエアショットを放ちながらできるわけがない!」
やっとガラティナの声に焦りが出て来た。喋り方もさっきまでの気持ち悪い感じじゃなくなっている。
「神よ、我が望みに答え、敵に鉄槌を!」
「防御魔法展開…!」
ガラティナは自分の周りに透明の壁のような物を生み出した。だが、それじゃ無理だな。この魔法は防げないだろ。だって、エアショットで少しヒビが入るような壁だ。今から発動させる魔法は、エアショットの1000倍は威力がある。いや、割と魔力をこめたからそれじゃ済まないかもしれない。
「喰らえ神の雷!雷霆!」
「……は、はは…」
俺の魔法が発動した途端、空から閃光が降り注いだ。
ガラティナは引きつった顔で乾いた笑いをあげていた。
「ああ、私は神様に勝負を挑んでしまったようですねぇ…」
そんな声が聞こえたと思ったが、次の瞬間に、あたりは閃光に包まれ、無音になった。音でさえ、閃光に飲み込まれてしまったかのように。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「申し訳ありませんでしたぁ!!」
どうも、神の子=現人神であるハクト・イナバです。
そんな実感はなく、確かにステータスボードを見る限り俺強いな、くらいにしか自分のことを認識してなかった。
もともと異世界転生チート主人公に憧れていたこともあり、正直に言えばそういった主人公みたいに楽しく生きていけるのではないかなって思ってた。
そんな認識だったため、自分は何ができるか、できてしまうのかということはあんまり気にしてなかった。システィにはなんでもできると言われても、すごい人の範囲だと思ってた。
それは、大きな間違いだった。俺は現人神、人であり、神であると実感していた。目の前の更地を見て、初めて自分の異常さを悟ったのだ。
「顔をあげてくださいハクト様…確かに、えっと、ちょっとやりすぎた感はありますが、結果的には良いことの方が多かったのですから」
土下座している相手は公爵様と、伯爵領の町の市民の代表のおじいさんだ。2人には神の子であると説明してある。驚かれたが、やらかしたことを見て、簡単に信じてもらえた。
目の前に広がる更地は、もともと伯爵領の町があった場所だ。今は、跡形もなく消えてしまっている。
惨状とも言えないほど、綺麗に何もなかった。俺の魔法により、全て消滅してしまった。草木一本も残ってない。
俺が発動させた魔法、雷霆は、俺が上級魔法だと思って使ったのだが、そんなものではなかった。
言ってしまえば、神の権能とでもいうのか。この世界に存在する神級と呼ばれる魔法だった。例えMPが足りる人がいても、その反動に耐えきれず、使えば発動することなく使用者が消滅すると言われるとんでもない魔法だった。
俺はピンピンしてますけどね!
その魔法により魔物とガラティナという魔族は消滅した。町も。とても都合のいいことに、市民や公爵軍、ついでに伯爵軍側の人間は全て無事だった。
今まで使った人がいなかったので効果は知られていなかったのだが、この魔法は俺が倒すべき敵と認識してない生物には効果がないみたいだ。伯爵軍側の人間が無事だったのは、もともとそっちの人間は公爵軍に任せるつもりだったので、効果範囲から外れたみたい。
しかし、効果がないのは生物だけであり、建物やなんかは全て消滅した。植物は生物でないのかというツッコミは受け付けません。俺だってちゃんとは認識してない。全知全能を使っても、この魔法は全て把握はできなかった。それだけやばい魔法だった。
「いや、しかし、町の人たちの住む場所を綺麗さっぱり無くしてしまいましたし…」
「よいのですよ、命が無事だったのですから。壊れて…というレベルではありませんが、無くなってしまった家などは、また建て直せばよいだけなのですから」
おじいさんはそう言ってくれるが、無くしてしまったのはそれなりの規模の大きさの町だ。作り直すにしても数ヶ月はかかる。下手すれば年単位だ。
「べ、弁償はします!」
「しかし、町全ての弁償となりますと、白金貨10枚はかかるかと…」
「え?そんなものでいいんですか?」
「そんなものって…かなりの額ですよ?」
ざっと計算してみた。銅貨1枚を10円と考えると、白金貨1枚で1千万か。だとすると、1億円ってことか。町1つでその程度で足りるのか?やっぱりまだこの世界の相場がいまいちわからない。
まぁ地球であっても町1ついくらで作れるかなんてわからないけどさ。
「でしたら、これで許していただけるとは思いませんが
…」
俺はアイテムボックスから白金貨を15枚取り出す。100万枚とか意味わからんくらい持ってるからね。これくらいはどうってことない。余分な5枚は迷惑料だ。5000万は多いかもしれないが、多くて困ることはないだろう。
「な、なんと、白金貨を15枚も…!?」
「は、ハクト様、よろしいのですか…?」
「本来なら、金で解決とはあまりいい方法ではないのでしょうが、今はこれしか思いつかないので…」
金さえあれば何をやっても許されると思って好き放題やってるとは思われたくないが、今回ばかりは仕方がない。神様の与えてくれた恩恵を使わせて貰う。
「ハクト様、我々は本当に怒ってはいないのですよ?そもそも、神様相手に怒るなどおこがましいことです…」
「そう言わずに受け取ってください。俺の自己満足ですので…」
「そう、ですか…ならば、ありがたく使わせていただきます」
おじいさんはそう言って金を受け取ってくれた。この人ならよいことに使ってくれると感じた。俺の直感はたぶんあたる。スキルの1つなのかわからないが、神ですから。俺は直感は信じることにした。
「ハクト様はこれからどうするおつもりで?」
「えっと、気ままに世界を旅して回るつもりでしたが…この町が直るまでは公爵領にとどまり町の復興の手助けをしようかと…」
「そ、そんな恐れ多い!これほどまでの寄付を下さったのです!どうぞ、あとはお好きにしてくだされ!」
「しかしですね…」
町1つ消し去って、金払うからあとはよろしく、と言って自分は物見遊山に出かけるなどしてしまってもよいものか。いやよくないだろう…
「まぁとにかく、今はハクト様も混乱されておられるでしょう。一度リリルカの町に帰り、ひとまずお休みください。城に部屋を用意させますので」
「あ、いや、宿をとってるのでそこでいいのです…」
そう言うと、公爵様は困ったような顔をしている。
「いや、そのですね、これだけのことをしてしまったのですから…話もすぐ広まると思います。町中にいられると、その、騒ぎになる思いますので…」
「ああ、そう、ですよねぇ…」
町1つ無くなってるのだ。情報規制なんかできないだろう。人の噂というものは簡単にすぐ広まる。確かに俺が普通に町に滞在していたら、騒ぎになるかもしれないな。
「あの、連れも1人、いや2人いるのですが…」
「ああ、あの龍人族の娘ですね。それと、その母親でしたか。救出は成功したのですね?」
「はい、その時に例の魔族の男に会いまして…」
「その話はまた後日いたしましょう。こちらも、伯爵の尋問を行いますので」
伯爵とその一味は俺のやらかしたことで完全に戦意を失い、大人しく公爵軍に捕まった。まぁあれを見てまだ逆らおうという気があるやつはそうそういないだろうね。
「馬車を用意させますので、しばしお待ちください」
「ありがとうございます」
とりあえず、公爵様の好意に甘える事にした。確かに今は頭が混乱しているかもしれない。一度整理しよう。
公爵様とおじいさんと離れて、システィとシスティのお母さんの元へ行く。やっと落ち着ける状況で2人であれこれ話していたみたい。俺に気がつくと、システィはすぐに立ち上がった。
「お疲れ様です、ご主人様。お話は終わりましたか?」
「あーうん、一応ね。とりあえず許してもらえたよ…」
「さすがはご主人様ですね、神級の魔法まで扱えるとは」
「もう二度と使う気はないけどな…」
システィの言葉に苦笑いしながら答えていると、システィのお母さんも立ち上がり、こちらに頭を下げてきた。
「この度は娘と私、親子共々助けていただきありがとうございました。申し遅れましたが、システィーナ・レオンハルトの母、ララティーナ・レオンハルトと申します」
「いえ、無事でよかったです。間に合い、ましたよね?」
何がとは少し言いにくい。まさかストレートにエロい事されましたかなどとは言えまい。
「ええ、大丈夫です。というより、特に何もされる事なくあの部屋に閉じ込められていたので。病気の薬を出してくれたことだけは感謝しないといけませんかね」
ふむ、なにもされなかったのか。ちょっとおかしな話だ。あの伯爵は確か噂になるほどの龍人族好きだったはずだ。てっきりそういう理由で奴隷として買われたと思っていたのだが…
そういえば、ガラティナが何か言っていたな。計画に必要だ、とか。
「何か奴隷として買われた理由は聞いてないのですか?」
「いえ、本当になにも。城に連れてこられてからはあの部屋で食事と薬を与えられていただけでした。ハクト様が倒した魔族の男も見たことはありません」
うーん、謎だ。龍人族を使って何かしようとしていたことは確実なのだが、全くわからん。伯爵の尋問を待つしかないか。
「まぁとにかく無事でよかったですよ。というか、様とかやめてください」
「いいえ、自分がお仕えするお方ですので」
「そうですか………うん?」
今、なんて?
いつのまにか、ララティーナさんは俺の前に騎士のように片膝をついて頭を下げていた。ていうか、元騎士なんだっけかこの人。
「ララティーナ・レオンハルト。娘と共にハクト・イナバ様に忠誠を誓いたいと思っております。どうか、私共の忠誠をお受けください」
「あ、う、えぇ…?」
忠誠て。俺ごときに?いや確かに馬鹿みたいな力を持ってるけどさ…
「そもそも、この奴隷の証を消すにはハクト様の眷属になるしかないのでしょう?いつまでもこの消えない呪いをつけておくのはごめんですので、どうかよろしくお願いします」
ああ、システィから聞いていたのか。ララティーナさんの手首にはシスティやマリーさんと同じ奴隷の証が刻まれていた。それを消すには今の所眷属の証で上書きする以外の方法は知らない。なので眷属になってもらうしか無いのだが…
「別に眷属になったからといって、忠誠を誓う必要はないですよ?」
「いいえ、ハクト様はただ知り合っただけのシスティーナのためにここまでしてくれるお優しいお方です。是非とも、仕えさせていただきたいのです」
「お優しいって…ただのお人好しですよ」
「それに、眷属となったらハクト様からはあまり遠くへは離れられないのでしょう?ならば、どのみち行動をら共にするのですから」
ばっとシスティを見る。するとシスティもばっと目をそらした。おい、システィーナさんや?あれは作り話だと知ってるだろう?確かに、力を持ってしまったら俺が近くにいた方がいいだろうとかいうことは言ったが、絶対というわけではないと知ってるだろう?
「お役に立つかはわかりませんが、何卒、忠誠をお受けください」
「…はぁ、わかりました。受けます。その代わり、あまりかしこまらないでください。俺よりも年上なのですから」
「ありがとうございます!年齢などは関係ないです。どうかとハクト様も敬語など使わないでください」
「…わかった、俺ももっとくだけた感じにするからさ、あまり固くならずに頼むよ」
「ハクト様がそういうならしかたないわね〜」
俺がそう頼むと、キリッとした感じのララティーナさんの雰囲気が一気にフワッとした感じになった。
「でも、呼び方はハクト様と呼ばせてもらいますね。その辺りはけじめの問題ですので〜」
「わかったよ。なら、俺はララとでも呼ばしてもらおう」
「あら、そんな可愛らしい呼ばれ方なんて久しぶりだわ〜」
なんか嬉しそうだ。さすがに年上を愛称で呼び捨てはらどうかと思ったが、嬉しそうならいいか。
というか、さっきまでのこれぞ騎士って雰囲気とはだいぶ違うな。こっちが本来なのかな。システィのお母さんだからあの態度が普通なのかと思っていたのだが。
「それにしても…ふふ、よかったわねシスティーナ。運命の人にお仕えすることができて」
「か、母さん!」
「運命の人?」
なんのこっちゃ。
「実は、以前町を歩いていたら、突然占い師に白髪赤眼の男性こそがあなたの運命の人ですっていわれたんですよ〜この子」
「そ、そうだったんですか?」
「ええ、この子ったら昔っからそういう占いとか大好きで、すっかりその気になっちゃって。それからは白髪赤眼の人を見るたびにそわそわしてたんですよ〜」
恥ずかしそうに顔を赤くして俯いてるシスティ。そうか、最初に会った時から好感度が高かったのはそういうことも関係してたのか。ていうかちょっと以外。システィが占いとか好きだなんて。案外女の子っぽいところもあるんだな。
「それで、もう初めてはもらってもらったの?」
「いえ、それが何をしても食いついてもらえませんで…」
「何言ってんですかあなた方は?」
え、何?システィが俺の前で堂々と着替えたり一緒のベッドで寝たり同じ部屋でいいとか言ってたのって、俺誘われてたの?しまった惜しいことをした…なんて思ってないですよ?
「あらあら、そうなの〜?まぁ、あなたはもう成人してるとはいえ、まだまだ残念ボディですものね〜」
「い、いずれは母さんのようになります!」
「いや、あの、俺のいる前で堂々とそういう話しないでいただけますか…?」
確かにシスティは手足も細く、よく言えばスレンダーな体型、悪く言えば、まぁ、貧乳だ。それに比べてララは豊満の一言に尽きる。神様ほどのわがままボディじゃないけど。俺の最も好みな体型はマリーさんだけどね。
何を冷静に判断してるんだ。テンパりすぎて逆に落ち着いちゃった感じだよ。
それからは公爵様が呼びにくるまで、ララが主にシスティをからかう方向で楽しく会話していた。システィは恥ずかしそうだったが、会ってから今までで1番いい笑顔だった。
よかったね、システィ。