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1-3

 食卓というのは団欒の象徴らしい。

 僕と観那は義理でも兄妹だ。

 故に、僕等が一緒に朝食を食べる光景は必然、微笑ましいものとなる筈。筈なんだ。

 たとえ其処が屋根裏部屋で、出された料理が一人分で、観那の分がないとしても。

「なのに、どうして、こんなにギスギスした空気なんだろうね?」

「黙れ阿呆」

 辛辣な物言い。さっきからずっとこの調子だ。

 久々に再会した観那は罵詈雑言のレパートリーを拡張し、より高度に、より繊細に、僕を馬鹿にしようとする。昔は馬鹿ぐらいしか知らなかったのに……。

「いったい何処でそんな汚い言葉遣いを覚えたんだい?」

「教会以外に考えられる?」

 それは分ってるが言ってほしくなかったな。特に第一級聖職者サマには。

 不機嫌な妹を宥めるのは難しい。適当に話題を逸らして意識を別なほうに持っていこうかな。

「義父さんと義母さんはどうしてる?」

「アンタのこと心配してたわよ。こっちでちゃんとやれてるかって」

「ありがたい話だね」

「ええ、本当にありがたい話よ。親不孝者」

 これはかなり重症だね。

 いや、まあ、理由はわかってる。

 使者が観那だと分った途端に僕の態度が豹変したから。単純明快。ただ、それだけ。

 整えかけた頭髪は中途半端に寝癖を残し、手入れをサボった法衣は皺と穴だらけ。身分が上の客と面会する格好じゃないのは百も承知だ。法衣に関しては、綺麗なのも一着だけ残っているが、一張羅。観那相手に着るのは勿体無い。辺境だけに新品は中々支給されないのだ。おまけに買ったら結構高い。

 妹相手に媚諂うまで僕も落魄れちゃいない。

「でもさ、観那が来たのは事前に連絡されてた時刻より大分早いんだよ? 其処も加味してもらえるとありがたいんだけどな」

「だったら、外で待たせるなり何なりしなさいよ」

「僕の生着替えが見たいって? 変態だなぁ、観那は」

「…………」

「もしかして、もしかしなくても、僕に早く会いたくて急いじゃった?」

「いや、それはない」

 表情は真剣そのもの。オプションで手を振ってまで全力で否定する。可愛げないな。そんなんじゃ男が寄ってこないぞ。

 観那の前で朝食をがっつく。

 ふむ。こうして真正面からしっかり見ると、観那も中々の美人さんに育ったものだ。

 高位の聖職者だけに法衣は豪華絢爛。煌びやかな刺繍と輝く勲章が眩しい。僕の襤褸切れとは雲泥の差だ。ついでに容姿も別格。目鼻立ちが通っているのは勿論の事、艶のある黒髪を馬の尻尾のように纏めていて、それが妙に色っぽい。切れ長の目をしているため、若干キツイ印象があるが本人の性格まんまなので問題なしか。

 対する僕は悲しくなるほどの凡人っぷり。むしろ、此方に来る前と全く変わっていない。赤ん坊に戻ったものの、成長後の姿は変動せず。違いといえば、生活環境の変化が原因で、贅肉の代わりに筋肉が付いたことと、傷跡が増えたことぐらい。

 世の中って不公平だよね。

 最後の一口を食べ終え、そのまま質問に入る。

「それで、なんで僕のところに来たわけ?」

「ちゃんと書類が――」

「お偉いさんの書いた、堅っくるしい文章なんて読むつもりはないよ。僕は君に訊いてるんだ」

 その方が早いし。時は金なりってね。

「…………」

 一瞬視線を泳がせてから沈黙する観那。

 こいつの口が重たくなるって事はよっぽどだ。前にはっきり物を言わなかったときは、観那と同年代の野郎からの言伝で、呼ばれた場所に行ったら「俺と付き合ってください」だ。勿論、誠心誠意、懇切丁寧、齟齬がないように、はっきり、きっぱり、お断りした。

 厄介事の香りが漂ってきたよ。

「独。魔王が復活した」

 思わず歯笛を吹いた。

 そうか、ついに、僕の出番が。

「それで? それだけじゃないんだろう?」

 魔王の復活したくらいで態々僕の所に使者が来るなんてありえない。

 つまり、定期的に起こる魔王の復活は僕にも何か関係があるのだ。

「実は――」

 いよいよ以って異世界人の出番かな?

 僕も十数年間潜伏してきた甲斐があったというものだ。


「アンタが勇者に随行することが決まった」


 残念! 勇者役は別の誰かに掠め取られてしまった。

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