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聖女  作者:    
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6

 「なんで?私は聖女じゃないんだよ?それに、知識もなにもない。聖女のふりしても仕方ないじゃない!」


 私は思わず声を荒げた。キャロンが興奮した私を落ち着かせようと声をかけてきたが、余りの理不尽さに怒りが先に立つ。だって、そんなのおかしいよ!


 「降臨の儀を執り行って完成したあの扉を超えてきたと言うことはタカギリナ殿は聖女だ。」


 白いケープの男性も負けずに先程と同じような内容を繰り返した。これじゃあ話にならない。


 「じゃあ、その降臨の儀っていうのが失敗したのよ。私の部屋に突然扉が出来たんだから。扉作る場所間違えたんじゃないの?」


 私の言葉に白いケープの男性は酷く顔を顰めた。


 「失敗など有り得ない。タカギリナ殿は聖女だ。それに、万が一にもタカギリナ殿が聖女でないなどとなれば我々召喚士とタカギリナ殿は責任追及を免れない。」


 吐き捨てるように発せられた言葉を私は頭の中で思索する。それって、失敗の責任をとりたくないから無理やり私を聖女で押し通そうってことだよね。


 「責任追及くらい別に良いじゃない!私は会社をくびになる危機なの!これでも一応は正社員なんだから!」


 私も負けずに言い返した。なんとしてもあの広間に行く。それだけを思って強気に出た。


 「ああ、くそっ。我々はまだ死にたくはない。タカギリナ殿だってそうだろう?」


 男の言葉に私は耳を疑った。


 死ぬ?今死ぬって言ったよね?もしかして責任追及って死を持って償うって事なの!?


 みるみるうちに顔色を無くして言葉が出なくなった私を見て、白いケープの男が溜息をつく。


 「もしタカギリナ殿が聖女で無いならば、聖女になっていただく他ない。後程、他の召喚士も集めて話し合いにくる。今は休め。」


 男の言葉をどこか他人事のように聞きながら、私は呆然と立ち尽くした。


 聖女じゃないのならば聖女になれと?冗談じゃない・・・


 私が責任取る筋合いなど全く無いはずだ。でも、自分が勝手に逃げ帰れば召喚士達の命がないかも知れない。さすがに私は「他人だから死んでもどうでも良い」と思える程冷酷にはなれなかった。



***



「話はわかった。それで、今後どうするべきか。」


 ロンと名乗る焦茶色の髪に黒目、20代後半くらいの長身の男は深い溜息をついた。


「タカギリナ殿に聖女になりきって貰うほか無いだろう。」


 そう言い切ったのは私をお姫様抱っこした黒髪の男性、ギルだ。黒髪に薄茶色の目、20代半ばくらいの女慣れしてそうな野性的なイケメンである。


「いやいや、聖女で間違い無いだろ。あそこから自分で来たくせに今さら聖女じゃないとか意味わかんねーし。」


 悪態をつくのは私を気絶させた茶髪茶眼のサスケ。20代前半くらいで口が悪いし失礼極まりない嫌な奴。私を気絶させたので天敵認定しておいた。


「サスケ、逃げようとした聖女様を掴まえたのは僕らだよ。タカギリナ殿を責めても仕方ない。」


 おどおどしながらサスケを嗜めるのはグリンと名乗る男性。金髪茶目、20代前半くらいで背は高めなのに気が弱そうなひとだ。


「・・・」


 最後の1人、エルと言うらしいこの男は聞いているのかいないのか、一言も発せずに腕を組んだままでずっと難しい顔をしている。このエルは黒髪黒眼、20代後半~30代前半くらい?寡黙で物静かな印象。そして何を考えてるかよくわからない。中性的な美形で召喚士のリーダー的存在っぽい。


 こいつら、揃いも揃って私の部屋に突然ドアをつけて多大なる迷惑をかけたことに対しては謝罪なしですか。召喚士ってのは謝罪が出来ない生き物なの!?彼らの様子を黙って見ていた私は心の中で罵声を浴びせた。


「あのさ、さっきから私の都合考えずに議論してるけど、私は帰るから!」


「てめ、おれらが死罪になっても良いって言うのか!?聖女どころかとんだ悪女だな。」


 私の宣言に私を気絶させたサスケが文句を言ってきた。


 こいつめ。もし誰か一人が責任取れば許すと言われたら、間違いなくこいつを選ぶ。ネコみたいな名前のくせに!私はキッとサスケを睨みつけた。


「タカギリナ殿は元の世界に帰れば我々に知識を与える事は可能か?」


 静かに火花を散らす私達に、ずっと黙っていたエルという男がやっと口を開いた。


「え!?えーっと、うん。与えられるかも!」


 嘘も方便。兎に角、私は帰りたい。ここの世界にはテレビもスマホも無さそうだし、きっと私の世界の方が文明は進んでいるはず。

 エルの探るような鋭い視線にどぎまぎしながら私は答えた。この人、一応聞いてはいたのね。


「では、明日の謁見ではそのような方向で話を進めよう。ただし、タカギリナ殿が扉の向こうに行くときは我々もついて行く。いなくなられると厄介だしな。」


「エル!?本気か?」


 黒髪のギルは驚愕の表情をみせた。


「仕方ないだろう。このままでは我々とタカギリナ殿の命が危ない。タカギリナ殿の世界の知識をこちらにもたらす事ができれば陛下もご満足行くはずだ。」


 エルは静かに言い放つ。


「致し方ないな。」


 ロンと言う長身の男も頷く。


 え?えぇー!!一緒に来る?本気ですか?


 かくして私は自宅に帰えれるよう説得すると言うミッションを成功させた。異世界人が5人もついてくるらしいけどね。


 


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