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短編 『思い出した』

作者: あーもんどツリー

この世で一番怖いものは・・・。

ふっ、と、眼が開く。

おもむろに持ち上げられた体は貧相にやせこけていて、およそ自分のものだなんて信じられるはずもなかった。


・・・思い出した。それは他の誰でもなく、俺である。


・・・寒い。

ナゼか異常に寒かった。

のそっ、と起き上がろうと、持ち上げようとした体はふらつき、若干薄い布団にドッサリ倒れこんでしまった。


なんだかなぁ、と天井を見上げ、自分の情けない姿をなげいた。

ため息は白く染まって、まるで冷蔵庫の中だった。

思い出した。昨日タイマーかけてなかったっけか?


・・・よし、ストーブ()こう。


そう思い立ったのでひとまず、俺は()って寝室を出ることにした。

が。


・・・何で・・・!!


何で部屋が凍ってるんだ?!!

これでは『まるで』ではなく、冷蔵庫そのものである。

通りで寒いわけだ。

ストーブ焚かなきゃ寒くて死んじまう!!

と焦り、かじかんだ手を震わせながら、ストーブのスイッチに手を伸ばす、そしてカチッ、という音とともに訪れる安心感。


・・・アレ?


暖かくならない、それどころかストーブが付かない。

オイ、どうしたってんだよ!

付けよ、付けよ!!


何度もカチャカチャいじっていると、バキッ、という嫌な音がした。

スイッチが割れたのだ。


ああ、もう!!

腹が立って、ストレス発散の為にとテレビを付ける。

画面は黒を映したまま、どうやら凍っていた。


いわゆるフリーズ。雑に言えば『ぶっ壊れていた』。


腹が立って家具にあたる。

凍って丈夫になっていたそれは、俺の貧相な体を笑うかのように、冷たく、痛みを刻みつけてきた。

傷ができ、寒さはよけい体に染み込んできた。

やせた体は、最早力を使い果たした。


出汁(ダシ)の出ない(とり)ガラ。母親か俺を馬鹿にして散々言ってきた言葉が、ふと思い出された。


時間が経っていくと、だんだん気力も()げてきてしまった。

疲れてしまった俺は、万事休す、とテーブルの上に横になる。


俺はこのまま、凍っていくのだろう。

それならいっそ、先程の焦っている俺のような痴態(ちたい)なんかじゃなく、逆らうことなく、(いさぎよ)く男らしいザマでいこう。


最早、手足の感覚はなかった。


頭も正常に働いていないのか、『もう凍ってもいいや』と思いさえしている。


ガチャンッ。


突然、何かが動く音がした。

続いて勢いよく、家の中がやけに明るくなった。

ああ、思い出した。俺がいじってたストーブだ。どうやら壊れずについてくれたらしい。


横を向く。


確かにストーブが付いていた。

だがそれよりもあきらかに(すご)い事が、目の前で起こっていた。


家の至るところ、家具のおそらく全てに火が付いていたのだ。

壊れてんじゃねぇか、とビビって飛び上がる。


飛び上がるハズが倒れてしまう。

凍って、背中がテーブルの天盤に張り付いてしまっていた。


逃げようにも、天盤が邪魔して動き辛い、しかもドアも開かず、開いている寝室へのドアもくぐることができない。


今度こそ本当に万事休す。


ブツンッ。

突然、テレビの電源が入る。


映像が映る、それは報道番組だったようで。

写りこんだ一人の極悪犯の、死刑を伝えるものだった。


どうやらその犯罪者、かなりの人数を手に掛けたヤバいヤツらしい。

世の中ってのは、恐ろしいもんだな・・・。


『その様子を、これから公開いたします』


え。

俺は一瞬頭が空白になった。

そして、一つ思い出した。

ここは日本じゃない、ということ。


そしてその直後、アナウンサーのいう通り、公開処刑の様子は映し出された。


燃える部屋。

テレビを食い入るように(なが)める人影。

大きな板を背負って、無様な、やせこけた体型の男。



それは俺だった。



・・・思い出した。俺、人殺しだった。






「・・・ッ!!」

ふっ、と、眼が開く。

嫌な夢を見たな、と、痛む頭を手で押さえながらのそっ、と起き上がる。

いつも、この夢を見ると頭が痛む。

体を持ち上げようと動くと、俺は布団に倒れこんでしまった。

アレ?と違和感が頭をよぎった。

なんだかなぁ、と思った瞬間、何度も見た夢が脳裏をよぎり、違和感がデジャビュにかわっていった。

寒気が背すじをはい回る。

異常なほどの寒気は、俺の記憶をよみがえらせた。



・・・思い出した。俺は・・・・・・。

自分が何者か知らない事、と私は考える。

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