第4.5話:彼の安寧
週に一度、ヒツギに出会える貴重な時間。
ハクにとってヒツギの客になれる時は、彼の窮屈な人生にとって耐えがたい解放の時間であった。アシューズ家という銘柄も立場も、周りの羨望と妬みの目も、仕事のしがらみも、ヒツギの前では一切ない。
息ができる、この肺が淀みながらも甘い香りでみちる。なによりヒツギとのまぐわいは、肉体の快楽という現時点で最も安らぎを感じることができる。
幼い子どもの身売り、自分の周りの人間は好奇と嫌悪の目しか向けない部類の弱者。それでもハクはヒツギに会うことを止めはしない。他にも秀麗な高級娼婦は引く手数多だが、ヒツギ以外を相手にする気は起きなかった。ヒツギの淡白な性格と権力へ媚びない態度が心地よかった。多くの客の中の一人として扱われることが、気楽で余計なことを考えなくてすんだ。
幸いにな事にヒツギの方も自分をある程度は信頼してくれるらしく、最近ではこの時間になるといつも行く宿の一階で待っている。それを指摘すると「金ヅルには礼儀正しくしないとな」なんて言っていたが、女将いわく「少し楽しそう」だそうだ。
夕刻の陰を招きながら扉が開かれる。いつもの席に、いつもの顔でヒツギが待っていた。客を迎える笑顔を作ったのは最初の方だけで、今では不愛想な素の表情である。それは信用度の表れだということを重々承知している。
何度か他の客の対応を見ている内に、ヒツギがとても芝居上手な猫かぶりと知った。それを知った後だと、この無愛想な客に対するとは思えない態度が可愛らしく見えてくる。
家も仕事も周りの人間も、一時全てを忘れさせてくれる夢の中。そう言うと、ヒツギは「お偉いさんは大変だねぇ」と苦笑して、いつもよりちょっとだけサービスして甘い声をあげてくれた。
閑話休題。ハクから見たヒツギ、ヒツギといることで得られる彼の安寧。