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青春恋愛

謎多き隣席に夢中

作者: 心音
掲載日:2016/05/09



同じクラスの〈松さん〉は、オンとオフの切り替えが驚くほど上手くて、青春を誰よりも謳歌している。そんな彼女が、よりによって僕の隣の席に座っている女の子だ。


中学はここから二駅離れた場所で、同じ中学だった神無月桜さん――大人しくて優しいクラス委員――と毎日一緒に登校しているらしい。


彼女と僕の接点は、クラスメートで隣の席。そして委員会が同じ。それだけだ。


松さんは僕のことを「微妙な人」と呼ぶ。

以前はそのたびに「梅口徹だから!」と訂正していたけれど、最近はどうでもよくなってきた。慣れって怖い。


授業中は真面目だから、彼女から話しかけてくることはほとんどない。

でも、たまに遠慮がちに「梅口さん」と呼ばれる。

授業外では散々「微妙な人」呼ばわりしてくるのに、急に名字で呼ばれると妙に距離を感じて、胸がキュッと締めつけられる。もちろん、彼女には内緒だ。


松さんは“松さん”という愛称でクラスに浸透している。でも、呼ばれるたびに彼女は少しだけ顔を歪める。ほんの、ほんの少しだけ。


それを知っているのに僕は、彼女を“松さん”と呼ぶ。

苗字で呼べば他人行儀すぎるし、下の名前で呼ぶなんて恐れ多い。

……チキンなのは自覚している。


松さんは誰とでも仲良くできる、不思議ちゃん気質の人気者だ。クラスでは、下見ヒロに次ぐ人気と言っていい。


だからこそ、妙な噂も絶えない。


「松さんは元カレに未練があって勉強してるらしい」

「人によってキャラを変える最低なやつだ」


くだらない。けれど、彼女の掴みどころのなさが噂を本当のようにも見せてしまう。


そんなある日の授業中。


「梅口さん、教科書めくるね」


珍しく教科書を忘れたらしく、二人で一つの教科書を使っていた。

うちのクラスは進学クラスで、頭はいいが授業態度は悪い。そのせいで、なぜか松さんだけを相手に先生が授業を進めることも多い。


僕は凡人なので、一生懸命ついていくしかない。


キーンコーン……

チャイムが鳴ると、彼女のスイッチは一気にオフへ。


さっきまで真剣そのものだった表情が、ニンマリ笑顔に変わる。


この顔になると、必ず僕をからかってくるのだ。


「微妙な人ってば、集中しないとおいてかれるぞ!」


はい、ごもっともです。


僕は苦笑いしながら返す。


「でもさ、松さんが教科書忘れるなんて珍しいよね」


言った瞬間、ベシッと肩を叩かれた。地味に痛い。

けれど照れたのはバレバレだ。


自分に非があるときの彼女は、やたら恥ずかしがって可愛い。叩かれるけど。


「可愛げがないぞ、微妙な人」


「今日はいつもより可愛いよ、松さん」


ベシッ!

さっきより強い。痛い。

けれど、耳まで真っ赤になった彼女の顔を見たら、そんな痛みどうでもいい。


僕は、彼女が好きだ。


そんな僕とは裏腹に、松さんはクラス委員の神無月さんを心配そうに見つめていた。

話によると、神無月さんはヒロに「あなたのことが大嫌い」と言ったらしい。でもヒロは何を思ったのか「その言葉で恋に落ちました」とか言い出した。迷惑にもほどがある。


そこからヒロが神無月さんに構い始めて、むしろ困らせている。


松さんは「いい機会だから交流を広げるべき」なんて言っていたけれど、明らかに心配性の母親と化していた。仲はいいからわからなくもないけれど。


僕はといえば――

松さんにとって僕がそんな“特別な存在”になれたらいいのにな、と毎日思っている。


そして僕と松さんは図書委員になった。

先生に押しつけられただけだが、読書は嫌いじゃないし悪くない。


図書室は退屈しない。


マンガみたいな出来事が本当に起きる場所なのだ。


この前なんて、学校中の女子に追いかけられた“ハーレム先輩”が命からがら逃げてきた。すぐ後に大勢の女子がなだれ込んできて――

松さんがまとめて追い払っていたのは見なかったことにした。


さらに彼女は撮影したムービーと、追っ手から助けたことをネタに、その先輩を脅していたらしい。……怖い。


以来、その先輩――下見雅人先輩――は、僕たちの当番の日に必ず手伝いに来る。


「イケメンチキン先輩、この本戻しといてください」


「へい、姉さん」


何なんだこの構図は。


どうして僕はそんな彼女を好きなのか――考えるまでもない。

好きだからだ。


「アニキ、なんか手伝うことあります?」


先輩が僕にも同じノリで話しかけてくる。どうして僕まで家族扱いなのか不明だが、やめてほしい。


「大丈夫です」


笑顔が引きつったが、先輩は元気に本棚へ戻っていった。

松さんのカリスマ(?)は謎だ。


ある日、ヒロが飴を渡しながら言った。


「幸せのおすそ分けな」


眩しい笑顔。

どうやら神無月さんとの恋が順調らしい。


「まあ、お前も頑張れよ」


僕も、負けていられない。


教室に戻ると、松さんが机に突っ伏していた。

雰囲気が重い。やめてほしい。


「松さん、おはよう」


「……」


無視。これはこれで怖い。


そこで、僕は小さく深呼吸をして――


「文乃、今日放課後デートしようか?」


彼女がガバッと顔を上げた。

目が合う。真っ赤だ。


「今日も松さん、可愛いね」


ベシッ。

でも今日のは弱い。手応えが軽い。


……これは、少し期待してもいいんじゃないか。


彼女は誰にでも優しい。だからこそ勘違いしてはいけないとずっと思っていた。

でも、彼女の扱い方を一番理解しているのは――たぶん僕だ。


 


『僕は脈アリですか? 隣席さん』




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[一言] 誤用です。 四十八句⇨十中八九
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