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晴れのちFine!  作者: はれのむらくも
第5章  砂嵐【Rescue】
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第91話  ~ザームVSファイン&サニー~



 クラウドがパワーならサニーはスピードだ。風を纏う肉体を加速させ、水の魔力で重みを増した拳と脚を振るい、一気に攻め立てる彼女の攻撃性は凄まじい。速さや手数で言うならば、人間離れしたクラウドよりも勝るサニーは、ザームを後退させている。


 しかし、長い鋼の棒を武器とするザームも、自分の体にサニーを触れさせない。槍に相当するほどの長い棒を巧みに操り、サニーの蹴りや正拳突きをはじき返している。ザームは力も強く、鋼の棒を構えて盾代わりにする彼の防御は、サニーの手足を痺れさせる。水の魔力で、自分の肉体を貫く衝撃を和らげていなかったら、とっくに拳や脚の骨が砕かれているだろう。


 サニーの正拳突きを前に構えた棒で受けたザームは、敢えて後方に跳んで距離を作る。サニーからは届かない間合いから、離れざまに長い棒の先を振るうザームが、サニーを横から殴り飛ばす攻撃を一閃。素早く身をかがめるサニーだが、目の前でサニーが身を沈めた直後、彼女後方から飛来する水の塊にザームも驚きだ。


 ぞっとして跳躍し、回避するザームだが、サニーがかがまなかったら水の塊は彼女の後頭部に直撃していたではないか。一瞬早く、サニーがかがむ動きをあらかじめ読んで、最も早く水の魔術を放っていたファインの行動には、こいつら一つの頭脳で体二つ操ってるんじゃないかとザームも思ってしまう。息が合い過ぎだ。


「地術、火岩の噴弾(クライン・ヴルカ)……!」


 高い天井まで跳躍したザームは、くるりと体を一回転させると、なんと天井に両足を着けてそのまま身を留める。魔力によるものなのか、特殊な血筋の為す業なのか、ともかく頭を下にして天井に立つザームは、両手を掲げて燃え滾るマグマの塊のようなものを発生させる。そしてそれを発射点にして、サニーやファインが立つ地上めがけて、赤く燃える灼熱岩石の欠片が無数に発射される。


「あん、もう……! ファインお願い!」


「うん……! 地術、地走る熱線(バーナードライナー)!」


 かすっただけで大怪我に繋がるであろう灼熱弾丸が降り注ぐ中、素早いステップで回避し続けるサニー。彼女と同じく灼熱岩石を回避し続けるファインだが、素早く身を操りながら、魔力を練り上げて片手を掲げる。サニーほどではないものの、ファインも大概身のこなしは機敏である。


 掲げたファインの掌から火の魔力が天井へ発され、到達する半ばで二又に分かれる。魔力の導線はちょうどY字型を描き、天井に突き刺さった二筋の魔力が、二点を結ぶ炎熱の直線を生じさせる。おいおいまさか、とザームがそれを目に留めた瞬間、ザームのいる方向に掲げた手をファインが振り抜き、長い熱線を前進させた。天井に逆さに立つザームの足を焼き切ろうとするかのように、天井すれすれを走る炎熱線には、ザームも魔術を打ち切って、天井を軽く蹴って離れずにはいられない。


 重力加速度を得て地上に落ちてくるザームの落下予測点、それに駆け迫るサニーの速いこと。敢えて頭を下にしたままの時間を長く、あと1秒で着地という時点で素早く身を回したザームは、脚を下にすると同時に振るう鋼の棒をサニーに迫らせる。逆さまの上体から正常姿勢に回転した瞬間は、サニーから見てどの角度から棒が迫ってくるのか読みにくい。回る体のさなかにあって、正しく狙いどおりに棒を振るえるザームの腕前が相当なのだ。


 肩口から振り下ろされる形で迫る棒の一振りを、サイドステップひとつ挟んでかわしたサニーが、すぐさまザームに急接近。一瞬でも間を稼げれば、着地後好きな方向に跳べるザームが、サニーから跳び離れながら棒の手元を操って、突き出されるサニーの拳を防ぎおおす。押されるままに、跳んだ以上に退がらさせても、体勢崩さずさらに反撃の棒先を突き抜いてくるザームには、サニーもあわやのところで顔を逃がして回避。尺の長い武器を持て余さず、攻防一体に使いこなすザームの手腕が、サニーを好きには動かせない。


「地術、地表波(グランドウエーブ)!」


 突いた棒先を振り上げれて、手元の棒尻を地面に突き立てると同時にザームが地に伝えた魔力は、そこ一点を開始点に地面を波打たせる。比喩ではなく、本当に嵐の海上のように大きく波打たせるのだ。ザームの立つ地点、固く揺るがぬはずの地面が大きく沈み込んだ直後、一気にせり上がる上下運動に連動させられるように、沈んで跳ね上がる地面が放射状に拡散。突然自分の立っている場所が沈み、直後跳ね上げられたサニーは、自らの意思とは無関係に体を浮かせられてしまう。


 体を浮かせて自由に動けないサニーの腹部めがけて、素早いザームの棒先が突き迫る。狙いは的確、サニーも一気に首を逸らせ、振り上げる足で突き出された棒先を蹴り上げる。棒先をはじき上げられたザームが一歩足を引いて舌打ちする一方で、上方に視界が偏るザームの視界に飛び込むもう一つの影。


 地面から跳ね上げられるあの瞬間、自分でも地を蹴ったファインは風を纏い、放物線を描く矢のようにしてサニーより上を通過する。さらにザームの頭上点を通過するに際し、握り締めた魔力をザームの周囲にばらまくのだ。身構えたザームにそれらは当たらず、代わりにザームの周囲の地面に降り注ぎ、粉塵をまき上げ視界を遮ってくる。


 ザーム後方に身を翻したファインが着地した瞬間とほぼ同時、着地したサニーによる突撃が粉塵を突き破り、すでにザームの至近距離まで迫っている。濛々とした前方から突然現れたサニーに、直感だけで来ることを察していたザームは既に身構え、眼前ぎゅるりと空中で身をひねるサニーの回し蹴りを、盾にした棒で防いでよろめく。踏ん張るザームの眼差しと、痺れる脚を意に介さないサニーの眼光が、砂塵を超えてぶつかり合う。


「やっぱり、ここじゃあ限界があるな……!」


 苦々しい声と共にザームは跳躍し、サニーやファインから距離を取った場所へ着地。空中に身をおいた中で魔力を練り上げていたザームが、粉塵を風で吹き飛ばしたファインと、視界がクリアになったサニーの目の前、棒を持たぬ方の掌を天井に向けている。何か大きな魔術の行使寸前の行動であることは、彼の全身から漂う超密度の魔力の気配から、二人の目にも明らかだ。


「っ、かあっ!!」


 土を掘る魔術の力、それをまさしく魔力の塊にして放ったザームの上天、彼の真上天井にそれが激突する。まるで巨人の拳がひねりを利かせて地面をくぼませていく様の逆、天井がザームの魔力凝縮体によって一気に掘り進められていき、飛び散る多量の土が空間内に飛散した数秒後、天上に空いた大穴の遠くに雲が見えた。


 ここは青空の下の地表すぐ。ザームの放った魔力は、厚みはあれど薄い土を突き破り、地上への緊急脱出口を作り上げた。しまったとばかりにサニーがザームに駆け迫るも、一気に跳躍したザームは穴に片足をかけ、穴の壁を何度も蹴るようにして地上へと昇っていく。サニーも空中を蹴るための魔力を足に纏い、ザームを追うようにして、天井に空いた穴の真ん中を跳躍していく。


 ファインも同様、地を蹴って跳んだのはサニーとほぼ同時。風の翼を背負ったファインが、上昇速度で勝るサニーに僅か遅れ、光溢れる大地へ向かって飛翔する。











 時を遡ってその数秒前。混乱に満ちたクライメントシティの、無人出店からかっぱらってきたりんご飴をくわえながら、建物の屋上の崖っぷちに座っている少女がいる。足をぶらぶらさせながら、ちゅっちゅと口の中の飴を吸い、舐め、退屈そうに地上一点を眺めている。


 青白赤の三色ストライプの服に身を纏う少女は、暴かれた墓、地下道への道が開かれた跡を見て、この場所に駆けつけていた。地底でザームに良くないことが起こった場合、緊急脱出用の避難口はここだと知っているからだ。何事もなくザーム独力で邪魔者を排除できていればいいけど、と思う一方、それはそれで万一に備えて待機していた自分が待ちぼうけになるから、少女は複雑な想いで待っている。退屈になってきた頃合いだし、口に飴を含んでいなければあくびも出てきそうだ。


 もうほっとこうかなぁ、と少女が思った矢先、びしりと観察地点の石畳が大きくひび割れる。あっ、と少女がりんご飴の棒を持って飴を口から出した瞬間、石畳を吹っ飛ばして地表の下から魔力が飛んでいく。そこに残された大穴は、今しがたザームが地底から作った脱出口だ。


「あらら……ザームさん、ダメだったんだ」


 ザームがそれなりの使い手であると知っている少女の目線、彼が地表を吹っ飛ばして脱出してくること、すなわち彼が苦戦するような相手がいることに、少女も少し驚き気味。よっ、と建物の屋上から飛び降りて、ずいぶん高い場所から地面に降りた少女が、大穴の方へとひょこひょこ駆けていく。そんな少女の目の前、大穴から飛び出してきたザームは、近くの地面にずざりと着地する。


「ザームさ~ん」


「……お前が"卵"か?」


 そうだよーと応えながら駆け寄ってくる少女を、"アトモスの影の卵"であると認識したザームは、ひとまずほっとした表情だ。魔女アトモスに比肩する、誰も正体を知らぬ"アトモスの影"。それが従える唯一の部下として名高い、"アトモスの影の卵"と呼ばれるのが、こんな少女だったとはザームも驚きだ。しかし、ザームの名を知り、私がそうだよと自称するならそれは真実であろうし、ならば少女の実力高さも約束されている。


「すまねぇな、邪魔が入ってしくじっちまった。作戦は失敗だ、全軍に伝えてくれ」


「むぅ、仕方ないなぁ」


 握り締めた魔力を上天へと投げつけた少女が、ぐっとその手を握り締めた瞬間、魔力ははじけて空高くに巨大な花火を描いた。撤退を意味する合図と全軍が知る、虹色華やかな花火である。明るい空では見づらいが、特徴的かつ盛大な爆音が人の目を引けば、多くの同士は今ので気付いただろう。間を置いて、またいくつか撃つつもりでもある。


「失敗だなんて、セシュレスさま怒るだろうなぁ~」


「わーってるよ、ったく……帰るのが億劫だわ」


 軽い声で深刻な話をする二人の前、穴の底から二人の少女も姿を現す。繰り返してきた跳びの果て、地上に降り立つサニーと、彼女に遅れて飛翔してきたファインが、ザームとトリコロールカラーの少女を見据える。


「悪いが、少し手伝ってくれねえかな。あいつらを黙らせなきゃ、逃げるのもままならねえ」


「あれ天人?」


「そうだな」


「じゃ殺そう」


 無邪気な笑顔で物騒を口走る少女は、歪んだ気質を背負ってファイン達を見据えた。ザームをこのまま逃がしてなるかと、それで頭がいっぱいだったファインとサニーをして、地上にてザームに加勢した少女の殺気は、それを吹き飛ばすインパクト。理性的な頭で、ザームのことを忘れてはいけないと自分に言い聞かせる二人にとっては、それほどザーム以上に少女から感じる瘴気が濃い。


 ファインと同じ年頃の少女が、魔力を両手ににっこり笑う姿だけで、これほど肌をひりつかせてくるのは普通じゃない。本能的に命の危機を察したファインとサニーもまた、自己全力の魔力を一気に練り上げた。

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