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晴れのちFine!  作者: はれのむらくも
第3章  快晴【Fires】
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第55話  ~2対1~



 オラージュとの距離を詰めることが出来ない。両掌から大小多数の火球を生じさせ続けるオラージュは、掌を離れた火球を次々とサニーへと襲いかからせる。手を振るうわけでもなく、自ずとサニーへと加速度を得て向かう火球の数々、軌道も様々だ。直進するものもあれば、ゆるやかに弧を描いて迫るもの、一度サニーとオラージュの中間点の地面で弾み、下から跳びかかってくるものもある。敵との距離を保ったまま、無数の火球を弾幕のように放つオラージュの攻めが、手負いのサニーを苦しめる。


 風を纏う肉体による速度上昇、伴い快足を得たサニーがこれらを回避するのは、彼女の力量から言えば難しいことではない。迫る火球の数々をかいくぐり、オラージュへと接近することを両立することも出来る。そうしてオラージュに触れられる距離まで詰まり、勝負を決する打撃を届けることが、サニーにとって最も目指すべき勝利への道だ。


「すげえな、お前……!」


 だが、距離が詰まりかけた中距離に至った瞬間、接近戦におけるオラージュの武器が牙を剥く。火球の数々をくぐり抜け、自らに迫るサニーに脅威を覚えながらも、掌を開いた右手をオラージュが振り抜く。その掌から生じる、長い鞭のようにしなる黄金色の炎は、活きた蛇のようにサニーへと差し迫るのだ。


 魔術の炎で生じさせた、炎の鞭とも呼べるそれは、オラージュの前方広範囲を薙ぎ払う。火球の弾幕も相まって道を塞がれたサニーは、後方に跳び退いて逃れるしかない。何度接近しようとしても、これの繰り返し。


 炎の鞭が引っかいた地面は、まるで焼き切られたかのように傷跡を残し、それが凄まじい溶熱を抱く炎の鞭を物語っている。恐らく触れれば、人の肉体など容易に焼き切るであろう、炭火のような赤々しい炎の鞭は、あと僅かのところでサニーをオラージュに近寄らせない。近距離と中距離は炎の鞭によって隙なく埋め、距離が生じれば火球によって攻めるオラージュの戦い方は、確かにフルトゥナという前衛がいては出来ないものだ。味方を巻き込む可能性が高い。


 敵の頭数をひとつ削いで少々流れは引き寄せられたかと思ったところで、相棒を失ったマイナスを自らの手で補うオラージュ。浅くない傷を腹に負い、疲労も募る一方、ましてそこに逆風の戦況という要素が加わるサニーにとって、蓄積した疲労とダメージは余計に重々しく感じる。手負いの相手を攻め落としきれないオラージュも舌打ち混じりだが、追い詰められたサニーの表情に出る苦しみは、攻める側の比ではない。


 決定打に繋げるための手が見つからない。再び火球の大群を差し向けてくるオラージュの前、懸命に回避し続けるサニーは、現状を打破する策を求めて頭を全力回転させている。今、この日この場所で発揮できる切り札がどうしても見つからない。このままでは、消耗しきった末に一撃くらわされ、ぐらついたところにとどめの集中砲火を受けて終わる未来しかない。熱気に満ち溢れた戦場下、吸うだけで肺も痛む空気を荒く取り入れながら、か細い命をサニーが繋ぎ止めている。


「……えっ!?」


 総計にして百発目前後の火球を、サニーが横っ跳びに回避したその瞬間のことだ。サニーの後方から感じた、不自然な物音に、サニーは思わず振り返っていた。そんな彼女をオラージュが火球で狙撃できなかったのは、彼女が目にした何かをオラージュも見て、思わず攻撃の手を止めてしまったからだ。


「っ、があっ……! くそ……っ!!」


 ほとんど火だるま、全身を火に包まれたような姿の少年が、炎の壁を突き破って、こちらのバトルフィールドに転がり込んできたのだ。驚くなという方が無茶な話。サニー達と自分を隔てていた炎の壁から飛び出してきた彼は、地面を転がるままにして両脚を地面にこすりつけた末、顔を隠し守っていた両の拳と手首を解き、火のついた上着を素早く破り捨てる。さらに、その場で空を切るように右脚と左脚を大きく振るって、地面にこすって小さくしていた、脚に絡みつく炎を吹っ飛ばしてしまう。


 決して大きくはない、引き締まった上半身を露呈させたクラウドは、炎にやられた全身を真っ赤にしながらも、倒れずオラージュを睨みつけている。最も頼もしい仲間が駆けつけてくれたというのに、サニーが顔を青くして絶句しているのは、火傷まみれのクラウドの姿があまりに凄惨だったからだ。こんなもの、突っ返してでも退がってろと言わなきゃいけない重傷ではないか。


「化け物揃いか、このガキ共は……!」


「クラウド!? 待……」


 そんなクラウドに睨みつけられるオラージュの危機感は、思わずクラウドを引き止めようとしたサニー以上に凄まじい。サニーの制止の声も聞こえぬふり、地面を蹴って真っ直ぐにオラージュへと駆け迫るクラウドは、厚い炎の壁を突き破って全身やられているはずなのに、サニーよりも素早い。


 オラージュが放った3発の火球を回避し、一気に距離を詰めるクラウド。それを目前に迫らせたオラージュは、死から逃れる想いで右の掌を最速で振るう。瞬時に長く生じさせた長い鞭が、術者の前方を広く薙ぎ払う形で、クラウドの肉体を焼き切ろうと素早く迫るのだ。


 側面から、腰元から自分を斜めに焼き切ろうとかかってきた炎の鞭を、前方に駆けながら一気に脚を抜いたクラウドが回避する。前方に進みながら背中から倒れたクラウドの眼前、炎の鞭が通過した瞬間、ぐるりと素早く横に寝返り打つと同時に地面を掌で押す。オラージュに背を向ける形で素早く立ち上がった瞬間に、後方めがけて跳ぶと同時に振り抜いた脚は、オラージュの想定をも超えた速度で彼の顎元を殴り飛ばそうとしている。


 それでも咄嗟に身を引くと同時、顔を引いて回避したオラージュの反射神経も流石とは言えただろう。しかし、思わぬ回避を強いられたオラージュが反撃に移ろうとした瞬間にはもう遅い。回し蹴りを回避され、しかし体をオラージュの方に向け、さらにはあと一歩でオラージュに手が届く距離までクラウドは到達しているのだ。オラージュが魔術を放つよりも早く、反撃も恐れぬ蛮勇振るってクラウドが踏み出し、同時に拳をオラージュの胸元めがけて放っている。


 かわしきれぬ一撃を前にしたその一瞬、戦闘勘より生存本能から腕を交差させたオラージュのガードを、クラウドの鉄拳が打ち抜いた。直撃の瞬間、オラージュもちゃんと後方に跳ぶことで、衝撃を最大限殺そうとしていたはず。しかし、人間離れしたクラウドの拳の破壊力は、触れた瞬間にオラージュの両腕を粉砕し、それに繋がる彼の体を、まるで銃弾のように遠方の建物まで吹っ飛ばす。


 完全に砕けて駄目になった自らの腕を確信したその瞬間には、オラージュの肉体は石の壁に激突し、凄まじい衝撃が彼の肉体を粉砕する。それほどの速度で吹っ飛ばされたのだ。目を見開いて肺の中のものを全部吐き出すオラージュが、持っていかれた後頭部を強打して意識を吹っ飛ばし、ひび割れた石壁を背中に接したまま、ずるりと地面に崩れ落ちてしまった。


 自分の拳への反動も凄まじいほどの打撃、それを打ち出したクラウドの軽い体は、後方によろりとふらつく。言葉を失い、今の一連を見ていることしか出来なかったサニーも、そんな彼の挙動にはっとしたかのように、素早く駆け寄った。倒れるかと思ったクラウドの体が、引いた片足で踏み止まり、重心を前に移して前に傾いたところで、サニーが彼のそばに立つ形になる。


「だ、大丈夫なの……!?」


「っ……これぐらい、どうってことないっ……!」


 駆けながら背中で倒れたクラウドの背中は、火傷でいっぱいの背で石畳にこすり付けたせいで、残酷なほどの裂傷まみれである。それでも二本の脚で地に立って、両肩握って横から見上げてくるサニーに、力なく笑って返すクラウドを見ていると、無茶な友人にサニーもやりきれなくなる。


 術者が意識を失ったことにより、周囲に立ちそびえていた炎の壁も消えていく。熱気に満ちた空間が、やがて日の沈んだ暗い町に戻っていく光景の中、クラウドを支えるように握っていたサニーが、思い出したように空を見上げた。フルトゥナは撃退した、オラージュも撃破した、ケイモンも恐らくクラウドが撃退したはず、だが残る最大の脅威はどうなっているのか。何より、あれと空で戦う親友はどうなった。


 答えはすぐに見えた。空を見上げたサニーの上空から、流星のような速度で落ちてくる何かがあった。それはサニー達のすぐそばの地面に勢いよく落ちてきて、石畳に激突して跳ねた。クラウドのことが心配でならなかったサニーにとっては、落ちてきたものが何であったかわかったぶん、追い討ちをかけるようにぞっとするものだ。


「う……ぅ……」


「ファイン……!」


 駆け寄りたいけど今のクラウドを放って駆け寄れない、そんなサニーの目の前で、地面の上で体を震わすファインの姿がある。背中から叩きつけられたと思われる姿のファインは、ひくひくと震える体をゆっくりと転がし、痛む体に鞭打って立ち上がる。速くはない、しかし彼女の中では最速で。そうして再び空を見上げるファインの目は、今しがたまで交戦していた、敵の親玉を探すためのもの。


 その人物は、サニーの目には留まらない。翼を持つ元勇者は、オラージュのすぐそばに降り立って、片膝をついて彼を揺さぶっている。気を失っていたオラージュが、彼の行為によって目を覚ますまでは早い。


「た、大将……」


「退け」


 うつろな目で見上げるオラージュと、無表情のまま命じるニンバス。使い物にならなくなった両腕、しかし脚を壊されたわけではない。歪む前方の視界、再び吹っ飛びそうな意識を正して立ち上がったオラージュは、命じられたまま撤退していく。一般人でも本気で追えば追いつけそうな、鍛え抜かれた尖兵とは思えぬ脚で逃亡するオラージュの後ろ姿を、立ち上がったニンバスは目で追っていた。


 そして、オラージュが充分にこの戦場から離れたと見受けたニンバスが、少年少女達に振り返る。冷徹な瞳、左手に握られ鈍く光るフランベルジュ。かつて勇者と呼ばれた人物が、ファイン達を見据えて歩み寄ってくる。肩を握るサニーの手をぽんと叩いて、離していいと表したクラウドは、前に一歩踏み出してサニーから離れて構える。


「馬鹿……!」


 そんなクラウドの肩を後ろから握り、全力で後ろに引っ張ったサニーの行動が、強いはずのクラウドの体をふらつかせる。後ろに投げ出されるように手放されたことで、数歩後方にふらついたクラウドは、それほどまでに消耗して弱っているということだ。


「何す……」


「ファイン! やるわよ!」


「わかってる……!」


 クラウドの前に立ちはだかるサニー、そんな彼女が叫ぶより早く駆けていたファインも、サニーの隣に並び立つ。少女二人がクラウドの前に立つ壁となる姿は、朽ちて倒れそうな親友にこれ以上無理をさせず、守り通してみせるという意志の表れだ。


 かつての近代天地大戦、こうして同胞を守るため、我が身を盾にしようとして戦おうとした者達は山ほどいたはずだ。そんな幾多もの敵味方を見てきたはずのニンバスが、二十歳にも満たぬ少女二人がこんな姿を見せていることを前にして何を思うだろう。一貫して無表情であったはずのニンバスが、その時僅かに口の端を上げた表情を、ファインもサニーも見逃さない。


「……見上げた子供達だ」


 腐った天人達の支配する、薄汚れた世界に失望し、悪に身を染めたニンバス。そんな彼にとって、若くして友人を守るため、古き血を流す者ブラッディ・エンシェントにも立ち向かおうという少女達の姿は、薄暗い光景の中で眩しくすら感じられた。確かに一瞬ニンバスの目が、英雄として知られた頃の彼のように、誇り高き戦士の光を蘇らせたのは、ファイン達の目に強く焼き付けられたものだ。


 そんな一瞬を払拭するかのように、曲がった剣をひゅんと振るニンバスが、再び無表情の仮面を纏う。構えたファインもサニーも、その挙動ひとつで数秒後の死さえ覚悟した。来る。


「行くぞ」


 歴戦の勇者が地を蹴って、友を守らんとする少女達に迫る。翼を背負いし英雄の、風にも勝る速度での急襲だ。

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