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晴れのちFine!  作者: はれのむらくも
第2章  曇り【Confidence】
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第32話  ~逸材闘士~



 試合の決着は基本的に、闘士達の戦いを見届けるジャッジによって定められる。闘士の片方が気絶したり、それに準じるほどのダメージを受けたことを見受け、ジャッジによるストップが強制的にかかることもある。裁定は基本的にすべてジャッジ任せであり、そのジャッジも、継戦能力があるかの確認など柔軟に立ち回り、目まぐるしく動く戦況を見定めてくれる頼もしい存在である。戦いは、闘士二人が高位の魔術を使える者同士だと激しさを増すことも多く、同じバトルフィールドに立つジャッジも決して安全な立場ではない。その上で試合の流れを裁いてくれるのだから、ジャッジもそれなりに腕の立つ人物でないと務まらない。闘技場ってやつは、何気にたくましそうな受付の男といい、総じてスタッフも粒揃いである。


 ジャッジは天人であったり地人であったりするのだが、その裁定に天人地人の差別が発生することは、現実的には考えなくていい風潮だ。おかしな裁定あろうものなら客が離れ、やがては闘技場の大元、支配者たる天人のお偉い様に、甚大なる損失を被らせることになるから。何より観客の中には、闘技場側が胴元たる、公営ギャンブルに熱くなっているお客様もいる。そんな人達の賭博を、疑惑の裁定で狂わせたとなれば、冗談抜きで暴動さえ起こりかねない。人生懸けてのギャンブルに望んでいる人達、目に見えておかしな形でその人生を狂わされたら、何をしでかすかわかったもんじゃない。命捨ててでも闘技場に火をつけに来ることも全然あり得るのだから。


 まあ、そんな人達の賭け事の対象にされている闘士達だけに、彼らの勝敗に一部の観客は非常に敏感だ。闘士が負けると、その闘士の勝ちに大金張っていた人から、もの凄く恨まれる。絵に描いたような逆恨みだが、金が懸かっている以上、全否定できない感情の一種であろう。懸命に戦い抜いて負け、ただでさえ悔しい上に罵言雑言浴びせられる闘士というのも気の毒なものだが、そういう意味でも非常に厳しい世界なのだ。入ってみてからでなければわからない世界だが、勝っているうちはいいものの、勝てないようになってくると大変な世界ということである。


 クラウドのように、そうした概念を知らずに闘技場入りした者は、波のある今後の人生でそれを学び、大人になっていくことになるのだろう。とはいえそれも、この入門試験を潜り抜けてから。ここでたいした結果が出せないようなら、引き下がった方が本人のためでもある。いきなり試練めいた入門試験だが、今後勝っていける見込みがないなら、こんな世界に入るべきではないというのも正しい見解。優しさと形容するには些か荒っぽいが、クラウドのような若者に、それなりに出来る闘士をぶつけてくる闘技場側の意図も、別に悪意に満ちたものというわけではないのだ。






 正直闘技場側も、クラウドをとっとと負かして、田舎に送り出す道筋を敷く心積もりだったのかもしれない。Eランクの闘士にも勝てないようなら、先は無いよと。


「……勝者、クラウド!」


「さあ、何ということでしょう!? わたくしこの結果には、勝敗以上に、その鮮やかな勝ちっぷりがあまりに予想外っ!」


 試合開始の宣言から、決着まで5秒かかっただろうか。一気に距離を詰めたクラウドへ、対する闘士が棍棒を振りかぶった瞬間、彼の肩口を捕えるはずだった棍棒は空を切った。素早くかがんで回避したクラウドは、空振った棍棒を持つ闘士の手を掌で打ち上げた。その衝撃で棍棒を取り落とした闘士の腹部に、クラウドの回し蹴りが突き刺さるのもすぐのことだった。


 ボディへの一撃に悶絶して崩れるとか、そういう次元ではない。クラウドの人間離れした脚力で放たれた蹴りは、それなりの重さを持つはずの闘士の体を吹き飛ばしたのだ。仰向けに倒れ、後頭部を地面に打ちつけた彼はそのまま気を失い、ジャッジから迷い無き決着の合図を引き出すに至った。仮に意識があったところで、あれで戦い続けられるとは思えぬ一撃だ。


「すごいすごい! クラウドさん、流石ですね!」


「あんなのじゃ相手にはならないでしょ~。クラウド、私より強いかもしれないのに」


 一度共闘した時から、サニーもクラウドの強さは知っている。ガードマンひしめく天人屋敷を駆け抜け、ファインを救出してくれた実績だってあるのだ。ファインを連れてのクラウドと再会した時には無傷であったし、そんじょそこらの奴らに負けるクラウドでないのは、サニーも元々わかっていた顔である。


「こーれは、ちょっと……主催者側も戸惑っているのでしょうか!? 次の闘士が出てこないぞ!?」


 観客席のおっちゃん達は、驚きつつも快勝のクラウドを喝采しているが、闘技場陣営は次はどうしようと苦笑いを浮かべているだろう。Eランクの闘士に勝つような有望株が現れたなら、それはそれでいいことだし、嬉しい意味で想定外のことではない。しかし、瞬殺に近い結果を見せたクラウドを目にして、用意していたEランク闘士を続投させて果たして意味があるのやら。試合展開なども加味して、クラウドの力量を様々な角度から見て彼のランクを定めたいのに、次も同じような結果になっては意味がない。


 正直、今からクラウドと戦わされそうなEランク闘士達も裏で、ちょっと勘弁して貰えませんかねムード。なかなか次のクラウドの相手が出てこないのは、その辺で軽く揉めているからだ。誰が好き好んで、目に見えての怪物新人にボコられに行きたがるのやら。


 しばらく待った末、さっきの闘士よりも少し細身の男が現れる。得物も杖、恐らく武術よりは魔術を武器に戦うタイプの闘士なのだろう。こちらもEランク闘士のようだが、もしもあの新人をのしてくれたら、ちょっとボーナス出すよという条件付きで、闘技場陣営に押し出された形である。別に欲に目がくらんだわけでなく、誰かが行かなきゃいけなかったので来てくれた、闘技場に対して良心的な人。


「よろしくお願いします……!」


「……まあ、お手柔らかに頼むよ」


「それでは第二回戦……っ! 試合、開始いっ!!」


 今度はちょっとだけ展開が変わった。試合開始と同時に、クラウドに向けて火球を放つ魔術を発した闘士の甲斐あって、急接近からの瞬殺という展開にはならなかった。それはいい。ただ、火球を横に身を逃がして回避したクラウドだが、二発目の火球はもう見切りがついたのか、顔面めがけて飛んでくる火球を跳躍によって越え、そのまま流星のように敵へと接近。そのまま腕を振り抜く形で、クラウドを目で追った闘士の胸元を薙ぎ倒すように、一気に地面へと叩きつけたのだ。思いっきり肩口から地面に叩き落され、頭を地面に打ちつけた闘士が、目を回して気を失うのも仕方あるまい。


「勝者、クラウド」


「ジャッジのテンションが低すぎるぅーっ! 予想通りとはいえ、もっと声を張って欲しいっ!」


 ああやっぱりEランクじゃ駄目だな、と、闘技場側にもよく伝わった。今しがた倒された魔術使いの立場からすれば、あと3分早く気付いて欲しかったところだが。というか、これではDランクの闘士をクラウドに当ててみたところで、結果もある程度見えている気がしなくもない。


 闘技場も困ってきた。まさかクラウドがここまでやるとは思っていなかったから、試験試合の相手は最高でもDランクの闘士しか呼んでいない。Cランク以上の闘士の皆様は、午後の部で試合を控えている方が多く、お忙しい。


 ええい、こうなったら正攻法より寝技だと。これならどう出る、と、Dランク闘士の中から闘技場が選別した人物が、クラウドの前に姿を現す。


「……う」


「随分調子いいみたいね、あなた」


 さて、今度の相手は女の子。ショートカットの黒髪、面積は大きめだが肌の露出は多いビキニアーマー、そして皮のグローブと肩当てを装備した彼女は、クラウドと同じく肉弾戦を得意とする人物とよく見える。クラウドよりも少し年上だろうか。敵対者と睨み合う時のサニーによく似て目が鋭く、群雄割拠の闘技場でDランクを獲得しているだけあって、なかなか気も強そうだ。


「言っておくけど、手加減無用よ? 手ぇ抜いたりしたら、個人的にあなたのこと許さない」


「あー、うー……」


「さあさあ、思ったよりも早くのDランク闘士の登場だ! しかも今度は女の子! 新人クラウドは、今までのように容赦なく、女の子を叩き伏せることが出来るのでしょうか!?」


 闘技場側の意向を読み取ったかのように、さぞ人聞きの悪い言い方で試合開始前の会場を煽るアナウンサー。クラウドの底知れなさは既に証明されており、それはもう主催者側としてもわかったのでもういい。この期に確かめておきたいのは、クラウドの精神面だ。女相手でも容赦なく勝ちにいけるメンタルがあるなら、闘士としてのクラウドの評価はなお上がるだろう。一般的な美徳と、闘士としての頼もしさは別問題。


「クラウドさんと戦ったら、あの女の人大怪我するんじゃ……?」


「そうかな? 別に怪我させなくても勝てる方法はあるし」


 サニー目線でも、クラウドと対峙する女闘士が、それなりの力量を持つ者であるとはわかる。かと言って、クラウドがあれに手こずると思うかと聞かれれば、別に。自分よりも多分2つぐらい年上の女性を眺め、上から目線であれこれ考えるのもどうかなとサニー自身も思うが、自分があれの相手だったらああやってこうやって、怪我をさせずに勝利することも出来そうな気もする。


 問題はクラウドだ。容赦なく女をぶちのめす彼の姿、あんまり期待したくない想いがあるのも事実だが、情と惑いに囚われて、勝てるはずの勝負を落とすクラウドも見たくない。どうするのかしらね、と、本音そのまま口にしたサニーの横では、ファインもこの後の展開が読めずにはらはらしている。


「……よろしくお願いします!」


「ええ、いい返事……! 行くわよ!」


「それでは第三回戦……っ! 試合、開始いっ!!」


 先手を打ったのは女闘士の方だ。出遅れたクラウドは、相手の動き出しが早かったことを見受け、前に傾いていた重心を後ろに引き下げる。あ、大丈夫だ、冷静だ、とサニーも安心。あの一瞬で即座に、前のめりになりかけた体をベストの位置に戻せるなら、判断能力でも基礎能力でも遅れは取っていない。


 ファーストアタックを仕掛ける、距離を詰めた女闘士は、クラウドの顎元目がけて握り拳を振り抜く。遠目にも、間近で見たらとんでもない速度の拳だと理解できる速さだ。落ち着いて一歩退がってそれを回避したクラウドは、引いた右脚を軸にして、左脚の回し蹴りで敵の側頭部を刈りにかかった。


「あっ、終わった」


 口にしたのは観戦者のサニー。攻撃した直後、カウンターで飛んでくる素早い回し蹴りは、完全に女闘士の想定より速い一撃だ。しかしそれでも咄嗟に頭を静めて回避し、すぐに拳を握り締め、反撃をはずしたクラウドへの二重カウンターを放とうとする女闘士は、流石の闘技場で鍛えてきた戦闘勘だ。


 自らの脚が女闘士の頭上を通過した瞬間、さらに勢いよく体をひねり、回転する体の速度を急激に上げるクラウド。敵からの反撃の手が伸びてくるよりも、一回転したクラウドが女闘士との距離をゼロに近くし、体をその方向に向ける方が速い。そして、ぴったり自らの右脇の位置に女闘士の頭を捉えたクラウドは、そのまま右の二の腕と脇で、女闘士の首を上から捕まえる形になる。


 捕まえたのはまさに一瞬。さらに左手を、かがんだ体勢で首を捕えられた形の女闘士の眼前を横切らせ、その動きに合わせて、自分も仰向け体勢に向かってスイングする。自分の首を捕えたままのクラウドが、勢いよく体を回転させたことによって、女闘士の体も頭を中心軸にして回転させられてしまう。首を捕えた側、捕えられた側の両者が、一瞬の回転によって顔を空に向ける形になり、背中から地面に勢いよく叩きつけられた。この行為に名をつけるなら、旋回式フロントネックブリーカーといったところか。


 肺を貫く衝撃と、首が熱くなりそうな痛みに目を白黒させた女闘士。体も回され、何がどうなったのかを一瞬では理解できなかった。一方で、自分でそうしたクラウドは容易に余っていた左手で受け身を取り、素早く敵の首に絡ませていた腕も引き抜いて、最速の動きで立ち上がっている。


 けはっ、と歪む視界の中で詰まった息を吐いた女闘士の顔の横で、目も覚めるような大きな音がした。いきなり仰向けに倒されて前後不覚になった女闘士、その顔の横の地面を、振り下ろしたクラウドの踵が、思いっきり踏み砕いたからだ。戦いに心得のある者なら、その一発で理解できるだろう。クラウドが仮にその気であったなら、女闘士の頭蓋は強烈な踵落としにより、粉々に粉砕されていたことが。顔すぐそばの地面を砕くことで、それを出来たけどやらなかったことを表明したクラウドは、自分だって負けられないという意志力を込めた、強い眼差しで女闘士を見下ろしている。


「うむ、勝者クラウド!」


「なっ、なんとおっ!? 一切の致命打も与えず、納得の勝利をジャッジから獲得です!」


 仮に今のが本気の殺し合いなら、女闘士の絶命を以って間違いなくクラウドの勝ちだったと見せた光景。圧倒的な力の差を、無傷に近い形で見せられた女闘士は、茫然自失というようになかなか起き上がれない。しかし、ジャッジの声を聞いて、女闘士から離れる方向へクラウドが跳び退くと、ようやく女闘士も敗北の事実を頭で理解し、ゆらりと体を起こす。


「……あんた、Dランクにも収まんないわ」


 負けた悔しさも内包する、苦笑いを浮かべて去っていく女闘士。圧倒的な三連勝に、この日の新人入門試験を目に出来た観衆は、一足先にいいものが見れたと喝采の拍手を送っている。そんな客以上に、友人の勢いある勝ちっぷりに喜ぶのがファインで、他の誰より惜しみない拍手っぷりだ。観客席で唯一拍手していないサニーは、自分の想像以上の実力者であるクラウドを見て、別の意味で苦笑していた。クラウドは自分よりも強いかもしれない、とファインには言ったが、もし本当にそうだとしたら、それはそれでちょっと。サニーもなんだかんだで自信家、負けず嫌い。親しいからこそ、クラウドには劣らずにいたいというか。


 駒の続く限りクラウドには連戦してもらうはずだった闘技場側だが、3人目との対戦を以って、次の闘士は出てこなくなった。こうなってしまった以上、もう試験は終了だ。Dランクの闘士さえをも、完全にコントロールして理想の勝ち方を実現させたクラウドに、これ以上Dランク以下の闘士をぶつけても何の意味もあるまい。さらに言うなら、ここまで快勝続きのクラウドだったが、せっかく装備してきた手甲を使ってもいないのだ。要するに、現時点でもまだ全力を出し切っているとは言えないのが明らかであり、これ以上、闘士の怪我人を増やしてまで試験を続けるメリットが無い。


 やがて、その事実が伝えられたジャッジの説明により、クラウドの入門試験は終わった。EランクからDランクの闘士を、軒並み秒殺してきたクラウド。その実力は充分に証明したと言えるだろう。

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