第228話 ~そしてその日は訪れた~
カラザにしてみれば、200歳を過ぎてからは初めてのことばかりだった。
花盛りの春、炎天夏、栄華の秋落。カラザの中でも切り札とも呼べる秘術を、一日の間に二つも見せた敵は過去にいなかった。これまでに戦ってきた相手はみな、秘術ひとつを封切れば、必ずそれで勝負をつけられてきたからだ。
原種としての姿のうち、蛇に完全変容した姿を誰かに見せたのも初めてのことだった。ましてや千年前の戦いでも、無数の敵を相手取る時に巨体を活かす、そんな戦況でこその切り札であったのに、たった一人の相手にその姿を披露することなど前例が無かったのだ。決して出し惜しみしてきたわけではなく、それをする必要のある相手は、ここ800年以上の間にいなかったのだから。
現代に、全力の自分と渡り合えるような相手がいるとしたら、アストラか、生前のアトモスか、スノウの三人だけだとカラザはずっと思ってきた。全力を尽くした。広く火を放ったホウライの都では、大蛇と化すことも花盛りの春を使うことも難しい状況下、制限された戦い方を強いられていた。今日は、何の気兼ねもなく戦うことが出来た。まさしく、何百年もぶりに全力を投じた戦いだったと言える。
それで、よかったのだ。そうでなければ、きっと自分が殺されていたのだから。
「……雨が、やまぬな」
この雨を降らせているのはスノウの魔力だ。振り続けるということは、術者がまだ生きている証拠。人の姿に戻ったカラザが、めちゃくちゃに破壊されたクライメントシティの一角を歩きながら、徐々に弱くなっていく雨を右の掌で受け止めている。
負けてなお、死するその時まで雨をやませぬその執念には恐れ入る。カラザはスノウがどこにいるのかだってわかっているのだ。飛ばず、地面に体を預け、動かなくなったスノウの状態は認識している。ここまで至ってなお、遠くで今も戦っているかもしれないクラウド、ファイン、レインの助けになるかもしれぬと、雨を降らせる魔力を絶やさないのだから、つくづく死ぬまで誰かのために動ける人間だと思わせられる。
「……実際、お前の雨には手を焼かせて貰ったよ」
この雨と風が、クライメント神殿周囲の4つの戦場にて、火と土の魔力に絶え間なく干渉していたのだ。ザームの土の魔力にも、セシュレスの火の魔力にも、カラザの火と土の魔力にも、補色の魔力として常にその力を押さえ込んでいたのだ。レインがザームを破ったことにも、クラウドがセシュレスとの戦いで負う傷が小さく済んだことも、決してスノウの降らせた雨と無関係ではない。最も風雨の影響が大きかったこの戦場において、カラザがスノウの魔力に苦しめられたことは、その一事からしても明らかなことである。
やがてカラザが歩む足を止め、それが見据えるその先にスノウはいた。廃屋の壁際に座り、背もたれ代わりに壁に背中を預けたスノウが、ゆっくりと呼吸を繰り返している姿があった。
もう立てない、戦えない。大蛇カラザとの戦いで傷だらけになり、魔力を使い果たし、自らの傷を癒すための魔力も生み出せないスノウに継戦能力が無いことは明らかだ。演じているそれではないと、確信できるほどに。だからカラザも、ほぼ無防備のような姿勢で歩み寄り、離れた場所からスノウを見下している。
「あはは……手の内すべても出し切らない相手に負けちゃうなんて、悔しいなぁ」
「……見くびって、そうしたわけではないよ。それで勝れぬ私であるなら、これより先を歩んでいく資格は無いと覚悟を決めていただけだ」
「そうみたいね……あなた、全力だったことは、私にもわかったもん……」
皮肉めいて笑うスノウの表情だが、カラザに対する憤りや、自分に対する不甲斐なさのようなものはその顔色に表れていない。アストラの魂という、大いなる魔力を生み出す触媒を手にしていながら、それを一切頼らずに、自分の力だけで戦い抜いたカラザ。スノウの立場からすれば、出せるはずの全力を出さずして自分に勝とうとしたカラザに、見くびってくれちゃってと屈辱を感じていい図式でもあるのは確か。
「私達は、この時代に生まれた者達ではない。今の歴史の流れに干渉することさえ、本来ならばすべきことではない。それでもやると言うのなら、死したはずの古代人の力まで借りるのは、さらに一線を超えていると考える」
「それが、あなた達なりの矜持……? ホウライの都では、二人とも大暴れだったじゃない……」
「矛盾はするさ。人のやることなど矛盾だらけだ」
「あ~、よくわかるわ……50手前の若者でも、よくわかる……」
「……救われるよ」
人間、すべての行動原理を統一して、一本纏まりの実行のみで目的を叶えることなんて存外不可能なのだ。鳶の翼の傭兵団に属する者達の幸せを誰より願ったニンバスは、その部下の命を危ぶめる革命活動に身を乗り出してきた。ファイン達は、殺生を手段としてでも革命を為そうとする者達が許せず戦いに挑むが、敵の命を奪わねば戦争が終わらぬことが殆どであるのも現実。天人達が幅を利かせ、地人と混血種を差別視する現状を強く批判しながらも、スノウはその覇権を継続させるための戦いに身を投じている。
夢は実現に近付こうとすれば近付こうとするほどに、夢見る者を傷つける。いつかはどこかで、何かを捨てなくてはならないのだ。自らの主張にひどい矛盾を自覚しつつも、取捨選択の末に選んだ今の行動に対し、否定せずにうなずいてくれるスノウの態度は、千年生きたカラザにしてみても救いを感じさせてくれる理解者のそれである。
「……何が、あなた達をそうさせたの?」
今の時代に生きる者ではないと主張しつつ、天人支配のこの時代を変えることに、力を貸そうとしたカラザにスノウが問う。
「アトモスだ」
かつて革命軍の長であり、哀しみに暮れた末、世界を書き換えることに全身全霊を注いだ女性の名をカラザが口にする。スノウの親友でもあった、彼女にとって今でも愛してやまない人物だ。それが、今に干渉すべき自分達ではないと言うカラザ達の価値観を、一新させて動かしたほどの人物であると聞かされて、スノウをくふっと笑わずにいられなかった。
ああ、あの子はそんなに凄い子だったんだなあって。今は亡き親友が、死してなお世界に影響を及ぼすほどの大物だって、改めて知ったスノウからすれば、言葉に出来ない感慨すら溢れてくる。どんな形であったって、その人が凄い奴だったって知れば知るほど、善悪問わずに嬉しくなってしまうから、友情ってやつは業が深い。
「……ねえ、カラザ」
「うむ」
「私のことを、殺すの?」
「…………」
どちらの回答でも、スノウには関係なかった。カラザが僅かな沈黙を作ったのは、その上で問うてくるスノウもまた、屈してなお太い肝の持ち主だと思ったからだ。
類は友を呼ぶと思う。あのアトモスの親友だったのだから、スノウが強いのもやはり当然なんだなって。
「お前は、アトモスを殺さなかった」
カラザには二つの選択肢があった。結果は変わらずとも、スノウに対する自らの態度を、厳かなものとするか、恭しきものとするか。後者を選ぶカラザの柔らかな表情を目にして、案外こいつも人間なんだなって、初めてスノウはカラザに親近感を覚えることが出来た。
「……アトモスを重んじてくれたお前に手をかけることは、私には出来んよ」
「ふふっ……あんた、いい顔で笑うじゃない」
「役者は慣れている」
「ミスティって子が、あなたに懐くのもよくわかるわ」
照れ隠しのように、今の私の笑顔を鵜呑みにしてくれるなと言うカラザの言を無視し、スノウは率直な想いを口にした。片手で大きく顔を隠し、それを伏せるカラザの挙動に、千歳前後年上の大物をやり込めた手応えを感じたスノウは、それだけでも一矢報いた心地である。
「……いつかまた会おう、聖女スノウ。死は終わりではなく、新たなる世界への旅立ちだ」
「えぇ……いつか、また」
背を向け、スノウにとどめを刺さずに歩き始めるカラザに、スノウは手を振った。見てくれていなくても構わない。二度と顔を合わせることは無いであろう、少し分かり合えた人物に別れを惜しむような想いが、小さな小さなその行動に表れていた。
「……魂の箱舟」
空を仰いだスノウの顔を、彼女自身が降らせる雨が濡らす。彼女の目の上に落ちた雨粒は、涙のようにスノウの目の横を流れ、頬をつたって地面に落ちていく。
負けたことを悔しくは思わない、全力でやるだけのことはやった。それでも少し泣きたくなってしまうのは、こんな時にこそ一番思い浮かべてしまう誰かの顔に、脳裏で申し訳なく思うからだ。やっと再会できた自分に抱きついて甘え、それからの日々もずっと自分を愛してくれた愛娘の顔は、今のスノウには思い出すだけでつらい。
こんなに、ひどい母親だったのに。ずっと離れ離れでいることを選んだ母親だったのに。母に愛されてしっかり育ってきたからこそ、実母にそばで愛を注がれて育ってこられなかったファインを今になって最も悔い、最後の最後まで自分は駄目な母親だったと思う。
それでも大好きだって言ってくれたのだ。こんな、自分のことをだ。幸せは、時に、最も人を苦しませる。
「ファイン……っ……」
最後の一声。涙声にならずにはいられなかった。
「…………!?」
突然の揺れだった。セシュレスほどの敵との戦いの中でも、集中力で満ちていたクラウドも気を取られるほどの地鳴りだ。強い足腰を持つ彼は、セシュレスの術による狙撃を回避した後の着地ながら、素早く足を開いて重心を落とし、転ばぬどころかすぐにでも動ける体勢を保っている。
「あぁ……終わり、か……」
労咳に苦しむような顔色でありながら、鬼気迫るような表情でクラウドを睨みつけていたセシュレスが、その揺れで膝から崩れ落ち、もう立ち上がってこなかった。四つん這いの姿勢から、ふらりと体を後ろに押し出し、ぺたりと片膝立ててのあぐらをかくセシュレスの姿から、継戦の意志が急激に失った気配が漂う。本来あり得ないようなことでありながらも、クラウドの目はそう感じ取ってしまう。
「……今の揺れはなんだ」
敵に聞いても欲しい答えが返ってくるとは思えないのに、身構えたままでありながらクラウドは問いかけてしまう。ぜぇぜぇと息の切れたセシュレスはすぐに答えない、答えられなかったが、不敵に笑う顔を持ち上げたことにより、声に発さないうちで半分以上の答えを物語っている。
「我々の目的は、達成されたのだよ……もはや、私が君を、足止めする理由は無いということだ……」
必死で、ここまで、老いた体に鞭打って、クラウドを足止めしてきたセシュレスは、そう言って濡れた体を温めることもせず笑っている。悲願の成就と、自分の役目を果たしきったことに満足げな表情でこそあれ、精も根も尽き果てたその顔色は死人に近いものすら思わせる。
だから、強がりや、はったりでないこともわかるのだ。
さらには、その言葉を別の誰かが証明するかのように、セシュレスの後方で編み込まれていた茨の要塞も、徐々に解きほぐれて萎んでいく。
「目的って……!?」
「知っているだろう……もう、説明させんでくれよ……」
口を利くのも今の体じゃつらいからと、セシュレスはこれ以上の回答を拒んだ。その後方にて、カラザの花盛りの春が作り上げていた、地上からの敵がクライメント神殿に迫る足を阻むための、茨の要塞が急速に崩れ落ちていく。まさにセシュレスの言う、目的が達成されたことによって、もはや我々がクライメント神殿を守る必要性は無くなったという態度を肯定するようにだ。
「……もう、疲れた。休ませて貰うとするよ」
「っ……!」
嘘だと思いたかった。思い込むことも出来なかった。クラウドは駆けだして、セシュレスの横を素通りし、クライメント神殿への道を突き進んでいく。目的が達成されたというのなら、オゾンの魂を獲得するはずだった奴を誰のことは、止められなかったということなのか。ファインは、レインは、スノウはどうしているのか。
誰かが負けて、殺されて、敵の目的が悠々と叶えられた予感しかしない。大切な人の死を予感させられる現状に、傷ついて全快時ほどの速度で走れないクラウドも、今で出せる最大の速度で神殿の奥へと走り抜けていく。
「……優しい少年だ」
はあ、と息を吐き、ばちゃりと雨水の溜まった地面に背中から倒れたセシュレスは、雨が降る空を見上げて寂しく笑った。どう考えたって、自分を殺していく場面だっただろうに。いや、そう思ってしまう自分こそが、自らの目的を妨げようとした者を殺すのは、たとえ遅きに失しても当然だという考えに毒されていた証拠なのかと、頭の回転が速いからこそ思い至ってもしまう。
戦争で勝利し、目的を叶えるための最短の手段は敵を殺すことだ。同時にそれは、最も思考放棄した解答。死を、命を軽んじるその発想は、戦争屋としては百点満点であったとしても、人としてはあまりにも哀しい。
「……この老いぼれには、若者の姿は眩しすぎる」
右手で両目を覆う仕草は、誰から顔を隠すでもなく、頭を抱えるものに近かった。今さら自己嫌悪などすることはないとも。憂いるべきは、誰かが武器を取って戦争を仕掛けねば、変わる気配も見せなかった、差別的なるこの世界。
たとえ、戦争屋のお前が言うなって言われても、セシュレスはそう思う。救いたい人が多すぎたのだ。だから残酷な大人になった自分を悔いないし、同時に変わり果てた自分を思い知るたびつらくなる。
何歳になったって、人の心の片隅には、誰にも恥じない生き方をしたかったという未練が残るのだ。それを失ってしまったら、きっとそれはまさしくして、人の心を失った生き方ではないだろうか。
「今の揺れ……まさか……!」
ミスティのことで意識を奪われていたファインは、揺れの示した現実を探る意識を広げた。そうでもしなけりゃ、事切れてしまったようにしか見えないミスティの前、ずっと動けずにいただろう。それだけ重い咎を思っていたファインにしてみれば、最悪な現実を示す今の揺れさえ、ある意味で救いであったかもしれない。
「お姉ちゃん……?」
「オゾンの魂……もしかして……」
まとまりきらないファインの頭だが、必死で今の状況を整理する。革命軍の目的は、クライメント神殿の奥に眠る、オゾンの魂を確保することだ。それは始めからわかっていること。
カラザは、その魂を獲得する役目は自分ではないと言った。カラザ以外の誰かがオゾンの魂を確保するため、それを邪魔する者は撃退すると言ってきた。3対4の戦いをしようと言ってきた。
ファイン達は4人、ファインとクラウドとレインとスノウ。カラザ達は3人、カラザとブリーズとザーム、そしてオゾンの魂を確保する役目が、その3人によって守られるミスティ。計算は間違っていない。頭数は合っている。
まさか、まさか、まさか。ここに来て、その言葉に嘘が含まれていたんじゃないかっていう悪寒が、ファインの胸を締め付ける。ミスティを含めた、カラザからの自己申告による、クライメント神殿に拠点を構えていた4人。それは果たして真実だったのだろうか。
カラザと、ブリーズと、ザームが神殿の周囲を守り、本丸の神殿を守るのがミスティであったという可能性は無かったのか。よくよく考えてみれば、いよいよ誰かが神殿に辿り着こうという局面が迎えられた時に、オゾンの魂を確保する一番大事な革命軍の人材を、神殿においては誰も守らないなんていう布陣が現実的なんだろうか。その役目を預かる誰かがいるとしたら、それこそがミスティだったのではなかったのか。
5人目。大きな揺れから、何者かが地術の扱いに秀でた太古の王、オゾンの魂が封印から解き放たれた現実を連想したファインが、事実であれば時既に遅き仮説を脳裏に浮かべてしまう。
「……ふへっ♪」
「っ……!?」
小さく笑う声がすぐそばから聞こえて、蒼ざめた顔で振り向いたファインの前にあったのはミスティの顔。倒れたまま、口の端からどろどろと血を流し、やっと今さら気付いたかって、勝ち誇った顔で笑うミスティがいたのだ。そんなミスティの表情は鏡のように、最悪を想定したファイン自身の顔を思い知らせてくれて、それが正解だよという現実を強く肯定してくる。
「……レインちゃん、行こう! まだ、間に合うかもしれな……」
立ち上がり、そう言うことしか出来ないファインが、満足に動かない右脚を無理に動かしてでも、神殿の奥へと駆け出そうとする。全身の痛みに顔をしかめてすぐに動けないながらも、格好悪くびっこ引いてでも進もうという覚悟のファインに、レインもうなずきファインの見据える方向と同じ場所を向く。クライメント神殿の構成を知らないレインにとっては、ファインこそが目的地に達するための道しるべである。
しかし。
「あ……」
やはり、手遅れ。オゾンの魂を確保した人物と思しき、クライメント神殿を制圧していた"5人目"が、神殿の奥から歩いてくる姿が見えた。命懸けでミスティらと戦い抜き、勝利して、革命軍の狙いを阻止できたと思っていたはずのファイン達にとっては、それだけで残酷な一事である。
それだけで済めば、間違いなく、まだましだったと断言できる。現実は、より残酷だったのだ。
「えっ……あっ……ぁ……?」
駆けだそうとしていたファインの足もぴたりと止まり、神殿の奥から歩いてくるその人物に目を奪われたまま、全くファインは動けなかった。新たな敵の登場に身構え、ファインの前に立ったレインも、後ろで呆然とした顔を物語るようなファインの声を耳にすれば、不審を覚えて振り返ってしまう。発した途切れ途切れの声が物語ったとおり、そこには茫然自失として立ちすくんだファインの姿がある。
この事実を、何と形容すればいいのだろう。見覚えのある人物じゃないか。離別した時から再会を焦がれ、こんな形でない再会だったら、すぐにでも抱きついて泣いていたと思う。この人と、また会えて、こんな気持ちになる想定なんて、ファインに出来るはずがなかったのは極めて当然のことである。
「……来てたのね」
「え、ぁ……な……なん、で……?」
どうして、どんなふうに見繕っても、自分と敵対する位置からこの人の姿が現れるんだろう。橙の道着に黒い帯、紫の下衣、そして赤毛。何年も見続けてきた風貌であり、最も長く彼女を見ていない期間と言えば、マナフ山岳で別れて以来の、一ヶ月にも満たない時間が最長。幼い頃から共に育ち、クライメントシティでも、旅の中でも、毎日顔を合わせてきた親友との再会は、最悪の時、最悪の場面で訪れた。
親友は、ゆっくりとファインに歩み寄ってくる。一切の殺気の無いその姿は、再びそれに振り返ったレインも、身構えこそすれ心が臨戦態勢に持っていけないほど。異変的なファインの態度と合わせ、これが敵だと断定することが出来ないほど、無表情で近づいてくる赤毛の誰かは異質なオーラを纏っている。
「……ファイン、久しぶり。ずっと隠してたことだけは謝るわ」
「さ……サニー……?」
頭の中が真っ白だ。打ち据えられてぼろぼろの体のみならず、心まで砕かれて指一本、目線さえ動かせないファイン。彼女と数歩ぶん離れた前方で立ち止まったサニーは、ばつの悪い表情で少し目線を落としていた。




