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学校の管理人1

 それはあまりにも突然で、覚悟していたとはいえ、やっぱり少し驚いた。

 空から白い光が漏れだし、校庭に居た私を包み込む。

 ああ、この時が来てしまったか。私は白い光に抗わず、それを受け入れた。

 目の前が真っ白になり、体が持ち上がる感覚。足が地から離れ、しかしどこにも落ちず、私は白の中を漂う。


「着いた……かな」

 足に地面の感覚が戻り、白い光がだんだんと薄らぐと、そこは校庭ではなく屋上。しかし空の代わりには闇が広がり、校舎はすごく綺麗である。つまり、玄関の鏡から通じるもう一つの校舎の中だと分かる。

 ここで私は管理人として最後の仕事をしなければならない。


「……さて、始めますか」

 私はこの誰も居ない屋上で語り始める。

「一年三組の窓側の一番後ろの席には太郎という名前の一人の少年が座っていた。彼は幽霊が見えるなどと言っていたことからひどいいじめを受け、その末に一年三組の教室で首を吊った。それ以降、死んだことにすら気付いていない彼はみんなが一番楽しそうな時……昼食の時に出てくる。グループで昼食を食べてると知らない間に一人増えてるんだ。だから太郎の呪いだと言って、未だに太郎の席は片付けられず、誰にも座られていない」


 少し息を吸い、強めに言う。

「七不思議の一つ、一年三組の机」


 空が光った。いや、空なんてものはここには無く上には闇が広がるから、闇が光ったと言う方が正しいか。

 光に包まれた何かが落ちてくる。あぁ、私もこのようにここに来たのか。

 太郎君を包む光は段々と薄れ、呆然と佇む太郎君が残される。


「えーっと、どういうこと?」

「んー、説明しにくいなぁ。まぁ、サラッと言うと私達は消えるというか……」

 太郎君、口が開いてるよ。私は少し笑う。そういえば、太郎君は自分が七不思議だということどころか、自分が死んでる事すら知らないんだった。

「んー、今すぐには信じられないかもしれないけど、太郎君は学校の七不思議の一つで、もう死んでるんだなぁ。で、今から七不思議の存在は消滅する、と。いや、言いたいことはいっぱいあるのは分かるんだ。分かるんだけど、ここは取り敢えず少しだけ何も言わないでもらえるかい?

 これから残りの七不思議を呼ぶ。気になる事があれば彼らに聞いてほしい。私は少し忙しくって説明できない」

「でも……っ!」


 私は唇に立てた人差し指を当て、強引に彼を黙らせた。ごめんね、太郎君。でも仕事なんだ。

「じゃあ、次の七不思議を話そうか」


「少し昔のとある女の子の話だ。彼女は可愛くて、しかも勉強も運動もできた。友達も多かった。全てにおいて恵まれているように見える彼女だが、そうではなかった。彼女は家庭暴力を受けていた。毎日罵倒を浴びせるのは当たり前で、殴られたり蹴られたり、酷い時には包丁で彼女の肌を少しずつ傷付けたり。全く酷い話だよ。誰にも言い出せなかった彼女は、遂に自殺の決意をする。彼女は放課後、その頃は開放されていた屋上に行き、落下防止用のフェンスに空いていた小さな穴を広げ、フェンスの外に出た。それから沈む夕日を眺めて、夕日が沈みきった時、飛び降りたんだ。それから夕暮れ時に屋上を見上げれば佇む少女が見えると、日が暮れると彼女は何回も何回も飛び降りるという噂が流れた。飛び続ける彼女の顔は潰れていたそうだ。それでもずっと飛び続ける」


 太郎君が泣きそうな顔をする。まぁ、訳も分からずこんな話を聞かせてもなぁ、などと思うが今は仕事が先だ。

「七不思議の一つ、空飛ぶ少女」

 また空の闇に一つの光が生まれ、降りてくる。


「……空ちゃん、やっほー」

 少しキョトンとしていた彼女は、しかし状況を飲み込んだようで、私に小さく微笑んだ。状況を飲み込むのが早いなぁ。

「管理人さん、こんにちは」

「いきなりごめんね。ねぇ、隣の太郎君に状況を説明してくれるかな?」


 空ちゃんは隣を見て驚く。

「あなたが太郎君!? 話はいつも管理人さんから聞いてます! うわぁ、会えるとは思わなかった。えーっと、状況説明だよね?

 ……あ、管理人さん、説明は私がしとくので続けてもらって大丈夫ですよ」

 本当によく出来た子だ。

「ありがとう。じゃあ、次の話だね」


「この学校が出来た頃からこの学校では度々行方不明者が出ていた。2,3日行方不明になった後、この学校のどこかに死体だけが落ちている。警察がいくら調査しても、午後四時前後に学校の玄関辺りで起こったとしか分からない。だから生徒は噂した。玄関にある鏡の向こうにもう一つの学校があって、そこには一人の少年が閉じ込められている。彼は一人が寂しくて鏡の中に生徒を引きずり込むと。鏡の中の学校はとても綺麗でまるで建てたばかりだそうな。その学校に誰かを引きずり込んで遊ぶ少年」

「七不思議の一つ、鏡の中の少年」


 闇が光る。

「お? とうとう来ちゃったか?」

「来ちゃったねぇ」

 空ちゃんは、太郎君に説明をし終わったようで、鏡君に小さく手を振っている。確か初対面のはずだが、知り合いのように見える。

 太郎君は少し混乱しているようだが、自分の状況を受け入れているようだ。この状況を受け入れられる太郎君も凄いなぁ。


「この二人は太郎君と空ちゃん。存在くらいは知ってるでしょ?」

「まぁな。基本的に俺らはお互いの存在が分かるし。分からないのはそこの太郎だけじゃね?」

 太郎君を指差して言う。

「えぇっ!?」


「まぁ、太郎君はそんな七不思議だから知らないのは当たり前なんだよ。だって、死んだことにすら気付かないって七不思議なんだから」

 鏡君は太郎君に話を振ったくせに、どうでも良さそうな顔をしている。


「まぁ、次の話をするよ。ほら、みんな私の周りを囲んでちゃんと聞きなさい」

「へーい」

 三人がぞろぞろと私の周りに集まる。

 じゃあ次ね。私はそう言ってまた語り始める。


「真夜中に肝試しをしようと学校に集まった子供が居た。彼らは二グループに分かれ学校をぐるりと回った。そして、肝試しが終わり、彼らは何かおかしな事があったか、報告し合ったんだ。すると不思議なことにどちらのグループからもすごく速い女の子が居たって報告があった。片方は二階で、もう片方は四階で。彼女はあり得ない速さで彼らを追いぬき、どこかへと走り去っていったと。その少女の目撃談はその後も次々と出てきた」


 ……気のせいだろうか。鏡君が異様なほどこの話に食いついている。

「七不思議の一つ、廊下を走る少女」


 闇から一つの光。その光から現れた彼女はポカーンとしている。……鏡君の顔があからさまに赤くなっている。そういえば、彼はちゃんと誕生日プレゼントを渡せたのだろうか。


「せ、先輩!? ここはなんっすか?」

「ああ、その説明については鏡君がやってくれるよ。ね?」

 私はそう言って、鏡君をチラッと見る。……ダメだこいつ、放心してる。

 私は彼の耳元でパンっと手を叩いた。


「な、なんだよ!」

「ほら、風ちゃんに状況説明よろしくね!」

「あ、この前プレゼントをくれた人っすね? あの時はありがとうございます!」

 どうやらちゃんと渡せたようだ。良かった。

「……説明してやるよ」


 その様子に私は勿論、鏡君と今日初めて会った空ちゃんや太郎くんまでクスクスと笑っている。本当に鏡君の態度はバレバレなのだ。

 鈍感な風ちゃんは何が面白いのか分からず、取り敢えず合わせて笑っているといった感じか。鏡君はムスッとしている。

 まぁ、風ちゃんへの説明は鏡君に任せて。

「さぁ、次の話をしようか」


終 わ ら な い

……いや、終わる終わる詐欺ではないのです。予想以上に長くなりそうなので2つに分けさせていただきました。


誤字脱字、アドバイスなどありましたら教えていただけると嬉しいです。

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