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廊下を走る少女

「風ちゃん~?」

 私は彼女の名前を呼んだ。……風のように速く走るから風ちゃん。我ながらネーミングセンス皆無の名前だが、彼女はこの名前を気にいってくれているようなのでまぁ大丈夫だろう。


 彼女はこの学校のどこにでも出現する七不思議。生徒はとっくの昔に帰り、校舎の明かりが消える頃、彼女は現れる。

「かっぜちゃああん!!!」

 神出鬼没の彼女を探すのも面倒なので、私はこの学校の中心である中庭で叫ぶ。

「はあああい!!!」


 来た。

 二階の廊下に人影が見える。しかもすごい速さで走っている。

 その影は廊下の一番端にある階段まで行き、階段を降り、階段の踊り場にある鍵の閉まっていない、通常の人間ならいくら手を伸ばしても届かない高さにある窓から、飛び降りてきた。この間、わずか二、三秒。

「先輩、こんばんはぁぁぁああ!」

 彼女は私にぶつかる一歩手前で足を止める。これだけの速度で走っていて、なぜスピードダウンもせずに止まれるのだろうか。彼女は慣性の法則というものに嫌われているのだろうか。理解できない。


「風ちゃんは今日も元気だねぇ」

「え、そうっすかぁ? うちは普通っすよ! むしろ先輩がちょっと疲れてるだけっす」

 私はその言葉に苦笑した。

「確かにそうかもねぇ。最近、プールを増築するって話があってさ、それの情報収集であっちこっちに行ってたら疲れちゃった」

「先輩は体力がないっすねぇ。何なら、今日からアタシと一緒に体力作りします?」

「……遠慮しとくよ」


 彼女の言う体力作りをしたら、いくら体力に自信がある人が居たとしても音を上げるだろう。私だって、決して体力が無いわけではない。……ただ彼女の体力が文字通り、桁外れなのだ。普通の人の体力を一だとすれば、きっと彼女は全ての運動能力において千は軽く超えるだろう。

 本当にバカみたいな身体能力を持っている。


「それは残念っす。先輩のためにとっておきのメニューを考えたのにっ! えーっと、体力が無い先輩向けに階段を一階から四階まで駆け上がって降りるってのを、往復で百回に……」

「うん、もういいからっ」

 聞くだけでも嫌になるメニューを途中で遮った。どこが体力が無い人向けだよと真顔で突っ込みたくなるメニューだ。階段ダッシュ往復百回なんて聞いたことも無い。


「ところで先輩」

「ん?」

「今日、アタシの誕生日なんっす」

「え?」

 素で聞き返してしまった。


 いや、私や太郎君、空ちゃんのような元人間が七不思議になったのなら誕生日があるのは分かる。しかし、他のメンバーは確か噂話から生まれた七不思議だ。噂話に誕生日があるのだろうか。

「あ、先輩。は? みたいな顔してますよぉ。誕生日というより、アタシの存在が初めて語られた日って言った方が正しいっすかね」

「そういうのって覚えてるものなの?」

 彼女は少し考え込んだ。


「んー。アタシは先輩以外の七不思議と話す機会自体少ないので分かりませんが、少なくとも私は知ってるし、他に誰か知ってたとしてもおかしくないっすねぇ」

 そういうものなのか。

「ちなみにアタシを初めて語ったのは、中三の男の子なんっす。みんなを怖がらせようと思って作った怪談が、思ったより広まって、しかもアタシの目撃証言まで聞いたもんだから、その男の子はすごく怖がってましたよ」

「何というか……うん。自業自得だね。あ。」


 私はふと思いついた。

「先輩、どうしたっすか?」

「ねぇ、明日にでも玄関の鏡の前に行ってみて?」

 私は内心にやりとしながら言ってみる。鏡君、貸し一つだよ。

 彼女は少し不思議そうな顔をした。

「? 別にいいっすけど……、何かあるんですか?」

「んー、それは行ってからのお楽しみ!」

 私は意地悪く笑った。彼女は相変わらずきょとんとした表情をしている。


 よし、この後にでも早速、鏡君に彼女が今日誕生日だということを伝えなければ。彼女の誕生日プレゼントを用意するようにと。

「んー。何っすかねぇ。でもまぁ、先輩が言うなら言ってみるっす!」

 彼女の目が少しキラキラと輝く。素直でいい子だ。


 私はふと、上を見た。彼女もつられて上を見る。

「星が綺麗っすね。いつもより少し明るい気がするっす」

 深い藍色の空にすぅっと浮かぶ三日月。その周りには、白いインクを飛び散らせたかのような星。確かにいつもより明るい空。

「……そうだね。なんか、三日月ってすぅって綺麗な曲線をしてるよね」

 私は人差し指を夜空に伸ばして、片目を閉じ、綺麗な月の曲線をなぞる。

「綺麗……っすかね? アタシにはよく分かりませんが、なんか月を見ていると癒されますよね」


 私はその言葉に頷く。太陽も月もどちらも好きだが、どちらかと言えば月の方が好きだ。自分自身が太陽みたいに明るくなくて、誰かの光が無ければ輝けない立場にあるからかもしれない。

「今更なことを言ってみていい?」

 お互いに夜空を見たまま、顔を見合わせないまま。

「何っすか?」

「さっきちょっとびっくりして言い忘れてたんだけどさ。…………」

「……ありがとうございます!」

 私のその言葉を聞いた途端、いつも元気な彼女の声がその時は一層元気が(こも)って、彼女の顔が嬉しさで満ちたことくらい顔を見ずとも分かった。



Happy Birthday.

最後のHappy Birthday.みたいな書き方をしてみたかった。ただそれだけなんです!

誤字・脱字の指摘やアドバイスなどをいただければ嬉しいです。

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