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とおまわり

なんとなく浮かんだ単語や台詞をメモしていたものから短編を1編。目まぐるしくて、最終的に色んな解釈ができる話にしたいなぁと思いましたが、力不足。


 それはそうだと気付いたのはわりと最近の事だった。


 桜の季節。想い続けた小さな恋心。

 彼女の姿は、気付けば遠い、下り坂の下の方。振り向かない彼女を呼び止める理由はなくて、伸ばしかけた腕を引いた。桜散る下り坂。ふわりふわりと落ちていく薄ピンクの花弁。ふわりふわりと髪を揺らして歩く君の後ろ姿。

 振り向け、振り向け、と。見送る視線に力が入った時。


「あ、そうだ」


 不意に振り返った君の姿に、ドキリと胸が跳ねる。


「結婚式、来てよね。招待状出すからさ」


 はにかんだ笑顔で告げられた言葉。

 ああ、と心が曇る。


「はあ? 止めろよ、金掛かんだぞ」


 そう言いながら、早足に坂を下りて、僕の脇をすり抜けていく一人の女性。無造作に結われたポニーテールがテンポ良く揺れる。


「もう、またそういう言葉使いするー! だから恋人できないんだからねー」


「ほっとけよ。まあ、冗談はともかく、おめでとうな。めでたい席だ、顔だしてやるさ」


「ありがとうっ。でもそっちこそ、彼氏が出来たら紹介してよね!」


「どうだかなぁ」


 ふわふわの髪と、ポニーテールが遠ざかる。


 恋に恋していた幼いあの頃。相手の名前すらも知らないままで、失恋した。


 何となく、何もしなくても恋は思うように進んでいくのだと思っていた。あの人を想い続けていれば、いつか何かが起こるのだろうと。


 だが、そんな訳はない。そうやって偶然を待った結果、僕はあの人を知らないまま、あの人も僕を知らないまま、何も分からないまま、全てが終わった。


 それはそうだと、最近ようやく気付いたのだ。そう気付いてから僕は、行動する事にした。


「よう。待ったか?」


 その言葉に、読んでいた本から顔を上げる。

 いつかの彼女は、言葉使いは相変わらずだが、ポニーテールはお洒落なものに変わっている。

 そんな彼女の隣に、もう一人。


「こいつが、紹介したい友達。まさかあたしが、年下捕まえるなんて思ってなかったとか言うんだよ。失礼だよなぁ?」


 そう言いながら、絡められた腕。近づいた距離、動いた空気。鼻先を甘い香りがくすぐる。


「だって、ねえ?」


 クスクスと口元に手をやる彼女に、僕の恋人は唇を尖らせて不満げな顔をする。2人を見比べた僕の視線に気付いた彼女は、ああ、と言葉を発する。


「すみません、はじめまして。この子の中学からの友達の、ありさです」


 あの日と同じ、桜の季節。

 桜吹雪の中、ふわふわの髪が風になびいた。


『ありさ』


 それが、君の名前。

 ようやく、君に会えた。



 end





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