お約束的な続編に挑戦してみました。
リクエストありがとうございます。懲りもせず、続きを書いてみました。
窓から、見えるのは美男美女…女の子は、美女、というより可愛い子なんだけどね。
遠目でも分かる、仲睦まじい様子に目を細め、小さく息を吐いた。
「未練でもあるのか?」
どこか呆れたような声音に振り返ると、一組の男女が立っていた。
「本気で言ってる?」
「俺たちは事情を知っているからな…だが、何も知らない奴は、そう思う可能性がある。と、いうことだ」
軽く肩を竦めると、荷物をまとめて立ち上がる。二人が、両脇に別れて一緒に歩き出した。
挨拶をしてくるクラスメイトに笑顔で応じながら、両脇を固めた二人…黒澤 喬と鈴鹿 莉沙紀が小さく笑った。
「何?」
「いや、周囲がどこまでも騙されているようだから、可笑しくてな」
「喬さん」
咎めるような口調で莉沙紀が言う。しかし、その口調とは裏腹に、どこか楽しそうな表情が目に留まる。
周囲は、概ね私に同情的だ、相手を尊重し婚約解消にも動じない…考えてみれば嫌な立ち居地なんだけど。
でも、まぁ分かっていたことだからね。ただ、「現実」になるとは思わなかった、自分が知る八島 上総は、責任と義務をきちんと理解している少年だったから。
「しかし、上総も馬鹿な奴だ」
「よろしいんじゃないですか、彼女の為なら何を犠牲にしても厭わない、とおっしゃっているのです。それほどの想いがあれば、他者がとやかく言うことではございませんもの」
王子さまとお姫様が結ばれて、めでたしめでたしの世界ではない。小説を読んで、彼の苦悩振りを知っていた私ですら、その姿は笑い…もとい、同情を誘うものだった。最初は反対して諭していた彼の親友ですら、最終的には見るに見かねて、上総を励まし、後押ししていたほどである。
「想いだけで、全てが片付くはずがありませんのに…この先の未来に何が待っているのか、分からぬほど愚かな方では無いでしょうから、我に返ったとき、如何されるのか見ものですわ」
「莉沙紀…まぁ、俺も同じだが」
困った笑顔をして、黒澤君が莉沙紀を視線を向ける。
人を挟んで、何やっていらっしゃるのかしら、このリア充。
この二人も、シリーズの主役を張っていたりする。幼馴染の二人が紆余曲折して、くっつくのだが、ハッピーエンドを迎えた後でも、彼らは努力を怠らない。周囲に認められているにも関わらず、それに甘んじることはしない。
そんな彼らだからこそ今の上総を見ると、苛立ち、眉を顰め、苦言を呈すのだろう。
「惚れた女と一緒に居られて、浮き立つ気持ちも分からないわけではないが、今自分たちが置かれた立ち位置もだが、何故自分たちが今そうしていられるか。それを考えようともしない」
話しながら黒澤君がドアを開ける。総務部室。生徒会の一権集中をなくすために作られた、学年代表と寮の代表者が集う委員会の長を彼は務めている。
中に入って見知った顔…彼もまた、関係者なのだが…に、気付き、軽く会釈をした。彼に気が付いて、黒澤君が声をかけた。
「あの馬鹿、浮かれまくって彼女と商業地区に出かけていったぞ」
その言葉に驚いて、スマホを操作しようとした相手を、止めて黒澤君は椅子に腰を下ろした。
「放っておけ。別に生徒会役員は、参加を強いられていない。スケジュールをあらかじめ渡してあるのは、オブザーバー参加の慣例のようなものだ。義務付けていない相手に、デートをやめてまで出席しろ、なんて言うほど野暮じゃない」
「すまない」
頭を下げる相手に、黒澤君は軽く頷くことで応えた。
「よろしいんじゃないですか?未だに華苗とまともに目を合わせることもお出来になれないようですし」
居ない方がましですわ…って、莉沙紀さん、それはキツイ。
「二人とも、いい加減にしてあげれば?羽柴君の所為じゃないでしょう?」
「いや、羽柴にも一因はある」
別のところから聞こえてきた声に、皆が振り返る。今、この部屋の中に居るのは、総務委員と生徒会役員…会長以外ではあるが…総勢15名。学年に差異はあるが、その殆どが幼稚舎からの付き合いなので、何だかんだと顔見知りばかりだ。
「色ボケする前の八島ならこんな事は無かった。いくら、見ていられなかったとはいえ、煽った一人だろう?」
唇を噛み、うつむく羽柴君」に思わず溜息を吐きたくなる。生徒会副会長の彼は、上総の親友でもあった。
「選んだのはご本人です、真田先輩。それに伴う責任を放棄して、周囲からの信頼を失ったとしても、それは上総さまが負うべきもの。他者が負い目を感じることはありませんわ」
「…なんだかんだといって、お前が一番辛辣だな。華苗」
自分が課せられた責務を放棄するなんて、勿体無い事できやしない。受け入れることを自分で選んだのだ。何もしなくて良い代わりに、選択肢も無い人生に比べれば、なんて幸せな事だろと思う。
とはいえ、それを他者に強いるほど馬鹿でもないつもりだ。二人が結ばれて、ハッピーエンドで小説は終わっていても、現実は甘くない。特に、ここにいるメンバーは、幼い頃からそういった責任を叩き込まれている者たちだ。気持ちとして理解できないわけではないが、やるべきことを中途半端にしている相手に同情はしない。
「一応説得は試みましたけど…泣いてすがった方がよかったかしら?」
一瞬の沈黙の後、あちこちで呆れたような溜息と、吹き出す声が聞こえた。…失礼な。
「それでは、始める。会長の分までこき使ってやるから、楽しみにしておけよ羽柴」
「お手柔らかに」
スルーしましたね、ええ、分かっていましたが、皆様見事にスルーなさいましたね。
分かっているのだろうか。
仲良さそうに寄り添って歩いている姿を思い出して、ふと考える。
親同士の口約束とはいえ、最終的に自分で選んだ道だったはずだ。自分の心に嘘を吐いてまで、他の女性を選ぶことはできないという一見誠実に見えるその行動が、どれほどの影響を周囲にもたらすのか、そして、自分たちがどう見られるのか。
それは、上総が何者か分かった上で、その手をとった彼女にも言える事なのだが。
(知っている、ことと理解しているは違うからね)
正式な発表は高校を卒業してから、となってはいたが、半ば公認されていた私たちの婚約は、上総の心変わりという形で幕を閉じた。表立った変化は何も無い。八島、御子柴の両家の関係もこれまでどうりだ…公的な場面では。
仲の良かった母親同士の交流も、私的なものは無くなり、八島のおじさまも、父にはどこか遠慮する態度をとられる。
私同様割り切っている両親は、以前と同じような付き合いを望んでいても、向こうが一歩離れてしまっては、どうしようもない。
上総本人の評判も、今回の事で分かるように、以前と同じというわけではない。もちろん、生徒会長としての仕事は以前と同じように果たしている…本人は、そのつもりなのだろうが、こんな風に時折彼女を優先させてしまうこともある。
普通の学園ならそれでも構わなかっただろう。しかし、ここは双倭学園だ。そんな、甘い考えや態度がいつまでも続くはずがない。
「せめて、普通の高校生だったら」
「今更だな」
思わず呟いた言葉に、間髪居れず返してきたのは真田先輩だった。
「さっき、自分が言ったばかりだろう。持っていた責任を放棄したのは八島だ。自分が置かれた立場を言い訳にはできん」
「そこ、私語は後にしてくれ」
先輩相手でも黒澤君は容赦ない。
少しずつ、小説とは違う…小説では書かれていない「その後」の何かが動き出そうとしている…そんな気がした。
蛇足ですが、総務委員会メンバーは、高等部学年代表各2名+生徒会役員4名、寮長6名で成り立っています。
役員関係の兼任は不可。
黒澤と華苗が学年代表。莉沙紀は、学年女子寮代表です。
10/21修正いたしました(前作込みです)後指摘ありがとうございました。