手荒な手法
手荒な手法
裁判は訴訟法に則って進められる。時間がかかる。被告人らを自白させるには手荒な手法も必要だ。
1被告人らの周辺から物的証拠を収集する。家宅捜索だ。
2被告人らの家族の安全をちらつかせる。安全は保障の限りでないと脅す。
これらはゴルゴ13こと東郷平八郎の専門分野だ。人を殺め傷つけることは坂本の主義に反することをきっと申し渡す。心得ている、仕上げを御覧じゃ、とゴルゴ13。
すでに被告人らの家庭には家庭教師、メイドが送り込まれている。白井貴子の友人関係から頭脳明晰、美人、教養ある家庭教師、メイドが選ばれた。三月以上一緒にすむと家族らは心を許しだした。それが信頼に変わるのに時間はかからなかった。被告人A宅に妻が出かけたとき二人組の賊が入った。家庭教師アンは子どもたちを庇って賊に立ち向かう。賊の一人が彼女に平手打ちを食わす。彼女は怯まず敢然と立ち向かう。もう一人が彼女を椅子に縛り付ける。メイドと子どもたちは震えるばかりだ。賊は彼らを数珠つなぎにしてから物色にかかる。
被告人Aは妻とネットで話している。被告人らには散歩、家族との交信が認められている。そう、アンがこどもたちを守ってくれたの。よかったな、他に被害は。現金以外は盗まれてないわ、買物から私が帰ったとき犯人らしき男が二人バイクで逃げ去ったのよ。どんな男だ。年金の公務員を名乗って還付金の確認に来たとメイドに告げたそうよ。年金はまだ受給していない。メイドが信じるのも無理ないわ、この監視ヴィデオ観て。服装、言動から公務員と思うでしょ。無理ないな。でしょう。このヴィデオ送ってくれるかな。やってみるわ、で、警察には。隠す理由もないが僕が観てからにしよう。
A はヴィデオをパソコンにダウンロードし、DVDにコピーして他の被告人らに配った。単なる物取りではないな。もう一度被害を確認する必要がある。
あれか。あれが検察側に渡るとまずいことになるぞ。しかし妻にもあれの存在は教えていない。弱ったな、下手に動けばまずいかも知れないな。しかし
別の場所に移して置かないと命取りになりかねない。どうやって。ここは多数決で決めよう、静観するか移動させるか。待て、他に方法はないか。では夕食まで各自で考えて結論を出そう、方法が見つからなければ多数決だ。それしかないな。この点では全員一致だな。仕方あるまい。
ゴルゴ13からは逐一報告があるが、詳細は別ルートだ。二人以外にはわからない会話をしているがいつしか同士の絆が結ばれてゆくようだ。被告人らがあれを移動するなら話は簡単だ。家庭教師アンとメイドの監視がある。それに監視用謎の飛行物体という強力な助っ人がいる。移動しなければ家探しするまでだ。それにしてもダヴァオで命をかけてチップを入手した男は何者か、その弟は今どこでなにをしているのだろう。
ゴルゴ13の情報は田中、大平が分析して検察側証拠に提供される。日本の官僚の分析力は凄い。この分析力は眠っていたのであろう。その理由は分からないが検察側は分析整理された証拠を武器に訴訟を進めてゆく。
Aの妻オハラに動きはなかった。炙りだしにかかる。二人組は今度は弁護士を名乗った、Aの依頼により書斎を整理するという。オハラはAに確認するとパソコンに向かう。一人が男の子を抱き上げて二階に上がる。お庭まで飛ぼうか、と男は笑いながら話しかける。オハラは観念する。も一人が書斎へと案内させる。男は書斎をヴィデオに撮ってから大きなデスクに座るとゆっくりと引き出しを開けてゆく。中の物をデスクに並べて写真を撮ってゆく。
我々は手荒な真似はしたくないがあなた達が協力的でないとそれも止む得ないと考えていると二人組は諭すように言った。オハラ、家庭教師、メイドは逆らえなかった。二人はそうさせる雰囲気を持っていた。夕食後は寝室を捜索する二人。オハラは二人の助手をやらされる。捜索が終わると一人が子供部屋に向かう。残った男はオハラにシャワーを命ずる。彼も当然の如くバスタブに浸かる。オハラを招き入れると膝の上に載せる。男は黙ってオハラの顔を見つめる。やがてオハラは喘ぎ出して男の首に抱きつく。
男はシャワーを浴びてベッドに寝そべる。オハラは魅せられたように男の身体を愛撫する。それは愛の奴隷であった。その様子がヴィデオに撮られていることは知る由もなかった。あくる日はもう一人の男がオハラを抱いた。その愛撫にオハラは何度も叫ぶ。もう勘弁してと叫んで絶えた。
それからは二人の言いなりになる。こころと裏腹に身体が男を求めるのだ。
プロの殺し屋は女を殺す術も心得ておかねばならないようだ。肝心のあれはまだ見つからない。オハラは本当に知らないのか、男たちは打ち合わせながら焦りを見せ始める。撮影したヴィデオを検討する。あの音は。ん?ベッドの中だ。レントゲンか。ああ。二人はベッドをレントゲン写真に撮る。ここか。どうやる。できるだけ判らぬように切り取るしかあるまい。そうするか。
それはマイクロフィルムであった。今時マイクロフィルムか。ともかくコピーだ。似たようなのあるかな。俺はDVDにスキャンして依頼人に送る。それまでに俺は似たようなフィルムを見つけて来る。一人が買物出かけるアンの車に同乗する。女とは一度関係ができるとこうも変わるものか。より強い男の子孫を残そうとする遺伝子の指示なのか、プロの愛戯に狂ったのか。
インターネットの画面にはオハラと子どもたちが楽しげに遊ぶ姿が現れる。
被告人Aは動揺する、我が妻にして我が妻に非ず、我が子にして我が子に非ず。男はオハラの胸に手を入れる。画面を気にしながらも悶えるオハラ。男の手は下腹部をまさぐってゆく。それは利息をつけて返すと言っているようであった。一族の純血を汚すことは許されない、男の子供は抹殺するしかない、とAは思った。場合によってはオハラも。
ダイアナ妃が離婚後恋人をつくることは許されるが、エジブト人の子を生むことは許されなかった。イギリス王室の一員だったものは人としての自由などとっくに失っていたはずだ。
Aは他の被告人らの状況を確認した。ほぼAと同様であった、あれは見つかったと考えなければならないな。男たちを消すことができないのか。謎の飛行物体に阻止されるようだ。くそトモカサ。我々は決断を迫られている。子どもたちは死んでもらうしかあるまい。しかし我々の血は途絶える。人質は殺されるものだ、別の女を探すことになろう。我々が生きていればな。奴は人を殺めることはない。
あれが検察側に渡ると黙秘を続けることは難しくなる。だが黙秘するしか無いのだ、我々には。男が子供を抱き上げて2階から庭に飛ぶかいと言った時の不気味さはAの脳裏に強く残っている。オハラは薬を盛られているのではないか。それは媚薬、我々が獲物に常用しているものか。多分な。
健康診断に医師と看護師がやってきた。毎月の定期健診ではあるがAに不安が走る。日本の医師は親切であるが猜疑心は悪魔に映しだすのだ。血圧が高いようですから降圧剤を出しておきましょうと処方箋を書く。届けられた降圧剤はどこにでもあるものであったが、Aは錠剤を砕いて舐めてみた。自白強要剤の味がする。思い切って医師に疑問をぶつけてみた。
日本政府の厚生省が認可したものですよ、ご心配には及びません、環境が変わってストレスが溜まっているのでしょう、精神科の医師に相談されたらどうですかと笑いながら医師は答えた。しかし、この味は自分たちが目標に常用する自白強要剤の味だ。
Aの奴、少し参っているようだから製薬メーカーに照会してみた、精神及び神経に悪影響を与えた症例はないそうだ。この回答、Aに見せたのか。ああ、転送した。取り調べも尋問も穏やかだが、それがかえって気持ち悪い。僕もそう思う。自信の現れか。そんな気がしてきた。確証を、あれを握ったのだろうか。




