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起訴状の朗読、人定尋問、罪状認否   犯罪立証

起訴状の朗読、人定尋問、罪状認否


 いよいよ開廷の日となった。傍聴人、報道陣が押しかけたが法廷の収容人数からそれぞれ100名ずつに制限された。抽選で入場を許された者はこの歴史的裁判を固唾を呑んで見守る。

 開廷宣言に続いて裁判長から異例の訓示がなされた。本件は人類に対する罪を裁くものであるが、前例のないものである。したがって当裁判所の存在そのものに対する疑問に答えておく。将来世界連邦国家が実現されるならばその法律に基づいて裁かれるべきであるが、現時点では実現されていない。故に人類の常識に基づいて被告人らを裁くものである。

 当裁判所は正当な手続きによって全人類の委託を受けたものと自負する。また、裁判官、検察官、弁護人は公正に選ばれたものと認める。もし当法廷に優る裁判所が存在するならば検察官、被告人双方ともこれに控訴できるであろう。

 

 問題は刑の執行である。この裁判を妨害するものを尽く排除する必要がある。妨害はテロのような直接的なものも、政治的圧力も想定される。テロの対策は既に手を打ってあるが田中、大平が自衛隊のコマンド部隊、警視庁の特別警備を裏から手を回してくれた。

 政治的圧力に対しては謎の飛行物体トモカサの示威で抑えることにした。

武器の生産、輸送は国、宗教、組織の如何を問わず破壊してゆく。特に生産ソフトパルスへの攻撃は効果的である。ついでにと北朝鮮政府と中国共産党のコンピューターを麻痺させる。


 起訴状の朗読、人定尋問、罪状認否


 数百頁に及ぶ起訴状の朗読は、休憩を挟んで夕方までかかった。続いて人定尋問、罪状認否がなされたが終わったのは深夜であった。関係者の疲労は大変なものであった。ただ起訴状の写は被告人全員にも配付され、傍聴席にも大型モニターで公表されたことは前例がなく、裁判所の自信とも受け止められる。そこで初日は閉廷となり、次回公判は翌週と決まる。

 

 翌週、被告人13名の人定尋問は順調に行われたが、それは表の顔である。

うらの顔こそ正体である。被告人が起訴事実を認めるか、裁判所が認定した時点で正体が暴かれることになろう。


 続く被告人全員が罪状認否は全員が無罪を主張した。当然であるが坂本には忌々しく思えた。弁護人の主張に先立ち、裁判官が被告人に、何か言いたいことはないかと尋ねたがこれまた何もないと素気無く応える。お前らは天につばを吐くようなものだ、いずれ臍を噛むぞと内心思っているようだ。


 弁護人の主張は、起訴事実は状況証拠の寄せ集めで到底公判を維持できるものではないから公訴を棄却すべきであるとのことだ。東京高裁の元検事正が静かに立ち上がった。直接的、決定的証拠を残さなければ犯罪を重ねてもいいと言うことになりますかな。されば被告人らの犯罪はそれだけ計画的であり、悪質であることを物語っていると当職は考えます。

 長年凶悪犯罪を扱ってきたのであろう、淡々と弁論を展開する。我々は、被告人らが直接手を下したという証拠はまだない。しかし、実行犯は被告人らの手足となったに過ぎずその犯罪は被告人らの犯罪であると評価されるべきものと思慮する。故に我々は情況証拠を積み上げて被告人らの犯罪を立証してゆく所存である。


 犯罪立証


 続いて若い検察官が後は任せてくだい下さいと立ち上がる。検察側はこのICチップを証拠として提出します。それはどのような内容ですか。ある日本人が命をかけて手に入れたもので、被告人らと思しき人物の会話が収録されております。命をかけてとは、彼は亡くなった。殺されました。弁護側は?しかるべく。ではこれを当裁判所の証拠として採用します。


 検察側は証拠の人物が被告人であることを証明するため、被告人らの本人尋問を申請します。認めます。被告人らはこの録画の中で自分と思われる自分物を指差して下さい。異議あり。異議を認めます。では質問を変えます、この人物は被告人A貴方ではないですか。異議あり。異議を却下します、証人は答えて下さい。私にはわかりません、裁判長。

 検察官ジャックはハーグの大学法学部を卒業した若者だ。この人物は被告人B貴方でないですか。Bは答えない。画面を止めて下さい、この人物が被告人Bであることは疑う余地がないでしょう。裁判長、この録画がどのように作成されたを明らかにすべきです。今は録画の人物であるかを確認しているのですとジャック。弁護人の異議を却下します、検察官尋問を続けて下さい。骨相からだけで録画の人物と被告人との同一性は証明出来ます、なんなら法医学的鑑定を申請してもいいが、そうするまでもないでしょう。

 ジャックはどうだとばかりに弁護側を見下す。検察側は審理を早めるべく被告人らのスナップ写真を証拠として提出します。弁護側意見は?ありません。しかし被告人らの表情が曇る。写真は家族の顔もあったのだ。ゴルゴ13が撮影した最近の写真なのだ。では証人は否定しなかったので 録画の人物は被告人らであるとの前提で尋問を続けます。この録画の会議はどこで開かれましたか、答えられない?ではいつ開催されました。被告人らの表情は硬い。この場面撮影日時ではありませんか、ジャックの舌は快調である。

 

 この会議は定期的開催されるのですか。ジャックは証人台に立った被告人Bに近寄る。お答えがない、私の英語がおかしいのでしょうか。傍聴席から笑いが起こる。静粛にと裁判長。検察官は証人を揶揄しています、録画といい写真といい、被告人らの人権を侵害している。弁護側は証拠採用において同意したではないか、そもそも被告人らに人権などあるものか、人間の姿をした悪魔である。弁護側の異議を却下しますが検察官は言葉を謹んでください、なお、証人は知っていることは正直に答えて下さい、さもないと偽証罪及び法廷侮辱罪に問われますよ。


 ここでジャックはバトンタッチ。検察官サラはリヴィア出身の美人だ。被告人ら収入ならびにその保管を明らかにするため15分間尋問時間を頂きたく。これは貴方の預金通帳ですか、D証人。ではこの電気料金の請求書は貴方宛のものですね、毎月20日自動引落になっており、そしてそのとおりに引き落とされていますね。声良し、姿良し、頭良し、のサラに法廷は圧倒される。

 このスイス銀行の預金はどこからもらったものですか。貴方のご職業は、年収は、失礼ですが公務員の所得にしては多すぎません?マフィアの隠し預金すら秘密を守るスイスの銀行が、と誰しもが思った。

 サラはD証人に近づく。いつまでも隠し通せるとお思いですか。異議あり。異議を認めます。この預金はどのようにして得たのですか。Dは知らないと答える。思い出せませんか、この2ビリオンはダヴィデ シオンという人物から振込れていますが貴方とどういう関係ですか。そういう人物は知らない。そうですか、彼はこの写真の人物です、彼と談笑している人は貴方ではないですか。Dの身体が震える。

 サラは写真を裁判官に示しながら、カードは小出しするのが基本ですがもう一枚のカードも出しておきましょうと冷たく笑う。このカードはダヴィデ シオンが被告人全員に2ビリオンずつ送金していることが書かれています、さらにその日に武器産業連合から30ビリオンが入金されていることも。つまり彼は武器産業からの寄付金を分配する役目の人でしょう。異議あり、誘導尋問です。異議を認めます。彼もこの法廷で証言してもらいましょうか、金の流れは彼とあなた方との歴史を語ってくれますわ。是非その歴史を証拠として裁判所にしていただきたい。金融業との歴史も併せて提出します。


 被告人ら闇の権力者たちは有史以来、常に裁く側にいた。被告席に着くなどありえないことである。これは悪夢ではないかと思ったが裁判はかすかな希望も打ち砕いてゆく。そして彼らを恐怖に陥れるのが家族の写真である。家族の生命を脅かすことは彼らの常套手段である。どの国の政府高官も金だけでは動かないが、家族の生命を脅されると弱い。家族のためにやむなく悪事に加担するという麻酔の効果もある。

 真似碁は先番黒の打つ手の反対側に白が打ってゆくものだが、それなりに効果的である。何より心理的に黒を不安にさせるのである。唯一真似できない点は天元10の10である。それはどこかと闇の権力者たちは今考えざるを得なくなっている。


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