VS サンタ 1
――12月23日 午後23時59分59秒
シュウト:
「ここは?」
ジン:
「来たか」
夢の中のような、何もない空間にジンが1人立っていた。待っていたかのような口調だったが…………否、もう1人、いた。
全身に白い服を身に纏った、タルのような体形の男。立派なヒゲからすれば初老よりも少し年齢が行っているかもしれない。どこかで見たような気がするのだが、何かが足りない。
シュウト:
「えっと、説明をお願いできませんか?」
ジン:
「立会いに指名したんだよ。これから俺が戦うのを見物してりゃいい」
シュウト:
「あの人が相手ですか?」
ジン:
「ヤツの名はサンタクロース。不敗にして絶後のラスボスだ。またの名を『血塗れのサンタ』。クリスマスという悲劇を生み出す巨悪の根源だ」
血塗れのサンタ:
「ふぉっふぉっふぉっ」
シュウト:
「言われて見ればサンタ服ですね。でも、なんで真っ白なんですか?」
ジン:
「伝説によれば、世界最強の上位100人だけが戦う権利を与えられるって話だ。アイツと戦いたいがために、彼女を諦めるヤツもいるらしい。そして、真っ白な服を着ているってことは、俺がトップバッターってことだろうさ」
血塗れのサンタ:
「そうなるかのぉ」
シュウト:
「ちなみに、何のために戦うんですか?」
ジン:
「クリスマスを止めるために決まってンだろ!!」
シュウト:
「でも、さっきまで、真夏でしたよね?」
ジン:
「俺もちょっと驚いたが、ともかく『ここに来た』ということは、クリスマス寸前だってことだろ ? その辺はどうでもいいよ」
シュウト:
「はぁ……。でも、クリスマスを止めてどうするんですか?」
ジン:
「…………はぁ~(溜息)。もういいから、そこで見てろ」
血塗れのサンタ:
「ふぉっふぉ。……もうはじめても良いかな?」
ジン:
「くっくっく、会いたかったぜぇ! 俺が戦う以上、今回のクリスマスは無しで確定だ!!」
血塗れのサンタ:
「威勢がいいのぉ。しかし、ワシと戦う者たちは、みな口先ばかりなのが残念じゃ。ここの所、異世界勇者どもは、皆、はーれむはーれむしおって、寂しくてならんわい」
ジン:
「ケッ、余裕ぶっこいていられるのも、今だけだ、ぜ!!」
血塗れのサンタ:
「むっ!…………なんと!?」
高密度の意識圧が竜巻のような気の爆流を生む。何度も見ているはずの全力の姿だったが、更に何段階も上の能力を隠しもっていたかの気がする。こちらは立っているだけで気絶しそうな圧力を撒き散らしていた。足元を見れば、自分が隔離されているのが分かる。手出しできないようになっているお陰で、護られているのだろう。
みているだけで不安定な気持ちになる立ち姿。次の刹那にも動き出しそうな静止は死のイメージを強く感じさせる。殺意が心をズタズタに引き裂こうというかのようだった。
ジン:
「●×#」
言葉の意味がわからない。言語中枢が瞬間的にオーバーヒートしてパニックに近い状態になる。
サンタの体が跳ね飛んだ。タル型体形の鈍そうなイメージとは相容れない、身軽で素早い動き。全身が鍛え抜かれた筋肉の塊なのが分かる。しかし、サンタ服に赤い染みが広がっていた。サンタクロース自身の血だった。
血塗れのサンタ:
「まさか、これほどとはの……」
ジン:
「…………終わりだ、爺さん」
血塗れのサンタ:
「待て、クリスマスを楽しみにしている子供達はどうなるか、分かっておるのか!」
ジン:
「フン、ケーキも無い、親も仕事で独りぼっちの子だっていんだろ」
血塗れのサンタ:
「ワシが倒れれば、クリスマスは無しになる。天災か、戦争か、ともかくナシになるのじゃぞ?」
ジン:
「命乞いかよ、つまんねーヤツだな。大人しく逝け!」
血塗れのサンタ:
「ぬぅ、ここまでかっ!」
ジン:
「…………ひとつ、教えろ。どうして戦えるヤツと戦えないヤツとがいるんだ?」
血塗れのサンタ:
「そんな事か。簡単じゃ、『諦めたヤツ』は『非モテ』ではないからじゃ」
ジン:
「なんだと!? そういう仕組みかよ!」
血塗れのサンタ:
「では、ワシからのクリスマスプレゼントじゃ」
ジン:
「俺に小細工は効かない……」
ユフィリア:
「ジンさん、見て見てー!」
シュウト:
「はぁ?」
突如、ユフィリアがミニスカサンタの衣装を身に纏って現れた。
ユフィリア:
「プレゼント貰っちゃった。どう?似合ってるかな? けっこう可愛いと思うんだけど」
ジン:
「お、おぅ。よく似合ってるぜ」
血塗れのサンタ:
「うむ、ミニスカートから伸びるアンヨが最高じゃ」
ジン:
「てめー、アンヨじゃ、って、しまった!!!」
振り向いた時、空に消えていくところだった。
血塗れのサンタ:
「ふぉっふぉ。希望を持つものは、ワシには勝てぬようになっておるのじゃよ」
瞬時に跳び上がるジンが剣を振り下ろすものの、透けて消えてしまった後だった。50mほどの距離から落ちてきたジンは、着地するとそのまま崩れ落ちた。
ジン:
「やっちまった! なんてことだ! すまない! 同胞達よ、本当にすまない……っ!」
誰のためにか、涙を流すジン。どこか遠くで白髭老人のどこか優しげな笑い声が聞こえた気がした。
(了)
2012年 12月24日(月) 14時32分に活動報告で書いた分です。