女神はぁ~ん!湖水にいてはりませんか~
アジアの西はアナトリア半島に大自然の広がる森と湖が点在をしていた。
緑豊かな自然とキツネやリスなどの小動物が戯れの森。言霊が宿り森の神さまや湖の神秘な女神がいらっしゃる。
森と大地と動物たちの尊き守り神と番人でもある女神さま。
アナトリアの自然はどこまでも雄大であり神さまはいつも幸せを感じている。
クゥカァ~
幸せなので女神は湖奥深くに引きこもり眠りについていた。
クゥカァ~
ウップゥ~
ムニャムニャ~お茶漬け食べたいなぁ
道頓堀のお好み焼きいけまっせぇ~
クゥカァ~
グゥグゥ
民家近くの森に碧色の湖があった。湖水奥に森を守り動物たちを庇護し続ける女神がいらっしゃった。
クゥカァ~
湖は静かなたたずまいである。
ガァ~
クゥカァ~
ムニャムニャ当たり前田のクラッカー食べたいなあ
クラッカー
いやっ森や湖は静かなはずである。
ガァ~
茶漬け食べたぁ~い
ガゥガゥ
湖など平和なもので湖面は紫水明水となり穏やかそのものであるはず。
クゥカァ~
お茶漬けおかわりしたいなあ~
永谷園のお茶漬け~
食べたぁ~い
クゥカァ~
お茶漬け食べたらプリンいきたいなあ
ヒュゥ~
ババロアもいきたいなあ
クゥカァ~
この晴れた日に森の入り口には若者たちがハイキングにやってきた。
「わあ~いハイキング楽しいなあ」
可愛い女の子が彼氏とはしゃいでいる。
「なんていいお天気なのかしら。あみは幸せだわ」
あみは彼氏の肩にちょこんと顔を寄せるとお互いを見つめ甘いムード満点である。
「アナトリアが晴れる青空は珍しいの。私は幸せな女の子。選ばれた女の子だけの幸せを感じるの」
彼氏に肩を寄せられ軽くおでこにチュ~
あみは真っ赤な女の子になっていく。
「清々しい気分になるのは久しぶりよ。絶好のハイキング。もう最高気分でございます。あみは幸せな女の子は彼氏とデートよ」
キスされたあみは嬉しかった。ボーイフレンドにクルッと腕を絡ませると可愛らしく頬を撫でてみる。
かわいこチャンあみとボーイフレンドは高校時代の先輩後輩。テニス部の淡い青春ドラマから交際は始まっていた。
仲良し二人は喧嘩もするがすぐに仲直り。テニスを愛する二人の交際は高校生以来順調に続いている。
「せっかく森にハイキングに来たんだから。あの小さな山を越え湖畔に行きたいなあ。地図だと山の景色が抜群みたい」
あみがクルマのナビゲーションを指差しみる。
「湖があるんだね。わかった行こうか」
アクセルを吹かし小山を越えてみる。
「うん!湖でお弁当食べたら最高よ。私が作ってきたお弁当だから美味しいわよ」
料理に目覚めたあみである。朝早くから卵焼きとウィンナーソーセージを焼いて彼氏に食べてもらいたかった。
湖畔でお弁当かぁ
彼氏もなるほどと頷く。あみが言う通り美味しいかなと。
「湖のほとりから森や山を眺めながらお弁当かい。あみの作ったお弁当がハイキングで食べれるなんて最高じゃないか。湖まで行こうね。景色がいいなんて最高だ」
運転しながら好きなあみの顔を覗く。女子高生時代から変わらないあみの笑顔があった。
「幸せよウッフ~ン」
うふふっと笑い幸せを感じる。車内でギュッと二人は手を握り合った。
ハイキングのお昼はあみの希望通り森の木陰の湖の畔にする。
「わあっ素晴らしい眺めだわ」
あみは弁当を広げると湖を眺めた。
キャラバン車を停めて湖を森を眺める。幸せをいっぱいに感じあみの手料理を食べる若いふたり。
「あみは料理がうまいなあ」
料理自慢のあみは彼氏のおいしいよの一言にいたって満足である。
自慢の卵焼きをあみの手でアッア~ンと食べさせる。
あみは嬉しい気持ちを抑え切れず彼氏の胸に飛び込んでしまう。
「大好き!あみも大好きよ」
楽しみのお弁当はきれいに片付けられると森の気温があがり始めた。
日差しは強くなりかなりの暑さとなった。彼氏に抱かれているとあみは汗が出てきそうだ。
「ポカポカ陽気ね。ちょっと暑いから泳がないかしら?」
水泳が得意なあみ。高校に水泳部がなかったからテニス部に入った経緯もある。
彼氏に顔を見られにっこり笑う。
「ちゃんとねえへへっ」
あみは彼氏に甘えん坊さんになる。
「あみはビキニ持ってきちゃった。ピンクのかわいいやつだもん。ハーイ見て見てくださいね」
かわいい手にブラとパンティーがあった。
「えっいつの間にビキニを用意していたんだ」
夏には早いぞ
あみはビキニを見てもらいたくてたまらない。大自然の湖に行こうとダダをこねたのはこれが第一の理由でもある。
「かわいいでしょ。私悩みに悩んで選んだの」
春一番最新流行のビキニを買ってきた。
「あみは体に自信があるの。湖で泳いだその後は。泳いで疲れたらエヘへ」
いゃ~んエッチ!
あみはビキニを持ちながらひとりで赤くなる。あみのハシャギを見て彼氏はあらあらっと諦める。
「水着があるって?あみはずいぶん準備がいいじゃあないか。湖で泳ぐなんて大丈夫か」
村人の言い伝えで森や湖に神様や女神さまが宿っているという。
「女神さまの機嫌を損ねたりしたら大変だよ。湖が嵐になってしまうかもしれない」
女神さまが仲良しのあみを見てヤキモチを妬くかもしれない。
「いゃ~んヤキモチだなんて。あみは何も悪いことしていないもん」
甘えん坊あみはイヤンイヤンと抱きすくめられる。まるで仔猫がじゃれているようである。
「あみだけでなく俺も泳ぐかな。海パンぐらい車にあった。探してみるか」
パンツがなければエヘへ。何もなしノーパンで泳いでしまえ。
「あみも喜んでくれるアッハハ」
恋人たちはわいわいキャアキャアと楽しそうである。
湖に浮かぶゴムのボートはキャラバン車に積まれていた。何より物持ちのよいことである。
キャア~キャア
ワァ~イ
イヤ~ン
仔猫のじゃれているさま。ざわめく喧騒は湖の奥底にガンガンと響きわたる。
キャアキャアの振動は長年湖底に眠る神秘なる女神に伝わっていく。
ウグッ!
女神はパチッと片目を開けた。耳にキャアキャアの騒がしさがあった。
「なんなんやぁ。湖面でバシャバシャしてケツカル!喧しいわあ~」
やめてくだされ
静寂なアナトリアで安眠妨害だなんて。
水面のざわめきやキャアキャアジャレ合いも長くなると騒音公害である。
じゃかあしい!
「ワテナはなあっ神秘なる女神やさかい。ずっと過去から神秘して寝とんよ」
いきなり安眠を邪魔され起こされた女神は片目を開けてみる。
まだまだ眠りこけたい気分で文句タラタラ女神だった。
「神秘が湖や森でうろうろしたらアカンさかい。迂濶に飯も食堂で食べれんさかい」
女神は夢うつつでお食事の真っ最中であった。
お好み焼きパクパク
うどんをズルズル
天ぷらパクパク
デザートはプリンかババロアか悩んでいたら起こされてしまう。
「神秘で美形な女神がうどん食べてまっせなんて言われたら恥ずかしやんか」
起こされたおかげで麺つゆはすすれなかった。大変な心残りであった。
「うんもう少し寝てみるさかい」
片目を閉じて夢うつつになりたい。
キャアキャア
バシャッバシャッ
湖面が喧しくて寝つけやしない。
「うどんがもう少しやのに。見られへんねん」
森周辺に食堂があれば食べに行きたい。天ぷらうどんは麺つゆが最高であった。
「間違ってくだされませませ。ワテは神秘なる女神やで」
うどんの一杯や二杯。なにが惜しいものでっかいなっ。
"ケっツネうどん"は惜しいさかいなっ!
「フワァ~嗚呼っ諦めて起きまっか」
両目をパチンと開けた。
「しかし眠いなあ。だってさぁ~こんな森の奥の湖にまでだーれもめったに来ないんやんか。せやさかい暇やんか」
女神は寝惚けマナコで文句をブゥ~ブゥたれていた。
「あ~ぁ。はょなあっ~こんげなトルコのアナトリアから大阪に帰りたいんやわぁ。退屈でっせっアナトリアはん」
ワテの実家は奈良県広陵町やけどな。ええやろ奈良県やでぇ。
奈良だっせっと威張ってもアナトリア半島で知ってるもんいないやんけ。
だからなっ。聞こえの良い大都会は大阪やあっ~と見栄張りしてまんにゃあ。
片田舎奈良は日本の中心さんやでとアナトリアの神さんには宣伝したかった。
「せやけどアナトリアの神様アホっばっかりでんねぇ」
奈良でっせっ。
いにしえの奈良の都でっせっ~
「神さん知らん顔してケツカル!ええ根性してやる。せやさかい説明は中止や」
奈良知らなくても生活に困ることなし。
久しぶりに目覚めた女神は悠久の歴史からバチリ帰ってきた。
「アワアワっ起きたさかいな」
両手を伸ばしてアクビを繰り返してみる。
日本の奈良生まれの女神がどうしてアナトリア半島のトルコにいるのか。いささか疑問符がつく。
グゥ~~
起きたばかりの女神は腹の虫が鳴き出した。さっそく神棚をガサガサしてなんぞ食べ物はないかと探る。
蟹缶があった。女神の好物で一時的な空腹は補える。
「神さんの世界はなっ複雑やねん。サラリーマンのような転勤があってな。さらになあっ海外赴任ちゅうやつもあんねんのやわぁ」
奈良の神社の女神をやるつもりだったが海外赴任の命がくだされてアナトリアへ派遣されていた。
「ワテわなぁ~なんでやろかいな。ペロポネソス半島オリンポスのゼウスの神様になっ。そのつまりやなぁ」
日本の女神はかわいいやんけっとエロゥ~気に入られてしまう。
「ゼウスはんやさかいなっ頼まれたらイヤン言われまへん。せやさかいギリシャまで行きましてん」
奈良から見たら正倉院の宝物シルクロードの繋がりがありまっしゃろ。
旧ローマ帝国のギリシャとしたらキャラバンの始まりとオイド(お尻)。奈良は長い商業路のおしまいみたいなもんや。
「あやあやっギリシャと奈良やんか。世界史ではせやからなっ奈良は偉いって言うてまんにゃあ!ごっつ偉いんやで奈良さん。大仏さんだけちゃいまんねん。わかりまっか」
奈良の女神は話が止まらない。蟹缶を食べてもお腹が減ったのか食品棚を開けてお菓子をパクパク食べ始めた。
「モグモグ!うんっなんやこの菓子は。塩味薄いなあ。長く保存して賞味期限あかんちゃうか。ちゃうやつにすっかな」
茶ぶ台を出してお好みのお菓子を調達する。棚にはズラリっと世界のお菓子が並んでいた。
「そんでなぁっ~この海外赴任をちゃんとゼウスさんの機嫌よろしゅうするとワテは神さんの免許もらえんねん」
ひとつ菓子に手をつけたら止まらない。ガバガバと口に運んでいく。
「ウチなあっ今は神さん2種免許やねん。女神やというけど下位に属する2種なんや。ちょっとこれは恥ずかしかった」
お菓子ばかりでは物足りないと見えご飯をよそう。おかずはナスビの漬物。女神の好物となる。
「神さん1種免許をなあっ神様学校時代に狙ったんやけどなあっ。ウチがアホやったんや。試験に落ちてしもたんや。実技はよかったんや。けどなあっ筆記の計算問題があかんねん。ワテ計算問題がからっきしダメなんやあ」
なぜ神様に計算問題があるんだ。
「せやからなっ。意地でも2種から憧れの1種に切り替えたいんやわぁ。欲を言えば2種・1種から専修(最高位)取りたいんやでぇ」
専修免許は大学院卒業が条件。しかも最上級免許ゆえ高嶺の花。
「けったいなことになあっ~なんで計算問題に微積があるやろ。理工学部受験とちゃうで!ホンマに」
計算はさっぱりや。あんげなもん湯川の博士か益川博士の先生に任せてちゃろっ。
「益川博士でええんちゃう。ノーベル物理賞やさかい。世界的権威がおます。総理大臣やて解けやしまへんでホンマやでぇ~」
歴代総理大臣は解けないだろうなあ。女神は妙に納得する。
神祇の計算問題には税金計算・建築構造計算もなぜか含まれていた。
「しかし弱ったなあ。赴任先は旧ローマ帝国でっしゃろ。奈良からやたら遠いやんかぁ。関空からブゥーんとジェットつかまって14時間でっせ。長~い、ながーいやんか」
奈良からいきなり海外赴任は不安ばかりである。搭乗しても落ち着かない。
「ヘコーキの中ではなぁ特にすることもあらへんやろ。機内食事ムシャムシャ食べまくり。ビールをガブガブ飲みまくりでおしまいや。後は寝るだけ寝て楽チン楽チン」
飲食物がなくなったらどんどん追加料理を頼んでいた。
「せやけどなあっ退屈やねん。まだ時間あまりたってへんねん。しゃーないからゲームやりまくってん。座席についた機内ゲームにワテなあっはまりましてん」
トルコ到着まで飲み食いし放題。ゲームやり放題。なんという女神さんであろうか。
さすがに2種免許の神である。
湖面に佇む恋人たち。ボートを漕いだり湖に泳いだり。
森の静寂が度々破られ小鳥のさえずりも止まる。リスやウサギたちがあみの気配に気がつきあっちこっちの森から見学に集まる。
「あら見て見て。可愛いい小鳥がいっぱい飛んで来たわ。木の陰にはリスがいる。あらっ餌をあげたいなあ。なにかなかったかな」
湖面には水鳥が渡ってくる。ポシェットからあみはバスケットを探した。お菓子のビスケットを見つける。
水鳥の群れにポイポイとビスケットを千切って与える。
水鳥はあみの手にあるビスケットを喜んで食べる。水辺近くに蒔かれたビスケット。リスははしゃいで食べにきた。
すると…
暗い感じの湖底からゴモゴモと声がする。
「えぇ心がけやぁん!餌をやったりんって。あんじょやってやあ~」
気のせいか声が聞こえてくる。餌をやるあみはキョトンとした。
「気のせい?KANSAI弁が聞こえたわ」
アナトリアの神秘なる森に関西弁が響きわたる。
「あんなあ~あんたはん失礼やでぇ。言うとくけどなぁ~KANSAIは関西やけど。ワテは大和言葉と言う上品さんやぁでェ~。奈良県広陵町やでェ~。いたって上品でおますケェ」
誤解はいやだと女神は言い訳した。あみはそら耳かなと湖を眺めた。
「うん?湖からなにか言った?大和言葉ってなんのこと」
キョロキョロ
ボートの下あたりから声がしたらしい。見渡せば声の主がいるかと思う。
キョロキョロ
誰かいるわけないなあ
「あら空耳だったかしら」
湖面の女神はちょっと悔しさから二の句をつく。
「え~やんかぁ~まあなぁ。KANSAIでも関西弁やさかい。いにしへの奈良さんで」
ええっええっ
「あの娘っ感心さんや。ビスケット(餌を)ばらまいて鳥やリスに気を配ってくれてやす。優しい心がけでんなぁ」
ボート漕いで湖の真ん中に来ないだろうか
湖の中心にピタッと来てくれる。女神さんはブクブクと湖底から浮かびあがる。
するとビーナス誕生のあのシーンが再現され女神出現のスイッチオン。
「なんせなぁワテがアナトリアに来て湖に人いうもんがさっぱりでんねん。寂しいもんやでぇ。よってワテの活躍の場面巡ってきよれへンネン。せやさかいな初仕事や」
神さん2種免許やさかいっとブツブツぶつくさ。
「ゼウスさんも人が悪い。いやっ神さんが悪いでっせ」
女神の活躍する場面がない。アナトリアに派遣されたことを愚痴った。
ぶつくさといじけ女神。神さん2種免許から脱却できない女神さん。
「そやそや。あれらの側にボートを置いてやれ。泳いだだりせんとボートに乗ればいいさかい。どないなアホでんまずは湖に出るさかい」
女神はあみにめがけて軽くウインクした。
バチ~ン!
「ねぇボートに乗りましょう。なんだか湖を渡りたくなったなあ」
女神はにこにこ。
よしよし湖面中央においでんさいな!
あみはボート漕ぎ漕ぎ湖の真ん中に。湖面が様々に変化をして景色が綺麗に見えてくる。
「やったぁ!ワテは嬉しいでんなっ。湖の真ん中に来たでっせ」
女神は嬉しい。いよいよビーナス誕生ならぬブクブクと泡の中から湖面に登場をするぞ。
運命の一瞬を前に女神の身だしなみをチェック。髪の毛の具合。衣裳の乱れ。お化粧のノリ具合。
手におみやげを持ちスタンバイする。
「OKでおます。ほならっブクブクしてあがりまっせ。行くどぉ~」
女神は気合い入れて湖面を見上げた。
が…。
「なっなんなんねん!あいつらっなにしちょるねん」
あみは湖面のボートの中でいちゃいちゃしてしまう。お互い気分が高まり抱き合っていた。
お熱つくなりムードは満天だった。あみのビキニは一層眩しく見え思わず抱きしめたくなる。
女神はこれにはカンカンである。
「あかんじゃんか。ひと試合始まったあ~」
これが始まると長いんだあ
女神はボートの近くまで浮上しつつ急遽ブクブクを中止する。
あみのイチャイチャが終わるまでプクッと膨れっ面でいる。
「私ぃ~待つわ。いつまでも待つもんねぇ」
あみは愛を確かめて抱きあう。ピンクのビキニはすっかりとろけてしまった。
あんイヤ~ン
うっとりとして目を伏せた。
あみはくちずけをされビキニの紐をゆっくりはずされる。
「あみは幸せよ。ウッフゥ~ん」
あみはブラジャーが脱がされやすいように体を入れ換えた。
高校時代から憧れていた先輩の胸は厚く頼もしい。
「だってだって」
狭いゴムボートの中である。ちょっと傍らに寄ればバランスを崩してしまう。
嗚呼ボートが揺れてしまう。
キャア!
イヤァーン
ボートがゆらゆらとした。
次の瞬間に二人は転覆してしまう。
きゃ~!
バシャン!
湖にあみはドボンっと落ちてしまう。
あみが湖に落ちたら不思議なことが起こった。
「あん!なんなの。体がグイグイ吸い込まれるわ。湖の底に吸い込まれちゃう」
あみはもがいてもがいて湖底に吸い込まれることを嫌がる。
吸い込まれそうなのは女神が邪気から引っ張り込んでいたから。
「エヘへ。あみよっこっち来いやあ。捕まえてやんでよ」
女神は嬉しそうにあみの細い足をグイグイ引っ張り込む。
「たっ助けて~ブクブク」
助けての悲鳴は湖に響く。しかしもがきながらもどんどん沈んでしまい湖底に消えてしまう。
「まあっ憎たーぁしいわね。このビキニの小娘ったあ」
あみを捕まえるとプチッとブラジャーを女神ははずしてしまう。
「フゥーだ!ブラジャーは取っちゃえ」
ザマァ~ミロ~
あみは助けてと手足をバタバタ。苦しみながらブクブクっとなんとか浮上する。
「うわぁ苦しい。プファぷぅ」
湖面から顔を出すと大きく息をする。
「なんか足をひっぱっているみたい。不気味な湖だわ」
転覆したボートを彼氏は直してくれ二人はよっこらしょと乗り込む。
「転覆は悪かった。ごめんなさい」
あみは恐怖を感じていたわっと抱きついた。
「おっおいあみ!ブラがないぞ。取れちゃったみたいだぞ」
あみはなんのこと?
チラと胸を見た。
「うん?なんで?キャア~」
慌ててボートを漕ぎ岸辺に戻る。岸辺にはリスが心配して待っていた。
「もうイヤ~ン。ブラ取れちゃって恥ずかしかった。あら?岸辺にきたのはいいんだけど。私のビキニ湖の下かしら。探さないと」
お!
あみは岸辺で服を羽織り冷静になる。
「そーだわ何も慌てることなかった。嫌ねぇ!あのブラ高かったの。探して来ないといけないわ」ちょっとしたことにブラジャー紛失でいさかいが始まった。
湖底に沈んだからブラジャーはない。探しても探し切れないのだ。
「そんなことないもん。あみのお気に入りビキニよ。なくしては嫌よ」
湖底の女神は首を傾げた。女神は女神で頭を悩ます。
「あれ?ワテはなんだろ。なんでブラ持っていんやろ。あかんやんかなあ。神秘的な女神はんが小娘のブラジャー取ちゃってますわ。これまた失礼しました」
森の景色が変わり風が吹き曇り空になる。
小鳥がザワメキ、ウサギ、リスも避難するかのようにちゃんちゃんとふたりの前を横切りどこかに走り消えた。
「やだあ雲あやしいなあ。晴れていたのに雨になりそうよ」
雨は嫌である。あみは不安に思って早く帰りたくなった。
その予感は湖を見てさらに深まる。
湖面からブクブクと泡が立つのを見る。喧嘩していたふたりに湖水の変化がわかる。
「なあにあれ。湖からブクブク渦がわいているわ。アチャア~洗濯機が壊れたのかな」
あみは真面目な顔だった。
女神は神秘的に荘厳に出現してみようとした。敬虔な女神を演じないといけないと。
重々しき雰囲気で浮上するつもりがあみの軽薄さにスカッを喰らう。
「な、なんや。洗濯機やて」
洗濯の一言が耳に入ってしまい荘厳さが萎縮していく。
「泡からブクブクはやめまひょ。妙な誤解を受けるさかいな。洗濯機は侮辱やでぇ」
神さん2種免許の女神はカアッと頭にきた。泡の渦はピタッと止まり湖は静かになる。
「あら洗濯機が止まっちゃった。反転したりして」
あみ女神を挑発する。
女神は気を取り直し反転をする。
「ホナっ反転しましょう。なんでワテがやりまっかいな。アホくさぁ」
ブクブクはショートカットし薄暗い空にボンヤリポワァーと神秘的な女神があった。
女神として厳かに優雅に湖面に姿を現した。
「ジャーァン現れたんでっせ。ワテが噂の湖面の女神やぞぉー、ワテ見たんなら拝んでや。お賽銭ほってや~。ユーロでん、ドルでん構いしませんで。後から両替しまっさかいな」
ポワン
ポワン
女神が湖上にプカプカ浮いていた。
喧嘩していたふたりはアングリと口を開けた。見てはいけないものを見てしまったと放心状態になる。
女神は神秘な面持ちであみを眺めた。
「ワラワは湖の女神であるぞよ(2種免許やぞ)」
女神はニカッと片目をあけた。
「おお。ふたりは驚いてけつかりまんにゃあ。まあ情けないくらい口開けまくりでんがな。なんか口にポイッと入れとうおすなあ。いかん、いかがな、おいたじゃない。仕事や、仕事」
女神久しぶりの仕事にやり方を忘れてしまいそう。
「そちの者。このものに見覚えはないか。よく見てみいや」
女神はそぉーっとブラを示す。
女神のホイッと目の前に示したブラジャーはなんだったか。
あみは彼氏に抱きついて放心状態。そこからなんとか脱出し女神の差し出すブラジャーを見る。
「ちっ違いますよ。私のじゃあないもん。よくわかんないけど。それのサイズはBかCカップだわ。あみのと違うみたい(私もっとデッカイもん)」
あみはサイズの優越を感じながら否定した。
具体的なブラジャーの大きさを言われて女神はジロッとあみを睨みつける。
ぺちゃんこにしか見えないが。そんなにあるんかいな。
「なんやてCカップやて。それワテのサイズやないか」
女神は微笑みを湛えさらに手を伸ばした。
「いいえコイツはあんたのブラじゃんか」
そうでっせっ。もう少しよく見ろっ。女神は意地になってそらそらっと示した。
うん゛?
ありゃ~あいけないがん。ワテの持っているブラはワテのブラやんけ!
はずかしいなあ女神。
自らのミスに気がつき慌てて湖底に戻る。
「しまったやんけ。まちがえたんやんけ。長年寝てばかりいたからボケとんや」
女神は寝ぐらに戻る。イソップ物語の筋書きを反復してみる。
「えっと金の斧はどれやったかなあ。銀の斧はどれやったかいなっと。ち、ちがうわ。斧はイソップ物語だや」
女神はハッとする。
「せやせや。湖面に木こりが来てくれなあかんやん。金の斧や。銀の斧やんか」
女神はますます焦った。はて?斧は用意されていたか。
「チャウチャウ斧やない」
今はブラジャーである。今のスチェーションはあみの赤いブラジャーだった。
つい今しがたブラジャーを手に入れたはずなのに。
「ワテの探しているのは金のブラや。純金のブラジャーやねん。あーん、ゼウスから仕事の引き継ぎしたさいに見たさかいな」
必ず湖底にあるんやけどなあ
貴重品だからタンスの中に入れてあるはず。冷蔵庫の中かもしれない。たまに洗濯もするから洗濯機も探す。
「金ブラやねん。金のブラジャーやねん。どこやったんやろ。わからへんなあ、えらいこっちゃ。なんで冷蔵庫や洗濯機やねん」
女神は湖底をぐるぐるまわりそこらここら探して探して探しまくる。
※女神は金のブラジャーをあみに示して、それは、私のものよ!と言われたら、なん!この好かんタコがぁーで、追い返すつもりだった。
正直に違います、言うたら、次、銀ブラやねん。
女神は金のブラジャーを再びタンスから蔵から探すが見つからない。
銀ブラは冷蔵庫中にあった。女神は夏暑いから冷やしてから着用していた。
「あかんわ。しゃーあない銀ブラから見せていくか。金ブラは紛失届け出しておかなあかんな」
女神はしぶしぶ銀ブラを手に持ち再びブクブク浮上をする。
荘厳な雰囲気で湖面にあがりながら女神は呟く。
「さっき手に持っていたんはワテの愛用ブラジャーやったわぁ」
あみに小さいサイズと言われてショックでもある。
ほなら…
「今はワイはなにブラを着けているんやろか?」
スルスルと湖面に浮上した女神。グイッと手にした銀ブラを。
さっと出さない。
女神は躊躇をしていた。
再び湖面に現れた女神をあみは不思議そうに眺めた。
「なんだろう」
女神は瞬間に銀ブラを引っ込めた。
自分の羽衣の胸をバァ~と開き見せた。
「ほんじゃ~あみ!しっかり見てくんしゃい。こないなやつ、あんさんのブラジャーか」
岸辺にいたふたりは目をドングリにした。
目をカッと見開き女神の露出した胸を見た。
女神の羽衣の胸には金色に光るブラジャーがあった。
金(純金)のブラジャーがそこにあった。あみが見たらCカップぐらいかと推測された。
確かに金のブラジャーは誇らしげにあったのだ。
金のブラジャーかと言われたあみは怖い気持ちを押さえながら答えた。
「違いますよ。私はCカップじゃない(そんな小さくはないの)違う違う」
女神は黙って天を仰いだ。
チィ、負けたんかいな。
悔しさいっぱいやんけ。
チィ、金のブラは違うと言っているさかいな。
「ほならっ小娘あみは正直もんだとなるんやろか」
女神は腕組みして悩んでしまう。
2種免許の更新はまず無理だとわかった。