家族の象徴 その7
「どこに行くんですか?御手洗さん。」
こそこそと事務所を出ようとする御手洗に背を向けたまま恵美が釘を刺した。
「いやぁ、仕事だよぉ。」
「残念ながら今のところ仕事は入ってません。」と何も書かれていないホワイトボードを指差す。
「いいじゃないかぁ。お金も入ったんだし。」
「ダメです。これは理沙ちゃんのお父さんが善意でくれたお金ですよ。正規の報酬じゃないんですからね。」
あの日、目の前で起こった現象を目の当たりにして、田中は娘を苦しめていることを認めるしかなかった。
「原因はこのお母さんの形見の指輪ですが、今回の現象を引き起こしたのは理沙ちゃんの想いです。どんなに巧妙に隠していても、わかっちゃうんですよ。親子なんですから。」と言った、御手洗の一言が効いたらしい。
田中は「どうしたらいい?」と縋るように御手洗を仰いだ。
「ちゃんと話しあえばいいんです。全て包み隠さず話して、理沙ちゃんの想いを受け取ればいい。それがどんな想いであっても、あなたがしっかりと受け止めてあげるんです。父親なんだから。」
がっくりとうなだれる田中に寄り添うようにしていた佐々木に、御手洗は一言だけ「浮気はいけません。ちゃんと謝るんですよ。」と諭した。
数日後、田中は事務所に現れ、封筒に入れたお金を置いて帰って行った。
御手洗が「どうですか?」と訊ねると、バツが悪そうに苦笑いを浮かべて「娘に怒られたのは初めてだった。」と零した。
封筒にはぴったり百万円も入っていて、取りだした瞬間、恵美は腰を抜かしそうになった。こんな大金受け取れません、と断ったが、田中は「気持ちですから。」とそのまま差し出した。帰り際に「ありがとう。」とお礼を言った田中の顔が、とても清々しいものだったので、恵美はそれだけで十分なのに、と思った。
「だって、百万円だよ?ちょっとくらい使ってもいいじゃないかぁ。」と御手洗が駄々をこねるので、恵美はため息をつくしかない。
「いいですか?今月の事務所の家賃。光熱費、それからいつ次の依頼が入るか解らないので、当面の食費、あとあたしのお給料で百万円なんてすぐになくなっちゃいます。御手洗さんのパチンコ資金なんてこれっぽっちもありません。」
恵美は言うことを聞かない子供に言い聞かせるかのように、整然とまくしたてた。
「そんなぁ・・・。」
「またやってるんですか?だからそういうことは、ドアを閉めて話さないと。」
いつの間にか事務所のドアを開けて、五十嵐がニヤニヤと笑ってた。
「五十嵐君、今日くらいは俺の味方してくれよぉ。」
「僕は御手洗さんがパチンコに行くのを反対したことはないですよ。でも、恵子さんに歯向かう気はしませんね。」
「それ、どういう意味?」恵美は鋭く睨みつけると「そ、そんなことより。」と五十嵐は慌てて話を変えた。
「依頼人を連れてきたんですけど。」と背後に立っていた人物を中にまねき入れる。
恵美は後で話がある、と五十嵐に目で合図を送る。五十嵐は気付かないふりをしたが、怒られる覚悟だけはしておこうと決めた。御手洗はこないだ仕事終わったばかりなのに、と憮然としたが、断る隙もなく、恵美が依頼人をソファに座らせてしまったので、仕方なく依頼人と向き合うことにした。
「ようこそ、御手洗探偵事務所へ。どういったご依頼ですか?」
自分にはまだこの話を書くのは早すぎました。
稚拙な文章ですみません。
これで完結です。
もう少し書けるようになったら、続きのお話も考えてます。
ありがとうございました。