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部屋掃除のパイオニア

作者: 鶴ヶ友護
掲載日:2026/08/29

 部屋掃除には二種類ある。

 普通の掃除と、歴史に残る掃除だ。

 私は後者を目指している。

「また始まったよ」

 友人が玄関で靴を脱ぎながらため息をついた。

 私の部屋は散らかっていた。

 床が見えない、というレベルではない。

 床という概念が見つからない、そういう次元だった。

「どこから掃除するの?」

「まずは未開の地を調査しようと思う」

 私はそう言って、ポケットから割り箸を取り出した。

 その割り箸を地面──たぶん床──へと突き刺す。

「ここをキャンプ地とする!」

 友人は帰ろうとした。


 掃除初日。

 私はソファを発見した。

「ソファがあった!」

「昔買ったやつだろ」

「そんなことは知らん! これは発見物だ!」

 ソファには『文明レベル:やや高い』と付箋を貼った。


 二日目。

 本棚の裏から去年が出てきた。

 カレンダーが丸ごと一冊落ちていたので、去年が見つかったことになった。


 三日目、私は床に国境線を引いた。

「こちらが掃除済み共和国。向こうが汚部屋帝国」

「戦ってんのか?」

「ああ、戦時中だ」

「戦争なんてやめちまえよ」

「ほこりがあるから無理だ」


 四日目、押し入れから知らないおじさんが出てきた。

「すみません、出口こっちですか?」

「なんでいるんですか?」

「十年前に掃除してたら迷って」

 そういうこともある。

 玄関まで送りとどけてやった。


 五日目、ついに床が全面開通した。

 私は感動して正座した。

「これが床か……」

 すごい。

 なんと言えばいいのか。

 言葉にすることが難しいほどの高揚感が、体の奥底から湧き上がってくる。

 きっと、コロンブスもこんな気持ちだったに違いない。

「おめでとう。普通の部屋だ」

 過去の人物との対話を始めようとしたら、友人が拍手を始めた。

 ちっ。

 折角の対話のチャンスだったんだが。

 でも、まあいいか。


 ということで、掃除済み共和国と汚部屋帝国の戦いは、掃除済み共和国の勝利で幕を閉じたのだった。

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