部屋掃除のパイオニア
部屋掃除には二種類ある。
普通の掃除と、歴史に残る掃除だ。
私は後者を目指している。
「また始まったよ」
友人が玄関で靴を脱ぎながらため息をついた。
私の部屋は散らかっていた。
床が見えない、というレベルではない。
床という概念が見つからない、そういう次元だった。
「どこから掃除するの?」
「まずは未開の地を調査しようと思う」
私はそう言って、ポケットから割り箸を取り出した。
その割り箸を地面──たぶん床──へと突き刺す。
「ここをキャンプ地とする!」
友人は帰ろうとした。
掃除初日。
私はソファを発見した。
「ソファがあった!」
「昔買ったやつだろ」
「そんなことは知らん! これは発見物だ!」
ソファには『文明レベル:やや高い』と付箋を貼った。
二日目。
本棚の裏から去年が出てきた。
カレンダーが丸ごと一冊落ちていたので、去年が見つかったことになった。
三日目、私は床に国境線を引いた。
「こちらが掃除済み共和国。向こうが汚部屋帝国」
「戦ってんのか?」
「ああ、戦時中だ」
「戦争なんてやめちまえよ」
「ほこりがあるから無理だ」
四日目、押し入れから知らないおじさんが出てきた。
「すみません、出口こっちですか?」
「なんでいるんですか?」
「十年前に掃除してたら迷って」
そういうこともある。
玄関まで送りとどけてやった。
五日目、ついに床が全面開通した。
私は感動して正座した。
「これが床か……」
すごい。
なんと言えばいいのか。
言葉にすることが難しいほどの高揚感が、体の奥底から湧き上がってくる。
きっと、コロンブスもこんな気持ちだったに違いない。
「おめでとう。普通の部屋だ」
過去の人物との対話を始めようとしたら、友人が拍手を始めた。
ちっ。
折角の対話のチャンスだったんだが。
でも、まあいいか。
ということで、掃除済み共和国と汚部屋帝国の戦いは、掃除済み共和国の勝利で幕を閉じたのだった。




