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ボクの描いた呪い

作者: この作品はフィクションです
掲載日:2026/05/02

 世界がうまく回っていく。なのに、ボクは何も出来ない精神疾患者の引きこもりだ。


 警察にも、親にも、友達にも、言われた。


「お前はおかしい」

 

 と。


 ボクは世界の流れが何か作為的で怪しげでおかしいと、そう唱え続けてきた。この国のために。そうしたら突然煩い声が聴こえてきて、ボクの思考を邪魔してきたんだ。


「ボクは……おかしくなんかない……!」


 薬を飲んだら声は聴こえなくなった。だけど、これは【何者かによって仕掛けられた病気】なんじゃないかと思っている。


 しかし、世界は案外うまく回っているようだ。

 

 突然胸の発作が起こる。

 苦しい。


 どうしてボクだけがこんな辛い目に遭わないといけないのだろう。ボクだって、この国の国民として普通に生きたかった。


 ……でも、ある日から世間の言う『普通に生きること』に疑問を抱いてしまった。


 妙な声は聴こえないけど、世界の危機に気づいて警鐘を鳴らしたボクを、世界は見捨てたんだ。


 「愚か者」と、ボクに言うような笑い声が聴こえるような気がする。


「ボクは……ただ、いち早くこの世界の危機に気づいただけなんだ。それなのに……」


 弱った声を出しても、誰も聞いてくれない。壁に飾った世界地図を恨めしそうに睨んだ。


(かみさま。いっそのこと、世界を呪えますか)


 ボクの描いた世界の終末ディストピアを。浮かべる。

 怪しい宗教を脳内で作る。指揮官のように指を動かす。影が怪しく揺らめく。


「世界が病で満ち溢れ、争いを始めて、大地震も起こって……そのなかでボクは【時代に殺される】んだ」


 決して自殺なんてしない。

 ひとりで死んだりするもんか。


 喉を締め付けられた羊の様な笑い声を発した。発作で見開かれた目は、鏡を溶かすようなおぞましい形相をつくっていた。


 ボクがこんなになったのは、この世界のせいだ。

 きっとそうだ。


 発作が起こるたびに、ボクは世界を呪った。


 ◇


 それから、何年か経った。


 病状が良くなった。親との仲も、友達との仲も、ほどよい距離を保って接していられる。


 発作を抑える薬も、抵抗なく飲むことができてあとは就職をすれば再び社会のレールに乗れる。そんなところまで回復していた。


 ……だけど、ボクが社会復帰する前に、世界の情勢がガラッと変わった。


 国同士が仲悪くなったのだ。

 ボクが想像していたように、病が世界を覆い尽くして、貿易摩擦や戦争、紛争などが起こるようになった。


 そんな時代でも、この国はまだ変わった様子を見せなかった。まるで何者かに守られているようなそんな不思議な国だと思った。


 ボクはと言うと、国民の格差が広がる中、どんどん幸せになっていく。同時に、この国のことや世界のことを考えなくなった。目先の幸せだけを感じていくようになった。

 

 むしろ、世界が不幸になることで貰えた助成金や補助金で以前より暮らしが豊かになった。


 ある仮説を立てる。


(ボクは天使なのでは)


 と。

 天使だから、引きこもりから立ち直れた。天使だからこの世界を呪うことも出来た。そして世界は、正しい方向へ向かおうとしているのだ、と。


(ボクは、選ばれし天使なんだ)


 そんな思いを秘めて道を歩いていると、


「お前は外国人か!」


 と、ナイフを持った男に言われた。


 ……ボクはこの国の人間だ!


 そう言う前に刺された。

 腹が裂けるような痛みで相手を見る。


 ボクを刺した男の目は、真珠の様に輝いていて綺麗だった。同時に、何か美しい映画でも観たかの様な、恍惚こうこつとした表情をしていた。


「俺は、外国人からこの世界を守るんだ!」


 ……ボクは男の声を聴いて思った。

 

(やっぱり、この世界はおかしいんだな)


 と。


 死ぬ直前にボクは、


「この世界に救いがあります様に」

 

 と言って、悪魔の様に笑った。

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