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転生したら作りかけの乙女ゲーの悪役令嬢だったので、前世の知識で世界をデバッグすることにしました。【毎日更新中】  作者: 神楽坂らせん
第二章:異世界での新生活

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姉ソフィアとのお茶会

### 2-7 姉ソフィアとのお茶会


 回復してから約二週間が経過した。

 

 集中的な授業期間を経て、ミユキの魔法理論の理解はマスタークラスに達しようとしていた。それでも、まだ実技の経験は浅い。過度に進んでしまっている理論と実践のバランスを取るよう師にも指導され、日々魔法陣の実験を行い理論の確認をしつつ、少しずつ前に進んでいる状況だ。

 

 そんなある日の午後——。

 

「ミユキ、今、時間ある?」

 

 姉のソフィアが、優雅な笑みを浮かべてミユキの部屋を訪ねてきた。

 

 明るい銀髪を優雅に流し、青紫色の瞳を輝かせている。この世界に転生してから、ミユキは姉という存在の有り難さを実感していた。

 

「お姉様、どうされました?」

 

「お茶会をしましょう。私の部屋で、ふっ、二人きりで」

 

 ソフィアは手を差し伸べた。

 

 二人きり、の声が妙に上ずっていたが特に気にすることなく、ミユキは「はい、喜んで」と答え、姉の手を取った。その手は温かく、優しい。姉の深すぎる愛情を、この時のミユキはまだ知らなかった。

 

 ◇

 

 ソフィアの部屋は、ミユキの部屋より一回り広く、より華やかだった。窓際には小さなティーテーブルが置かれ、美しいティーセットが並んでいる。


 ふうと深呼吸をしたソフィアは、優しい声で「座って。今、お茶を淹れるわ」と妹を迎え入れる。

 

 姉は手慣れた動作で紅茶を淹れ始めた。優雅な仕草の一つ一つが、社交界の花形候補としての訓練の賜物だと分かる。

 

 紅茶の香りが部屋に広がる。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 ミユキはカップを受け取り、一口飲んだ。

 

 温かく、優しい味。

 

「美味しい……」

 

「気に入ってもらえて嬉しいわ」ソフィアは微笑んだ。「これ、母様が大切にしている茶葉なの。特別な時にしか使わないんだけど」

 

「特別な時……ですか?」

 

「ええ」ソフィアはカップを置いて、じっとミユキを見つめた。「あなたと、ゆっくり話したかったの」

 

 真剣な眼差し。だが、そこには優しさが満ちていた。

 

 ソフィアは少し間を置いてから、口を開いた。

 

「ミユキ、本当に変わったわね」

 

「え……」

 

「前は魔法の勉強、あんまり好きじゃなかったのに。アルノルト先生の授業も、ちょっと退屈そうにしてたわよね」

 

 ミユキは息を呑んだ。

 

『そうか……元のミユキは、魔法に興味がなかったんだ』

 

「でも今は、目を輝かせて勉強してる。先生も驚いてるって、母様から聞いたわ」

 

「あ、あの……それは……」

 

 ミユキは言葉に詰まった。どう説明すればいいのか。

 

 だが、ソフィアは優しく微笑んだ。

 

「いいのよ、あなたのことだもの。理由なんて聞かないわ」

 

「お姉様……」

 

「ただね」ソフィアは紅茶をもう一口飲んでから、続けた。「お姉様、嬉しいの。あなたが自分の道を見つけたみたいで」

 

 その言葉に、ミユキの胸が温かくなった。

 

「色々……目が覚めた、というか」

 

 ミユキは慎重に言葉を選ぶ。

 

「前は、何をしたいのか分からなかった。でも今は……魔法を学びたい。もっと知りたい。そう思えるんです」

 

「そう」ソフィアは満足そうに頷いた。「それは素晴らしいことよ。自分の情熱を見つけるって、とても大切なことだから」

 

 姉妹は見つめ合い、微笑み合った。

 

 ソフィアが話題を変える。

 

「ところで、ミユキ。あなた、あと二年で学園に入学するのよね」

 

「はい」

 

「王立魔法学園。そこは……まあ、社交界の縮図みたいなものよ」

 

 ソフィアの表情が真剣になった。

 

「平民出身の特待生もいるし、様々な貴族家の子供たちが集まる。派閥もあれば、対立もある」

 

「……はい」

 

「社交界は戦場よ」ソフィアはきっぱりと言った。「優雅なドレスを着て、優しい笑顔を浮かべていても、裏では駆け引きが行われている」

 

 ミユキは緊張した。

 

『悪役令嬢フラグの話……?』

 

 ソフィアは続けた。

 

「だから、お姉様が教えてあげるわ。社交界でのふるまい方、ドレスの選び方、礼儀作法——貴族令嬢として知っておくべきこと、全部」

 

「お姉様……」

 

「それに」ソフィアは少し声を落とした。「女性同士だから話せることもあるでしょう? 男性には相談しにくいこととか」

 

 ミユキははっとした。

 

『そうだ……前世では、女性の先輩に相談できなくて困ったことがたくさんあった』

 

 職場は男性ばかり。おしゃれの仕方も、人間関係の悩みも、誰にも相談できなかった。

 

「もし何かあったら、絶対にこのお姉様に相談しなさい」ソフィアは真剣な目で言った。「どんな小さなことでもいいの。学園からでも、手紙をちょうだい」

 

「……はい」

 

「約束よ? すぐに駆けつけるから」

 

 ミユキの目が潤んだ。

 

『前世では……お姉さんなんていなかった』

 

 女性特有の悩みを相談できる相手。先輩として導いてくれる存在。

 

 そんな人が、今ここにいる。

 

『姉がいるって……こんなに心強いんだ』

 

「お姉様、ありがとうございます」

 

 ミユキは必死に涙を堪えた。

 

「あらあら、泣いちゃだめよ」ソフィアは立ち上がり、ミユキの隣に座った。そして、優しく妹を抱きしめた。「お姉様は、いつでもあなたの味方だから」

 

「はい……」

 

 温かい抱擁。

 

 ミユキは姉の腕の中で、静かに涙を流した。

 

「ミユキ」ソフィアは妹の髪を優しく撫でながら囁いた。「あなたは、もっと自信を持っていいのよ。あなたは素晴らしい子だから」

 

「……お姉様」

 

「学園では色々なことがあるでしょう。楽しいことも、辛いことも。でも、あなたなら乗り越えられる」

 

 ソフィアは妹の顔を両手で包み、目を見つめた。

 

「そして、もし困ったら——手紙をちょうだい。すぐに駆けつけるから」

 

「はい……!」

 

 二人は再び抱き合った。

 

 窓の外から差し込む午後の陽光が、姉妹を優しく照らしている。

 

 ——そんな美しい姉妹の時間が、急に変質し始めたのは、その直後だった。

 

「ふふ、ふふふっふふふ! あああああ! やっぱりミユキは天使! 天使よ!」

 

 突然、ソフィアの声のトーンが三段階くらい上がった。

 

「お、お姉様……?」

 

「見て! この銀髪! サラサラで美しくて! この瞳! 深い青紫色で吸い込まれそう!」

 

 ソフィアはミユキの頬をぷにぷにと押し始めた。

 

「そしてこの頬! 柔らかくて! もちもちで! ああもう、可愛すぎて食べちゃいたい!」

 

「ちょ、お姉様!? さっきまでの優雅な雰囲気は……!?」

 

「優雅? そんなものは社交界で使い果たしたわ! 家では本性全開よ!」

 

 ソフィアはミユキを抱きしめたまま、部屋の中をくるくると回り始めた。

 

「ミユキミユキミユキ! 可愛い可愛い可愛い! お姉様の天使!」

 

「お、お姉様! 目が回ります!」

 

 ようやく解放されたミユキは、よろめきながら椅子に座った。

 

 すると、ソフィアが突然真剣な表情で身を乗り出してきた。

 

「ねえミユキ、大事な質問があるの」

 

「は、はい……」

 

「お姉様とフリードリヒお兄様、どっちがミユキのことを愛してると思う?」

 

「え……?」

 

「大事な質問よ! さあ答えて!」

 

 ミユキは困惑した。

 

『なにこの質問……!?』

 

「え、えっと……お二人とも……?」

 

「それはずるい回答よ! どっち!?」

 

 その時、部屋のドアが勢いよく開いた。

 

「ソフィア姉さん、またミユキを困らせているな!?」

 

 フリードリヒが登場した。まるでタイミングを見計らっていたかのように。

 

「フリードリヒ! あなたこそ、また聞き耳を立てていたの!?」

 

「当然だ! 姉さんがミユキを独占しているのを放っておけるか!」

 

 フリードリヒはミユキの横に立ち、ソフィアを睨んだ。

 

「ミユキ、こんな暴走姉に付き合う必要はないぞ。俺が守ってやる」

 

「何ですって!? 暴走姉とは失礼な! お姉様は正常よ! ミユキへの愛が溢れているだけ!」

 

「それを世間では暴走と呼ぶんだ」

 

 二人の激しい視線がぶつかり合う。

 

 ミユキは、二人の間で完全に置いてけぼりだった。

 

『……なにこれ』

 

「ミユキ! お姉様とお兄様、どっちが好き!?」

「ミユキ、俺と姉さん、どっちを選ぶ!?」

 

 二人が同時に質問してきた。

 

 ミユキは頭を抱えた。

 

「あの……私、自室に戻って勉強したいんですけど……」

 

「だめ!」

「却下だ!」

 

 二人の声が再びハモった。

 

 その時、廊下から落ち着いた声が響く。

 

「ソフィア様、フリードリヒ様。ミユキお嬢様をお困らせになっているようですが」

 

 執事のセバスチャンが、いつの間にか部屋の入口に立っていた。

 

「あ……」

「し、しまった……」

 

 二人は、まるで悪戯を見つかった子供のように固まった。

 

「お二人とも、居間においでください。カタリーナ様が御用があるそうです。ミユキお嬢様は、そろそろお休みが必要ですので、お部屋にお戻りいただければ」

 

「は、はい……」

「わ、分かった……」

 

 ソフィアとフリードリヒは、しぶしぶ部屋を出ていった。

 

 最後に、ソフィアが振り返って囁いた。

 

「ミユキ、また明日ね……!」

 

 その目は、獲物を狙う猛獣のように輝いていた。

 

 ドアが閉まると、ミユキは大きく息をついた。

 

「セバスチャン……ありがとうございます……」

 

「いえ。お二人の『ミユキ様愛』は、この屋敷の日常風景ですので」

 

 セバスチャンは、僅かに口元を緩め、試すように口にする。

 

「慣れるまで、お辛いでしょうが」

 

「慣れる……んでしょうか……」

 

 ミユキは、セバスチャンの言葉に隠された意味には気が付かず、ぐったりと椅子に座り込んだ。

 

『前世の記憶にも、こんな経験はないよ……』


『ミユキ・フォン・ヴェルナーのほうの記憶だと、確かに愛されているような覚えはあったけれど、私ってばあんまり自覚なかったみたいね』

 

 温かい家族は素晴らしい。だが、愛情が過剰すぎるのも、それはそれで大変なのだと、ミユキは学んだのだった。

 

 ◇

 

 セバスチャンに救出され、ミユキは自室に戻った。

 

 ベッドに座り、今日の出来事を反芻する。

 

『ソフィアお姉様……ちょっとアレかもしれないけれど、本当に優しい人だ』

 

 社交界のこと、女性としての悩み、学園での過ごし方——全部、相談できる。

 

 前世では、そんな相手はいなかった。

 

『あの頃は……誰にも相談できなくて、一人で悩んでた』

 

 だが、今は違う。

 

『お姉様がいる。困ったら、手紙を書けばいい』

 

 その安心感が、ミユキの心を温かくした。

 

 ミユキは窓の外を見つめた。

 

 夕日が屋敷の庭を優しく照らしている。

 

 新しい世界での、新しい家族。

 

 それを大切に、これからも生きていこう。

 

 ミユキは静かに、そう思うのだった。

 

 


**あとがき**


とうとうソフィアお姉さまが本領を……いえ、本性を発揮してきました。

フリードリヒお兄ちゃんもミユキ愛強そうですね。

ミユキにもし恋人ができたら彼らはどうなっちゃうのか今から心配です。

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