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悪役令嬢はデバッグしたい ~転生したら作りかけの乙女ゲームの悪役令嬢だったので、前世の知識で世界をデバッグすることにしました~  作者: 神楽坂らせん
第七章:王立魔法学園編 ―煌めきの日々―

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王立魔法学園入学式

### 7-4 王立魔法学園入学式


 講堂の扉が閉まり、ざわめきが静まった。


 壇上に、深紅のローブを纏った老人が現れた。学園長だ。白い長髭を蓄え、杖を持っている。その姿は威厳に満ちていて、講堂全体に静謐な空気が広がる。


「新入生諸君、ようこそ王立魔法学園へ」


 学園長の声が、魔法で講堂全体に響き渡る。


「我が学園は、王国における魔法教育の最高峰である。諸君らは、厳しい選抜を経てここに集った。貴族であれ平民であれ、魔法の才能がある者だけが、ここに立つことを許されている」


 学園長の言葉に、新入生たちは背筋を伸ばした。


 ミユキも姿勢を正した。


『ついに始まったんだ……学園生活』


 胸が高鳴る。たくさんの期待と、少しの不安が混ざり合っている。


「諸君らには、魔法と知識で王国の未来を切り開く使命がある。貴族は国を治める者として、平民は実力で道を拓く者として——それぞれが、この学園で学び、成長し、王国に貢献することを期待する」


 学園長の言葉は重く、誇り高い。


 周りの貴族の学生たちは、誇らしげな表情をしている。平民の特待生たちは、緊張した顔で拳を握りしめている。


「では、今年度の特待生代表に、挨拶をしてもらおう」


 学園長が手を伸ばすと、壇上に一人の少女が上がってきた。


 ふわふわな金髪のウェーブヘアが肩まで流れ、大きく澄んだ青い瞳が印象的だ。白いドレスに包まれた小柄な体格は、周囲の貴族たちの視線を受けて、不安げに周りをきょろきょろと見回している。その仕草は、まるで小うさぎのよう——思わず守ってあげたくなる。


 彼女こそはリリアーナ・ローゼンベルク——「エターナル・クラウン」の主人公ヒロインキャラだ。


 ミユキは思わず息を呑んだ。


『めちゃくちゃ可愛い。自分が創った主人公が……本当に、目の前にいる』


 前世でゲーム開発中、何度も彼女の3Dモデルを見た。表情パターン、モーションキャプチャ、ボイス収録——全てを自分がプログラムに組み込んだ。


 攻略対象たちとは違う。リリアーナは「私が創り上げた世界の主人公」なのだ。


 本来ならばプレイヤーが操作する存在。それが今、命を持って動き出している。


『彼女の性格設定を考えた時……何日も徹夜して、一つひとつの台詞パターンを書き込んだ』


『好きなもの、嫌いなもの、過去の経験、口癖……全部』


 緊張した表情、それでもまっすぐな瞳——全て、自分がデザインした通りだ。


 不思議な感覚だった。作り手として、お客様であるユーザー、プレイヤーに楽しんでもらうために作り込んだキャラだ。でも——それだけじゃない。


 胸が熱くなる。


 作家が言う所の「作品愛」だろうか。プログラムが初めて動いた時の感動に似ている。でも、それよりもっと——深い。


『まるで……自分が産み出した……子供、娘、みたいな?』


 もちろん前世でも母親になった経験などない。でも、この感情は、何か似ている。


 創造者としての愛情——?


 大切な誰かが、目の前で頑張っている——その姿を見て、胸の奥に熱がこみ上げる。彼女の無事を、幸せを願わずにはいられない。


『私が……創ったから』


『だから——彼女には、幸せになってほしい』


 その想いが、自然と湧き上がってきた。


「え、えっと……」


 壇上のリリアーナが緊張した声で話し始めた。


 貴族たちの視線が集中し、リリアーナは小さく身を縮める。その仕草は、まるで怯えた小鳥のようだ。


「わ、私は、リリアーナ・ローゼンベルクと申します。平民の出身なんですが、魔法の才能を認めていただき、特待生として入学させていただきました」


 声が震えている。袖を小さく握りしめながら、必死に言葉を紡ぐ姿に、思わず応援したくなる。


 講堂がざわめいた。


 平民——その言葉に、貴族の学生たちが顔をしかめる。


 クララも隣で小声で言った。


「平民で……すごいね、特待生になれるなんて」


「ええ……」


 ミユキは頷いた。


 リリアーナは続ける。


「私にとって、この学園に入ることは夢でした。平民の私にも、チャンスをくれたこの学園に感謝します。そして——」


 リリアーナは一度深呼吸をして、まっすぐ前を見た。


「私は、実力で貴族の皆さんと対等に学びたいと思っています。平民だからといって、甘えるつもりはありません。どうか、よろしくお願いします」


 リリアーナは深々とお辞儀をした。


 そして、壇上から降りようと階段へ向かう。


 その時——


 彼女の足が、階段の最初の段で少しつまずいた。


「あっ!」


 リリアーナが体勢を崩す。


 ミユキの心臓が縮み上がった。


『まずい! リリアーナが――!』


 立ち上がりそうになる——でも、席から離れられない。遠すぎる。


 胸が締め付けられる。自分の子供が危ない目に遭っているのを見ているような——そんな恐怖。


 講堂がざわめいた瞬間——黒髪の青年が、素早く駆け寄って彼女を支えた。


 騎士団の制服を着た、カイル・ヴァルトハイム。


「大丈夫か!?」


 カイルが真剣な表情で尋ねる。


 リリアーナは、救われほっとしたようにくりくりとした大きな瞳で青年を見上げる。


「あ、ありがとうございます……」


 リリアーナは顔を真っ赤にして、お礼を言った。


 ミユキは、ほっと胸を撫で下ろした。


『よかった……無事だった』


 安堵が全身に広がる。心拍数がまだ速い。


『なんで、こんなに動揺してるんだろう』


 なにか、普通ではない感じがする。


『私が……創ったキャラだから?』


 いや——それだけじゃない。


 講堂がざわめく。


 男子生徒たちからは「可愛い……」「うさぎみたいだ……」という囁き。


 女子生徒、中でも貴族令嬢たちからは「また……」という呆れた声。


『この違和感は何だろう……あ、そういえば、いまの、物理的におかしい転び方しなかった?』


 あの角度で転ぶのは普通じゃない。まるで衝突判定ルーチンのバグみたいだ。ついプログラマー的な思考に陥りかける。


 一部の貴族学生が不快そうな顔をしているのも気になるが、どうやらミユキの感じる違和感とは、まったくちがう部分に反応しているようだ。学生達にはリリアーナの発言についての波紋も広がっていく。


「対等、ですって?」


「平民のくせに生意気」


 小声での囁きも聞こえてくる。


 とはいえ、まだ多くの学生は興味深そうに見ている段階だ。突然転ぶリリアーナのドジっ子ぶりに雰囲気が和らいだのかもしれない。


 ドジをしても、リリアーナの表情は真剣である。多少の気後れは見て取れるが、純朴で、正義感が強い——ゲーム通りの性格だ。


 その小柄な体格と大きな瞳、おびえるような仕草で、周囲の保護欲を刺激しているのだろう。


『やっぱり……皆の反応も……本当にゲームの世界なんだな』


『ここから、ゲームのストーリーが始まるんだ……悪役令嬢イベントは絶対回避しないといけない……』


 ◇


 学園長が再び壇上に立ち、入学式は続いていく。


 教師陣の紹介、学園の規則の説明、魔法実技の指導方針……次々と説明が続く。


 自分の席にちょこんと無事収まったリリアーナから意識を外し、ミユキは集中して聞いていた。しかし、時々、別の方向から視線を感じる。


 誰かが、ミユキを見ているような——。


 周りを見渡すが、誰もミユキを見ていない。皆、壇上を見ている。


『気のせい……?』


 でも、この感覚は消えない。


 入学式の間、ずっと視線を感じていた。


 そして——ふと、壇上隅の教師陣の中に、一人の男性を見つけた。


 黒髪、整った顔立ち、黒いスーツ。


 執事——?


 いや、教師の制服だ。でも、その雰囲気が——


『セバスチャンに似てる……』


 領地の執事、セバスチャン。あの人は、ミユキが転生者だと知っている。


 そして目の前の男性教師。セバスチャンよりは若く見えるが、同じような雰囲気を持っていた。


 男性教師と目が合った——気がした。


 一瞬、彼は微笑んだ。優しく、穏やかな笑みだった。


 そして、すぐに視線を外した。


『……気のせい?』


 ミユキは首を傾げた。


 考えすぎかもしれない。でも——。


 セバスチャンと似た雰囲気だ、何か……守られているような、そんな温かさがあった。


『誰なんだろう? 不思議な感じ……』


 ◇


 入学式が終わり、新入生たちが講堂から出ていく。


 クララが嬉しそうに言った。


「入学式、すごかったね! 私、ドキドキしちゃった!」


「ええ……」


 ミユキも頷いた。


「あのリリアーナさん、びっくりだよね。おどおどして見えたけどしっかり喋っていたし。平民なのに立派だったなあ」


「そうですね……」


 リリアーナのことを褒めるクララに、他人事でもミユキは少し嬉しくなる。


『主人公だから、臆病に見えてもも勇気があり正義感が強い。困っている人を放っておけない性格』


 ゲームで設定した通り。


「ねえ、ミユキ。次はウェルカムパーティーだって! 講堂の隣の大ホールで開かれるんだって!」


「ウェルカムパーティー……」


『そこで、攻略対象たちが登場する』


 第一王子アルベルト、騎士団長の息子カイル、魔法学者の息子セオドア、商会御曹司マルコ——そして転入生ユリウス。


 全員、リリアーナの攻略対象だ。


『私は、脇役に徹するんだ。攻略対象とは距離を置く。それが鉄則』


「あ、ミユキ。ちょっと待ってて。今のうちにお手洗いに行ってくるね」


「あ、はい」


 クララが小走りで廊下を曲がっていく。


『この世界の女子は連れだってお手洗いとかいう文化はないのかな』


 変なことを考えながらミユキは一人、ゆっくりと廊下を歩いた。


 窓の外には中庭が見える。緑の芝生、色とりどりの花壇、噴水が魔法で水を吹き上げている。


『少し、外の空気を吸おうかな』


 パーティーまでまだ時間がある。ミユキは中庭へと続く扉を開けた。


 ◇


 中庭は静かだった。


 入学式を終えた学生たちは、皆講堂やホールへ向かっているようだ。芝生には誰もいない。


 風が優しく吹き、花の香りが漂ってくる。


 ミユキは深呼吸をした。


『やっぱり緊張してたんだな……少し、落ち着いたわ』


 その時——


「ミユキ!」


 明るい声が響いた。


 振り返ると——赤茶髪の少女が、こちらに向かって手を振っていた。


「セシリア……!」


 セシリア・ブラントン。幼馴染だ。


 彼女は中等部三年生として、この学園に在籍している。


 セシリアが駆け寄ってきて、ミユキに抱きついた。


「やっと会えた! 高等部に飛び級入学なんて、すごいよね! 私もはやく高等部の制服が着たいな!」


「セシリア、久しぶり!」


 ミユキも嬉しくて、セシリアを抱きしめ返した。


『本当に……久しぶり』


 社交界デビューの後、忙しくてなかなか会えなかった。手紙のやり取りはしていたけれど、こうして直接会うのは数ヶ月ぶりだ。


「ねえ、入学式どうだった? 緊張した?」


「うん……緊張したけど、私は座ってるだけだったから」


「ミユキなら高等部でもぜんぜん大丈夫だよ! 魔法理論、得意だもんね!」


 セシリアが笑顔で言った。


「魔法バカって呼ばれないかな?」


「あははは、そんなことないでしょ!」


 そして——もう一人、少し遅れて青年が近づいてきた。


 茶色の髪、落ち着いた表情——エドワード・アーベントだ。


「ミユキ、久しぶりだな。飛び級なんてほんとすごいな、俺と同じ高等部一年とはな」


「エドワードも! 久しぶり!」


 エドワードは隣領地の男爵家の次男で、私たちの幼馴染だ。剣術だけでなく実戦魔法も使え、王立学園を経て冒険者として独り立ちし、将来は冒険者ギルドに入ることを目指している。


 三人で中庭のベンチに座った。


 木陰が涼しくて、風が心地よい。


「あの時の約束、覚えてる? 学園で研究会を作るって」


 セシリアが期待に満ちた目で言った。


「もちろん! 私も楽しみにしてた」


 領地で魔動バイク(ジルバーヴィント)の調整をした時、三人で約束した。学園で一緒に魔法の研究をしようと。


「俺は実戦魔法が専門だが、お前たちの理論も学びたい」


 エドワードが真面目な顔で言った。


「実は……学園にはすでに魔動機関研究会があって。そこに入ろうと思ってるんだけど」


「へえ、魔動機関研究会! 私も興味ある!」


 セシリアが目を輝かせた。


「中等部の私も参加できる?」


「研究会は中等部・高等部合同だから大丈夫。でも私たち三人の独自研究も続けたいんだ」


 ミユキは二人の顔を見た。


「魔動機関研究会で設備を借りて、私たちの『プログラマブル魔法陣研究グループ』として活動するのはどう? 公式の研究会と個別グループの両立」


「いいな。それなら実戦魔法の応用研究もできそうだ」


 エドワードが頷いた。


「賛成! 私、応用魔法の研究がしたいの。魔法陣の最適化とか、効率化とか!」


 セシリアも賛成してくれた。


 ミユキは安心した。


『やっぱり……二人は信頼できる友達だ』


 そして——ミユキは少し声を潜めた。


「あのね……二人に協力してほしいことがあるんだけど」


「悪役令嬢フラグ回避のこと?」


 セシリアがすぐに察してくれ、小声で言った。


 そう。二人はミユキが転生者だということを知っている。


「三週間後にお茶会イベントがあるんだ。もしイベント現場に巻き込まれたら、二人にも助けてほしいの」


「任せて! お茶会ってあれよね、中等部と高等部の合同イベントだったはず。なら、私も参加できるわ。リリアーナさんは高等部の先輩だけど、お茶会で接触できるかも?」


「そうだな、俺も平民特待生を応援する派閥に入ることにする。同じ高等部一年だから自然に話せるだろう」


 エドワードが頷いた。


「ありがとう……二人がいてくれて本当に心強い」


 ミユキは心から感謝した。


『前世では孤独だった……でもこの世界には、こんなに信頼できる友達がいる』


 家族も、幼馴染も——私を守ろうとしてくれている。


「幼馴染でしょ? 当然よ!」


 セシリアが笑顔で言った。


「それじゃ、明日から一緒に頑張ろうな」


「学園生活、楽しくなりそう!」


 エドワードとセシリアが励ましてくれる。


 ミユキも笑顔になった。


『大丈夫……きっと、うまくいく』


 ◇


 中庭でしばらく話した後、ミユキはクララと合流するため講堂へ戻った。


 エドワードは騎士団の訓練場へ向かうと言って別れ、セシリアは中等部の集合場所へ向かっていった。


「ミユキー! どこ行ってたの?」


 クララが心配そうに駆け寄ってきた。


「ごめんなさい。ちょっと中庭で友達と話してて」


「もう! 心配したよ! パーティー始まっちゃうよ! それより聞いて聞いて、さっき上級生が秘密の地下通路の話してたの! 絶対探検したい!」


「えぇ? 地下通路!?」


「面白そうでしょ! あと、禁書庫にも行ってみたいんだ!」


「立ち入り禁止でしょ!?」


「でも面白そうじゃん!」


 クララの目がキラキラしている。


『やっぱりこの娘、トラブルメーカーの予感……』


「そ、それより、いまはパーティー会場へ行きましょう」


 ミユキはクララと一緒にホールへと向かった。


 ◇


 大ホールは華やかだった。


 シャンデリアが輝き、壁には豪華な絵画が飾られている。テーブルには色とりどりの料理が並び、魔法で冷やされたジュースや、焼きたてのパンの香りが漂う。


 新入生たちが続々と集まり、歓談している。貴族の令嬢たちが華やかなドレスで談笑し、平民の特待生たちが緊張した顔で固まっている。


「すごい……!」


 クララが目を輝かせた。


「ミユキ、あれ食べよう! それと、あっちのケーキも! ねえねえ、さっき入学式で転んでたリリアーナさん、超可愛かったよね! 私、明日みんなに話すね!」


「ええぇ……?」


「だって可愛かったもん! あの天然な感じ、絶対人気出るよ!」


 クララは興奮気味だ。


「ま、まって……」


 クララに引っ張られて、料理のテーブルへ向かう。


 その時——


「平民からの特待生とは珍しい。君の魔法、見せてもらえるかな?」


 優雅な声が聞こえた。


 振り返ると——金髪の青年が、リリアーナに話しかけていた。


 第一王子、アルベルト・フォン・エーデルシュタインだ。


 緑の瞳、整った顔立ち、王者の風格。まさにゲーム通りの容姿。


 王子の声に驚いたリリアーナは、ビクッと身を縮めた。大きな瞳が見開かれる。


 慌ててお辞儀をした。


 その時、緊張で手が震え、彼女が手に持っていたグラスが傾きかける——。


 アルベルトがさりげなく手を伸ばし、グラスを支えた。


「落ち着いて。緊張しなくても大丈夫だ」


 優しく微笑みながら、彼はリリアーナのグラスをそっと支える。まるで騎士のように。


「お、王太子殿下……す、すみません……」


 リリアーナの顔が真っ赤になる。


「堅苦しくしないでくれ。ここは学園だ。皆、平等に学ぶ場所だからね」


 アルベルトは優しく微笑んだ。


 その瞬間——周囲の貴族令嬢たちがざわめいた。


「殿下が、平民に話しかけてる……」


「しかも、守ってあげてる……」


「まあ、あの子、運がいいわね」


 嫉妬の視線と、羨望の視線が、リリアーナに向けられる。


『始まった……オープニングシーンだ。まだ攻略イベントじゃないのに、あの可愛らしさ、きっともう守ってあげたい欲を刺激してる……』


 そして——もう一人、リリアーナに近づく人物が現れた。


 黒髪、鋭い目つき、先ほどもリリアーナを助けた青年——カイル・ヴァルトハイムだ。


 カイルは、嫌味を言っていた貴族令嬢たちとリリアーナの間に割って入った。


 貴族令嬢たちの鋭い視線を受け、リリアーナは小さく震えていた。不安げに周りをきょろきょろと見回している。


「平民も貴族も、実力があれば平等だ。そうだろう?」


 カイルの言葉に、貴族令嬢たちは黙った。


 カイルがとりなしてくれたことに、リリアーナは救われたように目を輝かせ、彼の背に隠れ、騎士服の裾を握った。感謝の表情でカイルを見つめる。


「あ、ありがとうございます……」


「気にするな。当然のことだ」


『カイルの庇護欲を刺激してるんだろうな、あれは……』


 ミユキの見る先で、カイルが目を細めてリリアーナを見つめているのが確認できた。


『あざとく見えるけれど、クララの言う通り計算じゃなくて天然成分なんだろうなあ』


 少し名残惜しそうにしながらも、カイルは軽く手を振ってその場を離れる。


 きっとその胸には——小さくて怯えた彼女を、これからも見守り、危険からは絶対に守る。という想いが燃えていることだろう。


『ゲーム通り……正義感の強いカイルが、リリアーナに惹かれていく……』


 そして——さらにもう一人。


 銀髪、眼鏡、本を持った青年が、パーティーの隅でリリアーナを見つめていた。


 セオドア・グレイヴェンシュタイン——魔法学者の息子だ。


 彼は本を閉じて、リリアーナに近づいた。


「君の光魔法は……とても興味深い。理論を教えてもらえないかい?」


 いきなり専門的な質問にさらされ、リリアーナは不安そうに周りをきょろきょろ見回した。


「え、えっと……私、理論はあまり詳しくなくて……感覚で使ってるだけなんです、スイマセン」


 頭を下げた拍子に、持っていたハンカチを落としてしまう。


 セオドアがハンカチを拾って渡す。


「感覚で? それは興味深い。直感的な魔法使用は、理論家には難しい領域だ」


 セオドアは眼鏡を押し上げて、真剣な表情で言った。


 リリアーナ、怖がって少し後ずさり、ビクビクしながらハンカチを握りしめる。


「実践で使えているなら、理論は後から学べばいい。素晴らしい才能だ」


 リリアーナの怯えたような仕草に気づき、セオドアは慌てて口調を和らげた。


「あ、ごめん。怖がらせるつもりは……」


 珍しく焦る彼に、リリアーナは少しだけ安心したように微笑んだ。


 小さな笑顔である。しかし研究一筋のセオドアの琴線にきっと触れたはずだ。


「ありがとうございます……」


 セオドアは学者としての興味と、しかし彼女を怯えさせたくないという気持ちが混ざり合った複雑な表情をしている。


 王太子、騎士団長の息子、そして魔法学者の息子——リリアーナは、学園の重要人物たちから注目を集めている。


 緊張しながらも、リリアーナは必死に笑顔を作り、料理に手を伸ばす。しかし、周りの視線が気になるのだろう、なかなか食べられていない。


 そして——最後に、明るい声が響いた。


「やあやあ! 新入生の皆さん、楽しんでる?」


 茶髪、人懐っこい笑顔の青年が、あちこちに挨拶して回っている。


 マルコ・ロッシーニ——商会御曹司だ。


 マルコはリリアーナを囲む輪の中にするりと入り込み、気軽に話しかけた。


「貴族平民関係なく、商売のチャンスは平等さ! 君も頑張ってね! 何か困ったことがあったら、言ってくれよ」


 マルコの勢いに圧倒され、リリアーナは緊張で手が震え、持っていた皿のソースがこぼれそうになる——


 ビクッと身を縮め、大きな瞳が驚きで見開かれる。


 マルコが素早くナプキンを差し出す。


「はい、これ使って! 落ち着いて、大丈夫だから」


 優しい笑顔に、リリアーナは安心したように目を輝かせた。


「ありがとうございます……皆さん、優しくて……」


「当然だよ! 才能がある人は、身分に関係なく応援したくなるからね」


 マルコは笑顔で言った。


 マルコの内心では——この小動物系の可愛さ、守ってあげたくなる魅力をもつ一生懸命な少女を、商人として、そして人として応援したいという気持ちが芽生えているはずだ。


 リリアーナは微笑んで、小さく会釈をした。


 そんな光景をミユキは遠くから観察していた。


『メイン攻略対象が軒並み登場……』


 アルベルト、カイル、セオドア、マルコ——そして後日、転入生ユリウスも登場するはずだ。


 ゲーム『エターナル・クラウン』の攻略対象たち。


 彼らは、主人公リリアーナを操作するプレイヤーの様々な選択肢に応じて、好感度が変化するキャラクターたちだ。それによって攻略ルートが分岐し、エンディングも変わる。


 多少の違いはあっても、基本的にはゲームのオープニングシーン通りのキャラ紹介が進んでいる。いまのところは、リリアーナのドジっ子&小動物属性が攻略対象たちに効いているようだ。


 リリアーナは彼らに囲まれて、困惑した顔をしている。不安そうに周りをきょろきょろ見回す姿が——本当に小さな動物のようだ。


 ミユキも、思わず「可愛い」と思ってしまう。


『まあ、気にはなっちゃうけれど、彼女が人気になるのは問題ないわ』


 ミユキは頭を振った。


『私は、ライバルなんかにならず脇役に徹する。目立たない。フラグを立てない』


 そう心に誓う。


 ◇


「ミユキ、どうしたの? ぼーっとして」


 クララが心配そうに声をかけてきた。


「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事を……」


「もう! パーティーなんだから楽しまなきゃ! ほら、このケーキ美味しいよ!」


 クララが皿を差し出してくれる。


「ありがとう」


 ミユキは笑顔を作った。


 周りでは、貴族の学生たちが談笑し、平民の特待生たちが緊張しながら料理を取っている。


 ◇


 やがてパーティーは終わり、ミユキたちは寮へと帰った。


 夜の学園は静かで、魔導照明が柔らかい光を放っている。クララと一緒に廊下を歩きながら、ミユキは今日一日を振り返っていた。


「ミユキ、今日は楽しかったね!」


 クララが嬉しそうに言った。


「ええ……」


「明日から授業が始まるんだよね。ドキドキしちゃうなあ」


「そうですね……」


 ミユキも頷いた。


 授業――魔法理論、実技、歴史、貴族のマナー……様々な科目がある。


 そして――三週間後には、第一回お茶会イベントがある。


『絶対に、フラグは回避する』


 そう心に誓う。


 部屋に戻ると、クララはすぐにベッドに倒れ込んだ。


「あー、疲れた! でも楽しかった!」


「お疲れさまです」


「ミユキも早く寝なよ? 明日も早いんだから」


「はい」


 ミユキも着替えて、ベッドに向かう。


 クララはすぐに寝息を立て始めたようだ。


 ミユキは窓の外に目をやる。


 大月と小月が、静かに輝いている。


 美しい夜空。


 カーテンを閉じ、ミユキもベッドに入った。


『明日から、本格的な学園生活が始まる』


『頑張らないと……』


 そう思いながら、目を閉じ、眠りにつく。


 そして――夢の中で、また遠くから呼ぶ声が聞こえた気がした。


『美幸……』


 懐かしい、でも思い出せない声――。


 ミユキは夢の中で手を伸ばした。


 でも、まだ、届かなかった。



**あとがき**


メインキャラ軒並み登場です。

おかげでだいぶ長くなってしまいました。

これから、本来のストーリーが(やっと?)動き出します。


ちなみに、第七章自体もめっちゃ長いです。今のところ本章は20話ぐらいを想定しています。

「小説家になろう」は長い方が受け入れられやすいって聞いたんですけど、ほんとなんでしょうかね?(笑)

まあそれならそれで良いのですけれど。。。ともかく、読者の皆様にはなんとか飽きずについてきていただきたいところ。


今後、この世界の異分子であるミユキの存在がどうストーリーと世界に影響を与えていくのでしょうか。


これまた斜め上のプロットを準備して進めていきますので、乞うご期待。おたのしみにーってとこですね。あとは、お兄ちゃんがんばれ(笑


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