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悪役令嬢はデバッグしたい ~転生したら作りかけの乙女ゲームの悪役令嬢だったので、前世の知識で世界をデバッグすることにしました~  作者: 神楽坂らせん
第四章:冒険者ギルドと新たな仲間

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初めての武具修理

### 4-5 初めての武具修理


 歓迎会が一段落すると——


「お嬢さん、さっきの剣だが……」


 ギルベルトが遠慮がちに声をかけてきた。


「本当に見てもらえるか?」


「もちろんです」


 ミユキは微笑んで答えた。


 ◇


「じゃあ、訓練場に行こう」


 グスタフが立ち上がり、ギルドの奥へと案内する。


 階段を降りると——そこは地下にある広い訓練場だった。


 天井は高く、魔導ランプの光が空間全体を照らしている。訓練用のダミー人形、的、魔法陣実験台などが整然と並んでいる。


「ここなら、魔法を使っても大丈夫だ」グスタフは訓練場の中を指差した。


 ギルベルトは腰にいた剣を抜き、ミユキに差し出す。


 刀身には、細かく刻まれた魔法陣——炎属性付与の魔法陣だ。


 ミユキは剣を受け取り、訓練場の明るい場所で魔法陣をじっくりと観察する。


 周囲には、いつの間にか見学に来た冒険者たちが集まっていた。


 ◇


 訓練場の隅にある魔法陣実験台に剣を置き、魔法陣の構造を解析していく。


 これは、前世のプログラマー時代にコードを読む時と同じ感覚だ。


『魔力の流れは……ここで滞留してる』


 入力部から処理部への流れが、一箇所で詰まっている。


『それに、この条件分岐……無駄が多いわ』


 不要なループ、冗長な条件分岐——まるで、新人プログラマーが書いたスパゲッティコードのようだ。


「魔法陣の設計自体は悪くないです」


 ミユキはギルベルトに向き直った。


「でも、経年劣化で一部が薄れてます。それに、魔力の流れに無駄があります」


「無駄……?」ギルベルトは首を傾げた。


「はい。魔力が効率的に流れていないんです」


 ミユキは魔法陣の問題箇所を指差す。


「ここで魔力が滞留して、ここで無駄に分岐している……だから威力が落ちてるんです」


「俺にはよくわからんが、そんなことがわかるのか。すげえな」


 冒険者たちは、感心したようにミユキを見つめていた。


 ◇


「実際にやって見せますね」


 ミユキは革のバッグから、魔導ペンを取り出した。


 魔導インクで書ける特殊なペン——これがあれば、魔法陣を直接修正できる。


 魔法陣実験用の魔法絶縁シートを広げて剣をその上に置き、ミユキは集中する。


 まず、薄れた部分を補強。線を丁寧になぞる。


 次に、無駄な条件分岐をカット。魔力が無駄に使われないように経路をバイパスする。


 そして、魔力の流れを最適化——


「おお……」


「すごい集中力だ」


 冒険者たちが、息を呑んで見守る。


 ミユキは、一心不乱に魔法陣を修正していく。


 前世でバグを修正していた時と同じ——いや、それ以上の集中力。


 魔法陣という「コード」を、デバッグしていく快感。


『これで……』


 最後の一筆を加え——


「完成」


 約十五分。


 ミユキは魔導ペンを置き、剣をギルベルトに返した。


 ◇


 ギルベルトは剣を受け取り、魔力を注入してみる。


 ——刀身が、炎に包まれた。


 だが、その炎は——以前より明らかに勢いが強い。


「これは……すごい!」


 ギルベルトは驚愕の表情で、剣を見つめた。


「試してみてもいいか?」


「どうぞ」


 ギルベルトは訓練用のダミー人形に向かい——


 炎の斬撃を放った。


 ——ズバッ!


 ダミー人形が、真っ二つに切断される。


 炎の軌跡が、空中に残った。


「威力が倍になってる!」ギルベルトは興奮した声で叫んだ。「それに、魔力消費も減ってる気がする!」


「おお!」「すげえ!」


 訓練場が、歓声に包まれた。


「それで良いようでしたら、魔法陣刻印の彫りなおしまではできていませんから、後でアグスさんのところで彫ってもらってくださいね。アグスさんなら、私の修正を正確に反映してくれますから」


「お嬢さん、あの頑固爺い知ってるのか?」


「ええ、表の魔動バイクの整備も手伝ってくれている、良い方ですよ」


「なにもかもすげえな」


 ◇


「お嬢様、オレの剣も見てください!」


 若手冒険者のトーマスが、真っ先に駆け寄ってきた。


「オレの鎧の防御魔法陣も!」


「魔導ランプが最近暗くて……」


 次々と依頼が殺到する。


 ミユキは嬉しそうに頷いた。


「分かりました。順番に見ますね」


 冒険者たちは列を作り、順番を待つ。


 グスタフは豪快に笑った。


「お嬢ちゃん、人気者だな」


 ◇


 ミユキは次々と武具や魔導具を診断していく。


 トーマスの剣——無駄な魔力消費を削減。


 冒険者Aの鎧——防御魔法陣の反応速度を向上。


 冒険者Bの魔導ランプ——発光効率を最適化。


 まるで、前世でバグ修正をしていた時のように——次々と問題を解決していく。


『これ……楽しい』


 ミユキは心から感じた。


 前世では、デスマーチで精神を削りながらプログラムを書かされていた。


 でも、今は違う。


 自分の能力で、誰かの役に立てる——そのことが、純粋に嬉しい。


『家族以外の人たちにも……役に立てるんだ』


 ヴェルナー侯爵家という守られた場所から——一歩外へ踏み出した実感。


『ここは、家とは違う場所』


『私が自分の力で、新しい繋がりを作っていく場所』


 ◇


 その時——


 訓練場の片隅で、マリアが静かに立っていた。


 その表情は、いつもの明るさとは違う。


 腕を組んだマリアは、ミユキの作業を見つめながら——複雑な感情を抱いていた。


『この子……本当に、ただの研究者なのかしら』


 魔法陣の最適化——その速度と正確さは、尋常ではない。


『まるで……世界の構造を見通しているかのような』


 マリアは、腰のポーチに手を当てる。


 そこには、小さな通信用魔導具が隠されていた。


『報告……すべきよね』


 だが——


『でも、本当にこの子が危険なのかしら?』


 ミユキの笑顔、冒険者たちへの親切な態度、純粋な探究心——。


 どこにも、悪意は感じられない。


『とりあえず、もっと観察しよう』


 マリアは、再び明るい表情に戻った。


 ◇


 遠くから、静かな足音が近づいてきた。


 ミユキが顔を上げると——レオンが、訓練場に降りてきていた。


 その深い青色の瞳が、じっとミユキを見つめている。


「……お前の魔法陣修正、実戦向きだ」


 レオンの低い声が、訓練場に響いた。


「ありがとうございます」ミユキは少し驚きながらも、微笑んで答えた。


 レオンは無言で剣を抜き——ミユキに差し出した。


「俺の剣も見てもらえるか?」


 ミユキは剣を受け取る。


 黒い刀身——そして、刻まれているのは、今まで見たどの魔法陣よりも複雑な構造だった。


『これは……すごく高度な魔法陣』


 ミユキは思わず息を呑んだ。


『複数の属性を同時に扱ってる……炎、氷、雷、風……全部?』


 入力部、処理部、出力部——それぞれが精密に設計されている。


『でも……やっぱり無駄がある』


 高度だからこそ、複雑すぎて無駄が生じている。


「この魔法陣、誰が設計したんですか?」


 ミユキは顔を上げて尋ねた。


「……俺だ」


 レオンは無表情のまま答える。


「自分で?」ミユキは驚いた。「すごいですね。こんなに高度な魔法陣を独力で……」


 そして——


「でも、もっと効率化できます」


 レオンの目が、わずかに見開かれた。


 ◇


 ミユキは、レオンの剣の魔法陣を修正し始めた。


 これは、今までで最も高度な作業だ。


 複数の属性を扱う魔法陣——その最適化には、高い集中力と精密な調整が必要。


 周囲の冒険者たちも、固唾を呑んで見守っている。


 レオンは黙って立ち、ミユキの作業を見つめていた。


 時間が流れる。


 十分——


 十五分——


 二十分——


「……完成しました」


 ミユキは深く息を吐き、剣をレオンに返した。


 ◇


 レオンは剣を受け取り、魔力を注入する。


 ——刀身が、輝いた。


 炎、氷、雷、風——それぞれの属性が、美しい光を放つ。


「……これは」


 レオンの声に、わずかに驚きが混じる。


「属性の切り替えが速くなった」


 彼は剣を振り、属性を次々と切り替える。


 炎から氷へ——瞬時に。


 氷から雷へ——滑らかに。


「魔力消費も減ってる」


 レオンはミユキを見つめた。


「……お前、天才か」


「いえ」ミユキは首を横に振った。「ただプログラムを最適化しただけです」


「プログラム……?」


「あ、魔法陣の設計のことです」


 レオンは、しばらくミユキを見つめていた。


 その目には——興味と、そして何かを見定めるような鋭さがあった。


 ◇


「ギルドの依頼で困ったことがあれば、俺を呼べ」


 レオンは剣を鞘に収めながら言った。


「護衛くらいはしてやる」


「本当ですか?」ミユキは嬉しそうに目を輝かせた。「ありがとうございます」


「……お前の能力、無駄にするな」


 レオンはそれだけ言って、踵を返して去ろうとする。


「レオン、さん」


 ミユキは思わず呼び止めた。


「……なんだ」


 自分でもなんで呼び止めたのかわからない。


 彼はたしか、ゲーム設定では削除された隠れ攻略キャラだったはず。


 しかしそんなことを言うわけにもいかず、ミユキはとっさにごまかした。


「え、えっと。また、魔法陣のこと、教えてください」


 レオンは振り返らずに——だが、わずかに口角を上げた。


「……考えておく」


 そして、訓練場を去っていった。


 ◇


「あら、レオンが協力するなんて珍しい」


 マリアが、驚いたように言った。


「よっぽど気に入られたのね」


 グスタフも豪快に笑う。


「レオンは人を見る目があるからな」


「あいつが認めたってことは、お嬢ちゃんの実力が本物だってことだ」


 ミユキは照れくさそうに微笑んだ。


『レオンさん……不思議な人』


 冷たい雰囲気だが、その奥に——何か温かいものを感じる。


 隠れ攻略キャラのレオン。だが、彼はどう見てもゲームのデータではない。——現実のレオンは、もっと複雑で、もっと人間らしい。


『この世界は……ゲームじゃない。本当の世界なんだ』


 ミユキは改めて、そう実感した。


 ◇


 その時——マリアが、ミユキに近づいてきた。


「ミユキちゃん、すごいわね」


 その笑顔は、いつもの明るさだが——


 目の奥に、わずかな迷いが見える。


「本当に、才能があるのね」


「ありがとうございます」


 マリアは、少し考えてから——


「ねえ、ミユキちゃん」


 真剣な表情で尋ねた。


「あなた、どうしてそんなに魔法陣に詳しいの?」


 ミユキは少し驚いて、マリアを見つめた。


「……研究が好きなんです」


 マリアは、その答えを静かに受け止める。


『この子……何か隠してる』


『でも、そのことを報告したとして、良い結果になるのかしら』


 マリアは、胸の内の違和感と向き合っていた。


 その疑問は——まだ答えが出ない。


 ◇


 訓練場での武具修理は、夕方まで続いた。


 ミユキは疲れたが——同時に、大きな充実感を感じていた。


 冒険者たちの笑顔、感謝の言葉、そして——新しい仲間との絆。


『家族とは違う……外の世界で、自分の力で築いた繋がり』


『ギルドは、私の新しい活動の場になる』


 そう実感した。


 そして、これから始まる冒険への——期待と、少しの不安を胸に抱きながら、ミユキは訓練場を後にした。


**あとがき**


作中でさらっと使っていますが、ミユキのもつ魔導ペンはアルノルト先生とドワーフのアグスから送られた特殊なもので、魔法陣編集機になっていて、魔導インクをつかって魔導回路を描くだけでなく、修正のため回路を除去することや、印加された魔法陣を拡大する拡大鏡のような機能を持ちます。


## 魔法と魔法陣について


- 魔術は魔法エネルギー(魔力)を人間や魔族が制御する技術(モンスターにも特殊能力を持つ物がいるが、ヒト族と同様の魔術を使っているかは不明)

- 特殊な能力者(魔法使い)は潜在的な能力を使って魔術を行使

- この時、通常は魔法陣を正確にイメージして、自分の中の魔力を注入する必要がある

- 魔法陣の入力部は通常中心部にあるので、そこを指先や杖先などでポイントして魔力を注入して発動するイメージ

- 特殊な魔法陣の場合は外周に入力部があり、バイパスして魔力注入する形もある

- 紙などに記した魔法陣を使えば一般人でも魔法を使えるが、魔法陣は魔力がないと記述できない

- 動作する魔法陣を記述するインクは魔導インクという特殊なインクを使う。(現実世界の電導性インクに相当)

- ただの紙に普通のインクで書いただけでは動作しない(魔法陣の教科書などはこの形)

- 魔道具などは、魔力を伝える金属面に魔法陣の刻印を施すことで、魔力を印加できる

- 魔法陣を動作させるには魔法エネルギーが必要(現実世界の電力に相当)

- 通常は自然の魔法エネルギーが集積されている魔法石をエネルギー原(電池に相当)として利用するか、魔法使いがバッテリーとなる魔法石を充電(充魔)することもある

- 魔法石はモンスターの体内(核)から取り出されたりダンジョン内から採掘される

- 今のところ送電線に相当する送魔線のようなインフラはない


       『エターナル・クラウン』RPG部設定資料より抜粋


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