魔動バイクと幼馴染
### 3-5 魔動バイクと幼馴染
ジルバーヴィントの修理が完了してから一ヶ月ほどが経った頃、屋敷に嬉しい客が訪れていた。
「ミユキ! 久しぶり!」
明るい声が庭園に響く。
栗色の髪をショートカットにした活発そうな少女——セシリア・ブラントンだ。
「セシリア!」
ミユキは駆け寄り、抱き合う。
セシリアの横には、少し照れくさそうにしている少年がいる。
明るい茶髪の、エドワード・アーベントだ。
「よう、ミユキ。元気だったか?」
「エドワードも! ありがとう、元気よ」
三人は、幼い頃から一緒に遊んでいた仲だ。
「手紙に、魔動バイクを修理したって書いてあったけど……」
セシリアが興味津々の表情で尋ねる。
「本当なの?」
「ええ。見せてあげるわ」
◇
三人は専用のガレージとなった屋敷の離れへ向かう。
そこには、銀色に輝く魔動バイクが佇んでいた。
「うわあ……!」
エドワードが目を輝かせる。
「すげえ! これが魔動バイクか!」
「噂には聞いてたけど……実物を見るのは初めてだわ」
セシリアがジルバーヴィントに近づき、魔法陣を観察し始める。
「手紙で聞いていた通り、この魔法陣の構造……ミユキ、これ、完全に作り直してるわね!」
「よく分かったわね」
ミユキは笑う。
「元の魔法陣は非効率だったから、プログラマブル魔法陣の理論を応用して最適化したの」
「プログラマブル魔法陣……!」
セシリアの目がさらに輝く。
「すごいわ! 実物で見られるなんて!」
セシリアは魔法陣を詳細に観察し始める。魔法理論に精通している彼女には、ミユキの工夫が全て見えるのだろう。
「変数化、関数化、条件分岐の最適化……全部実装されてるじゃない!」
「これは、革命的だわ!」
エドワードは少し置いてけぼりだが、それでも嬉しそうだ。
「俺にはよく分からねえが……すげえってことだな。それにしても、アグスの親父さんが協力してるのか。あの頑固職人が!」
ミユキは頷く。
「アグスさんは素晴らしい職人よ。鍛冶技術と魔法理論を融合させて、このジルバーヴィントを修理してくれたの」
「すげえな。アグスの親父さん、普段は誰とも仕事の話以外しねえのに」
エドワードが感心する。
◇
「ミユキ、運転して見せてくれる?」
セシリアが期待に満ちた目で尋ねる。
「もちろんよ」
ミユキはジルバーヴィントに跨り、起動魔法陣に魔力を注入する。
魔導機関が滑らかに回転を始める。低い、心地よい鳴動。
「おお……!」
エドワードが驚く。
「けっこう音が静かだな」
「振動も少ないわね」
セシリアが観察眼を光らせる。
ミユキはハンドルグリップを回し、ゆっくりと発進する。
庭園の石畳の上を、滑るように走り始める。
加速、減速、コーナリング——全てが自然に、流れるように決まっていく。
「すげえ……!」
「かっこいい……!」
二人は感嘆の声を上げる。
ミユキは一周して、二人の前で停止する。
「どう?」
「最高だよ! 俺も乗ってみたい!」
エドワードが興奮して言う。
「私も! 魔力の流れを体感してみたいわ!」
セシリアも目を輝かせている。
ミユキは笑顔で頷く。
「いいわよ。じゃあ、二人乗りで」
◇
まずエドワードを後ろに乗せる。
「おお……これが魔動バイクか……」
エドワードは緊張している。
「しっかり掴まってて」
「ああ」
ミユキは再び発進する。ゆっくりと、安全に。
「うおお……! 速い!」
「これでもまだ控えめよ」
庭園を一周すると、エドワードは興奮していた。
「すげえ! 馬より全然速いし、安定してる!」
「冒険者ギルドでも興味持つやつ多そうだな」
「そうね。実用性も備えていると思うわ」
◇
次はセシリアの番だ。
「わあ……緊張する……」
「大丈夫よ。ゆっくり行くから」
ミユキはセシリアを後ろに乗せ、発進する。
セシリアは魔力の流れを感じ取ろうとしている。
「すごい……魔力がこんなに効率的に流れてる……」
「出力調整も滑らか……」
一周すると、セシリアは感動していた。
「ミユキ……これは本当に革命的よ」
「この技術、もっと広めるべきだわ」
◇
夕暮れの庭園。西日が木々の間から差し込み、ジルバーヴィントの銀色の車体が淡く輝いていた。
三人は庭のベンチに座り、お茶を飲みながら語り合う。セシリアの栗色の髪が風に揺れ、エドワードは満足そうに空を見上げている。
「ねえ、ミユキ」
セシリアが真剣な表情で言う。
「魔力効率を上げれば、もっと速く走れるかも」
「魔法陣の変数をさらに細かく調整すれば……」
ミユキは頷く。
「そうね。アグスさんに相談して、軽量化も検討しようと思ってるの」
「軽量化!」
エドワードが食いつく。
「それなら、荒地を走れるようにならないか?」
「荒地を走れれば、冒険者が絶対欲しがるぞ!」
ミユキは目を輝かせる。
「オフロードバイクね、それも楽しそう!」
「軽量化してサスペンションをもっと改良すればきっとできるわ」
三人で魔動バイクの改良計画を立て始める。
セシリアが魔法陣の改良案をスケッチし、エドワードが実用面でのアドバイスをする。
「冒険者は荷物が多いから、馬みたいな、サイドバッグとか付けられたらいいな」
「それなら、荷重バランスを考えた設計が必要ね」
ミユキはノートに次々とメモを取る。
「このアイデア、アグスさんに相談してみるわ」
「きっと喜んでくれると思う」
空が茜色に染まり、グローセモントが東の空に姿を現し始める。
◇
「ミユキ、本当に変わったわね」
セシリアがしみじみと言う。
「以前は……あまり魔法や、外出にも興味がなかったのに」
「今は目を輝かせて、魔法陣の話をしてる」
ミユキは少し照れる。
「色々……あったのよ」
「何があったかは分からないけどさ……」
エドワードが笑う。
「今のミユキは、すごく楽しそうだ。それが一番大事だと思う」
ミユキは二人を見つめる。
「ありがとう……二人とも」
「私、この世界で……本当に幸せだと思えるようになったわ」
セシリアが微笑む。
「私たち、ずっと友達よ。何かあったら、いつでも相談してね」
『ズッ友なんて、前世でも言われたことないし……。死語じゃないそれ?』なんてちょっぴり苦笑するミユキだったが、それでも、現世の幼馴染にそういわれたことはとても胸を暖かくさせる。
エドワードも頷く。
「ああ。俺にできることがあれば、何でも言ってくれ」
三人は手を重ねる。
幼い頃からの絆が、さらに深まった瞬間だった。
◇
その後、ミユキがガレージにジルバーヴィントを収めていると、開いた外扉に庭師のオットーがやってきた。
「お嬢様、素晴らしいバイクですな」
「オットーさん、ありがとうございます」
オットーはジルバーヴィントを見つめ、懐かしそうに微笑む。
「実は……私の古い友人が、冒険者ギルドのギルドマスターをしておりまして」
「冒険者ギルド?」
「はい。もしお嬢様が実戦での魔法にご興味があれば……紹介状をお書きしましょうか?」
ミユキの目が輝く。
「本当ですか!?」
「ええ。ギルドマスターのグスタフは、魔導機関にも詳しい男でして」
「お嬢様の魔動バイク、きっと興味を持つと思いますよ」
オットーは少し間を置いて、静かに付け加えた。
「それに……グスタフは鋭い男での、お嬢様の『特別さ』に気づくかもしれません」
「ですが、彼は口の堅い男です。きっとお嬢様を守ってくれるでしょう」
ミユキは少しドキッとする。
『オットーさん……やっぱり気づいてるのかな』
だが、その優しい目を見て、安心する。
「……ありがとうございます、オットーさん」
ミユキは頷く。
「ぜひ、お願いします」
『冒険者ギルド……実戦での魔法、魔動機関の実用化……。新しい世界が、また広がりそう』
オットーは静かに微笑んだ。
「では、明日にでも紹介状をご用意いたします」
「ありがとうございます!」
◇
その夜、ミユキは自室で窓の外を見つめていた。
庭園に停められたジルバーヴィントが、二つの月の光を受けて静かに輝いている。
『二ヶ月前……私はまだ、この世界に馴染めていなかった』
転生直後の混乱、悪役令嬢への恐怖、前世への未練——。
『でも今は違う』
魔動バイクの発見、家族との修理プロジェクト、アグスとの共同研究、そして幼馴染との再会。
『この二ヶ月で、私は確かにこの世界の一部になった』
ミユキは胸に手を当てる。
『兄さん……見ててくれた?』
前世の兄・隼人の顔が脳裏に浮かぶ。
『私、この世界でもバイクに乗れたよ。あなたが教えてくれた技術、忘れてなかった』
『そして——新しい家族、新しい仲間と出会えた』
涙が溢れそうになるのを、ミユキは静かに拭う。
『ありがとう、兄さん。あなたとの思い出が、今の私を支えてる』
深呼吸をして、決意を新たにする。
『これから、もっと色々なことに挑戦しよう』
ノートを開き、新しいページに書き込む。
「目標:魔動バイクをもっと多くの人に」
「次の一歩:冒険者ギルドへの訪問」
オットーが話していた冒険者ギルド——実戦での魔法の使い方を学べるかもしれない。
『魔法の研究、魔動バイクの開発……そして、この世界をもっと知りたい』
ミユキは笑顔になる。
窓の外、二つの月、グローセモントとクラインモントが並んで輝いている。
異世界の空——だが、今はもう怖くない。
『家族の中に、私の帰る場所がある』
ヴェルナー侯爵家という家庭——お父様、お母様、兄様、姉様。
そして、魔動バイクを通じて築いた絆——アグス、幼馴染のセシリア、エドワード。
『ここが、私の根っこなんだ』
『でも、そこから外へ——もっと広い世界へ踏み出す時が来た』
ミユキは静かにノートを閉じ、ベッドに入った。
明日も、新しい冒険が待っている。
ジルバーヴィントと共に——そして、大切な人たちに支えられながら——。
**あとがき**
第三章、バイク修理編はいったんここまで。技術的な点は設定だけは大量にしてあるので、いつかもっと書き足したいですね。
次回から、次章、冒険者ギルド編となります。また新キャラ多数登場の予定です。おたのしみにー。




