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転生したら作りかけの乙女ゲーの悪役令嬢だったので、前世の知識で世界をデバッグすることにしました。【毎日更新中】  作者: 神楽坂らせん
第三章:魔動バイクと新たな出会い

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銀の風ジルバーヴィント

### 3-4 銀の風ジルバーヴィント


 試運転から一週間後。


 魔動バイクはミユキの日常に溶け込んでいた。


 早朝、ミユキは魔動バイクで領地内をツーリングする。


 朝日を浴びながら、石畳の上を走る。


 風が頬を撫で、魔動機関の鳴動が心地よい。


『この感覚……本当に好きだ』


 町の商店街を通ると、領民たちが手を振ってくれる。


「ミユキ様、おはようございます!」


「今日も元気ですね!」


 パン屋の娘ローザが笑顔で声をかけてくる。


「ミユキ様のバイク、かっこいいです!」


「ありがとう、ローザ!」


 ミユキは手を振り返す。


 子供たちも駆け寄ってくる。


「ミユキ様、すごい!」


「僕も乗りたい!」


 ミユキは笑顔で答える。


「大きくなったらね」


 彼女自身もまだ少女と言っていい年齢なのに、自信ありげに魔導バイクにまたがれば、まるで前世の年齢に戻ったような、大人びた雰囲気をまとう。


 領民たちも「お嬢様のバイク」として認知し始めている。


 銀色の髪をもつ美少女が操り、さわやかな風のように駆けるシルバーのバイクは、いつの間にか領民たちから銀の風、ジルバーヴィントと呼ばれるようになり、とくに少年少女のあこがれの象徴となった。

 

銀の風(ジルバーヴィント)、まるで魔法みたい!」

 

 ミユキは笑顔で手を振る。

 

『魔法……そうね、これは魔法だもの』


 最初は少々気恥ずかしかったが、領民たちから呼ばれ始めたジルバーヴィントという魔動バイクの愛称ペットネームも、今ではすっかりお気に入りだ。

 

 町を見下ろす丘の上で停止する。

 

 眼下に広がる町の風景。遠くに見える麦畑、森。

 

「綺麗……」

 

 前世では見ることのなかった景色。異世界でしか味わえない贅沢。

 

『兄さん……私、この世界でちゃんと生きてるよ』

 

 風が髪を揺らす。

 

『ジルバーヴィントに乗って、家族と過ごして、仲間と研究して』

 

『前世では得られなかった、全てがここにある』

 

 ミユキは深呼吸する。

 

「ありがとう……神様」

 

 セラフィエルを思い出す。あの優しい声。

 

『あなたが私をこの世界に送ってくれたから、今の私がある』

 

 ミユキはジルバーヴィントに跨り直す。

 

「さあ、帰ろう」

 

 エンジン音が響く。

 

 屋敷へと向かう道を、ミユキは颯爽と駆け抜ける。

 

 この日常が、彼女にとって何よりも大切な宝物だった。


 ◇


 それから二週間が経ち、ある日の午後。


 フリードリヒがミユキに声をかけた。


「ミユキ、領地巡回に行かないか? お前の……あの、魔動バイクで」


 ミユキは目を輝かせる。


「本当?」


「ああ。父上も許可してくれた。二人乗りで、町の東側に麦畑があるだろう、あそこを見て回ろう」


 ミユキは嬉しそうに頷く。


「行きましょう!」


 ◇


 フリードリヒを後ろに乗せ、出発する。


「おお……これが魔動バイクか……」


 フリードリヒは少し緊張している。


「しっかり掴まっててね、兄様」


「ああ」


 ミユキは慎重に加速する。


 町の東側——麦畑が広がる地域へ向かう。


「速いな……!」


 フリードリヒが驚く。


「馬より全然速い」


「時速は……たぶん50キロメートルくらい!」前席の声はなかなか後ろに届かない。大きな声で返事をするミユキ。


「50キロメートル!?」


 フリードリヒは驚愕する。


「馬の駆け足(ギャロップ)が時速約30キロメートルだ。それより遥かに速い!」


「そして、疲れないし! 持久力もある!」ミユキは答える。「魔法石が続く限り、100キロメートルくらいは走れるわよ!」


「これは……革命だな……」


 フリードリヒは感心する。


「緊急時の連絡も早くなる。軍事的にも価値がある。父上に報告しよう」


 ◇


 領地をめぐって戻ると、フリードリヒは満足そうだった。


「ミユキ、ありがとう」


「楽しかったよ」


「こちらこそ」


 ミユキは笑顔だ。


「兄様と一緒に走れて嬉しかった」


 フリードリヒは妹の頭を撫でる。


「今度は、もっと遠くまで行こう」


「はい!」


 兄妹の絆が、さらに深まった瞬間だった。


 ◇


 なお、父、エルヴィンは、息子フリードリヒのたっての希望で二人乗りを許しはしたものの、自分の後継ぎと愛娘の身の安全を案じていた。


 彼は念のために、二人には知らせず馬でジルバーヴィントを追わせていたのである。


 だがしかし——


 数刻もしないうちに、悔し気な部下より、——脚の早い馬をつかっていたのも関わらず——、二人乗りの魔動バイクにあっさりとおいて行かれてしまったという報告を受けるのであった。


 ◇


 改良作業を始めて三週間目のこと。


 週に一度の恒例行事として、ミユキは町のアグスの工房を訪問する。


 魔動バイク、ジルバーヴィントのメンテナンスと、改良の打ち合わせだ。


「お嬢様、調子はどうじゃ?」


 アグスが尋ねる。


「完璧です。でも、もっと効率的にできそうで……」


 ミユキは改良案のスケッチを見せる。


「燃費をさらに向上させたいんです。魔法石一個あたりの走行距離を伸ばせれば……」


 アグスは目を輝かせる。


「ほほう、改造案があるのか。見せてみい」


 ミユキはプログラマブル魔法陣の応用案を説明する。


「フィードバック変数を増やして、走行状況に応じた自動最適化を……。魔力の流れをリアルタイムで監視して、無駄を削減するんです」


 アグスは感心する。


「なるほど……魔法陣がリアルタイムで調整するのか。それなら、魔力伝達軸の負荷も減らせるな」


 二人でジルバーヴィントの魔法陣を調整していく。


 アグスの鍛冶技術と、ミユキの魔法理論が融合する。


「お嬢の発想は面白い。まるでドワーフみたいじゃ」


「それ、褒め言葉ですか?」


「当然じゃ! ドワーフは最高の技術者じゃからな!」


 二人は笑い合う。


 職人と理論家の、良い関係が築かれていた。


 ◇


 それから数週間、ミユキとアグスはジルバーヴィントの改良に没頭した。

 

 魔力効率のさらなる向上。元の1.5倍だったものを、2倍まで引き上げる。

 

 動力伝達方法の改善。変速ギア、クラッチ、ミッションを搭載し、より滑らかな加速を実現し高速性能が向上。ゼロスタートから50キロメートル毎時まで、4秒で到達できるようになった。

 

 振動吸収機能の強化。元の車体では機械的な板バネとシートスプリングだったサスペンションを、魔法陣の力でよりスムーズに振動を吸収できるようにした。

 

 タイヤと足回りの改善。従来はただ魔物由来ゴムがリムに巻かれているだけだったが、空気のチューブを挟むことを提案。空気の充填と保持は魔法陣の力で行うことにした。

 

 予測メンテナンス機能の精度向上。魔力伝達軸の摩耗状態をより正確に監視できるようになった。

 

 魔法石残量の視覚的表示機能。ハンドル部分に小さな魔法陣を設置し、残量が一目で分かるようにした。

 

 普通ならば何年もかかるであろうこうした改良を、わずか数週間で成し遂げた二人である。


 ◇


 ある日、改良作業の合間にアグスが言った。


「お嬢様、この魔動バイク……ジルバーヴィントは、もはや元の車体とは別物じゃ」


「性能も、安全性も、全てが向上しとる」


「これは……第三世代の魔動バイクと言っていい」


 ミユキは嬉しそうに頷く。


「アグスさんのおかげです」


「いや、お嬢の魔法陣があってこそじゃ」


「わしの技術だけでは、ここまでにはならん」


 アグスは真剣な表情になる。


「お嬢……この技術を、世に広めてみんか?」


「えっ?」


「魔動バイクは、まだまだ普及しとらん。だが、お嬢の技術があれば、量産も夢じゃない。多くの人が、この便利さを享受できるようになるんじゃ」


 ミユキは考える。


「でも……特許とか、商売とか……」


「難しいことは、わしが考える」


 アグスは笑う。


「お嬢は、魔法陣の設計だけに集中してくれればいい。わしは職人じゃ。良いものを作って、人々に届けるのが仕事じゃ」


 ミユキは頷く。


「分かりました。それなら、ぜひ一緒にやりましょう」


「おお! よく言った!」


 アグスは力強く握手する。


「これから、魔動バイクの時代が来るぞ!」


 こうして、ミユキとアグスの協力関係は、さらに強固なものとなった。


 将来、この二人は伝説の工房「魔動バイク(MⅤ)工房アグスタ」を立ち上げることになるのだが——。


 それはまた、別の物語。


 ◇


 ある夕方、ミユキが屋敷に戻ると、父エルヴィンが待っていた。


「ミユキ、話がある」


「はい、お父様」


 書斎に呼ばれる。


 エルヴィンは真剣な表情だ。


「お前の魔動バイク……領地で評判になっている」


「領民たちも、騎士たちも、その性能に驚いている」


 ミユキは緊張する。


「それで……?」


「王国騎士団が興味を持っている」


 エルヴィンは続ける。


「緊急時の連絡手段として、魔動バイクを導入したいと」


「お前の技術を、王国のために使わせてもらえないか」


 ミユキは驚く。


「私の技術が……王国で?」


「ああ。もちろん、お前の許可が必要だ」


「無理強いはしない」


 ミユキは考える。


『王国騎士団……軍事利用……』


『でも、緊急連絡手段としてなら……人々を守ることに繋がる』


 ミユキは頷く。


「はい。協力させていただきます」


 エルヴィンは微笑む——珍しく、優しい笑顔だ。


「ありがとう、ミユキ」


「お前は、本当に立派な娘だ」


「この領地の、そして王国の誇りだ」


 ミユキは照れる。


「そんな……まだまだです」


「いや、十分だ」


 エルヴィンは娘の頭を撫でる。


「これからも、お前らしく、頑張ってくれ」


「はい!」


 ◇


 その夜、ミユキは日記を書いていた。


「魔動バイクが、みんなに認められた」


「領民たちも、家族も、そして王国騎士団まで」


「私の技術が、人々の役に立つ」


「それが、すごく嬉しい」


 ペンを置き、窓の外を見る。


 庭園に停められたジルバーヴィントが、月光を受けて静かに輝いている。


「兄さん、見てる?」


「私、この世界で……家族の一員として認められたよ」


「魔動バイクという、みんなの繋がりができた」


 ミユキは微笑む。


「お父様も、お母様も、兄様も、姉様も……みんなが支えてくれる」


「ここが私の帰る場所なんだ」


 静かに日記を閉じ、ベッドに入る。


 明日も、新しい一日が待っている。


 ジルバーヴィントと共に——そして、大切な家族と共に——。


**あとがき**


【ご注意】:乗り始めてから一年未満の初心者による魔動バイクの二人乗りは法令で禁止されています。ご自身の領地敷地内など、確実に責任の取れる範囲内で安全に十分気を付けて走行するようにしてください。

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