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転生したら作りかけの乙女ゲーの悪役令嬢だったので、前世の知識で世界をデバッグすることにしました。【毎日更新中】  作者: 神楽坂らせん
第三章:魔動バイクと新たな出会い

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試運転

### 3-3 試運転


 回復から三ヶ月が経った初夏の朝。

 

 修理が完了し、ついに試運転の日が訪れた。


 魔動バイクは庭園に運び出され、朝日を浴びて銀色に輝いている。


 家族全員とアグスとが見守る中、ミユキは魔動バイクに跨った。


「お嬢様、魔法石は満タンです」


 アグスが確認する。


起動魔法陣スターターも問題なし」


 ミユキは深呼吸をする。


『さあ、行こう』


 起動魔法陣セルスターターの中央に指を置き、魔力を注入する。


 瞬間、ぶるんと震えたかと思うと、魔動機関が静かに鳴動し始めた。


 低い、心地よい鳴動。馬のいななきとも、風の音とも違う、独特の音。


「よし……!」


 アグスが拳を握り締める。


 ミユキはハンドルグリップを握る。


 前世の記憶が蘇る——兄・隼人がバイクの操作を教えてくれた日々。


 『ミユキ、アクセルはゆっくりだ。急がなくていい』


 『体重移動が大事。バイクと一体になるんだ』


 兄の声が聞こえる気がした。


 ミユキは笑顔になる。


『兄さん……見ててね』


 ハンドルグリップをゆっくりと回す。


 魔力供給量が増え、魔動バイクが動き出す。


 ゆっくりと——だが確実に。


 庭園の石畳の上を、滑るように進んでいく。


「動いた……!」


 フリードリヒが興奮する。


「本当に動いた!」


 ミユキは慎重に加速する。


 時速10キロメートル、人の早歩きの速度、15キロメートル、小走り、20キロメートル、全力疾走、そして鍛え抜かれた戦士がダッシュするスピードへ……。


 体が自然にバランスを取る。


 前世のバイク経験が、体に染み付いている。


 さらに加速——時速30キロメートルほど、人の限界を超えた速度、馬の駆け足(ギャロップ)のスピードで安定走行。


 庭園の石畳は決して広くない。だが、ミユキはコーナーを完璧にクリアしていく。


 体重移動、アクセルワーク、視線の先——全てが自然に決まる。


「すごい……!」


 カタリーナが息を呑む。


「まるで……昔からずっと乗っていたみたい」


 エルヴィンも驚きを隠せない。


「初めてとは思えん……あの操作技術……」


 アグスが腕を組んで頷く。


「体重移動、アクセルワーク、ブレーキング——全て完璧じゃ……。魔動バイクの扱いは馬よりずっと難しいんじゃが……」


 ソフィアが手を合わせる。


「ミユキ……かっこいいわ」


 フリードリヒは羨望の眼差しで見つめている。


「俺も……いつか乗りたい」


 ミユキは一周して、家族の前で停止する。


 制動魔法陣で滑らかに減速し、停止魔法陣で完全停止。


「どう?」


 顔を上気させ、笑顔で尋ねる。


「完璧だ」


 エルヴィンが頷く。


「わしでさえ、あんなに滑らかに乗れなかった……」


 アグスが感嘆する。


「この嬢ちゃん、やはり本物じゃな」


 カタリーナが近づく。


「ミユキ、怪我はない?」


「大丈夫、お母様」


 ミユキはバイクから降りる。


「やっぱり、これは最高だわ!」


 目を輝かせる。


「馬より速くて、自由で……。改良した魔法陣も完璧に機能してる……。応答速度も速いし、出力も安定してる」


『兄さん……私、この世界でもバイクに乗れたよ』


 心の中で、前世の兄に報告する。


 フリードリヒが近づく。


「ミユキ……お前、本当に凄いな。まさか一発で乗りこなすとは」


 ソフィアが微笑む。


「でも、無茶はしないでね」


「分かってるわ、お姉様」


 アグスが魔動バイクを点検する。


「魔動機関、問題なし。魔力伝達軸も滑らかに回転しとる……」


「お嬢の魔法陣、完璧じゃ」


 ミユキは嬉しそうに頷く。


「アグスさんのおかげです。魔力伝達軸を鍛え直してくださったから、こんなに滑らかに動くんです」


 アグスは照れくさそうに髭を撫でる。


「お嬢の魔法陣があってこその性能じゃよ。わしの鍛冶だけでは、こうはいかん」


 二人は顔を見合わせて笑う。


 ◇


 その後、ミユキはさらに何周か走行を繰り返した。


 慣れてくると、もっと速度を上げてみる。


 時速40キロメートル、50キロメートル——。


 魔動バイクは安定している。振動も少なく、快適だ。


「お嬢様、すごいですわ!」


 メイドのアンナが拍手する。


「すごく速い! まるでプロの騎手みたい!」


 厩舎番の老人も感心している。


「こんなに見事な騎乗術……初めて見ましたよ」


 ミユキは笑顔で手を振る。


 ◇


 試運転が一段落すると、エルヴィンが近づいてきた。


「ミユキ」


「はい、お父様」


 エルヴィンは真剣な表情で言う。


「この魔動バイク……お前に譲ろう」


「えっ?」


「わしが若い頃に買ったものだが、今やお前のものだ」


「お前が修理し、お前が乗りこなした」


「これはもう、お前の魔動バイクだ」


 ミユキは感動する。


「お父様……ありがとうございます!」


 エルヴィンは娘の頭を撫でる——珍しく、優しい仕草だ。


「だが、無茶はするな」


「この魔動バイクは速い。事故を起こせば命を落とすこともある」


「必ず安全第一で乗ること。いいな?」


「はい!」


 ミユキは力強く頷く。


 カタリーナも微笑む。


「あなた、優しいのね」


「……当然だ。娘の安全が第一だ」


 エルヴィンは少し照れている。


 ソフィアが抱きしめる。


「ミユキ、おめでとう!」


「お姉様……」


「でも、本当に気をつけてね」


 フリードリヒも肩を叩く。


「お前の魔動バイクか。羨ましいな」


「フリードリヒ兄様も、今度後ろに乗せてあげるわ」


「本当か!?」


 家族の温かさに包まれる。


 ミユキは幸せを感じていた。


 ◇


 試運転の様子を、少し離れた場所から見ている人物がいた。


 執事セバスチャンだ。


 彼は静かに微笑んでいた。


「お嬢様……あの乗り方は……」


 普通の少女が、初めて魔動バイクに乗って、あそこまで完璧に操れるだろうか?


 体重移動、視線の配り方、コーナーでの体の傾け方——全てが素人とは思えない技術だ。


「まるで……何年も訓練を積んだかのような」


 セバスチャンは考える。


 お嬢様が「変わった」のは、あの発熱の後からだ。


 魔法の才能が開花し、知識が増え、そして——こんな技術まで身につけている。


「前世……というものが、もし本当にあるなら」


 セバスチャンは呟く。


「お嬢様は、前世でこのような乗り物に乗っていたのかもしれない」


 だが、彼は深く詮索しない。


 お嬢様が幸せそうなら、それでいい。


「これからも、お守りいたしましょう」


 セバスチャンは静かに屋敷へと戻っていった。


 ◇


 その夜、エルヴィンとカタリーナは私室で話していた。


「あなた、今日のミユキを見て……どう思った?」


 カタリーナが尋ねる。


 エルヴィンは窓の外を見つめる。


「……驚いた」


「あの操作技術は、普通ではない」


「わしも若い頃、魔動バイクに乗っていたが……あそこまで完璧には乗れなかった」


 カタリーナは頷く。


「初めて乗ったとは思えなかったわ」


「まるで……何度も乗っているかのような」


 エルヴィンは深いため息をつく。


「ミユキは……変わった」


「あの発熱の後から、別人のように」


「知識も、技術も、全てが……まるで別の誰かが……」


 言葉に詰まる。


 カタリーナはエルヴィンの手を握る。


「あなた、怖いの?」


「……ああ。正直に言えば、少し怖い」


 エルヴィンは認める。


「だが……それ以上に、嬉しい」


「ミユキが、あんなに生き生きとしている」


「以前の無気力だった娘とは、まるで別人だ」


 カタリーナは微笑む。


「私も同じよ」


「理由は分からない。でも、今のミユキは確かに私たちの娘」


「あの子が幸せなら、それでいいわ」


 エルヴィンは頷く。


「そうだな……」


「ミユキが何者であれ、わしの娘だ」


「守らなければならない」


 二人は窓の外を見つめる。


 月明かりの中、庭園に停められた魔動バイクが銀色に輝いていた。


 ◇


 一方、ミユキの部屋では——。


 ミユキは日記を書いていた。


「今日、初めて魔動バイクを運転した」


「兄さんが教えてくれた技術、全部覚えてた」


「この世界でも、バイクに乗れて嬉しい」


「そして……家族が喜んでくれた」


「お父様は、魔動バイクを私に譲ってくれた」


「お母様も、お姉様も、フリードリヒ兄様も、みんな喜んでくれた」


 ペンを置き、窓の外を見る。


 二つの月——グローセモントとクラインモント——が並んで輝いている。


 異世界の空。


「兄さん……私、幸せだよ」


「この家族と、この世界で……」


 涙が一筋、頬を伝う。


 二五歳だった美幸と、混ざり合った一三歳のミユキ、感情はこの小さい身体に引き寄せられているのかもしれない。


「でも……やっぱり、会いたいな」


 胸が締め付けられる。


 今日、魔動バイクに乗って——前世の記憶が、鮮明に蘇った。


 兄がバイクの乗り方を教えてくれた日。


 サーキットで一緒に走った日。


 兄の笑顔、兄の声、兄の温かさ——。


「もう……会えないんだよね」


 静かに、涙が溢れる。


 ヴェルナー家の家族は優しい。温かい。大切な存在だ。


 だが——前世の兄・隼人との絆は、消えることはない。


「兄さん……私が転生したって、知ってるのかな」


「いや、知るわけないか」


「それとも……」


 もう妹のいない世界になれただろうか。


「いつか……もう一度、会いたいけど……」


 その希望さえ——きっと叶わない。


 異世界と地球——二つの世界は、決して交わらない。


「兄さん……ごめんね」


「私、勝手に消えちゃって」


「心配かけて……ごめん」


 ミユキは、両手で顔を覆った。


 泣いてはいけない——そう思うのに、涙が止まらない。


 前世の記憶と、今の人生——。


 二つの世界で生きることの、寂しさと痛み。


『兄さん……私、頑張ってるよ』


『この世界で……精一杯、生きてる』


『だから……見守っていて』


 ミユキは静かに日記を閉じ、ベッドに入った。


 涙の跡が、枕に染み込んでいく。


 明日も、走ろう。私の魔動バイクで——。


 だが、その胸の奥に——前世の兄への想いは、消えることなく残り続ける。


**あとがき**


この異世界には2つの月があります。


- 大きな月: グローセモント(Großemond/大月)

  - 民衆が日常的に使う名前

  - 地球の月にあたる

- 小さな月: クラインモント(Kleinmond/小月)


という設定になっています。

見た目上小さいほうが遠い軌道をめぐっており、両月が同時に見えたり見えなかったりします。位相(満ち欠け)も異なっており、片方が満月、もう片方が三日月という夜もある。という設定です。

ちなみに一ヶ月は28日、一年は13ヶ月+1日(28x13+1=365)という設定が、ゲーム『エターナル・クラウン』の設定書に書かれています。(一日は24時間、時分秒も地球と同じ)


その他のメートルやらキロメートルやらの度量衡単位は地球のSI(国際単位系)を採用しています。

なんで地球と同じになっているかと言えば、そもそも地球で遊ばれるゲームの世界ですから、地球人プレイヤーが混乱しないようにと、ゲームディレクターがそう決めたとのことです。


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